コミュニティトップへ



■想いの数だけある物語■

切磋巧実
【4733】【エリア・スチール】【学生/呪術師】
 ――アナタは眠っている。
 浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
 否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
 そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか?
 目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか?
 アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――

 そこは夜だった。
 キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし?」
 ふと穏やかな女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく17〜20歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい!」
 再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
 首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい!」
 ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
 何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
 教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女(ひと)だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
 これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか? これなんかいかがです? こんな感じもありますよ☆」
 彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ? 選んで思い描けば良いのですから☆」
 キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
想いの数だけある物語

■closelaboratory
 ――暗闇の中、視界に広がるのは、ライトの灯りに浮かぶ通路だ。
 靴音が響き渡る床から察するに、ここは屋内であり、どこかの施設と思わせる。暗闇に声が響く。
「ガゾック様‥‥そろそろ限界時間です」
「もうこんな時間か‥‥。二人は帰還しろ、俺はもう少し調査を続ける。ライトを一個だけ置いて行ってくれ」
 ガゾックは腕時計に瞳を流した後、振り返って仲間達に手を差し出す。動揺の色を浮かばせたのは、調査員達だ。筋骨逞しい褐色の肌が強靭さを誇示しているが、一人で調査の続行は危険過ぎる。
「何を言うのですか? 明日があるじゃないですか?」
「そうですよ、ガゾック様。そのまま帰れる訳ないじゃないですかぁ!」
 必死に説得する若い二人の女を前に、短めの茶髪を後ろに掻き流しながら、精悍な風貌の男が溜息を吐く。
「ここまで辿り着くのに何時間費やした? ルートは分かったが、再びここまで到達するのに、また半日以上、掛かるだろう」
「で、ても‥‥」
「早く帰る準備をしろ! バッテリーが耐たないぞ!」
 制止する声を聞かず、ガゾックはスモールライトを灯すと、狭い通路の先へと消えた。若い調査員は呆然と立ち尽くすものの、時間は待ってはくれない。長い金髪の娘が聖母の如き気品を醸し出す風貌を曇らせながら口を開く。
「エリアさん、どうしましょう?」
「ガゾック様なら、大丈夫ですよ☆ シャイラさん♪」
 エリア・スチールは、固めた両手を胸元に当て、にっこりと微笑んでみせた。シャイラは、眼下で赤い瞳を輝かせ、艶やかな銀髪を揺らす可愛らしい風貌の少女へと、たおやかに微笑む。
「うん、そうですね。研究棟に戻る準備をしましょうか」
「はい☆」
 普段からニコニコしている少女の笑顔を見つめると、シャイラの顔から不安が掻き消えた。エリアの方が年下なのだが、この屈託のない愛らしい笑顔に何度救われたか知れない。
「私も強くならなきゃいけないですね‥‥」
「え? シャイラさん、何か仰いましたか?」
「いいえ、独り言です。さ、戻りましょうか」
 二人が準備を整え、踵を返した時だ。
「シャイラ! エリア! 全速力で走れッ!」
 ――えっ?
 振り返った二人の瞳に映ったのは、暗闇に包まれた通路を疾走するガゾックだ。その背後からは異形の化物が夥しい数で追って来ていた。闇にライトを照らすと、鯨の皮のような油っぽい皮膚に包まれた蝙蝠の如き翼もつモンスターが浮かび上がった。一気にシャイラの顔から血の気が引く。
「エリアちゃん、走りましょう!」
「あ、シャイラさん、待っ‥‥きゃんッ★」
 途端に少女は銀髪を舞わせてスッ転んだ。
 ――こんな時に何もない所で転ばないでよ。
 なんて心の中で洩らしつつ、シャイラはエリアの手を掴むと一気に立ち上がらせた。背後からは靴音を鳴らしてガゾックが走って来る。
「ガゾック! 急い‥‥あぁッ!」
 シャイラの瞳に映る男は、モンスターに追い着かれ、何体かが纏わり付くのが見えた。呆然と立ち尽くす中、異形の化物が金髪の娘へと迫る。
「シャイラさんッ!」
 エリアは赤い瞳を研ぎ澄まし、銀髪をふわりと浮かせると、両手を翳した。刹那、見えない壁にブチ当ったかのようにモンスターが跳ね返る。
「エリアちゃん‥‥これって」
「先に逃げて下さい! わたくしがガゾック様を‥‥」
「来るなぁ! エリアー!」
 刹那、一歩踏み出した少女の足がピタリと止まる。尚も男は叫び続けながらリュックを放り投げた。
「これの解析がおまえ達の仕事だ! 行け! 俺は、もう‥‥」
「そんなッ、諦めないで下さっ!?」
 ガゾックは苦痛に精悍な顔を歪ませながらも不敵な笑みを向ける。既に助からない事を悟る中、少女と男の視線が交錯した。赤い瞳が潤む。
 ――いけ、エリア‥‥シャイラを、頼む‥‥!
「ガゾック様ッ! ‥‥ごめんなさいッ!」
 エリアは涙を舞い散らせながらリュックを拾い上げ、振り向く事なくシャイラの後を追って駆け出した――――。

●material――解析と白いマシュマロ
 シャイラとエリアは哀しみの中、石版の解析に時間を費やしていた。
 兎に角、不可解な文字か記号が刻まれた物体だ。パソコンに収まったデータから尤も近い文字や記号を抜粋し、更に読めるものか検証を行わねばならない。たった二人の研究員では思うように事が運ばず、疲労ばかりが蓄積してゆき、睡魔が襲い掛かる。既にシャイラは眠気眼だ。
「‥‥エリアちゃん、コーヒー飲む?」
 ごしごしで目を擦り、ぽわんとした声で少女へと訊ねた。彼女はモニターを見つめ、懸命にマウスを捌いてはチェックを繰り返す。その赤い瞳は未だ大きく開かれ、疲労感など見当たらない。
「わたくしは大丈夫ですよ」
「‥‥エリアちゃん、16だっけ? 若いって良いわね〜」
「シャイラさんだって未だ20じゃないですか」
 金髪の娘は大きな欠伸を手で抑え、とぼとぼと歩いて行くと、インスタントコーヒーに手を延ばす。一応、カップ二つにコーヒーと砂糖を入れ、ポットの湯を注ぎ、一つだけマシュマロを入れた。
「十代越えたら駄目なのよ〜。はい☆」
「あ、ありがとうございます。まぁ、マシュマロですね♪」
 クルクルとコーヒーの中で回るマシュマロに笑顔を浮かべる少女に、シャイラはふんわりと微笑む。
「エリアちゃん、白くてふわふわしたもの好きって言ってたでしょ☆」
「はい☆ タンポポなんて飛んでいた日には追い掛けてしまいます♪」
「そ、そう‥‥」
 満面の笑みを向けて話すエリアに、「きっと、追い掛けてる内に転ぶんでしょうね」と思いつつ、ちょっと苦笑した。刹那、今度は銀髪の少女が哀らしい声を洩らす。
「あぁ〜、コーヒー吸って色が変わっちゃいましたぁ‥‥」
「そ、そう‥‥残念ね‥‥。? どうしたの? 私に怒っても、‥‥困るわ」
 シャイラは動揺の色を浮かばせながら苦笑する。彼女の瞳に映る少女は、次第に表情を強張らせながら、ジッとコーヒーの中で琥珀色に染まったマシュマロを見つめていたのだ。
「‥‥白いものが変わっちゃう‥‥。あぁーッ!!」
 突然大声を張り上げると、肩を跳ね上げるシャイラを余所に、エリアはモニターに向き直る。
「入力データを忘れていました。シャイラさん、手伝って下さい!」
「‥‥構いませんけど‥‥。でも、石版に刻まれている文字に類似する文字や記号は全て抜き出してある筈でしょ?」
「はい‥‥でも、石版の文字に近い、反転文字や記号は入力していなかったんです!」
「‥‥反転文字? それって、反転させたら石版の文字に似たものがあるかもしれないって事? ‥‥!! 大変! 直ぐに取り掛かるわ」
 眠気が一気に吹き飛び、二人はパソコンにデータを入力すると反転作業用プログラムを作成した。予め石版の文字をデータ化したものと組み合わせ、解析プログラム開始にカーソルを運ぶ。
「シャイラさん、クリックしますよ」
「え、えぇ‥‥」
 コクンと息を呑み、エリアの指がマウスを叩く。モニターに様々なデータが羅列され、解析中を知らせるバーが、ゆっくりと右へと伸びて行った。ここで電源が落ちたら最悪だ。静寂に包まれた一室にディスクの耳障りな読み込み音が響き渡る中、鼓動がセッションを刻む。
「あっ」
「解析が完了したの?」
 モニターには幾つかの該当文字や記号が表示されていた。エリアは更に絞り込みを行い、文章として成立するように構成を換えてゆく。ここからの作業も簡単に終わるものでは無かった――――。
「‥‥うそ」
 少女の呟きに、机に突っ伏していたシャイラが寝惚け眼で顔をあげる。
「ごめんなさいわたしねちゃってたみたいなにかわかったの〜?」
 朦朧とする思考で金髪の娘が訊ねたが、エリアの横顔は応える事なく、唖然とした表情を浮かべていた。流石にシャイラも只事ではないと、表情を強張らせる。
「何があったの!?」
「なんて事なの‥‥あれは人類が呼び出したと言うの‥‥」
「呼び出し‥‥!?」
 半信半疑でエリアのモニターを覗き込んだシャイラは、忽ち驚愕の色を浮かばせた。
【我々はとんでもない物を呼び寄せてしまったようだ】
【彼らは違う世界の住民、次元の穴から現れた者】
【我らには塞ぐ術は無い、後世の者、彼らを返してやって欲しい】

 ――わたくし達が地下研究所へ派遣されたのは数日前でした。
 目的は連絡を絶った施設で研究中の『手掛かり』の発見と解析とだけ聞かされていました。
 元々フリーの雇われ研究員チームですから、クライアントが非公開にする事に口を出しません。
 だけど、まさかモンスターが徘徊していたなんて思いもしませんでした。
 ガゾック様が命懸けで見つけた石版は『手掛かり』の一つなのかもしれません。
 ただ‥‥わたくし達がやらなければならない事は――――。

「‥‥塞ぐ術は無い、って‥‥エリアちゃん、どうします? このまま」
「駄目!」
 狼狽するシャイラの口から出そうになる言葉を、少女は腰をあげて制止した。立ち上がったまま、俯くエリアの銀髪がサラリと揺れる。
「駄目ですよ。わたくし達が外に出るタイミングが遅れたら‥‥モンスターが研究所から出ちゃうもの‥‥。あの石版の文字は古い物だったんです。恐らく、この地下施設は、パンドラの箱を開いてしまったんでしょう。それに‥‥この施設の何処かに未だ次元の穴が開いたままなんです」
 脱出するつもりはないらしい。シャイラは動揺を鎮めて微笑む。
「エリアちゃん、全て終わったらお買い物に付き合ってくれるかしら? 欲しい洋服があるの☆」
「‥‥は、はい☆ 悦んでお付き合いします♪」
 二人の仕事が終わるのは未だ先のようだ――――。

 優麗なシルエットで模られた様々な自家用車が飛び交ってゆく。
 ネオン輝く幾つもの建造物がそそり立つこの街は、世界一と謂われる程の最新技術で固められていた。様々な半透明の電光掲示板が彩り、路上に集う市民の目を楽しませる。正に理想的な社会が築きあげられた訳だ。
 そんな平穏を絵に描いたような街並を、一台の車が飛んでゆく。鋭利なシルエットに模られた攻撃的な雰囲気を醸し出すそれは、下部に備え付けられた大きなカメラで周囲を覗っているようだった。ふと、或る建造物がモニターに収まる。一階建ての大きな一軒の家だ。周囲には大きな森が茂り、超高層ビル街にあるものの、別世界と思わせた。
『研究所を確認しました。これより降下します』
 エリア達は何かが動き出した事を未だ知る由もない。


「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
 カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま、苦笑交じりの微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、エリアにカードを差し出す。
「このカードは、エリアさんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「わたくしの履歴、ですか?」
「はい☆ 今回の場合は、『闇に異形が蠢く研究所内。エリアは調査員として仲間と共に、隊長が命懸けで発見した石版を解析。全てを解決する為に行動する‥‥』って感じです」
 いいのか? こんなてきとーな履歴で‥‥。
「じゃあ、次は白いふわふわしたモンスターでも出そうかしら♪」
 それじゃ、追い掛けてバッドエンドでしょう。
 カタリーナが苦笑を浮かべなる中、エリアはカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、少女はにっこりと微笑む。
「それでは、エリアさん、ごきげんよう☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、エリアは瞳を閉じた――――。

<研究を続ける> <目を覚ます>


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【4733/エリア・スチール/女性/16歳/学生/呪術師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 この度は発注ありがとうございました☆
 東京怪談では、はじめまして、ですね♪ 切磋巧実です。
 こうやって同じタイプのキャラクターで違うワールドを生きるのも楽しそうですね。
 さて、いかがでしたでしょうか? 正直、難産でした(実は3バージョンあったり)。
 SF風の世界で研究所内。しかも室内物で闇に異形が徘徊している状況の中、見つかる石版、真相。‥‥何処かで矛盾が発生しちゃうんです(苦笑)。昼の内に脱出すりゃ良いじゃん、とか、自分達が入った時には無事だったのか、とか、闇が純粋な暗闇なら、SFな科学力で十分対応できるじゃん、とか、元々ここの研究員なら情報知らな過ぎだし(笑)。エイリアンが徘徊している‥‥とか選択に入れた方が良かったかな?
 ともあれ、ここはB級SFと割り切り、突っ込み所はそのままに構成させて頂きました。映画で言えば、説明なく唐突に始まり、置いてきぼりなままラストまで運び、後から、そういう世界なんだと認識させるパターンって感じを目指したつもりです(苦笑)。どうしても辻褄合わせしちゃうと無駄に文字数取られちゃいますから。もし、解説や設定好きでノベルにお求めでしたら、教えて頂けると今後の参考にさせて頂きます。
 さて、closelaboratory(因みに洋題風。邦題はどんながお好み?(笑))に続編はあるのか(ラストのアレはB級風な演出で、気にする必要はありません)? 勿論、別の選択肢を選んで、まったく別の物語を描いても構いません。お気に召したら是非カタリーナに聞かせてあげて下さいね。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆