■想いの数だけある物語■
切磋巧実 |
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【3941】【四方神・結】【学生兼退魔師】 |
――アナタは眠っている。
浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか？
目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか？
アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――
そこは夜だった。
キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし？」
ふと穏やかな女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく１７〜２０歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい！」
再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい！」
ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女（ひと）だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか？ これなんかいかがです？ こんな感じもありますよ☆」
彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ？ 選んで思い描けば良いのですから☆」
キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
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想いの数だけある物語
「遅いぞ！ 四方神ッ！！」
「は、はいッ、申し訳ありませんッ！ ‥‥ガゾック様」
一陣の旋風の如く、二人は廃墟を走る。行く手を阻むように、朽ち果てたビルを砕いて姿を見せるのは、巨大な昆虫の如き化物だ。わさわさと群がる黒い害虫を、男と女は次々に薙ぎ払って突き進んでいた。
「四方神、集中しないとヤラれるぞ！」
短い茶髪の筋骨逞しい男が、褐色に彩られた精悍を顔で振り返る。ガゾックの黒い瞳に映るのは、長い黒髪を赤いリボンで結った女だ。否、ポニーテールを左右に揺らす彼女の風貌は未だあどけなさが残っており、少女と呼ぶに相応しい若い色香を漂わせていた。
「‥‥いえ、集中して、います」
やや曇り気味である四方神結の表情は、明らかに集中していない事を物語る。ガゾックには思い当たる事があった。
「おまえだけを連れて来た事に動揺しているのか？ 救出任務に出る前にも言った筈だ。街の警護を薄くする訳にはいかない。分かるだろう！」
「‥‥はい」
「しっかりしろ！ いい娘だから、な★」
ポンッと結の頭に触れ、男はクシャクシャと彼女の黒髪を撫でた。少女は頬を膨らまし、上目遣いでガゾックを見つめて乱れた黒髪を直す。
――もう、また子供扱いしているのですね。
ガゾック様が分かっていないのです‥‥。私の貴方への気持ちを――――。
■だから私は――ｔｒｉａｎｇｌｅ ｒｈａｐｓｏｄｙ
全ては混沌とする争いから始まりました。
飽くなき戦争の時代は、坂道を転がるように止まる事を知らず、規模が肥大すると共に、広大な廃墟を築き、地球の人口を半分以下にまで至らしめました。
生き残った人々は小さな集団を作り、力を合わせて生き始めて数ヶ月。
何処かの施設が壊れたらしく、そこから多くの実験生物が飛び出したのです。元から現存する生物を改良したものでしたから、本能的に繁殖を繰り返し、気付いた時には人類を脅かす存在となっていました。
――私の能力を秘密にしている場合じゃない。
「あの、私を自警団に入団させて下さい！ 私には、‥‥私には、特殊な力があって、倒す事が出来ないモノを退治する事ができるのです」
当然、私は自警団の人達に笑われました。折角、秘密にしていた能力を打ち明けたのに‥‥。悔しくて、哀しくて、やっぱり能力が疎ましくて、奥歯を食い縛って嗚咽を堪えたのを覚えています。そんな時でした。
「自警団への志願を許可しよう」
太い腕を組んでいたあの方が、瞳を閉じたまま許可してくれたのです。団員達の中には尚も反対する者がいました。「こんな小娘は足手まといだ！」とか、「士気が乱れる」とか‥‥。他にも色んな声が飛び交いましたが、もう忘れました。はい、忘れる事にしたんです。
「あなた、お幾つなのかしら？」
俯いて肩を震わす私に、女性の声が飛び込みました。私が顔を向けると、艶やかな長い金髪の女の方が微笑んでいたのです。清楚で気品すら感じる女神のような方でした。
「１７‥‥ですけど」
「そう」
にっこりと微笑んだ女性の方は、団員に身体を向けました。長いストレートヘアがサラリと揺れたのが、とても綺麗だったのを覚えています。そして彼女は澄んだ声を響かせたのです。
「私も彼女と同じ年齢の時、兵隊に志願したわよ☆ それに、隊長であり、私の夫の決断を信じられないというのかしら？」
「シ、シャイラさん、そりゃ誤解ですぜ。俺達はそんな嘘っぱちな能力を信じられないだけで‥‥」
それでもシャイラ様は腰に手を当てると、胸を張って私を支援してくれました。すると、あの方がゆっくりと私の元へ歩いて来て、口を開いたのです。
「四方神‥‥、認められないのが悔しいなら、成果を見せろ。おまえの力を証明してみせろ。俺が許可したのは、そのチャンスを与えただけに過ぎないからな」
「は、はいッ、ありがとうございます！」
――この人の為なら頑張れる！ 期待に応えられる！
巧く戦えたか今も分かりませんが、こうしてガゾック様の直属の部下になった私は、あらゆる任務で生死の狭間を切り抜けました。次第に会話する事も多くなって、私の心の中は、あの人の存在で膨れ上がっていったのです。だから――――。
●嘘！？ これって‥‥
「ガゾック様！ ２時の方向と１０時の方向、来ますッ！」
「何だと？ 何も見えないぞ？ 空か！？」
刹那、空間から飛び出したように、飛行タイプの昆虫型の化物が姿を現した。耳障りな羽音を鳴らし、二人に強靭な顎の洗礼を食らわそうと肉迫してゆく。ガゾックは素早く鋭い眼光を疾らせ、周囲の状況を把握する。地上からは黒い昆虫の化物。空からは蜻蛉のような昆虫の化物‥‥。
「四方神ッ、空は任せたぞ！ 俺はこの害虫を排除するッ！」
「了解です！」
ガゾックに応えると、少女は瞳を閉じ、胸に両手を添えると意識を集中させてゆく。忽ち、結を中心に風が巻き上がり、結った長い黒髪や、制服のスカートがゆっくりと舞い靡いた。
「霊界におられる存在へ要求します！ 退魔師四方神結が願いに応えて下さいッ！」
カッと開いた瞳に鋭利な光を宿し、結は胸元に添えた両腕を大きく真横に開く。
「魂鎮め！ 異形侵入封印！」
刹那、見えない壁に激突したように蜻蛉型の化物が拉げ、体液を舞い散らせて失散した。まるで球状の壁があるように、流れた体液は少女に飛び散らず、ゆっくりと見えない障壁を伝う。だが、化物とて考える知能が皆無という訳ではない。仲間が奇声の断末魔と共に、弾ける如く失散する様を複眼に焼け付け、滞空状態を保ちながら、力が消滅するのを待つ。
「そうですか‥‥。私の力が消えるのを待つのですね。でしたら、魂裂きの矢ですッ！」
結が左腕を前に突き出すと、青白い光の粒子が手の中を流れてゆき、半透明の弓を模る。同時に右手に模られたのは、一本の矢だ。一斉に少女目掛けて飛び込んでゆく蜻蛉の化物達。刹那、少女から放たれた矢は空中で幾つもの細い閃光と化し、群がった化物に次々と鉄槌を食らわした。彼女は微笑み、太刀の衝撃波で黒い害虫を吹き飛ばす隊長へと顔を向ける。
「‥‥ガゾック様、排除完了しました！」
「ああ、こっちも終わった」
「‥‥何ですか？ ‥‥ガゾック様」
男は身体を向けると少女に近付き、ポンッと両肩を軽く叩く。結はピクッと肩を弾ませ、ガゾックの精悍な顔を見上げた。彼の微笑みは複雑な表情を浮き上がらせている。嬉しいような、寂しいような‥‥。
「‥‥もう、俺のサポートは必要ないようだな」
――認めてくれたのですか！？ でも、必要ないって‥‥‥‥。
「いいえ、私には‥‥ガゾック様のご指導が‥‥まだまだ必要な、半人前です、から」
つい、視線を逸らして口を開いた結の表情も複雑な色を浮かべていた事だろう。男は「そうか」とだけ言うと、少女の肩を軽く叩いて背中を向けた。沈黙の中、風が二人の間を吹き抜けてゆく。
「‥‥いくぞ、四方神」
「‥‥は、はいッ、ガゾック様。霊との交信に因りますと、奥方様は近いです！」
二人が駆け抜けた後に無数の屍が築かれる中、遂に攫われたシャイラの元に辿り着いた。
「シャイラッ！！」
「シャイラ様ッ！ そんなッ！」
ガゾックと結の瞳に映るのは、蜘蛛の巣に囚われたような女性の姿だ。シャイラはぐったりとしたまま、十字架に張り付けられたような恰好で、朦朧とした意識の中にいた。傍に群がるのは人間の赤ん坊位の大きさの蜘蛛の化物だ。鋭利な口で血を吸っているように見える。
「‥‥ガゾッ、ク？ それに、結、さ、ん？」
弱々しい声が金髪の女性から洩れた。刹那、二人の前に落下して来たのは、巨大な蜘蛛の化物だ。男と少女は即座に身構える。
「どうやら親って奴だな。子育ての為に人間の血を必要とするかよ」
「早急に退治いたしましょう。奥方様が耐ちません！」
絹のような糸が放たれる中、二人は反対方向へと巨体の周りを駆け回る。敵が一体なら目標を撹乱すれば勝機は高い。複眼が少女を捉えた。結は靴を滑らせながら立ち止まると、意識を集中させる。
「魂鎮め！」
「こっちを忘れるんじゃないぞ！ 斬撃烈壊波ッ！！」
少女へ洗礼を与えるべく動いた巨体の背後から、床を叩き割る勢いでガゾックの太刀が唸り、真空刃が炸裂、緑色の鮮血と肉片が舞う中、結が構えた弓が巨体を射抜く。
「食らいなさいッ！ 魂裂きの矢！」
所詮は知能の低い化物だ。同じ連携を繰り広げた結果、巨大蜘蛛は崩れるに至った。後はシャイラを救い出し、雑魚を一掃する事で任務は無事完遂したのだ。
ガゾックの腕の中で金髪の女性はゆっくりと緑色の瞳を開く。
「助けに‥‥来てくれたのです、ね」
「当たり前じゃないか。安心しろ、もう大丈夫だ」
シャイラは微笑みを浮かべると、少し離れた場所で佇む少女へと瞳を流す。結は視線が合うと、慌てて表情を繕った。金髪の女性が視線をそのままに口を開く。
「結さんと、お話したいのですが、二人きりに、させて、くれませんか？」
「‥‥四方神と？ あ、あぁ、分かった‥‥呼んで来る」
釈然としない表情を浮かばせながら、ガゾックはシャイラを横にすると、結を呼んだ。駆けつける少女と男が交差する中、金髪の女性が顔を向ける。
「どうして、離れていたの？」
「え？ それは、奥方様とガゾック様の、再会に、水を注したく、ありませんでしたから‥‥」
視線を逸らして言葉を選ぶように結は応えた。困惑の色を見せる、たどたどしい少女の言葉に、シャイラは穏やかに微笑んだ。
「‥‥それだけじゃないでしょ？ 女同士ですもの、結さんを見ていれば、分かるわ」
――見透かされていたのですか？ 奥方様に！？
瞳を見開き、言葉を失った少女は小刻みに肩を震わす。シャイラは、膝の上で固まった結の拳に触れ、何も言わずに優しげな眼差しを向けるだけだった――――。
――後日。
「なんだと！？ 自警団を辞めたいだと！？」
ガゾックは怒鳴るような声を響かせ、辞退を告げた少女はビクッと跳ねた。俯いたまま、結は上目遣いで男を擬視すると、震える声で口を開く。
「わ、私は、もう自警団にいられる、女じゃありません‥‥何も言わずに聞き入れて下さい」
「何様のつもりだ！ 自警団にいられないだと？ 勝手な事を言うんじゃないッ！！」
――勝手なことですって？ だって、私は‥‥。
結は顔をあげ、胸元に手を添えると、ガゾックを射抜くような眼差しで見つめる。
「だって！ だって‥‥私がお慕いしているのは‥‥！！」
刹那、少女の踵（かかと）が浮いた。呆然と見開かれた瞳は窓から射す夕日を見つめ、震える身体は男の太い腕に包まれていた。真っ白に染まる思考の中、戸惑いが口から洩れる。
「‥‥は、放して、下さい」
「何も言うな。おまえの気持ちは俺が受け止める！ だから今は、何も言うな！」
――それって‥‥。え？ え？ 三角関係ってこと！？
夕焼けに染まる一室の中、結は戸惑いながらそっと瞳を閉じた――――。
「‥‥これがアナタの描いた物語なのですね」
カタリーナは一枚のカードを胸元に当て、瞳を閉じたまま微笑みを浮かべていた。やがて、ゆっくりと瞳を開き、結にカードを差し出す。
「このカードは、結さんが物語の続きを描く時に使って下さい。カードに記録として履歴が残ります」
「‥‥履歴、ですか？」
「はい☆ 今回の場合は、『世紀末の中、異形の怪物と戦う自警団に志願した結。隊長に想いを寄せるが、打ち明けられずにいた。ある日、隊長の奥方を救出する任務に赴き、互いの想いが交錯する中、三角関係に‥‥』って感じです」
いいのか？ こんなてきとーな履歴で‥‥。
「あ、ありがとう、ございます。なんか、恥かしい履歴かも、ですね‥‥」
取り敢えず苦笑しながらも、結はカードを受け取った。微妙な履歴の刻まれたカードを眺め、困惑したように頬を染める。
「それでは、結さん、ごきげんよう☆」
カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、結は瞳を閉じた――――。
＜自警団を続ける＞ ＜目を覚ます＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
【3941／四方神・結／女性／17歳／学生兼退魔師】
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■ ライター通信 ■
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この度は発注ありがとうございました☆
はじめまして♪ 切磋巧実です。
いかがでしたでしょうか？ ラストの心境台詞に被せてＥＤ曲を想像してみて下さい（笑）。本当はこれほどダイレクトなアプローチではないかと思いましたが、やはりインパクトの高い方で★
正式タイトルは「想いの数だけある物語」ですが、サブタイトルは是非「とらぷ」として、今後も御愛用（？）下さると幸いです。戦闘シーンの能力発動演出は、物語世界の中と解釈して下さいね。
さて、微妙な三角関係になりましたが、ガゾックの真意は？ シャイラの言動の意味するものは？ そして結はどうするのか？ どろどろの愛憎劇が展開するのか、お気に召しましたら是非、続編をカタリーナにお聞かせ下さい。勿論、別の世界で物語を綴るのも自由です。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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