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■Calling 〜相席〜■

ともやいずみ
【0622】【都築・亮一】【退魔師】
いつもは自分が一人の時に偶然会う遠逆家の退魔士。
でも今日はいつもとは違う。
Calling 〜相席〜



「おはようございます、和彦さん」
「おはよう、美桜」
 さわやかな朝の挨拶を、テーブルに座って眺めている男がいた。名は都築亮一。神崎美桜の「兄」である。
 遠逆和彦は美桜の恋人で現在この屋敷に居候している。
 彼は一ヶ月ほど入院していたらしく、その間の美桜は彼を心配しすぎて衰弱してしまい大変だった。彼が訪ねて来てすぐに家にあげた後、亮一はしげしげと彼を観察したものだ。
 顔もいいし、礼儀正しい。性格も良さそうだ。
(三拍子揃ってる)
 感動だった。よくやった美桜、と褒め称えたほどだ。
「おはよう、都築さん」
 薄い笑みで挨拶してくる和彦はテーブルについた。
「おはよう和彦君。仕事の予定はどうですか?」
「半月ほどは休養期間だから予定は入れてない」
「そうですか」
「都築さんは高野山に戻らなくていいのか?」
「邪魔者は退散しろってことですか?」
 楽しそうに笑って言うと、キッチンのほうから美桜の「兄さん!」という声が聞こえた。だが目前の少年は平然としたままだ。
「邪魔者とは思っていない。暇なんだなと思っただけだ」
「君は本当にはっきり言いますねえ」
 笑いを噛み殺している亮一は、美桜の看病をしばらくしていた彼に言われたことがあるのだ。
「頻繁にウロついている式神はあんたのだったのか」
「危害は加えていませんよ?」
「そういうことはどうでもいい。式神は陰陽道だろう? 高野山は密教からいつ鞍替えしたんだ?」
 それを聞いた亮一が激しく笑いを堪えるのに必死になったのは言うまでもなかった。同時に彼が退魔士として非常に優れていることがよくわかった。
 亮一は屋敷に和彦の部屋を用意し、ここで暮らすようにとすすめた。頼んでも頼んでも彼は鋼のように断っていたが「看病のために」と言うと渋々了承し、それが終わっても「美桜の様子をみてほしい」と頼むと仕方なさそうに「じゃあ少しだけ」と頷いてくれた。
「はい和彦さん、はい兄さん」
 料理を運んでテーブルに並べていく美桜。ご飯をよそって二人に渡した。
 すっかり朝が和食である。明らかに呼ぶ順番から、美桜は和彦のために朝を和食に変更したようだ。
 愛の力って偉大ですねと箸を持つ亮一。
「ありがとう。いつも悪いな」
「そんな。気にしないでください。私がやりたくてやってますから」
 和彦は本気で謝っているし、美桜は恥ずかしそうに答えている。こんな調子だから一緒に暮らしていても進展は一向にない。
(礼儀正しすぎるのも問題なんですけどね、和彦君)
 にこにこと照れ笑いを浮かべて和彦が食べる様子を見つめている美桜は、どこからどう見ても新妻。彼の動作で一喜一憂してしまう。
「美味しいですね、今日も。和彦君への愛がつまってるからですかねえ」
「に、兄さん!」
「この愛情を和彦君に返してもらえばいいじゃないですか。料理のお礼として」
 真っ赤になって口をぱくぱくしている美桜には散々余計なことをしないでと言われていたが、それで引き下がるような亮一ではない。
 未来の弟のことだって案じているのだ。遠逆家が手を出してきたら報復してやる気だし、もう和彦のことは気に入っている。弟に欲しい。
「そうなのか?」
 和彦は無垢な瞳を美桜に向ける。
「えっ! あ、ち、違います! 見返りが欲しくてやってたわけじゃ……」
「キスの一つもしてもらえばいいじゃないですか。減るものじゃないですし」
「亮一兄さんは黙ってて!」
「キス? ああ、接吻ね」
 無表情でさらりと反応されて美桜が慌てた。彼はマジメな顔で言う。
「なんだ。言ってくれればしたのに」
 瞬間、頭から湯気を出して美桜はカチンコチンに固まった。
「それで、どうすればいい? 接吻でお礼になるのか?」
 じっと見つめて言うので美桜はわなわなと震える。
「どこがいい? 言ってくれればどこでもするぞ」
「和彦君て太っ腹ですね」
 笑いを含んだ亮一の声にハッとして美桜はテーブルの上の空の皿を掴んで兄に投げつけた。勿論亮一は皿を余裕で受け取る。
「唇ですよ、くちびる。それが男ってもんです和彦君」
「余計なことを和彦さんに教えないでください!」
 兄さんのバカ!
 二人のやり取りに、和彦は彼女から手を離して食事に戻る。
「もういいか? 相手にするのは疲れる」
「つかれる……わ、私がですか?」
「まさか。美桜がしろと言うなら接吻だろうとなんだろうとしてやるさ。
 都築さんはかまって欲しいんだろう。暇だから」
 面倒そうに言う和彦の前で亮一は残念そうに肩を落とした。
 さすがにラブシーンを目の前で披露するほど彼は易しくないようだ。だがすぐににんまり笑った。
「良かったですね、美桜。言えばあんなことやそんなこともやってくれるそうですよ」
「あっ、あんなこととか、そんなことってなんですか!」
「あんなことはあんなこと。そんなことはそんなことです。ねえ、和彦君」
「和彦さんに変な話題を振るのはやめて!」
「具体的に言ってくれ。俺にどうして欲しいんだ?」
 味噌汁をすする和彦の両耳を、美桜が手で塞ぐ。それを見た亮一はものすごく楽しそうだった。

 こんなやり取りの後だったので、美桜はぷりぷりと怒っていた。
 求めれば応じるという和彦の浪漫のない言葉は嬉しいのか恥ずかしいのかわからないものだったし、それを楽しそうに煽る兄が憎らしかった。
「変な手紙がきてますね。あ、これ和彦君宛てですね」
 受け取った和彦の手紙には切手も貼っていない奇妙な手紙だった。それを見て彼は面倒そうに嘆息する。
 亮一は自分宛ての手紙を眺めて、開けた。
「中に指輪が入ってますね」
 美桜は呟いて顔を近づける。ちょんと指先でつついた瞬間、美桜の指にびゅるんと指輪が絡みついた。
 驚く美桜はのけぞり、亮一が「あ」と呟く。
「え? な、なんですかこれ? は、はずれない???」
 困惑する美桜は嫌な予感に青ざめたのだった。



 あの手紙は招待状だった。あの指輪も亮一の為のものだったらしい。
 で。どうして美桜が一緒にいるのかと亮一は思う。一人は怖いと言い張ってついて来た美桜は和彦の腕にしがみついている。
 招待された山奥の屋敷は古くて大きい。明らかに怪しかった。
「なにか起こる可能性のほうが高いですから、美桜は気をつけてくださいね」
「どうして私だけなの?」
「だって和彦君は退魔士でしょう? その手のことには慣れているじゃないですか」
 美桜はしょんぼりしてしまうが、そんな彼女の頭を無言でぽんぽんと撫でる和彦だった。
 中もやはり広く、迷ってしまいそうな造りになっている。殺人事件や、神隠しが平気で起きそうな雰囲気だった。
 来客は五人ほど他にいるらしい。通りかかった一人の指に美桜がしている指輪があり、亮一は「やはりか」と納得した。
 不老不死の薬を得る資格が、あの指輪。くだらないと思うが美桜がしているのだから無関係ではない。
 部屋は二つ用意してもらった。
 鍵を和彦に渡す亮一は、さっさと自分の部屋に入っていこうとする。それを美桜が止めた。
「ちょ、和彦さんを閉め出す気ですか兄さん」
「はあ? なに言ってるんですか。和彦君は美桜と同じ部屋で寝てください」
「えっ」
 和彦が驚いたように目を見開く。美桜が赤くなって両手を上下に振った。
「な、なにを……!」
「兄さんと二人きりよりは、恋人と二人がいいでしょう? それじゃあ俺は用事があるから別行動です。夕食にまた会いましょう」
 ばたん。
 残された二人は呆然とそれを見ていた。



 夕食を終えた亮一の行動は素早かった。和彦に協力してもらうつもりだったが、美桜がいる以上は彼には美桜の護衛に専念してもらうことにする。
 時刻は深夜を回ったあたりだろう。屋敷を外から眺める。
 夕食のピリピリした雰囲気を感じて、どうもただ事じゃないと踏んだが。
「西洋魔術のニオイがぷんぷんしますね。困ったな……和彦君のほうが詳しいでしょうに」
 まあいい。全部叩き潰せばいいのだ。

「ようこそ、都築亮一くん」
「気安い人は嫌いです」
 きっぱり言い放った亮一に、相手は苦笑した。屋敷の奥の部屋の間取りは妙だった。外観の広さと部屋の広さが一致しないため、亮一は隠された部屋があると睨んだのだ。それがここだ。
 部屋の奥にはイスに腰掛けた干からびた老人がいる。かろうじて魂が身体に残っている程度だ。
 部屋の床には血で描かれた六芒星。
「儀式、ですか」
「ふふ。さすが勘のいい……」
「不老不死の薬なんて嘘ですね。察するに儀式の贄を呼び寄せるためですか。単純な連中は騙された、と」
「君だってそうだろう」
「俺は仕方なくここまで来ただけです」
「もう遅い。指輪をしている者たちから、わしに力が集まり始めている。君も例外ではない」
 亮一は眉をぴくりと動かす。
 亮一が手袋をしていることもあるだろうが、あの老人はすでに目が使い物になっていないようだ。こんな間近にいるのに亮一が指輪をしていないことに気づいていないらしい。
 だが問題はそこではない。
 指輪をしている者から多量の生命力が流れ込んでいる。この部屋に。
(美桜……)
「そうですか……では時間がないようなので手っ取り早く済ませましょう」
 薄く笑う亮一の瞳は冷えていて、残虐だ。
 ずずず……と彼の足もとの影が揺らいで伸びる。床に広がる影は動かぬ老人へと手を伸ばした。

 屋敷全体に奇妙な音が響いた。音は悲鳴のようであり、屋敷が軋む音でもあった気がする。甲高いそれは脳を揺らし、破裂させる効果が十分にあった。
 沈黙した老人の前で亮一は「はい終わり」と呟いてきびすを返したのだ――。



「おはよう」
 いやに上機嫌の亮一の声に美桜は嫌な予感がしていた。
「朝食はいいから早く帰りましょう。いいですか?」
「俺は構わないが」
「さすが和彦君」
 嬉しそうに彼に微笑みかけるとそれから嘆息する。
「ざーんねん、ですけど」
「は?」
 怪訝そうにした和彦は首を傾げた。亮一は荷物をまとめるために部屋に戻ってしまって、意味はわからなかったが。
 その後、帰り道で美桜の激怒を亮一は買うのだが……この時点では美桜も和彦もわからず、ただ廊下で不思議そうに亮一の部屋のドアを見つめただけだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】
【0622/都築・亮一(つづき・りょういち)/男/24/退魔師】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 オマケシナリオにご参加くださり、どうもありがとうございました都築さま。
 長くなってしまったので完全に分断していますが、神崎さまと都築さまの両者の視点で一つの物語になるようにしています。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 書かせていただき、大感謝です。