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■Calling 〜相席〜■

ともやいずみ
【3524】【初瀬・日和】【高校生】
いつもは自分が一人の時に偶然会う遠逆家の退魔士。
でも今日はいつもとは違う。
Calling 〜相席〜



 初瀬日和は鞄に荷物を入れる。
「日和、帰ろうぜ」
 声をかけてきた羽角悠宇に日和は頷いた。
「うん、帰ろう悠宇」
 だがその可憐な笑顔が数分後、強張ったものになるとは思ってもいない日和である。



 いつもの帰宅の道のはずだった。いつもと同じはず。
 だが日和はハッと青ざめた。
「あ、ありがとうございましたー」
 上ずった女性店員の声にそちらを見て日和はそういう反応をしたのである。
 ファーストフード店から出てきた少年は少しだけ嘆息して顔をあげた。気合いを入れたような顔つきである。
(か、か、和彦さんっ……!)
 冷汗をどっとかいてしまう。
 ぎぎぎぎ、と、ぎこちなく真横にいる少年・羽角悠宇を見遣った。上機嫌で鼻歌をうたっている彼は日和の様子に気づいていない。
(ど、どうしましょう……)
 悠宇には和彦のことを。和彦には悠宇のことをなに一つ喋っていないのだ。
 気づきませんようにと祈っていたが、和彦が足を止めてしまう。歩いて行ってしまうところだったのに。
「日和さん」
 どっきーん。
 日和はびくんと跳ねてから、小さく和彦に笑いかけた。
 彼はどこか安堵したような笑みを浮かべる。ああこれだ。この笑みに弱いのだ。
(和彦さんのバカ……こんな時に天然を炸裂させないでください……っ)
 泣きたい気分とはこのことだ。
「和彦さん、珍しいですね……ファーストフードなんて食べないと思ってました」
 足を止めてしまう日和。悠宇はへ? と思って日和を見た。
 和彦は苦笑する。
「あ、いや……食べることは食べるんだが、今日は知り合いに呼び出されて……ちょっと」
「まさか……あの、またお仕事のことで……?」
「う……ん。まあそんなとこかな。いや、あいつはあいつで色々大変なんだ」
「なにが大変なんですかっ。和彦さんはしばらく休養をとるって言ってたじゃないですか!」
 むっとして怒る日和に、和彦は困ってしまう。
「ご、ごめん。でも仕事をしているわけじゃ……」
「日和」
 会話に割り込んできた悠宇の声に日和はハッとして青くなる。
「ゆ、悠宇……?」
「こいつ誰?」
 目がすわっている。
 声がトゲトゲしている。
 日和は和彦と悠宇を見遣り、困惑してしまった。
「誰だ、おまえは」
 思いっきり上から睨みつける悠宇の態度に和彦が柔和な表情を消す。いつもの、仕事の時の彼だ。
「ひとに名を尋ねる時は、自分から名乗れ」
 むかっ、と悠宇の眉が跳ね上がる。ああああ、と日和は二人を何度も見渡した。
「俺は羽角悠宇だ。日和の彼氏だ」
 ぎらり。
 そんな音が聞こえそうなほど睨む悠宇を前に和彦は少し驚き、それから日和を見る。日和はその視線を受けて「うっ」というように引きつった笑みを浮かべた。
「俺は遠逆和彦。それで、なんでそんな態度をしている?」
 氷のような視線になった和彦の言葉に、悠宇が疑問符を浮かべた。
「そんな態度ってなんだよ」
「その態度だ。相手を上から見下ろすそれだ」
「だからそれがなんだって……!」
「威圧をかけているつもりなのか? それとも喧嘩を売っているのか? 他人を不愉快にさせるその態度を改めろ」
 はっきりと言い放った和彦に「やっちゃった」と日和が溜息をつく。
 悠宇はこめかみに青筋を浮かべた。
「不愉快にさせてんのはおまえだ、おまえ!」
「理由を言え。突然上から見下ろされると、普通は誰でも腹が立つだろう?」
「日和に馴れ馴れしいんだよ!」
「…………なんだ。そんなことで?」
 呆れたような彼の言葉に悠宇は口元を引きつらせた。
(なっ、なんだこいつ!)
「相手を束縛していないと不安なのか? 小さい男だ」
「んなっ……!」
「かっ、和彦さん! 悠宇を怒らないで……!」
「そうだそうだ言ってやれ日和!」
「バカ! 悠宇が勝てるような相手じゃないのよ!」
 え、と悠宇が動きを停止する。
 そして一気に頭に血がのぼった。
「なんだと! 俺がこんなインテリに負けるって言うのか!」
 インテリとはどうやら和彦のことであるらしい。
「ご、ごめんなさい……悠宇、口が悪くて」
「あ……いや。その、すまないな。俺もつい……」
 日和に謝られて和彦が困ったように慌てる。それがまた悠宇の怒りの火に油を注いだ。
「悠宇も謝って! あんな風に見下ろされたら私だって嫌な気分になるもの。和彦さんの言う通りよ!」
「ひっ、日和! こんなヤツの味方をするのかっ!?」
「謝って!」
 怒られてしまい、悠宇は渋々というように和彦を見る。「悪かったな」と唇を尖らせて小さく言った。
 すると。
「いや、俺も言い過ぎた。申し訳ない」
 綺麗に腰を折る和彦に悠宇がぎょっと目を剥く。
 こんなふうに謝られるとは思ってなかった。これが効果的だったらしく、悠宇はあちこちに視線を移動させてぶつぶつと何か呟く。
(こいつ……悪いヤツじゃないのかな……)
 そうかもしれない。
「あ、あのぉ……ここだと目立ちますから…………よければ移動しませんか?」
 おずおずと提案した日和は、とにかくこの空気をなんとかしたかった。



 近くの喫茶店へと入った三人は、とにかく目立ちまくっていた。いや、一番目立つ理由はわかっている。
「あ、あの……こちらのメニューもおすすめなんです。よければどうぞ」
 語尾にハートマークをつけそうな感じの女性店員は、和彦に熱心にすすめている。日和は面白くなさそうに水をちびちび飲んでいた。
「どうも。でも俺、さっき食べてきたばかりで空腹じゃないんだ。ジュースをもらえるだろうか?」
「は、はい! オレンジとリンゴと、グレープフルーツがありますけど!」
「え……と、じゃあオレンジで……」
 たじろぎつつ言う和彦の前で女性店員は頬を染めて「オレンジジュースですね!」と明るい声を出した。
 日和の横に陣取る悠宇も長身なのでかなり目立っている。
 悠宇はじっと和彦を見ていた。観察していると言ってもいい。
 そんな対極的な二人を見て日和は思った。
(やっぱり全然タイプが違う……)
 礼儀正しく座る和彦と違い、悠宇は両足を広げた体勢で座っている。ここからすでに違いが出ていた。
 けれども。
(いつも静かな冷たい夜のような雰囲気だったのに……)
 和彦からはそんな雰囲気が薄れていた。これが本当の和彦なのかもしれない。
 悠宇をお日様みたいだといつも思っていた日和だったが、それを和彦にも感じていた。穏やかな、風の吹く晴れた日の太陽だ。緩やかな暖かさを持つ日差しのような、そんな感じを受けていた。
 悠宇を夏とするなら和彦は秋だ。今までの和彦ならば冬の朝の太陽のようであった。
「あのさ」
「?」
 悠宇の声に和彦はそちらを見る。
「さっきは悪かったな」
「? 謝ったじゃないか、さっき」
「あ、あれは日和に言われて……! と、とにかく悪かった!」
「……別にいいが……」
「どうせ日和から話し掛けたんだろ? なんかあって。日和は他人を放っておけないタチだからな」
 ぶすっとして言う悠宇の頬は微かに赤い。日和は小さく目を見開いて嬉しそうに笑みを浮かべた。
 二人が喧嘩するよりも、仲良くなるほうがいい。ずっと、いい。
 悠宇の態度に和彦はちょっとだけ驚き、それから苦笑する。
「よくわかっているんだな、日和さんのこと」
「当たり前だろ!」
 フンと腕組みする悠宇。
「だいたいおまえ、怪しいんだよ」
「怪しい?」
「気配を極力消してるだろ」
「…………」
 和彦は指摘されて視線を斜め下に向けた。
「……すまない。それは、もう癖のようなもので…………今はそうならないようにしているんだが」
「えっ! ちょ、なんでそんなへこんでんだよ!」
「凹む? 俺はどこも窪んでいないが?」
「ええっ! な、なんだこいつ! 日和!?」
 困惑する悠宇。それも当然だろう。今時の会話に和彦がついてこれるわけがないのだ。
 くすくす笑う日和である。悠宇は笑う日和を見てから、マジメな顔つきの和彦を見遣った。
「と、とにかくだ! 日和を危険な目に遭わせてなきゃそれでいい。日和はちょっと無鉄砲なところがあるから心配なんだ。特に他人事でその無鉄砲さを発揮するから」
「ああ、それは納得できるな。うん」
「下手に扱うとすぐに泣き出すし、世間ずれもあんまりしてないし……天然っつーの? まあそこが可愛いんだけど」
「ちょ、ちょっと悠宇!」
 照れる悠宇に和彦は微笑する。
「そうだな。日和さんは十分可愛らしい人だから」
 和彦の臆面もない発言に日和が咳き込んでしまう。
 悠宇はわかる。直情的な性格だし、思ったことを口にするから。だが和彦はそういうタイプではない。
 ライバルの発言なのに悠宇はパッと顔を輝かせた。
「あ、おまえもそう思う? 見る目あるな! 気が合いそ……じゃない! 言っとくけど、だからって日和は譲らないからな! 好きになったのは俺が先だ!」
「…………」
 きょとんとする和彦は俯く。日和は悠宇の告白に赤くなったが和彦の様子におたおたと慌てる。
 だが和彦は震えていた。肩を震わせた彼は口を手でおさえる。彼は笑っていたのだ。
「はは……! 面白い人だな」
 さわやかな笑みを浮かべた和彦は顔をあげる。その笑顔に悠宇も「う!」と声を洩らした。
「でも好きになった順番は関係ないんじゃないのか? それを言ってしまうと、世の中の恋愛は成り立たないだろう? 早いもの勝ちというものでもあるまいし」
「日和に関しては早いもの勝ちなの!」
「それはあんたが決めたことだろ。ええっと……羽角さん?」
 ぞわっと悠宇の背筋に悪寒が走る。羽角『さん』? よりによって???
「いい! 羽角か悠宇で!」
「では羽角で。
 日和さんは物じゃないんだ。譲るとかそういう言葉は失礼じゃないか?」
 優しく諭すような言い方をする和彦に対し、悠宇は何か言い返そうとするがうまく言葉が出てこなくてもごもご口を動かしている。
「そ、それはぁ……」
「違うか?」
「う……ぐ」
 むむむむ。
 悠宇は耐えられなくなって和彦に指を突きつける。
「うるさいうるさいっ! 日和は俺の彼女なんだからな! ここだけはキッチリしとくぞ!」
「…………ふぅん。日和さんも大変だな」
 運ばれてきたジュースを飲みつつ、和彦はぽつりと言う。
 恐縮している日和は苦笑したのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女/16/高校生】
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 オマケシナリオにご参加くださり、どうもありがとうございました初瀬日和さま。
 初瀬さまと羽角さまの両者の視点で一つの物語になるようにしています。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 書かせていただき、大感謝です。