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■Calling 〜相席〜■

ともやいずみ
【3525】【羽角・悠宇】【高校生】
いつもは自分が一人の時に偶然会う遠逆家の退魔士。
でも今日はいつもとは違う。
Calling 〜相席〜



 初瀬日和に声をかけた人物を、羽角悠宇は見遣った。
(???)
 顔がやたらと整っている眼鏡の少年に驚く。だがすぐにそれが不機嫌なものになった。
 自分の彼女に気安く話し掛けるこの男は何者なのだ?
「日和」
 会話に割り込んできた悠宇の声に日和はハッとして青くなる。
「ゆ、悠宇……?」
「こいつ誰?」
 目がすわっている。
 声がトゲトゲしている。
 日和は和彦と悠宇を見遣り、困惑してしまった。
「誰だ、おまえは」
 思いっきり上から睨みつける悠宇の態度に少年が柔和な表情を消す。
「ひとに名を尋ねる時は、自分から名乗れ」
 むかっ、と悠宇の眉が跳ね上がった。
「俺は羽角悠宇だ。日和の彼氏だ」
 ぎらり。
 そんな音が聞こえそうなほど睨む悠宇を前に少年は少し驚き、それから日和を見る。日和はその視線を受けて「うっ」というように引きつった笑みを浮かべた。
「俺は遠逆和彦。それで、なんでそんな態度をしている?」
 氷のような視線になった和彦の言葉に、悠宇が疑問符を浮かべた。
「そんな態度ってなんだよ」
「その態度だ。相手を上から見下ろすそれだ」
「だからそれがなんだって……!」
「威圧をかけているつもりなのか? それとも喧嘩を売っているのか? 他人を不愉快にさせるその態度を改めろ」
 はっきりと言い放った和彦に「やっちゃった」と日和が溜息をつく。
 悠宇はこめかみに青筋を浮かべた。
「不愉快にさせてんのはおまえだ、おまえ!」
「理由を言え。突然上から見下ろされると、普通は誰でも腹が立つだろう?」
「日和に馴れ馴れしいんだよ!」
「…………なんだ。そんなことで?」
 呆れたような彼の言葉に悠宇は口元を引きつらせた。
(なっ、なんだこいつ!)
「相手を束縛していないと不安なのか? 小さい男だ」
「んなっ……!」
「かっ、和彦さん! 悠宇を怒らないで……!」
「そうだそうだ言ってやれ日和!」
「バカ! 悠宇が勝てるような相手じゃないのよ!」
 え、と悠宇が動きを停止する。
 そして一気に頭に血がのぼった。
「なんだと! 俺がこんなインテリに負けるって言うのか!」
 だが日和は少年に頭をさげている。
「ご、ごめんなさい……悠宇、口が悪くて」
「あ……いや。その、すまないな。俺もつい……」
 日和に謝られて和彦が困ったように慌てた。それがまた悠宇の怒りの火に油を注ぐ。
「悠宇も謝って! あんな風に見下ろされたら私だって嫌な気分になるもの。和彦さんの言う通りよ!」
「ひっ、日和! こんなヤツの味方をするのかっ!?」
「謝って!」
 怒られてしまい、悠宇は渋々というように和彦を見る。「悪かったな」と唇を尖らせて小さく言った。
 すると。
「いや、俺も言い過ぎた。申し訳ない」
 綺麗に腰を折る和彦に悠宇がぎょっと目を剥く。
 こんなふうに謝られるとは思ってなかった。これが効果的だったらしく、悠宇はあちこちに視線を移動させてぶつぶつと何か呟く。
(こいつ……悪いヤツじゃないのかな……)
 そうかもしれない。
「あ、あのぉ……ここだと目立ちますから…………よければ移動しませんか?」
 おずおずと提案した日和は、とにかくこの空気をなんとかしたかった。



 近くの喫茶店へと入った三人は、とにかく目立ちまくっていた。いや、一番目立つ理由はわかっている。
「あ、あの……こちらのメニューもおすすめなんです。よければどうぞ」
 語尾にハートマークをつけそうな感じの女性店員は、和彦に熱心にすすめている。日和は面白くなさそうに水をちびちび飲んでいた。
「どうも。でも俺、さっき食べてきたばかりで空腹じゃないんだ。ジュースをもらえるだろうか?」
「は、はい! オレンジとリンゴと、グレープフルーツがありますけど!」
「え……と、じゃあオレンジで……」
 たじろぎつつ言う和彦の前で女性店員は頬を染めて「オレンジジュースですね!」と明るい声を出した。
 日和の横に陣取る悠宇も長身なのでかなり目立っている。
(まあコイツ、顔はいいからな)
 そこらにいるアイドルやタレントなど比較にならない。
「あのさ」
「?」
 悠宇の声に和彦はそちらを見る。
「さっきは悪かったな」
「? 謝ったじゃないか、さっき」
「あ、あれは日和に言われて……! と、とにかく悪かった!」
 照れ臭い。というか、恥ずかしい。
「……別にいいが……」
 和彦の言葉に安堵して続ける。
「どうせ日和から話し掛けたんだろ? なんかあって。日和は他人を放っておけないタチだからな」
 ぶすっとして言う悠宇の頬は微かに赤い。なぜ日和が彼と親しいのか、なんとなくわかってきた。
(こ、こいつなんでまっすぐコッチ見てんだ……)
 真正面からあの色違いの澄んだ目で見られると、同じ男なのになんだか気恥ずかしくなってくるのだ。
 和彦はちょっとだけ驚き、それから苦笑する。
「よくわかっているんだな、日和さんのこと」
「当たり前だろ!」
 フンと腕組みする悠宇。
「だいたいおまえ、怪しいんだよ」
「怪しい?」
「気配を極力消してるだろ」
「…………」
 和彦は指摘されて視線を斜め下に向けた。
「……すまない。それは、もう癖のようなもので…………今はそうならないようにしているんだが」
 しゅんと肩を落とす和彦に悠宇は青ざめる。なんだかこっちが物凄く悪いことをしたような気になってしまう。
「えっ! ちょ、なんでそんなへこんでんだよ!」
「凹む? 俺はどこも窪んでいないが?」
 くぼむ???
「ええっ! な、なんだこいつ! 日和!?」
 困惑する悠宇。
 くすくす笑う日和を見てから、マジメな顔つきの和彦を見遣った。
「と、とにかくだ! 日和を危険な目に遭わせてなきゃそれでいい。日和はちょっと無鉄砲なところがあるから心配なんだ。特に他人事でその無鉄砲さを発揮するから」
「ああ、それは納得できるな。うん」
「下手に扱うとすぐに泣き出すし、世間ずれもあんまりしてないし……天然っつーの? まあそこが可愛いんだけど」
「ちょ、ちょっと悠宇!」
 照れる悠宇に和彦は微笑する。
「そうだな。日和さんは十分可愛らしい人だから」
 和彦の臆面もない発言に日和が咳き込んでしまう。
 ライバルの発言なのに悠宇はパッと顔を輝かせた。
「あ、おまえもそう思う? 見る目あるな! 気が合いそ……じゃない! 言っとくけど、だからって日和は譲らないからな! 好きになったのは俺が先だ!」
「…………」
 きょとんとする和彦は俯く。日和は悠宇の告白に赤くなったが和彦の様子におたおたと慌てる。
 だが和彦は震えていた。肩を震わせた彼は口を手でおさえる。彼は笑っていたのだ。
「はは……! 面白い人だな」
 さわやかな笑みを浮かべた和彦は顔をあげる。その笑顔に悠宇も「う!」と声を洩らした。
「でも好きになった順番は関係ないんじゃないのか? それを言ってしまうと、世の中の恋愛は成り立たないだろう? 早いもの勝ちというものでもあるまいし」
「日和に関しては早いもの勝ちなの!」
「それはあんたが決めたことだろ。ええっと……羽角さん?」
 ぞわっと悠宇の背筋に悪寒が走る。羽角『さん』? よりによって???
「いい! 羽角か悠宇で!」
「では羽角で。
 日和さんは物じゃないんだ。譲るとかそういう言葉は失礼じゃないか?」
 優しく諭すような言い方をする和彦に対し、悠宇は何か言い返そうとするがうまく言葉が出てこなくてもごもご口を動かしている。
「そ、それはぁ……」
「違うか?」
「う……ぐ」
 むむむむ。
 悠宇は耐えられなくなって和彦に指を突きつける。
「うるさいうるさいっ! 日和は俺の彼女なんだからな! ここだけはキッチリしとくぞ!」
「…………ふぅん。日和さんも大変だな」
 運ばれてきたジュースを飲みつつ、和彦はぽつりと言う。
 恐縮している日和は苦笑したのだった。
 注文したアイスコーヒーを飲む悠宇は男の直感と呼ぶべきものでわかっている。この男は日和に好意を持っているのだ。
 日和を渡す気など微塵もないが、どうも……気が合いそうだが苦手だった。
「まあそれでもいいけれど、人の気持ちなんて不確かだしいつ心変わりするかわからないから。
 どうぞよろしく」
「…………」
 なんだかさりげなく怖いことを笑顔で言われたような。



「和彦さん、絶対に仕事は……」
「わかってる。休養中はしないから」
 念押しされている和彦の職業とは一体なんなんだろう。悠宇は不思議そうに和彦を見た。
 見たところ同じ高校生くらいなのにどうも妙だ。
「じゃあ俺は帰るよ。楽しかった、ありがとう」
 にっこりと笑顔を浮かべる和彦の前で日和はぱたぱたと手を振った。
「そんなことないです……! でも良かった。和彦さん、すごく明るくなりましたし」
「そうか……?」
「もう帰れ。しっしっ」
 追い払う悠宇に和彦は苦笑する。
「わかった。もう退散することにしよう」
「そうだそうだ」
「悠宇ったら!」
 軽く手を挙げて去っていく和彦を見送って、やっと二人は帰路についた。
「もう……悠宇ったらどうしてああいう態度なの?」
 唇を尖らせる日和と歩きながら、悠宇はフンと腕組みする。
「だってあいつ、日和のこと……」
 すごく優しい目で見ていた。
 言葉を途切れさせて悠宇はムッと顔をしかめる。なんで恋敵を助けるようなことを言わねばならないのか。
「でも……最後のほうは気が合ってる感じでちょっと嬉しかった」
「そうか?」
「そうよ。私のことで変なふうに盛り上がって……」
 頬を赤くしている日和を見て、かわいいなあと悠宇はしみじみ思う。
 日和を譲る気はないけれど。でも、日和のいいところをちゃんと見てくれて理解しているのだから、和彦を悪し様には言えない。
(ま、今度会ったら……日和抜きで喋ってみたいかもな)
 会う機会があればの話だが。
 悠宇は日和の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でて、それから小さく笑ったのだった。
 根掘り葉掘り和彦との関係を訊く必要はないだろう。見て、わかった。
(遠逆和彦、ね。変なヤツ……)
 悪いヤツではない。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女/16/高校生】
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】

NPC
【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/高校生+退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 オマケシナリオにご参加くださり、どうもありがとうございました羽角悠宇さま。
 初瀬さまと羽角さまの両者の視点で一つの物語になるようにしています。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 書かせていただき、大感謝です。