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■江戸艇捕物帖■

斎藤晃
【4929】【日向・久那斗】【旅人の道導】
 
 暮れ六つを告げる鐘が遠くで聞こえていた。
 その料理茶屋の一室で、接待する女もおらずそれでも別段嫌な顔をするでもなく男が二人顔を付き合せていた。
 一人は高そうな羽織袴の恰幅のいい古狸みたいな容貌の男で、今一人は痩せぎすのずる賢い狐を思わせる男であった。
「ふっ、越後屋。そちも悪よのぉ〜」
 古狸の男が言った。
「いやいや、香坂様ほどでも」
 越後屋と屋号で呼ばれた狐顔の男が謙遜でもするように手を振る。それから徳利を取り上げて、彼が今香坂様と呼んだ古狸の杯に酒を注ぐ。
 古狸が酒を一気に煽った。
「はっはっは」
 陽気な笑声をあげる。
「あっはっは」
 狐顔も笑い返した。
 カタン。
 障子戸の向こうで何か音がした。
 狐顔が障子戸開ける。
 そこには庭先を走り去る女の影と、彼女が運んでいたと思しきお茶が廊下に置かれていた。
「……今の話、聞かれたやもしれませんな」
 狐顔が古狸を見やって言った。
「うむ」
 頷いた古狸は閉じた扇子で畳を二度叩くと、細く開いた引き戸の向こうに目配せをした。
「始末せよ」
 引き戸の向こうにいた者が頭を下げ、その場を辞する。

 ――――女を追って。

江戸艇捕物帖

〜channel 1〜



 ■Opening■

 暮れ六つを告げる鐘が遠くで聞こえていた。
 その料理茶屋の一室で、接待する女もおらずそれでも別段嫌な顔をするでもなく男が二人顔を付き合せていた。
 一人は高そうな羽織袴姿に恰幅のいい古狸みたいな容貌の男で、今一人は痩せぎすのずる賢い狐を思わせる男であった。
「ふっ、越後屋。そちも悪よのぉ〜」
 古狸の男が言った。
「いやいや、香坂様ほどでも」
 越後屋と屋号で呼ばれた狐顔の男が謙遜でもするように手を振ってみせる。それから徳利を取り上げ、彼が今香坂様と呼んだ古狸の杯に酒を注いだ。
 古狸が酒を一気に煽る。
「はっはっは」
 陽気な笑声であった。
「あっはっは」
 狐顔も大いに笑い返した。
 カタン。
 障子戸の向こうで小さな音がした。
 狐顔が不審に立ち上がって障子戸を開ける。
 そこには庭先を走り去る女の影と、彼女が運んでいたと思しき盆が湯飲みを乗せたまま廊下に置かれていた。
「……今の話、聞かれたやもしれませんな」
 狐顔が古狸を見やって神妙な面持ちで言う。
「うむ」
 頷いた古狸は閉じた扇子で畳を二度叩くと、反対側の細く開いた引き戸の向こうに目配せをした。
「始末せよ」
 引き戸の向こうにいた者が頭を下げ、その場を辞する。

 ――――女を追って。



 ◇◇◇



 あれが見える者はこの東京でも限られているだろう。
 爆煙を巻き上げ、まるで今にも墜落しそうな勢いで東京上空に落ちてきた謎の飛空挺は、ふと雲にひっかかってそこに留まっていた。
 落ちていたら今頃東京はなくなっていたかもしれない。
 だが、テレビカメラにも映らず飛行機も通り抜ける。
 触れる事も出来ぬあれは夢か幻か。

 時間と空間の狭間をうつろう時空艇−江戸。
 彼らは突然やってきて、何の脈絡もなく、何の理由もなく、そこに行き交う東京CITYの人間を引きずりこんだのだった。





 ■Where is...■

 目の前の世界は突然、彼らの前で光輝いた。
 まるで暗闇の中でいきなりカメラのフラッシュをたかれたような、或いは夜道を歩いていると突然ヘッドライトをハイビームで浴びせられたような、目を開けてはいられないほどの光に誰もが咄嗟に目を閉じていた。
 まぶたの裏側に乳白色の残像をつくって、やがて光は落ち着く。
 開けた目に広がる世界は姿を変えて彼らの前に現れた。


 ▽▽▽


「……またか」
 と、綾和泉汐耶はため息混じりに呟いた。
 持っていた筈の新刊が手の中から消えている。
 目の前にあった筈のテーブルもそこに乗っていたティーカップもない。
 あるのは古びた文机と薄っぺらな座布団くらいだ。
 フローリングの床はどこへやら四畳半の畳の部屋である。とはいえ、彼女の感覚では六畳ほどの広さがあるだろうか。彼女の慣れた畳と大きさが違うのだ。
 つまりここは古き時代に建てられた家。いや、今がその古き時代であるともいえる。そう、ここは今でありながら過去の世界。
 これでソファーにでも座っている時だったらどうなんていたのだろう、胡乱な事を考えながら汐耶はまた一つため息を吐き出した。
 洋服から和服に変わった自分の着物を見下ろす。今更それに動じるでもない。
 動きやすい小袖なだけ、前回よりは幾分マシであろう。鮮やかな朱色が自分の歳を考えると若干目に痛いような気もしたが。
 部屋をぐるりと見渡して、汐耶は何の躊躇いもなく廊下へ出た。
 足は迷うことなく進んでいく。まるでそこがどこだか知っているような足取りだ。
 勿論、先ほどまでいた自宅ではない。けれど彼女はこの家の間取りを知っていた。
 目的の一室に辿り付いて汐耶は無言で襖を開ける。
「やっぱり……」
 それは脱力とも安堵ともつかない何とも複雑な気分だった。
「あぁ、これは……」
 銀色の長い髪を高いところで結い上げた男が汐耶を振り返って、苦笑交じりの曖昧な笑みを向けた。困惑している、のではなく明らかに今の状況を楽しんでいる風の顔付きに見える。
 セレスティ・カーニンガムであった。
 仕方がない、彼はつい先ほどまで仕事に追われて辟易していたのだ。それが今は仕事から解放されて晴れ晴れとした気分だったのである。どうせここで幾日過ごそうとも、東京に帰れば一秒も経っていない。仕事が滞るわけでも溜まるわけでもないのなら、のんびり気分転換を、とは何とも気楽な話であった。
 汐耶は半ば呆れたように天を仰いで襖にもたれかかると腕を組む。
「今度は何があったのかしら」
 それにセレスティは別段気にした風も無く「さぁ?」と首を傾げただけだった。彼自身今来たばかりであったし、それは自ずと明らかになるのだろうとも思われた。その為に自分たちはこの時空艇へ招かれたのだから。
「とりあえず、他の皆さんを店の者にでも探させましょう」
 そう言ってセレスティは文机に紙と硯を並べた。
 筆をとって何事かさらさらと書き始める。それが明らかに人探しのそれに見えないのに汐耶は彼の手元を覗き込んだ。
「何?」
「こんな事もあろうかと、この時代の読んでみたい書物をリストアップしておいたのです」
 セレスティがさらりと答えた。
「…………」
 一瞬固まった後、汐耶は全身の力が抜けるのを感じた。
「せっかくですから、現存していないものを中心に」
 それも店の者たちに探させようというのだろう、侮れない。恐らくその大半は貸本屋でレンタルするのだろうが。
 勿論、活字中毒である汐耶とて気にならないわけでも興味がないわけでもなかったが。
 残念ながら彼女はそれ以上に気がかりがあった。
「……私は向こうに置いてきた新刊の続きを早く読みたいわ」


 ▽▽▽


 それはひどく懐かしい世界だった。
 彼が眠る前に見ていた世界である。
 日向久那斗はそれを別段驚いた風も無く見つめていた。
 数瞬前と変わらず、ぼんやりと。
 つい先刻まで彼は見晴らしのいい公園で空を見上げていたのである。
 風が右から左に吹いて、雲は右から左へ流れていくのに、一つだけ入道雲のような大きな雲だけが風にさらわれる事無くそこに佇んでいた。もしかしたら雲に見えるだけで本当は雲じゃないのかもしれない。
 その雲のようなものに引っかかった飛空艇を彼は見上げていたのだ。
 淡い空色の傘を手に少年――いや、見た目は少年だが既に彼は悠久にも等しい時間を生きている。それでもついぞ見える事のなかった船。
 あれが雲でないなら届かないだろうか。
 触れてみたいな、と彼が手を伸ばした時、突然世界は白く輝いた。
 久那斗は自分が持っている傘がひどく重くなっている事に気づいてそちらへ視線を移した。空色の傘が赤茶けている。ナイロン地だった筈の傘は油紙で、骨組みは竹のようだった。
 唐傘である。
 この懐かしい世界に、それはとても合っていた。
 ともすれば、自分の出で立ちも和服に変わっている。
 最早、そこがどこなのか、とか、何が起こったのか、とか、彼にはどうでも良い事なのか。
 彼はそれを見つけてぽつりと呟いた。
「冷や水屋さん」


 ▽▽▽


 光が晴れるとそこは一転して闇の中で、楓兵衛は一瞬呆気にとられたようにきょとんとしていた。
 そこがどこかの天井裏であるらしいと気づくまでに暫しの時間を要する。
 最近では壁で屋根を支える構法が主流であるのに、太い梁が何本も行き交う天井裏は今時珍しい柱で屋根を支える純日本風家屋だ。
 つい数瞬前まで串焼きを焼いていた筈が、何故こんなところにいるのか。夢でも見ているのかと思って自分の頬をつねってみたら痛かった。
「一体ここはどこでござるか……」
 と、呟いた時、足元から声が聞こえてきた。
 怪訝に傍らに小さな穴が開いているのを見つけて覗いてみると二人、和服姿に髷を結った、まるでテレビの時代劇で見るような男が廊下を歩きながら話しているのが見えた。
「……もうすぐ天下の御用商人というわけだ」
「返り咲いた暁には……な」
 そんな話をしながら廊下の向こうへ消えていく。
「…………」
 兵衛は困惑げに目をしばたいた。
 御用商人。今時耳慣れぬ言葉である。以前、時代劇でそんなような言葉を聞いた気もしたが。
 体よく目の前に覗き穴があって、天井裏にいるという事は、自分は何かこの家の事を探っていたのだろうか。
 しかし――。
 不安にかられて兵衛は出口を探した。
 何が起こっているのか、起ころうとしているのか、突然いろんな事がめまぐるしくやってきて、既に彼の頭の中は飽和状態だったのである。
 どんなに内面は大人びていようとも、所詮子供という事だろうか。
 ゆっくりと考える時間が欲しかった。
 彼は天井裏を出てその家の外に出ると、ふと思い出したようにぼんやり呟いた。
「串焼き……誰か裏返してくれているでござろうか……」


 ▽▽▽


 少しだけ途方に暮れたように菊坂静は辺りを見渡した。
 襖と障子に囲まれた畳敷きの部屋である。畳が八枚並んでいたが、彼の感覚では十畳と言われても違和感ないだろう広さがあった。
 自分を見下ろすと白地の着流しに臙脂の帯を巻いた和装である。いつの間に着替えたのだろう。
 電気もなく部屋の明かりと言えば行灯ぐらいだろうか、純和風といったこの空間には合っていたが、これはどうしたことか。
 先ほどまで高校の制服を着て家路をのんびり歩いていたのである。
 ふと、障子戸の向こうに人の気配を感じて静はわずかに身構えた。とはいえそれは内心だけの事であって、見た目は泰然自若としている。
「若旦那様」
 と、声をかけられ障子戸が開いた。
 戸の向こうは縁側になっていたらしく、夜風が優しく髪を撫で、前髪が風に揺れた。
 縁側に膝をついた女は、銀杏返しに髪を結い上げた年嵩の女であった。まるで時代劇か何かを見ているようだ。
 静は困惑しつつも柔らかな笑みを湛え、堂に入った物言いで応えた。
「どうしました?」
「お嬢様がお見えです」
 年嵩の恐らくは女中であろう女が答えた。
 お嬢様、と首を傾げてみたが静に思い当たる節などあるわけがない。そもそも何が起こっているのかも、ここがどこなのかも、さっぱりわからないのだ。
 わかっている事と言えば、自分が若旦那様と呼ばれるような人物であるらしいという事ぐらいである。
 障子戸が更に大きく開かれて、女中の傍らに一人の娘が刀を抱いて立っているのが見えた。女中と違って髪を結い上げてはいないその娘は、菖蒲の着物に帯にかかるほどの豊かな髪を一つ束ねただけだ。
「優夢さん……」
 見慣れた顔にきょとんとしながらも静はその名前を呼んだ。
 彼女も見知った顔に驚いたのか目を丸くしている。
「どうして……」
 とは互いに愚問であったろうか。どちらも何が起こっているのかわからぬ顔である。ただ優夢は安堵したように息を吐き出した。
 女中が座布団を並べる。
 しかし座りかけた静の前に進み出ると女中は頭を下げて言った。
「若旦那様、こちらをお踏みくださいませ」
 そう言って女は静の前に一枚の紙切れを置いた。
 静は不思議そうに紙を覗き込む。
 へのへのもへじに毛が生えたような子供の落書きより酷い絵には『伊江素』と書いてあった。もしここが、江戸時代ならこれはキリシタン狩りの踏み絵という事になるのだろうか。それにしてはあまりにひどい絵である。
 とはいえ、自分の主人を疑うとは大した度胸の女中と言えよう。この髪型では確かに疑われても仕方がないかもしれないが。それにしても静から見れば女中は初対面になるが女中にとっては長年仕えている自分の主人ではないのか。
「……変な事、するんですね」
 そう呟いて、静は柔和な笑みにどこか辛らつさを湛えて絵を踏んでみせた。
 女中はそれに満足げに頭を下げ、次に優夢の前に紙を置いた。
「あの……私は、人の絵は踏めません……」
 躊躇うように優夢が後退る。
「ですが……」
 言いかける女を静が手で制した。
「僕に任せてください。あなたはもう、下がっていいですよ」
「はい」
 女が頭を下げ部屋を出て行く。
 二人は置かれた座布団の上に向かい合わせで座った。
「さて、ここは一体何なんでしょうね」
「私にもさっぱり。起きたら突然この廻船問屋さんの前でした」
 優夢は肩を竦めてみせた。
 見知った顔に出会えた安堵からか、自分だけじゃない事を知っていくらか気が楽になったのだろう、強張っていた表情を緩めて笑みを返す。
「まぁ、僕も似たようなものですが。お嬢さんなんですか?」
「さぁ、どうなんでしょう。持っていた懐刀に家紋があったのですが……もしかしたら武家か公家のお姫様かもしれませんよ。今は町娘に扮してお忍び中とか」
「それでここへ遊びに来たというわけですね」
「そうかもしれません、若旦那様」
「やめてくださいよ」
 静は照れたように頭を掻いた。友人にそんな風に呼ばれるのは何だか気恥ずかしい。
「どうやらここは江戸時代のようですが、まぁ、のんびり情報でも集めてみましょうか」


 ▽▽▽


 地面に転がったまま桐生暁は暫くきょとんとしていた。
 スィーピングからウィンドミル。軽やかなステップの後に続いて、リズミカルに体を宙に舞わせる。
 そうして仲間とストリートダンスを踊っている時、突然真っ白な光に襲われた。
 そのままの体勢である。
 日が沈んだ直後。夜空は暗かったがネオンに彩られた不夜城都市は明るかった。
 それが一転して辺りは闇に包まれている。目が闇に慣れてくるとかろうじて月明かりに周りの状況は見えてきた。
 仲間はどこにもいない。
「ここ、どこ?」
 呟いてみても答える者もなかった。
 暁はゆっくり立ち上がる。
「え〜と……?」
 などと首を傾げるのも一瞬。
 何だかよくわらないが、ま、いーか、と歩き出した。
 いつの間にか服が着物に変わっている。シューズは草履だ。
 浴衣なんて夏祭りや花火大会ぐらいでしか着た事がないから何となく落ち着かない感じがした。
 暗がりで道行く人に肩をぶつける。
「気をつけろい!」
 と言った男が髷を結っているのに、一瞬唖然とした。
「時代劇スペシャル?」
 呟きつつ暁は自分の頭を確認した。月代はない。何となくホッとする。
「さて、どうするかな……」


 ▽▽▽


 一瞬、何が起こったのかわからなくて、櫻紫桜は二度ゆっくり瞬きをした。
 薄闇の小路は家へ向かう道ではない。
 道を間違えたとか迷ったにしてはこれはどうであろう、アスファルトで舗装されてない道が続いている。
 人気は少なかった。
 時間にして六時半といったところか。逢う魔が刻。そうだ、学校からの帰り道だったのだ。正に魔にでも出遭ってしまったのか。それにしてはすっかり日が暮れてしまっているようだが。
 しかし、問題はそこではない。
 道行く人たちの出で立ちとこの景色である。それはテレビでよく見る時代劇を思わせた。
 通りに並ぶ家々はどれも屋根が低く、それ故空が一段と横に長く見えた。
 街灯のない小路を提灯を片手にぶら下げて髷を結った男どもが着物姿に草履を履いて道を急ぐ。
 彼らが誰も自分を振り返らないのに、紫桜は自分の姿を見下ろした。
 黒地の着物に尻端折って帯に挟み、袖は邪魔にならぬようたすきがかけられている。額には鉢がね。手に持っているのは『火盗』と書かれた提灯だった。
「…………」
 夢だろうか。
 それともタイムスリップでもしてしまったのだろうか。
 しかし、それにしてはご丁寧にも自分の服装まで変わっている。紫桜はふと頭に手をやった。どうやら髷は結われていないようだ。変わったのは服だけということか。
 何とも中途半端である。タイムスリップなら服装は変わらないような気がするし、この時代の誰かと入れ替わったというなら髷を結っている筈だ。
 それとも、髷や洋風の髪型が混在したここは明治初期なのだろうか。
 紫桜は首を傾げつつ歩き出した。
 さっぱり事態は飲み込めなかったが、それはそれで何かしらの情報を集めるよりほかないような気がした。今の状況を憂えてみても始まらない。
 そうして暫く歩いたところで、通りの向こうから甲高い金属音が聞こえてくるのに気づいた。
 まるで刃が交わるような音にただならぬものを感じてそちらへ足を向ける。
 一体何が起こっているというのだろう、逢う魔が刻、本当に魔に出会ったのかもしれない。






 ■Welcome to Edo■

 薄闇の向こうから一人の女が駆けて来た。
 髪を振り乱し何かから必死で逃げようとでもしているかのように、どこか怯えた色を滲ませて、時折後ろを振り返っている。
 荒い息を吐き、女は足を取られたように前のめりになった。
 暁は反射的に女を抱きとめる。
 大丈夫、と尋ねる言葉をのみこんで、女の元へ飛んだ吹き矢を蹴り上げると、女の体勢を整えてやり自分の背中に庇う。
「なんかよくわかんないけど……」
 暁は楽しげに呟いて身構えたかと思うと地面に両手を付いた。
 驚く女に気づいた風も無く軽やかに両足を宙に舞わせかけて、彼は自分の着ているものが着流しである事に気づいた。足が思うように開かないのだ。それでもストリートダンスで培った類まれなバランス感覚で全身を使って軽やかに足を捌いてみせる。
 カポエラ独特の円運動に飛来した匕首が巻き込まれるように地面に落ちた。
 刃がどす黒いのは恐らく毒が塗ってあるせいだろう。
 攻撃がやんで暁は立ち上がると、着物の裾を払って帯に挟み尻っ端折って小さく息を吐いた。
「さて、こっちの番かな」
 とはいえ、彼の使うカポエラは接近戦向けの格闘術である。相手を引きずり出さなければお話にならない。
 わずかに首を傾げたのも束の間、彼は落ちた匕首を拾い上げると二つ、無造作に投げた。殆ど動きはなかったろうか。アンダーハンドによるナイフ投げの要領でスナップだけをきかせて放ったのだった。
 闇の向こうで人の動く気配。手応えはあった。但し、かすった程度か。だが、どんな毒かは知らないがそれなりの効果はあったろう。自らが用意した毒だ。解毒剤は持っていようが、暁が女を連れて逃げるくらいの時間は充分稼げる筈だ。
 とはいえ追われるのも面倒だから。
「これ以上やろうってんなら、次はちゃんとあてるよ」
 と、嘯いておく。
 暁の言葉に気配が退いた。
 暁は軽く肩を竦めて女を振り返る。
「大丈夫でしたか、お嬢さん」
「…………」
 女が不安げに暁を見上げていた。
「…………」


 ◇◇◇


 刃鳴りの音に紫桜そちらを覗いてみると、髷を結っていない今時と呼ぶべきか、髪を金髪に染めた自分と同い年くらいの少年が、まるでストリートダンスでも踊っているかのような軽やかな立ち回りの後、闇の向こうを睨み据えたままゆっくり立ち上がった。
 背に女を庇っている。
 薄闇にかろうじて見て取れる少年の横顔からゆっくり彼の見据えている視線の先を追いかけた。
 気配は二つ。動揺の色を覗かせている。
 それが闇に紛れて遠ざかる気配に、紫桜は一瞬考えて走り出した。
 どちらに声をかけるべきか。
 気になるといえば、この世界に似つかわしくない少年。恐らくは自分と同じような境遇の者と思われたし、話もしてみたい。
 けれど、それで敢えて二つの影を追ったのは予感めいたものがあったからだ。
 火付けか夜盗か。
 何れにせよそんな不穏な空気が二人にはあった。
 これは勘のようなものだ。
 自分が火盗改めの同心だから、という理由だけではない。
 少年が庇っていたのはこの世界の女。
 そこに、自分が自分の世界に戻る鍵があるかどうかはわからなかったが。
 この二人はその女を襲おうとしていた。
 奴らが女を諦めるとも思えない。ならば奴らを追って、女の事を聞き出せば、また彼に辿り付けるだろう。急ぐ必要はないような気がした。義を見てせざるは勇なきなり。もしかしたら自分には、女を襲おうとしていた連中を縛りあげる事が出来るかもしれないのだ。自分のこの姿が、この世界に本当の同心と同等の影響を与える事が出来るなら。


 ◇◇◇


「桐生さんも来ていたんですか」
 垣根の向こうから聞き覚えのある声がして暁は咄嗟に足を止めた。そこに見知った顔を見つけて破顔する。
「静か。助かった」
 そう言って暁は勝手口からその庭先へ入った。
「暁さん」
 声をかけられ屋敷の方を振り返ると、その縁側に一人の女性が立っていた。
 夜風に誘われて静と一緒に縁側に出ていた優夢である。
「あれ? 優夢ちゃんも一緒なんだ」
 一瞬見開いた目を細めて暁が笑みを返す。
「一体何が起こってるのかさっぱりですね。でも、皆さんがいてくださって心強いです」
 優夢は嬉しそうに微笑んだ。知らない世界に見知っている者の存在はそれだけで心強く感じられる。
「そちらは?」
 静が暁の後ろに立っている女に気づいて尋ねた。
「襲われてたところを助けたんだが……」
 暁は困惑げに肩を竦めてみせる。
「襲われていた? それは聞き捨てなりませんね。とりあえず、うちの離れにでも移動しましょうか」
 静はそうして屋敷の庭向こうにある離れへと二人を促した。暁が感心したように辺りをきょろきょろ見回している。大きな邸宅だ。
 庭端を歩きながら静が尋ねた。
「それで襲われていたというのはどういうことなんですか?」
 酔った男どもに絡まれていたのか、はたまた物取りか。
「襲われてた、というか、あの場合命を狙われていた……かな?」
 暁がその時の事を思い出しながら答えた。投げられた匕首の刃はどす黒かったのだ。
「どうして捕まえておかなかったんですか」
 静が非難がましい口調でいう。とはいえ、目は笑っているのでどちらかといえば揶揄半分といった感じだろう。
「あ、そーか」
 暁はペロリと舌を出してみせた。確かに捕まえておけば奴らからもいろいろ事情を聞き出せたかもしれない。
 優夢は二人のやりとりに笑いを堪えるように口元を手でおさえた。
「いや、だから今はそういう事じゃなくて」
 暁は話を戻した。
「お名前は?」
 静が女を振り返る。その肩を暁が叩いた。
「違うだろ。名前を聞く時はまず名乗ってから」
「あぁ、そうでしたね。僕は廻船問屋の若隠居で静と申します」
 静が女に頭を下げた。
「いい身分だな……」
 暁は頭の後ろで手を組むと羨ましそうにぼそりと呟いた。それに静が柔らかい笑みを返す。
 暁は肩を竦めて女に向き直った。
「自己紹介が遅くなってごめん。俺は桐生暁」
「え……? お侍さんなんですか?」
「へ? お侍?」
 女が驚いたように尋ねるのに、暁の方が呆気に取られる。
 それに気づいて静が注釈を入れた。
「江戸時代、名字帯刀を許されているのは武士と一部の金持ちの商人ぐらいですからね」
「あぁ俺、歴史はあんま得意じゃないんだよな。ってか、ここ江戸時代なんだ」
 そんな気がしなかったわけでもないが。
「ま、そこは七つの顔を持つ男って事で、ただの町人にしといてくれよ」
 そう言って暁は照れたように頭を掻く。
「…………」
 女は困惑の色をその眉間に更に深く刻んだが、暁の笑顔に根負けしたように強張った頬を緩めた。
「私は優夢といいます」
 笑いを噛み殺して優夢が言った。
「あ、私は椛といいます。危ないところをありがとうございました」」
 女――椛が頭を下げる。それから不安げな顔をあげて尋ねた。
「あの……お二人は……キリシタンなんですか?」
「いいえ、違いますけど。まぁ、この時代にこんな頭や目をしていたら疑われても仕方ありませんね」
 静が暁の頭を撫でて笑った。
「こんな頭で悪かったな。せめて地毛だったらよかったのに」
 暁は口を尖らせて自分の前髪を見やる。
「……ま、地毛でもこの目じゃ仕方ないか」
 段々ナーバスな気分になって、暁はため息を吐き出した。
「これを……」
 椛はそう言って胸元から一枚の紙切れを取り出すと、それを暁の前に置いた。
「?」
「踏み絵ですよ」
 首を傾げている暁に静が耳打ちする。暁はなるほど、とそれを踏んでみせた。
 椛は紙を拾いあげ静の前を素通りして今度は優夢の前に置く。
「え? 僕はいいのですか?」
 静が拍子抜けしたように尋ねた。
「お一人一度のしきたりです」
 椛が答える。
「一人……一度……」
 静は考え深げに指で顎をなぞりながらその言葉を反芻した。踏み絵は一人一度でいいということだろうか。しかしそうだとして、どうして彼女は、既に静が絵を踏んでいることを知っているのだろう。そして優夢がまだ絵を踏んでいないことも。
「……人の絵は……」
 優夢が躊躇うように後退ったのに静が咄嗟に助け舟を出した。
「彼女は僕が後で。それよりも、襲われていたという話を聞かせてくれませんか」
「そうだ。どうして命を狙われてたんだ?」
「それは……たぶん、私が聞いてしまったからです」
 椛は躊躇いがちに口を開いた。
「何を?」
「人を殺す相談を……」
「何だって!?」
「もっと詳しく話をしていただけませんか?」


 ◇◇◇


「ここは……?」
 不審な連中がその店の前で忽然と姿を消したのに紫桜が首を傾げていると、奴らとは入れ替わるように屋敷の壁から小さい影が現れた。しかも裏の勝手口からではなく、壁を乗り越えてである。
 怪訝に提灯を掲げると、それはまだ子供と思しき影だった。
 黒の羽織に鼠地の戦袴。手には小太刀を抱いている。小学校に入ったばかりと思しき子供は総髪で髪は肩まで届いていた。六、七歳といったところだろうか。髷を結ってない。恐らくはこの子も自分と同じ――。
「貴殿も東京から来たでござるか?」
 少年が尋ねた。見掛けによらず淡々とした物言いにギャップを感じながらも紫桜は『貴殿も』という言葉に反応する。
「と言うことは君も?」
 それに少年は少し安堵したのか小さく息を吐いてから紫桜を見上げた。
 どうやらここには、他にも自分と同じ境遇の者がいるのかもしれない。そんな事を考えていると、少年が言った。
「何故、突然このような場所に来てしまったのかはわからぬが、こうして同じ境遇の者に会うと安堵するでござる」
「そうですね」
「それがしは楓兵衛と申す」
 子供にしては堂に入った物言いだった。実年齢と見た目が違う事などよくある事なので、それについては別段訝しむことなく紫桜が答えた。
「俺は櫻紫桜です」
「その身なり、町方の同心でござるか?」
 言われて紫桜は自分の姿を見下ろした。やっぱり、そう見えるのか、と。
「たぶん火盗改めってところだと思います」
 苦笑が滲んでしまうのは照れのようなものがあるからだろうか。着慣れない服に戸惑いがある。
「それがしは隠密同心のようでござる」
 少年は苦笑するでもなく、どこか辟易とした口調で言った。
「隠密?」
 紫桜が首を傾げる。
「気づいたらこの店の天井裏にいたでござるよ」
「この店で何か?」
 やはり、この店はなにかあるのだろうか。
「御用商人のようでござるが」
「御用商人ですか……」
 紫桜は考えるように視線を伏せた。
「きな臭い匂いがするでござる」
「俺の方も調べてみたいと思います。先ほどの連中も気になりますし」
「先ほどの連中?」
「はい」
 そうして紫桜はかいつまんで兵衛に事情を説明した。
「確かにでござるな。女の方も気になるでござる」
「派手な髪をした、たぶん彼も東京から来た者だと思うのですが、彼女を連れて逃げました。その女性が何か事情を知ってる可能性もありますね」
「うむ。串焼きも気になるでござるが、こちらを解決してからでも遅くないような気がして参り申した」
「串焼き?」
「いや、何でもないでござる」





 ■Intersection■

「魚〜、魚」
 まだ夜明け間近の明け六つ時。遠くの方から独特の節回しで振り売りの声が聞こえてきた。珍しい、まだ若い女の声だ。
 しかも聞き覚えがあるときている。
 汐耶は寝所を出ると羽織を羽織って外へ出た。
 朝霧の中、その背に声をかける。
「魚屋さん」
 確認するまでもない。振り売りは髪を結ってはいなかった。それは振り売りの女がこの世界の人間ではなく東京から来ている事を表す。
「あら?」
 女が振り返った。
「貴女もやっぱり来てたのね」
 汐耶はどこか安堵した笑みを返した。
「お互い様にね」
 振り売りのシュライン・エマが小さく肩を竦めてみせる。
「……お魚いただけるかしら」
「えぇ。活きのいいのがあがってるわ」
 そう言ってシュラインは天秤棒を下ろすと桶を広げてみせた。
 それを覗き込みながら汐耶はどこかやれやれと呟いた。
「全く……予告もなく呼び出すのは何とかならないものかしら」
「本当よねぇ。私、今回新品の服だったのよ。まだ一回しか袖を通してなかったのに、酷いと思わない?」
 シュラインが腕を組んで納得のいかない顔付きで言った。
 汐耶も頷いている。
「一体、服はどこへいっちゃってるのかしらね?」
 着物姿で返されるのも正直勘弁して欲しいと思うのだが、それまで着ていた服が戻ってこないのも納得がいかない。
「さぁ? でも、お気に入りの服だったんだけどな……」
 シュラインは自分の出で立ちを振り返った。
 振り売りの着物にため息を一つ。このかっこで草間の事務所に帰るのかと思うと憂鬱だった。今度は何て言われる事か。
「今回は幸い自宅だったから良かったけど……」
 汐耶が言った。誰かに見られる事もないし、いつもの部屋着だったのもまだマシだろう、少なくとも彼女よりは。着やすくてお気に入りであった事は確かだが、あの程度の服ならまたすぐにでも見つかると思われた。
「羨ましいわ」
 シュライン心底羨ましそうに言う。せめて自宅。
「今回は一体何があったのかしら?」
 汐耶は首を傾げてみた。
 それにシュラインは思い当たる事があるのか周囲を見渡して声を潜めた。
「さっき一色さんに会ったんだけど……」
 そうしてシュラインは汐耶に話した。
 先ほどたまたま立ち寄った、梅というしわがれた婆さんが運営し、一色千鳥が料理人を務める小料理屋『梅の小町』で、千鳥が話してくれたのだ。
 越後屋と香坂が密会をしていた事、その話を椛が聞いてしまった事。
 今回ここに強制召喚されたのは、恐らくそれが原因と思われた。
「越後屋ね」
 汐耶が確認するように言った。
「えぇ」
 シュラインが頷く。
「こちらも探りをいれてみるわ」
「噂好きの女中にでも話が聞ければいいんだけど、大丈夫?」
「大旦那様がもうすぐ大店同士の寄り合いがどうとかって話してたから」
 大旦那に続く『様』の部分を少しだけ語調を強めて汐耶が言った。
「大旦那様って、もしかしてやっぱり?」
 シュラインが思い当たったように尋ねる。
「もしかして、やっぱり」
 汐耶が請け負った。
「似合うわよねぇ……」
 名前は出なかったが互いの間では意志の疎通があったらしい、シュラインがしみじみと言う。
「さまになってるわね」
 汐耶も頷いた。


 その頃、朝が滅法弱くて寝所で寝息をたてていたはずの、汐耶が勤める大店の主人が一つくしゃみをした。
 セレスティは不快そうに眉を顰めて寝返りをうつと、再び眠りの中へ落ちる。
 閑話休題。


 汐耶がふと思い出したように尋ねた。
「この前のみんなも来ているのかしら?」
「さぁ、まだ全員は見てないんだけど」
「何かあったら情報お願いね」
 汐耶が言った。
「また魚を売りに来るわ」
 シュラインがペロリと舌を出してみせる。
「暫く焼き魚が続きそうね」
 汐耶はぼんやり空を見上げた。


 ◇◇◇


「懐かしい。日本橋」
 久那斗は橋を渡りながらぼんやり呟いた。
 記憶が確かなら、この先に美味しいだんご屋があったはずである。その先の小路の茶店のあんみつがこれまた絶品なのだ。甘味処なら大抵は記憶の片隅に残っている。久那斗は軽やかな足取りでだんご屋を目指していた。
 白壁土蔵が続く大店の並んだ日本橋大通りは、人ごみでごった返していた。大八車が忙しくなく通りを駆け抜けていく。
 その一本辻を曲がって久那斗は近道を試みた。大通りの喧騒はどこへやら静かな通りである。
 狭い通りに行き交う相手に唐傘をぶつけてしまった。
「ごめん」
 呟いて傘を下ろす。傘に隠れて足元しか見えなかった男の顔に久那斗は「あ……」と口を開けた。
 見知った顔というよりは、男が総髪に髪を結ってなかったせいだろうか。
「おや?」
 男――シオン・レ・ハイが首を傾げた。
「浮世絵師さん」
 久那斗がシオンの手にした絵筆を見て言う。
「はい。何か描きましょうか?」
 尋ねたシオンに、だが久那斗は首を横に振った。
「いらない」
「そうですか……」
「だんご」
「え? この先にだんご屋さんがあるのですか?」
 久那斗の片言をしっかり読み取ってシオンは笑みをこぼした。しかしその顔はすぐに曇る。
「食べたいのはやまやまですが、私には先立つものがありません」
 シオンはがっくりうな垂れた。
 刹那、突然傍らの家が半壊した。
 巻き上がる土煙にシオンが久那斗を庇う。
「あ……」
 晴れた煙に佇む男を見つけてシオンは「ひっ……」と喉の奥で悲鳴をあげた。
「頭が高いわぁぁ〜!!」
 怒鳴りながら上裃姿の男――紫桔梗しずめが暴れまわった。
 久那斗は呆気に取られたようにそれを見ていた。
 シオンのように慌てて頭を下げたり、他の者達のように逃げ出したりしなかったのは、偏にしずめが自分を見ていないからである。
 しずめは青い髪の男をはったと睨みつけていた。雪森スイである。
「…………」
 スイはしずめの猛攻を軽やかに、かつ楽しそうに避けていた。その度に辺りの家は壊れていく。
 二人は喧嘩でもしているのだろうか。だとしたらはた迷惑この上ない話である。
「…………」
 しずめの蹴りが飛んだ。
 反射的に久那斗は右へ一歩退いた。
 しかし頭を地面にこすりつけていたせいで、傍らのシオンはしずめの蹴りに気づかなかったようである。
 顔をあげたところにしずめの蹴りが入った。
「あ……」
 と言ったのはスイである。
「ぎょぇぇぇぇぇ〜〜!!!」
 吹っ飛ばされるシオンにスイがやれやれと肩を竦めてみせた。別段心配している様子はない。
 誰がこの事態を収拾するのだろう。め組でも無理ではなかろうか。火事より酷い。いや、火事場に彼がいたら助かるかもしれないが。何といってもこの時代の火消しは破壊消防なのだから。
 それはさておき今は火事ではない。
 誰かデストロイヤーしずめを止める事の出来る者は……。
 スイはどう考えても火に油を注いでいるだけだ。
 そこへ――。
「ぶぁっかもーん!!」
 しずめの側頭部に飛び蹴りを入れて、一人のしわがれたばばぁが現れた。
 もしかして奥さんか、と誰もが思ったに違いない。しずめをそのたった一撃で撃沈せしめたのである。見事な往生であった。
 しわがれたばばぁ、しずめの天敵――梅はキセルをくるりと手の中で回すと、しずめの腹の上に座って一服した。
 誰もがぽかーんと口を開けてそれを見守っている。
 いや、誰もというのは過言であったか。
 スイは目を輝かせて梅を見つめていたし、しずめに蹴りを入れられ意識を失っていたシオンは起き上がって「あぁ……上様」などとやっていた。
 そういえば、しずめは今巷で人気の『慌てん坊将軍』に似ている。
 髷を結ってはいなくとも見た目もそっくりで、何より無茶苦茶で破天荒な感じのところが生き写しのようだった。
 やがて一服終えた梅がしずめを引きずって去っていく。あの巨体を、あの小柄なばばぁが軽々と。
 久那斗は言葉もなくそれを見送った。
 その一部始終を見ていたらしいチンピラ風のごろつき共がスイに声をかけた。
「先生、その腕を見込んで頼みたい事があるんでさぁ」
 久那斗は不審げに首を傾げた。スイに声をかけているのが先ほど、冷や水屋でも浪人達に声をかけていた連中だったからだ。何やら不穏な匂いがする。
 近々出入りでもあるのだろうか。
 だが意外にも奴らはシオンにも声をかけていた。
「どうだい、若いの。腹減ってんならうちに来ないか?」
 腕に覚えのありそうなスイならともかく、シオンはどう考えたって真逆だろう。誰彼構わず、なのか。
 ちょっと調べてみても面白いかもしれない。
 久那斗はぼんやり思った。
 但し、だんご屋に行った後で。


 ◇◇◇


 縁側に風呂敷を背負った男が入ってきた。
「あぁ、これは貸本屋さん」
 セレスティは笑顔で出迎える。
 江戸時代の貸本屋は貸本屋という店を構えているわけではなく、こうして家々を回る、今で言う移動図書館のようなものであった。勿論、有料であったが。
 新刊で一冊二十四文が相場であったがセレスティは大店の主らしく上機嫌で心付けを添える。頼んでいた本を探してきてくれたのだ、当然の事であろう。
 だが、セレスティは更にもう一枚小判を上乗せした。
「越後屋は最近腕のたつ浪人連中を集めているようです」
 貸本屋が声を潜めてセレスティに耳打ちした。
「そうですか」
「近々天下の御用商人になると店の者達は公言していました」
「…………」
 天下の御用商人とは大きくでたものである。他の御用商人たちを押しのけてのし上がろうと言うのか。その方法をいくつか頭の中で巡らせていると、貸本屋が更に言葉を継いだ。
「それと香坂ですが、彼は先の老中のようです」
「……先の老中?」
 老中といえば、二万五千石以上の譜代大名である。それは大物とつるんでいた、というべきか。それ故の天下の御用商人発言なのか。
「わかりました」
 セレスティは頷いた。
「その線で少し揺さぶりをかけてみましょう」
 今夜には大店同士の寄合いがあるのだ。
 その席上ででも。


 ◇◇◇


 キリシタンであるリオン・ベルティーニは昨夜からの梅との鬼気迫る踏み絵攻防に耐え切れず、一宿一飯の恩を受けながらも梅の店を飛び出し平川のほとりをとぼとぼと歩いていた。
 そんなにキリシタンが嫌いなのか、行く先々に、あのへた絵が置かれているのだ。何度うっかり踏みそうになった事か。
 川縁で小石を拾って投げる。水面を二回ほど跳ねて沈んでいく小石に疲れたようなため息を吐き出すと、突然背後から声をかけられた。
「貴殿も東京人でござるか」
 振り返ると、そこにはおかっぱくらいの髪の長さの少年が髪を結うでも無く立っていた。
 東京というのだから、きっと彼もこの時空艇の人間ではあるまい。昨夜、千鳥からこの世界の話は聞いていた。ここは東京上空に浮かぶ時空艇の中で、ここに広がる世界は江戸時代に相当するのだとか。
「ん、まぁ、そんなとこだ」
「三味線……」
 少年、楓兵衛がリオンの首からぶら下がる三味線を指差す。
「あぁ、これか」
「弾くでござるか」
「いや、ギターなら弾けるんだが……もしかして弾けるのか?」
「三味線は良いでござる」
 兵衛はそう言ってリオンから三味線を取り上げると川縁に腰を下ろして軽く爪弾いてみせた。
 リオンも何となく隣に並んで座る。
「ここを緩めると弦が抜けるでござる」
 そう言って兵衛は三つある糸巻の一つを軽く回してみせた。
「へ?」
 リオンは面食らったように兵衛を見返した。三味線の使い方を教えてくれるというのだろうか。しかし調弦の仕方とは違ったようである。
 兵衛はわずか首を傾げて言った。
「……同じ匂いを感じたでござる」
「同じ……ね」
 リオンは何とも曖昧に肩を竦めた。彼の言わんとするところが、東京から来た、という部分にあるのか、はたまた別のところにあるのか、推し量るように兵衛の横顔を見つめやる。
 兵衛は三味線の音を合わせて軽く弾いてみせた。
 それが一曲終わる頃、リオンはふと思い出したように口を開く。
「あ、そうだ。越後屋とつるんでる香坂ってのは、先の老中で不行跡があって今は老中を追われた譜代大名だそうだ」
「それは……」
 兵衛が咄嗟に立ち上がってリオンを見下ろしていた。
「同じ匂いを感じたんだ」
 リオンはそう言って兵衛から三味線を受け取ると笑顔を返した。
「かたじけないでござる」
 兵衛は既に走り出していた。


 ◇◇◇


「こんな昼間から火盗改か? 大忙しじゃな」
 江戸城から西に立ち並ぶ武家屋敷の一角は人通りも少ない。林に紛れてその大名屋敷を見上げていた紫桜は、突然背後から声をかけられ面食らった。
 振り返った先に子供が立っている。
 兵衛と同い年くらいだろうか、着流しだったが髪は結っていない。いずれ同じ境遇の者であろう。
「あなたは?」
 紫桜が尋ねた。
「わしは遊び人の源さんじゃ」
 源が楽しそうにそう言った。それから真面目な顔に戻って大名屋敷を振り返る。
「香坂を調べておるのか」
「えぇ」
 応えた紫桜の顔が不思議そうに曇っていたのか、源が言った。
「兵衛から聞いておる」
 それに合点がいったように紫桜は頷いた。
「火盗改でも難しいかの……」
 源は呟いて紫桜を振り返った。
 町奉行が裁けるのは町人までである。しかし火盗改は町奉行・寺社奉行の管轄を超え、更には御家人や旗本にまで手が届く。それらを検挙する事が許されているのだ。とはいえ香坂は先の老中である。江戸時代、老中の地位を得られるのは譜代大名の中でも二万五千石以上の者。恐らくそれを裁けるほどのとなれば老中か将軍以外にないようにも思われた。
「…………」
「奴本人は動かんじゃろうが」
 源は肩をすくめて独りごちる。
「え?」
 紫桜が目を見張った。
 香坂が動かなければ、彼を見張っていても仕方がない。
「その為に越後屋と組んだ筈じゃからな」
 源が言った。
「……あなたは?」
「遊び人の源さんじゃ」
 源が笑った。


 ◇◇◇


「あ……静」
 突然着物の袖を後ろから引っ張られて静は驚いたようにそちらを振り返った。
 唐傘を手に袖にぶら下がっている見知った顔に静は目を細める。
「やぁ、久しぶりだね、久那斗くん」
「うん。僕、団子屋さん行く。静、行く?」
「僕らはこれから梅さんの小料理屋へ行くところなんです」
 今夜はその小料理屋『梅の小町』で大店同士の寄合いがあるのだ。とはいえ、寄合いの時間にはまだ随分と早い。
「久那も来るか?」
 静の隣を歩いていた暁が声をかけた。
 それに静も頷いて久那斗を促す。
「きっと一色さんが甘くて美味しいお菓子を作ってくれますよ」
 甘いものに目がない久那斗は嬉しそうに答えた。
「僕、行く」
 それから久那斗は暁の傍らに立っている女性を見上げた。久那斗の視線に気づいて優夢が優しく微笑み返すと小さく頭を下げる。
「私は優夢といいます」
「キミ、優夢……覚えた」
 そうして久那斗は自分を指した。
「久那、久那斗」
「久那斗さんですね」
 優夢が了解しましたと頷いた。
 そうして四人は連れ立って梅の経営する小料理屋『梅の小町』へ訪れた。
「いらっしゃいませ、廻船問屋の若旦那さん」
 料理人の千鳥が出迎える。二、三言葉を交わした後、久那斗を残して静と暁と優夢の三人は奥の座敷へあがった。
 そこには既にセレスティ、汐耶、シュラインらが集まっている。
 今夜、行われる大店同士の寄合いに越後屋が出席する。その前に事前に打ち合わせをしようと集まったのだった。
 三人が出された座布団に座ったのを確認して汐耶が口を開いた。
「何とか情報を聞きだせるといいんだけど」
「別に聞き出す必要はないでしょう。何かを探っていると奴らに思わせる事が出来ればいいのでは」
 静が言い出す。
「どういうこと?」
 シュラインが怪訝に首を傾げた。
「きっと向こうから何か仕掛けてくる筈ですよ」
 静は何とも楽しげな笑みを零す。
 それにシュラインは考え深げに指で顎を撫でた。確かに、こちらが何かを探っていると知れれば、相手が何かを仕掛けてくる可能性は高い。だがそれは危険を伴うだろう、それ故椛は命を狙われたのだから。
「越後屋さんは最近不貞の輩を集めていると聞きます。彼らがそれほどの情報を持っているとは思えませんが」
 セレスティが言った。
「確かに、それもそうですね」
 仕掛けてきた連中を一網打尽にしても、にわか雑魚では情報を吐かせるのは難しいだろうか。
 そこで誰もが口を閉じた。
 障子戸の向こうに人の気配がしたからだ。障子戸を開くと、おしるこのお椀を持った久那斗と、お茶の盆を持った千鳥が入ってきた。
 皆の前にお茶が並ぶ。
「とりあえず情報を整理しましょう」
 汐耶が提案した。
「越後屋と香坂は誰かの暗殺を計画している」
 と、シュライン。
「香坂は先の老中で不行跡があって今は老中を追われた身です」
 そう言ってセレスティはお茶を一啜り。
「老中? という事は譜代大名ですね」
 優夢が呟いた。
「一体、誰を……」
 彼らは殺そうというのか。
「返り咲き」
 ぽつりと久那斗が呟いた。
「返り咲き?」
 暁が首を傾げる。
「なるほど」
 静が頷いた。
 千鳥も納得したような顔付きだ。
「大名とはいえ職を追われては実権を何も持っていないのと同じ。彼が再び執政をと考えているなら……」
「返り咲くなら老中ね」
 シュラインが断言する。
「それには老中の空席が必要というわけです」
 静がまだ湯気のたちのぼるを湯飲みを取り上げた。
「現老中は四人くらいかしら」
 汐耶が首を傾げる。
「なら、その四人の誰か、という事になるわね」
 とはいえ現時点では四人の老中の名前もわからない。
「恐らく実行犯となるのは越後屋でしょうね」
 千鳥が言った。
「その為に人を集めて、という事ですか……」
「いざとなれば香坂は越後屋を切ればいいわけですから」
 事がたとえ露見したとしても、越後屋の口を封じ証拠を消せば、後は知らぬ存ぜぬを通すだけでいい。
「暗殺を阻止する。その為に決行日と場所を付き止める」
 それが先決だろう、汐耶が言った。
「最悪、越後屋を潰せば阻止は出来るわね」
 シュラインが頷く。
「後は、香坂の方……」
「それなら、俺が香坂邸に忍び込むよ」
 暁の名乗りに優夢が驚いて振り返る。
「暁さん?」
 心配そうに自分を見上げる優夢に暁は笑みを返した。
「大丈夫。芸者にでも化けて老中とやらの件を聞き出してやる」
「でも芸者は通常二人一組が基本よ」
「それなら私が行くわ」
 シュラインが手を挙げた。
「三味線は弾けるのですか?」
 静が尋ねる。
「口パクみたいなもので良ければ」
「?」
「ベケベンベンベンベン……なんてね」
「声帯模写ですか」
 静が感嘆の声をあげるのにシュラインが肩を竦めてみせた
「えぇ」


 かくして、暁とシュラインが準備をして『梅の小町』を出たのは日暮れ間近の事であった。
 まもなく、暮れ六つの鐘が鳴るだろう。
 静とセレスティは大店の寄合いに参加する。
 汐耶は、香坂邸へ派遣する芸者を入れ替わらせる為に吉原へ走った。
 千鳥は寄合いに出す料理の仕込みをしている。
 久那斗と優夢は奥の座敷で鶯餅を食べながら皆の吉報を待っていた。



 ◇◇◇


 その夜――。
「えぇい、廻船問屋の若隠居どもめが……隠居なら隠居らしくしておればいいものを……」
 寄合いの只中、はばかりに席を立った越後屋は、はばかりには行かず店先に出て、そこに屯していたガラの悪い連中に、今にも地団太を踏みそうな勢いで忌々しげに吐き捨てた。それから声を潜める。
「始末しろ」
 それに連中は夜陰に紛れて散れ散れに消えた。
 丁度同じ頃――。
 大名屋敷の立ち並ぶ香坂邸では一人の芸者が三味線に合わせて舞を演じていた。といっても、現代のストリートダンスなら得意だが、日本舞踊とはちょっとばかり縁遠い暁である。彼の所属する劇団で一度講習を受けた程度のレベルしかないのだ。
 仕方なく暁は早々に奥の手を使った。彼の中に流れる吸血鬼の血がなせるわざである。甘美な幻惑を。
 とはいえ、こんな連中から血を貰う気など全くない。
 暁は香坂にはべると徳利を手にその杯に酒を注いだ。
「香坂様、今日は上機嫌ですのね」
 女の声色を真似る。
 香坂は気づいた風もなく機嫌の良い顔をしていた。
「明日になれば、事が成就する」
 香坂は口憚るでもなくそう言って酒を煽る。
 明日……。三味線を弾く振りをしながら、シュラインは内心で呟いた。決行日は明日か。
「明日、何かあるんですか?」
 暁が酒を注ぎながら尋ねる。
「うむ、知りたいか?」
 香坂はだらしなく目じりを下げ鼻の舌を伸ばして暁の肩に手を回した。
「はい」
 暁はその手を振り払うでもなくしおらしくげに笑みを返す。それは殆どの成人男性が抗えないような妖艶な笑みであったろうか。
 よもや、彼が実は男だと気づく者はあるまい。
「明日回向院で老中浅川殿の法要がある」
 暁がチラリとシュラインを盗み見た。シュラインが小さく頷く。
 その時だった。
 奥の障子戸が開いて一人の小袖袴の男が入ってきた。興ざめした顔で香坂が男を睨んだが、男は香坂の傍らに膝をつくと何事か耳打ちした。香坂の顔色が変わるのに暁は退く。既に聞きたいことは聞けたのだ。長居の必要もあるまい。
 二・三言葉を交わした後、男は立ち上がって、おもむろに床の間に飾ってあった槍を一本掴みあげた。
「何奴!?」
 誰何の声と槍を天井に突き刺すのとでは、どちらが早かったであろうか。
 男は障子戸を開け放って屋敷中に轟く声で言った。
「曲者だ! であえぇぇぇ!!」
 家臣らしい者達が一斉に駆けつける。
 暁とシュラインは、怪訝に首を傾げながらもその混乱に紛れて香坂邸を後にした。
 一方、天井裏である。
 突き刺さった槍先を兵衛は反射的に避けたが、薄皮を裂かれて腕に血を滲ませていた。
 舌打ちしつつ後退し梁の上にあがったところで誰かが向こうから馳せてくるのに気づく。
 敵かと一瞬身構えた兵衛だったが、二人とも髷を結ってはいなかった。恐らくは彼らも東京人。
 忍者装束に短髪の男、直江恭一郎が兵衛の傷に気づいて頭巾を裂いた。
「大丈夫か?」
 声を潜めつつ兵衛の腕に布を巻きつける。
「掠り傷でござる」
 兵衛は困惑げに答えた。
「かっこい〜。こんな小さいのにサムライボーイだ」
 やっぱり忍者装束の青い髪をした男が感嘆の声をあげた。スイである。
「あぁ、もういいから。見つかった。急いで逃げるぞ」
 大声で話すスイに恭一郎は頭が痛くなるのを感じながら、兵衛を小脇に抱えると走り出した。
「おう」
 スイがしっかりその後に続く。
「だ、大丈夫でござる。拙者、自分で走れるでござるよ」
 と、兵衛は小さくもがいたが、どうやらそれは恭一郎には届かなかったようである。
 何故なら。
 スイが意気揚々と『それ』を取り出したからだった。
「こういう時の為に準備してきた」
「煙幕か?」
 走りながらも尋ねた恭一郎にスイは誇らしげに頷いた。
「上様から貰った」
「上様?」
 恭一郎の脳裏に嫌な予感が過ぎる。上様といって思い浮かぶ人物はたった一人しかいなかった。
「ダメだ! 奴は慌てん坊将軍だぞ!」
 恭一郎が止めに入った時には、しかしスイは『それ』に火を点けた後だった。
 勿論、それは煙幕などではなかった。
「たーまやー!」
 結論から言えば、それに目くらましの効果はなかったが、誰もが一瞬動きを止めるぐらいには役に立った。
 恭一郎はスイと兵衛を両脇に抱え、その場を脱兎の如く走り去ったのである。
 香坂邸の庭に上がる打ち上げ花火を振り返りながら『梅の小町』の店先でセレスティは呟いた。
「あちらも派手ですねぇ」
 彼らの周りには越後屋が手配したと思しき、柄の悪い連中が伸びていた。





 ■Final stage■

「今日、この回向院で老中浅川殿の法要があるでござる。奴らはどうやら寺の僧に化けて、中に潜んでいるようでござる」
「はい」
「紫桜殿?」
 どこか心ここにあらずの紫桜に兵衛がその顔を覗き込んだ。
「いえ」
 紫桜は源の言葉をぼんやり思い出していた。
 今回の事件は、火付けでも盗みでもない。火盗改めの出る幕ではないと言われればそれまでだ。ましてや、この暗殺計画の黒幕は二万五千石を超える譜代大名の一人、香坂兼義。彼を裁く事が許されているのは老中以上の役職の者達であろうか。
 迷いがどこかにあるとでもいうのか。
 だが、止めねばならぬ。
「何でもありません」
 紫桜は何かを振り払うように頭を振った。
「大丈夫」
 背後から突然声がかかった。
 振り返った先に立っていたのは、この晴れた空に唐傘をさした少年だった。
「大名、関係ない」
「…………」
 それはまるで自分の内心を見透かしたような物言いだった。
「紫桜は紫桜」
 元より彼はこの世界の人間でもないのだ。ならばこの世界の道理に従う理由もないだろう。
「そうですね」
「ちゃんと、見てる」
「え? 君はまさか……?」
「単なるお節介、好き」
 久那斗は曖昧な笑みを返して回向院を振り返った。
「もうすぐ」
「はい」


 かくて、紫桜と兵衛の手により、老中暗殺は阻止された。


「老中暗殺……失敗」
 そう伝えにきた久那斗に静は立ち上がった。『梅の小町』の奥座敷である。暁は既に再び香坂邸に芸者としてあがっている。祝杯に香坂が呼んだのだった。
 勿論、早過ぎる祝杯となったが。
「そろそろお仕置きの時間ですね」
 呟いた静に優夢は傍らの愛刀を握った。この時空艇に来る時反射的に掴んだ自分の刀だった。北辰一刀流道場で師範代を務める彼女である。しかしいくら腕に覚えがあろうとも刀を鞘から抜くようなことは滅多にない。ましてや相手は人間だ。
 彼女の性格上、ほっておく事も出来なかったが、一歩間違えれば斬ってしまうかもしれないという不安は全くないわけではない。
「私は……」
 彼女の小さな動揺に気づいたのか静が言った。
「優夢さんはここで吉報をお待ちください」
 女の子に荒事も、と思ったのかもしれない。
「でも……」
「大丈夫。優しいゆめ。傷つけない」
 久那斗が刀を掴む優夢の手に自分のそれを重ねて勇気付けるように言った。
「え?」
 咄嗟に久那斗を振り返る。
 優しいゆめ。ゆめ。それが夢なのか優夢なのか、推し量るように優夢は久那斗の顔を覗き込んだ。
 これが優しい夢なら、自分を傷つけることはないだろうか。
 彼の言う優しいゆめが自分なら、誰かを傷つけてしまう事はないだろうか。
 誰かの為に自分が出来る事がある。
「私も行きます」
 優夢は立ち上がった。
 それを静は止めるでもなく笑みを返す。
 心配そうに優夢を見上げた椛に、久那斗が言った。
「大丈夫。椛…助ける。みんな…来た」


 ◇◇◇


「暗殺は失敗したそうよ」
 汐耶は襖を開けながら言った。
「そうですか」
 セレスティは心ここにあらずといった態で気のない返事を返すと書に目を走らせている。
「そうですかって、あなた」
 汐耶はため息を吐いた。
「香坂を成敗したら問題解決。私たちは東京に戻ってしまうんですよね?」
 セレスティは相変わらず顔もあげない。
「え? ……えぇ」
 確かにそうだろう。前回の事から察しても恐らくはそうなると思われた。
「後十ページで読み終わるんです」
 セレスティが言った。
「…………」
 彼の言わんとしている事に呆れて二の句が出ない汐耶にそれをどうとったのかセレスティが言葉を継いだ。
「ここはあの時空邸の中。どうせ最初からどこにも逃げ場などありません。そんなに急がなくても、彼らなら大丈夫ですよ」
「気持ちは痛いほどわかるわ……でも、次の召喚の楽しみにとっておいたら?」
 汐耶はセレスティの手から本を取り上げる。
「あぁ……」
 セレスティの手が本を追ったが汐耶は本を閉じてしまうと彼の顔を覗き込んだ。
「行くわよ」
 有無も言わせぬ一睨みである。
「……はい」
 不承不承セレスティは頷いた。



「老中暗殺は失敗に終わりました」
 暁は香坂の杯に酒を注ぎながら紅い唇の端をそっと上げ、辛らつな笑みをその口の端に浮かべてみせた。
「何だと?」
 香坂が暁を振り返る。
 暁はとっくりを置くと立ち上がり一歩退いて間合いを確認しながら妖艶に微笑んで小さく頷いた。
 香坂が脇に置いていた刀を手に立ち上がる。
 そこへ、越後屋の主が駆け込んできた。
「申し訳ありません、香坂様! 邪魔が入りまして……」
 荒い息を吐きながらも越後屋はその狐顔を畳の縁に押し付けた。
「この大事に何たる失態。うむむ……言い訳など聞きとうない!」
 そう言い捨てた香坂の刀が鞘走る。越後屋の主人を切捨てようとでもいうのか。
「それ以上、人を殺めてなんとするのです」
 庭先から届く声に香坂は廊下へ出ると声の主を探した。
「何奴!?」
 香坂の誰何の声と共に間髪いれずに飛んできた吹き矢を紙一重で避けて、紫桜は香坂を睨みすえた。
「狼藉者だ! 斬れ! 斬れぇぇ!!」
 香坂の絶叫が飛び、臣下の者と思しき輩が紫桜を取り囲む。
 紫桜は左の手の平の上に右手の拳をのせた。まるで、手の平の中に仕舞われていた刀を抜き放つように、その手の平から刀が形作られていく。
 家臣らが一斉に刀を振り上げて切りかかってきた。
 紫桜はその刀で小さく弧を描きながら駆け抜けた。
 その軌道上にいた者達が一瞬にして倒れたが鮮血はない。あざやかに男たちの頚動脈を捕らえた刀には刃があったのではなかったか。
 しかし確かに誰も血を流している者はおらず、ただ気を失っているだけのようであった。
 残った者達が怯んで後退る。
「えぇい! 何をしておるか!!」
 香坂の罵声が飛んだ。
 紫桜を狙って毒の付いた匕首を投げようとしていた男が、完遂出来ぬまま声も上げられずに宙を舞った。
 首に細い糸のようなものが巻きついている。三味線の弦だ。
 楓は男を吊り上げていた三味線の弦を軽く弾いてみせた。
 息が出来ず苦しげにもがいていた男がその瞬間昏倒する。
 暁の周囲でも戦闘は始まっていた。
 家臣の一人が刀を振り上げ暁に襲い掛かる。
 その直前、暁は軽やかにバク転して後ろに退くと着地と同時に前に走り出し、刀を振り下ろした男の傍らに立った。
 手刀が綺麗に男の頚動脈に納まる。
「やっぱり小袖は動きにくいな」
 と零しながら。
 その袖を別の誰かが後ろから掴みあげた。袖をねじり上げられる。
 両手の自由が簡単に奪われるのも問題だ、と内心で肩を竦めてみたり。
 とはいえ自分の首に脇差の刃があてられても暁は別段慌てた風もない。
 暁の首にあてがわれた脇差が畳の上に落ちた。
「成敗です……」
 彼の両腕の自由を奪っていた男が床に倒れている。代わりにそこに女狐の面を付けた小柄な女が刀を握って立っていた。
「大丈夫ですか、暁さん」
 そう言って狐の面をあげて顔を出したのは優夢である。
「うん。ありがとう。その狐のお面、可愛いね」
 暁が笑みを返した。
「はい。静さんとお揃いなんです」
 その名前に暁が周囲を見回す。
「そういえば、静は?」
「あら? そういえば一緒にいらっしゃった筈なのに……」
 そこで優夢は言葉を切った。
 二人は背中合わせになって身構える。彼らを家臣たちが取り囲んでいたからだ。
「まぁ、とりあえず、こいつらをかたずけますか?」
「そうですね」
 暁が走りだした。
「聖嵐優夢、参ります!」


「久那斗さんは行かないのですか?」
 鶯餅を頬張っている久那斗に椛が尋ねた。
 二人は『梅の小町』にいる。
「久那…邪魔になる」
「皆さんにお礼を言いにいかなくてはいけません」
 椛の言葉に、何を察したのか久那斗がふと立ち上がった。
 両手に鶯餅を持って。
「終わる。椛…行こう」


 香坂邸の前で門から飛び出してきた痩せぎすの男の前に汐耶は立ちはだかった。
 逃げようとするその袖を掴んで汐耶は空気投げの要領で男を投げてみせる。
 地を這う男にセレスティは「やれやれ……」と心底疲れたようにため息を吐いた。
「後十ページだったんですよ」
 半ば八つ当たり気味にぶつぶつ呟きながら彼は男に手を翳す。
 男の顔から一瞬にして血の気が引き彼は気を失った。
「成敗、ってところかしら?」
 汐耶が言った。


「腹黒いのは、僕も好きですよ」
 混乱に乗じて屋敷を抜け出そうとしていた香坂の前に立ちふさがるように狐の面を付けた男が立った。
「貴様……」
 香坂が後退る。
「でも、バカは嫌いでね」
 静はゆっくりと狐の面をはずした。
 どこか人懐っこいような柔らかい笑みを浮かべてみせて、静は面を香坂に向けて投げ捨てる。
「成敗だよ」
 それを合図に香坂の悲鳴が屋敷中にとどろいた。
 誰もが思わずはっと顔をあげたが、既にその場に立っていたものは、東京から来らた者達しかいなかったろう。
 香坂が涎を垂らし半眼を開いて恐怖に怯えた形相で気を失っていた。体が痙攣を起こしている。
 静はのんびりとした顔でそちらを振り返った。
「粗方終わったようですね」
 そう言って越後屋を引きずって入ってきたのは汐耶とセレスティである。
 汐耶はそこに伸びている香坂を見て言った。
「何があったの?」
 それに静は意味深な笑みを浮かべながらも「さぁ」ととぼけてみせる。
 汐耶は肩を竦めて再び香坂を見下ろした。彼の身に何が起こったのかは彼の姿から想像するより他になさそうだ。とりあえずは、とんでもない恐怖を味わったのだろう。
「これで一件落着……かしらね?」
 汐耶が言った。
 そこに椛と久那斗が立っていた。


「でも、他の人たちはどうしたのかしら?」
 汐耶が辺りを見渡しながら首を傾げる。彼女が言う他の人とは、シュラインたちの事であった。
「確かに変ですね」
 静も首をひねる。
「静」
 久那斗が静の着物の袖を引っ張った。
「はい?」
「時空艇……一つ。時空……二つ」
「え?」
「どういうことだ?」
 暁が訊いた。
「時空艇は一つ。つまりフィールドは一つ。時空は二つ。流れる時間は二つという事ですか?」
「さっぱりわからん」
 後頭部で手を組んで暁は天を仰ぐ。
「例えば、一つの舞台で二つの同じ劇が演じられたようなものですよ」
「は?」
「途中、ご一緒したりもしましたが、今は互いのエンディングをそれぞれに演じているといったところでしょう」
「…………」
「それは面白いですね」
 セレスティが言った。
「そういう無茶苦茶が通用する場所だとは思うけど」
 汐耶が肩を竦める。
「……ま、いっか」
 暁が舌を出した。
「人騒がせではありましたが」
 紫桜がやれやれと息を吐く。
「普段出来ないような体験をさせていただきましたね」
 優夢が人心地ついたように皆に笑みを向けた。
「そうでござるな」
 兵衛が頷く。
「どうやら、そろそろ幕の下りる時間のようですね」
 静が皆をそちらへ促した。
 そこに、椛が立っている。
「ありがとうございました」
 彼女は深々と頭を下げた。





 ■Ending■

 その瞬間、世界が白く光り輝いた。
 ここへ訪れた時と同じように。


「…………」
 目の前のテーブルにのったティーカップから湯気が立ち上っているのを見つけて、汐耶はホッと息を吐き出した。手には新刊を持っている。
 元の世界に帰ってきたのだ。
 部屋着はどこへやら、朱色地の小袖に肩を竦める。
 とはいえ、江戸の着付けは衣文を落とし、かなりゆったりとしたものだ。
「ま、いいかな」
 彼女は一つ呟いてそのままソファーに腰をかけると新刊を開いた。
 たまにはこんな休日の過ごし方もいいかもしれない。
 長い休みとなったものだ。


「どうやら帰ってきたようですね」
 セレスティは目の前に積まれた書類の山をぼんやり見上げながら呟いた。結局、後10ページは読みそこなったのである。続きが気になったが、こうなってはいかんともし難い。
 ノックにセレスティが「どうぞ」と声をかけると、決済の書類を届けにきた執事が、セレスティの和装にドアを開けたまま固まった。
 それにセレスティは柔らかな笑みを返して執事を促す。
「着替えるのも面倒ですかね」
 独りごちてセレスティは執事から書類を受け取って、筆ではなく万年筆を紙の上に走らせたのだった。


「…………」
 久那斗はぼんやり空を見上げていた。まるで時空艇に行く直前と同じように。けれど和服は相変わらず和服のままだ。唐傘は肩に重い。
 見晴らしのいい広い公園を、風は右から左へ吹いて雲は右から左へ流れるのに、時空艇で過ごした時間は嘘のように流れていない。
 けれど、この傘とこの着物が、現実だったと物語っているようだ。
 夢が現か現が夢か。
「また行ける?」
 呟いた先には流れぬ雲とそれに引っかかった時空艇が浮かんでいた。


「どうやら戻ってきたようですね」
 静は見慣れた道に胸を撫で下ろす。江戸艇でセレスティたちから聞いていた通りなら、時間はあれから全く進んでいない事になる。
 そして着ているものは江戸艇で着ていたのと同じ和服だった。制服の替えは持ってはいるが、そう何枚も持っているわけではない。
「今度は、普段着の時にしてくださいね」
 などと、空に浮かぶ時空艇に独りごち、やれやれと肩を竦めて歩き出す。
 着物姿で歩く彼に、別段行き交う者達が好奇の視線を投げないのは、彼が殆ど気配なく歩いているせいだろうか。


「…………」
 炭焼きが煙をあげていた。串がいい具合に焼けている。それを暫く呆気に取られて見ていたら背中を叩かれた。
「何、ぼっとしてるんだい?」
 嬉瑠の声にはっとして兵衛は慌てて串焼きを端から順に裏返した。
 あれは夢だったのだろうか。しかしまるで時間が経っていない。
「そういえば、あんた、いつ着替えたんだい?」
 尋ねられて兵衛は自分を見下ろした。黒の羽織に鼠地の戦袴。夢の中で着ていたのとおんなじだ。
「いつでござろう?」
 兵衛は何とも曖昧に首を傾げた。


「…………」
 ベッドの上で優夢は暫くぼんやりしていた。自分の部屋だった。元の世界に帰ってきたらしい。とはいえ、彼女がたったついさっきまでいたのは、空に浮かぶ時空艇の中。それもまた、ここから見えるこの世界のものではないのだろうか。元の世界、というには少なからぬ違和感がなくもない。
 しかし、聞いていた話の通りなら、この場所の時間は進んでいないという事になる。
 まるで狐につままれたような気分だ。まるで夢のよう。
 けれど自分を見下ろせば菖蒲の着物を着ている。それが現実だと語ってるようだった。
 時空艇へ呼ばれた時はネグリジェ姿だったのに。今にして思えば、その姿で時空艇内にいなくて良かった、と優夢は小さく笑ってベッドから立ち上がった。


「戻ってきたんですね」
 紫桜はホッと胸を撫で下ろした。話に聞いてはいたがにわかに信じられない部分もあったのだ。
 高層の建物に囲まれた東京の空は狭かった。見上げた西の空が黄昏ている。江戸艇に召喚された時と全く違わぬ同じ夕焼けなのだろうか。千切れ雲とは別に大きな雲に引っかかり太陽の光に黄金色に輝く艇。つい先ほどまであそこの中にいたというのが嘘みたいだった。
 学校から家への帰り道。話の通り制服ではなく着物姿だった。尻端折ってたすきをかけている。道行く人の視線に気づいて紫桜は足早に家へ急いだ。
「もう少し時と場所を選んで欲しいものですね……」


「…………」
 仲間が隣で踊っていた。突然途切れたところから寸分違わず音楽が続く。一時停止していたCDプレイヤーを再生したような感じだ。
 暁はしばし呆気に取られて立ち尽くしてしまった。
 音楽は鳴り止まないのに、仲間たちがダンスをやめ、怪訝に暁を振り返る。
 彼らのダンスを見ていた者達が一種騒然となった。暁の着物姿に驚いたのだろう。
 暁はそれににっと笑って見せた。
「早着替え成功!」
 8カウントだけリズムをとって一気にスィーピングからウィンドミルに入る。
 彼の決めたバックスピンに一斉に歓声があがった。
「ま、こんなのもありでしょ」





 時間と空間の狭間をうつろう謎の時空艇−江戸。
 彼らの行く先はわからない。
 彼らの目的もわからない。
 彼らの存在理由どころか存在価値さえわからない。
 たが、彼らは時間を越え、空間をも越え放浪する。
 たまたま偶然そこを歩いていた一部の東京人を、何の脈絡もなく時空艇−江戸に引きずりこみながら。
 戸惑う東京人の困惑などおかまいなし。
 しかし案ずることなかれ。
 江戸に召喚された東京人は、住人達の『お願い』を完遂すれば、己が呼び出された時間と空間を違う事無く、必ずや元の世界に返してもらえるのだから。







 ■大団円■





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【4621/紫桔梗・しずめ/男/69/迷子の迷子のお爺さん?】
【4929/日向・久那斗/男/999/旅人の道導】
【3359/リオン・ベルティーニ/男/24/喫茶店店主兼国連配下暗殺者】
【3356/シオン・レ・ハイ/男/42/びんぼーにん +α】
【1449/綾和泉・汐耶/女/23/都立図書館司書】
【5228/直江・恭一郎/男/27/元御庭番】
【5453/櫻・紫桜/男/15/高校生】
【4782/桐生・暁/男/17/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【4471/一色・千鳥/男/26/小料理屋主人】
【1108/本郷・源/女/6/オーナー 小学生 獣人】
【3940/楓・兵衛/男/6/小学生 兵法師】
【3586/神宮寺・夕日/女/23/警視庁所属・警部補】
【3304/雪森・スイ/女/128/シャーマン/シーフ】
【5566/菊坂・静/男/15/学生/「気狂い屋」】
【3661/聖嵐・優夢/女/16/高校生兼北辰一刀流道場師範代】


異界−江戸艇
【NPC/江戸屋・椛/女/20/若い女役】
【NPC/江戸屋・梅/女/52/老婆役】


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■         ライター通信          ■
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

 版権に抵触する恐れのあるプレイングには、
 こちらでアレンジを加えさせていただきました。
 予め、ご了承ください。

 人数の都合上、共有部を含む二本立てとなっております。
 エンディングが2種類用意されておりますので、
 機会があれば、別のエンディングもお楽しみください。

 たくさんのご参加、本当にありがとうございました。
 またお会い出来る事を楽しみにしております。

 尚、今回江戸艇に参加された記念に、
 江戸艇での成敗ピンナップを受け付けております。
 現像は江戸艇−写真館にて行っておりますので、
 是非、ご参加ください。

 時空艇−江戸 〜写真館〜 さちILさま
 異界ピンナップ:10月15日 0:00 OPEN予定。
 ※江戸装束姿になります。
 ※記念に時空艇江戸写真館のロゴが入ります。