|
|
■フレデリック誘拐事件■ |
沙月亜衣 |
【2829】【ノエミ・ファレール】【異界職】 |
聖都エルザードの裏通り。人気のない細い道で、金髪の貧相な青年がガラの悪い男たちに囲まれていた。
「フレデリック・ヨースターだな」
中でもとびきり人相の悪いのが、ドスの効いた声で青年に迫る。
「そうだけど……。フレディと呼んでくれると嬉しいな」
余裕があるのか、それともただ単に鈍いだけなのか。青年は小さく首を傾げて答えた。
「赤珊瑚の生息場所を教えてもらおうか」
「赤珊瑚? 水温はやや低め、潮の流れが激しくて、陽光のあまりささない海底……」
そこまで答えたところで、青年の頬が、パン、と高い音を立てた。彼に一番近いところにいたやせた男が平手で張ったのだ。
「とぼけてんじゃねぇ! 見つけたんだろ、赤珊瑚をよ。それもとびっきりの上モンを」
「……知らないよ」
この期に及んでようやく事態を呑み込んだらしい。青年の顔から笑みが消えた。
「嘘をつけ!」
声を荒げたのは、反対側に立っていた小太りの男だ。
「知らないってなら、それでいい」
それを制するように、最初の男が低い声でなだめるように言う。が、次の瞬間、目にもとまらぬ早さで銀色の光が閃いた。フレディの頬に一筋、赤い線が走る。
「ただ、お前が死ぬだけだ。俺たちにとっては学者センセイの1人、生きてようと死んでようと関係ないんでね」
「……わかったよ」
かすれた声でフレディが答える。
「場所はレセン島。でも、あの辺りの海は潮目も難しい。僕が行かなきゃわからない」
「……」
男は、値踏むような視線でフレディをじろじろと見つめた。
「まあいい。おい、連れて行け」
手下たちにあごをしゃくって命令する。
その声でフレディは両脇を押さえられ、男たちにどこかへ連れ去られていった。
「……大変だ。人さらいだ」
その光景を物陰から覗いていた少年が1人。少年は慌てて冒険者の集う酒場へと走り出した。
|
フレデリック誘拐事件
聖都エルザードの酒場は、大勢の客で賑わっていた。つかの間の休息を楽しむ冒険者たちが互いの武勇伝を語り合い、これから探検に赴く者たちが同行者を募る。活気に溢れ、愉しげな喧噪の満ちるその空間は、息を切らせた1人の少年が飛び込んで来たことで一変した。
「大変だ、人さらいだ!」
少年は数度肩を上下させて息を整えるや、大声で叫んだ。何人かが彼の方を振り返る。
「フレ何とかいう金髪の兄ちゃんが『赤珊瑚を見つけたんだろ』って、悪そうなおっちゃんたちに連れてかれるのを見たんだ!」
少年は助けを求める目で酒場の中を見回した。
「その方……、フレデリック・ヨースター様とおっしゃいませんでしたか?」
真っ先にそれに声をかけたのは、近くのテーブルに座っていた黒髪の印象的な鎧姿の少女、ノエミ・ファレールだった。
「え? ああ、うん。そんな名前だった」
少年はぱちぱちと大きく目を瞬かせながら答える。
「やっぱり……。もう少し詳しいことを教えてもらえますか?」
ノエミは以前、フレディと共にレセン島で赤珊瑚を見つけている。希少な赤珊瑚がレセン島にあることは内密にしていたのだが、どこかから漏れたのだろう。
どちらにせよ助けに行かねば、とノエミは少年に尋ねた。
と。
「あーあー、ここ最近の盗賊連中は強面にモノを言わせて誘拐までするんかい」
「あー? 赤珊瑚ゲッチュで気になるアノ子のナウヤング乙女筋ハート一撃ズキュンでも企んだのかい、ワル筋は」
奥のテーブルとカウンターから声が上がった。銀髪赤目の青年と、筋骨隆々とした黒髪の大男が立ち上がり、一瞬互いに顔を見合わせた。が、すぐに目的を同じくする者と悟ったのだろう、にやりと笑うとノエミと少年のテーブルへとやってきた。
「あんたも行くのかい?」
銀髪の青年が、ノエミと大男を見比べて不適な笑みを浮かべた。
「おう! ラブマッスルフレンズフレディとナマモノたちを護りにな。っと、俺はオーマ・シュヴァルツ。見ての通り、腹黒マッスル親父よ、よろしくな」
大男は豪快に笑った。
「らぶまっする……?」
彼の口から出た意味不明の言葉を思わず繰り返し、ノエミは目を瞬かせた。
「俺はランディム・ロウファ。ネゴシエーターをやってる。ディムと呼んでくれて結構」
青年はひるむことなく、自らの名を名乗る。
「ノエミ・ファレールと申します。よろしくお願いします」
何とか気を取り直したノエミが、ようやく自己紹介をしたところで。
「あのー」
いつの間にか傍らに立っていたキジ茶のリンクスの少女がひょこりと顔を出した。さすがは猫族というべきか、近づく気配を悟らせない動きだった。
「フレディさんを助けに行くんですよね? あたしも行きます」
金色の瞳をくるくると動かして、彼女はノエミたちを伺った。
「あたしは魔石練師のカーディナル・スプランディドと言います。みんなカーディって呼んでます」
「おう、よろしくな」
オーマが豪快に握手を求めたのを皮切りに、ノエミとディムも頷いた。
「よし、じゃあ行くか。行き先はレセン島だな。船は俺が用意する」
「用意するって、あんた漁師……には見えないけどな。よっぽどの金持ちなのかい?」
オーマの言葉に、ディムが軽く肩をすくめた。
「まあ、その辺はアレでな」
オーマはにやりと笑った。
「えーっと、じゃあ、あと船頭さんを……。あーっ、あの人!」
きょろきょろと酒場の中を見渡していたカーディがおもむろに声を上げて席を立ったかと思うと、1人の男を連れて来た。
「この人、船頭さんです。事情を話したらレセン島まで案内してくれるそうです」
その男は、以前ノエミとフレディが探索に出かけたときとは違う男だったが、カーディの口ぶりからすると、やはりフレディと共にレセン島へ航行したことがあるのだろう。
「これでレセン島まで行けますね」
ノエミは表情を緩めることなく頷いた。
「さてと、作戦会議だ」
レセン島へと向かう船の中。ディムの声で、4人はテーブルについた。
「ああいう連中はとっとブタ箱にぶちこんで、地獄という地獄でも見せてやろうじゃないの」
「多分、犯人は赤珊瑚だけでなくレセン島の稀少生物をも狙っていると思います。フレディ様の救出が最優先ですが、犯人たちの制圧も考えないと」
ディムの言葉に、ノエミも頷いた。
「あー、それはそうなんだが」
オーマが頭をかきながら口を開く。
「できるだけ戦闘回避の方向で行きたいんだが……。島にある全てを傷つけたくないんでな。正義を盾に島を傷つけちまえば俺たちもワル筋たちと変わらんからな」
「そりゃ、ま、戦わずに救出できりゃそれに越したことないがな」
「あたしはもともと戦えませんし」
それにディムとカーディが頷いた。もちろん、ノエミとて無用な戦闘を好むたちではない。
「肝心の救出方法ですけど……。何せ『あの島』ですから、何らかのハプニングに乗じるのが手っ取り早いかと」
そう言うカーディの声には、こりごりだといわんばかりの響きがあった。あの島で酷い目にでも遭ったのだろうか。
「そうだな、島のナマモノたちにも協力してもらうか。ツテもあるしな」
対照的にオーマは豪快に頷く。
「へぇ、あんたたち、そのレセン島とやらに行ったことがあるのか」
ディムが興味深そうな顔をした。
「おうよ。……が、俺は赤珊瑚の在処は知らねぇなぁ。どんな場所かわかれば同じような場所を作り出しておびきよせられるんだが」
オーマは少し考え込むような顔になった。
「それなら私が知っています」
ノエミは声を上げた。
ノエミ自身は、稀少生物を欲しがるであろう男たちの心情を逆手に取って、聖獣を召還しておびき出すつもりだったが、それだとどうしても戦闘が大規模になってしまう。ぽんと船を出したこの男の能力で同じように赤珊瑚の洞窟が作り出せるなら、島に与えるダメージはずっと少なくできるだろう。
「東の海岸から北へと抜ける鍾乳洞の奥です」
「鍾乳洞か……。ありがとな、お嬢ちゃん」
オーマがパチン、とウインクを投げて寄越す。
「島に損害の少ない場所におびき寄せて、島の生物たちの助けを借りつつ、フレデリックを助け出す、という方向だな」
ディムが確認するように繰り返す。
「あたし、使用者が周りから見えなくなる魔石『不可視』を作れます。何かハプニングを起こすきっかけにできると思います。……ただ、使用者の方も周りが見えなくなるのが難点ですが」
カーディが言って、愛らしい仕草で頬をかいた。
「ま、何にせよ、作戦にアクシデントはつきもの。いざという時にはやりますよ、と」
ディムが唇の端をわずかに持ち上げた。
「そろそろ着くぞ。既に船が1艘留まっているのが見えるな」
船頭がやってきて、皆に告げる。
「ああ、死角になるところで一度止めてくれ。偵察に行かなきゃな」
「死角になるところって……、島の東側は遠浅だ。北東側まで回れば死角だが、それだと島に乗り付けられんぞ」
オーマの言葉に、船頭が言い返す。
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
オーマがそう返せば、船頭も納得して操舵室に戻った。
船は大きく旋回し、島の北東部を目指して針路を取る。4人は部屋から出て、甲板へと登った。みるみるうちに島影は大きくなり、岸壁が迫ってくる。しばしの後に、大きく船が揺れ、そして止まった。
「さてと、じゃ、ちょっくら偵察に行ってくるわ」
言うが早いが、オーマの身体はみるみる縮みながら変化し、子犬程度の大きさの銀色の獅子の姿になった。その背にはひとそろいの翼が生えている。
「わー、可愛いー」
思わず目を瞬いたノエミの横で、カーディが歓声をあげる。それに軽く翼を振って応え、獅子は空へと飛び立って行った。
しばしの後に舞い戻ってきた小獅子は、みるみるうちに元の大男へとその姿を変えた。
「ちょーっと遅かったな。やつら、良い船持ってやがった……。既にフレディは連れ出されちまってた。一緒に出たのが、ボスとあと子分が多分3人程度。船に5、6人の手下がいたが、そいつらは外へと誘い出しておいた。ナマモノフレンズが捕まえておいてくれてるはずだ。殺さないように頼んでおいたからな」
オーマは船頭に浜辺に船をつけるよう頼んだ後で、早口でそう報告した。
「フレディ様は赤珊瑚の洞窟を案内させられているわけですね。すぐに追わなければ」
あの洞窟の大きさと、フレディの足を考えれば、急いで追えば追いつけるはずだ。
「ああ、行こう。ノエミ、案内を頼む」
「もちろんです」
ディムの言葉に、ノエミは力強く頷いた。
あの時ノエミが岩石を砕いたままに、洞窟はぽっかりと口を開けていた。
「中はとても音が響きます。注意して下さいね」
入り口を前にノエミが言うと、皆神妙な顔をして頷いた。オーマがやはりどこからともなくカンテラを出し、明かりを暗めに調節する。
中に入れば、既にフレディたちがいるのだろう。どこか遠いところから足音と話し声が幾重にも響いてきた。洞窟内に満たされた空気がゆらゆらと揺れているような気さえする。
ノエミたちが足早に歩を進めると、前を行く足音は次第に大きいものへ変わって来た。話し声もはっきりと内容が聞き取れるようになってくる。
「ねえ、ちょっと休ませてよ」
この情けない声は、間違いなくあの貧相な学者のものだ。
「ああ? てめぇ、自分の立場がわかってるのか?」
足音が止まり、ドスのきいた声がかぶさる。
「そんなこと言われても……。足が痛いんだよ。ここ、足場悪いし」
「そんなに痛むなら切り落としてやろうか」
押し殺したような冷ややかな声が響いた。
「……ど、どうでもいいけど、そんなことしたら赤珊瑚は手に入らないよ。言ったろ? 赤珊瑚は水が冷たくて流れの速い海底に生えてるって。海の中に潜ったりしたら流れにさらわれる。上から棹を突っ込んだって、壊れて流されるのがオチだよ。僕でなきゃとれないよ」
「……」
わずかばかりの沈黙があった。男がフレディの要求を受け入れたのだろう。
「この先に湖があるんだ。そこでちょっと水を飲んで足を冷やしたい」
「……妙な真似をすると、わかってるな?」
ひと睨みしたような気配があって、再び足音が高くなる。
(まずいです)
ノエミは3人に囁いた。
(あの地底湖にはサーペントが棲んでいるんです)
おそらくフレディはそれに男たちを襲わせるつもりなのだ。そんなことになっては、フレディ自身もまず巻き込まれるだろう。
4人は顔を見合わせて頷き合い、さらに先を急いだ。
ぽっかりと開いた暗い空間に、冷たい水の気配が立ちこめる。滔々と水をたたえた黒い湖の縁にフレディは立っていた。その傍らにはボスと思しき男がぴったりと立っている。
ノエミたちは岩柱の陰に身を隠し、フレディたちの方を伺う。
「……で、何をするつもりだったんだ?」
男は冷ややかに笑う。その手には火器が握られていた。小型ながら口径が大きく、あれならサーペントの頭も撃ちぬけるかもしれない。そんな砲を、手下の男たちも持っているのだ。
「バケモノにでも襲わせるつもりだったのか? この島にはバケモノが多いというのはよく聞いてるんでね」
あざ笑うように言うと、男は視線をノエミたちの方へと向けた。
「それから、そこにいる奴、出て来いよ」
言いながらフレディを乱暴に引き寄せ、砲を腰に戻して、フレディののど元にナイフを突きつける。
「ちっ……、あれならこっちが何かするより先に首をかっ切られるな」
ディムが呟きながら立ち上がる。ノエミたちも仕方なく岩陰から外に出た。
「ノエミさん! オーマさん!」
フレディが目を丸くする。
「よう」
オーマが軽く片手を上げて応えた。
「さてと……。どうやら通りすがりってわけでもないみたいだな」
男はフレディの首にナイフを突きつけたままでノエミたちを睨んだ。
「その人を離して下さい!」
人質にするなど、卑怯にも程がある。ノエミは怒りに声を震わせた。
「離せと言われて離すバカがどこにいる。どっちにしろ、全員生きて帰すわけにはいかんがな」
男は鼻でせせら笑った。
「そいつがいなきゃ赤珊瑚はとれないんじゃなかったのか?」
ディムがひょうひょうと口を開いた。
「これだけしゃべらせれば後は俺たちだけで探せるさ。取り方もいくらでも工夫ができる。命の1つや2つかけたって赤珊瑚が欲しいって奴はいくらでもいるさ。そういう連中に綱つけてもぐらせりゃ、いくらでもとれるぜ」
「しかし、そいつは割りに合わないぜ。ここで俺たち全員とやりあって、さらに赤珊瑚を探して、それからとるんだろ? 言っとくが、俺たちとの戦闘だって楽じゃないぜ? しかもそいつを生かす気がないならなおさらだ」
あまりに自分勝手な男の言葉にも引くことなく、ディムはさらに言葉を続ける。
「そう極端なこと言わなくても、もうちょっといい方法があるだろ?」
「……何が言いたい?」
余裕綽々のディムの口ぶりに、男が眉を寄せたその時だった。
「な、何だ?」
突然、男が驚いたようにのけぞった。と、今度はいくつものボールのようなものがすごい勢いで飛び交い、男とフレディの間に割り込み、他の男たちの手から武器をたたき落とす。
何が起こったのか理解するより早く、ノエミは剣を抜いて男に切り掛かった。多少は鍛えているのだろう、男はすぐにノエミを迎え撃つ。鋭い刃がぶつかり合う、甲高い音が響いた。
ノエミの姿を見て、男はすぐに正当な騎士だと判断したらしい。死角を狙い、時に蹴りを繰り出すといったトリッキーな戦法を繰り広げた。かと思えば、力任せの一撃を放ってきたりする。
だがそこはノエミも戦い慣れている。男の攻撃を剣で受け、盾でさばいて受け流す。
オーマがフレディを保護したのを視界の片隅で確認すると、ノエミは男と間合いを取り、正面に剣を構えた。この男に同情の余地はない。ノエミの剣が雷をまとう。
「シャイニグ・ディザスター!」
回避不能の必殺技。ノエミは痛烈な一撃を叩き付けた。
が、それは男の手前で、何か別のものを粉砕した。衝撃で吹き飛ばされた男は、盛大な水しぶきを上げて地底湖に落ちる。
「お嬢ちゃん、いくら何でもそいつは死んじまうぜ」
その口ぶりからすると、オーマが男の前に何かを出現させたらしい。
「でも、許せません!」
「まあ確かにそうなんだが……。お前さんが手を下す程の相手でもないさ」
「もういいよ、ノエミさん。ありがとう」
珍しく声を荒げたノエミに、オーマとフレディがたしなめにかかった。
「……ぶはっ」
湖に落ちた男がようやくのことで顔を出した。
「おい、あんた、もう諦めた方がいいぜ」
そう言うディムの足元には、手下たちが1人残らず転がっていた。
「ちっ……」
顔をゆがめて舌打ちした男の後ろで、水面が大きく持ち上がった。
「……」
男が顔を凍り付かせたまま、おそるおそる振り返る。そこには水の大蛇がむくりと鎌首を持ち上げていた。
「ひぁっ……」
その鋭い眼光に、男はかすれた悲鳴を上げる。
「……ほら、来いよ。お前さんたちは腹黒ナウ筋教育を受けてもらうぜ」
オーマが硬直している男の首根っこをつかまえて引っ張り上げた。
「お前さんも騒がせて悪かったな」
オーマがサーペントに言うと、大蛇は静かに水の中へと戻って行った。
「これで片付いたな」
ディムが言ったその時、遠くから低いうなり声のような音が聞こえてきて、地面が揺れ始めた。
「まずい、崩れる!」
フレディの叫びと共に、一同は一斉に外目指して走り出した。すかさずオーマがそりのようなものを出して、それに男たちを乗せ、力任せに引っ張る。
全員が外に出るのを待っていたかのように、洞窟は地響きを立てて崩落した。しばし、誰もが無言で立ち尽くす。
「それにしても、ありがとう。助けに来てくれるなんて、僕、感激しちゃったなぁ」
やはりどことなく呑気な声でフレディが沈黙を破った。
「いいえ。ご無事で何よりです」
「そうそう。結果オーライってやつ?」
ノエミが首を振ると、カーディも頷いた。
「しかし、洞窟が崩れちまったなぁ……」
オーマがこの男には似つかわしくなくしょぼんとした声で呟いた。守れなかったのが悔やまれるのだろう。
「違いますよ、オーマさん。この洞窟は崩落期に入ってました。こないだ来た時に地震が起こって、その時にも崩れかけましたし……。岩に穴があいて洞窟ができるわけですから、それが広がって行くと早かれ遅かれこうなるらしいですよ」
フレディが軽く首を傾げる。
「それに、これで赤珊瑚は誰にもとられない。良かったんじゃないの?」
ディムがそれに言葉を足した。
「ところで、こいつらは俺が引き取らせてもらうぜ。むっちりみっちり腹黒筋教育しなきゃあな」
小さく息を吐いた後で、オーマが言い出し、一同を軽く見回した。
「……オーマ様がそこまで仰るなら」
まだ気が済まないながらも、ノエミは頷いた。
「まあ、いいんでないの?」
ディムは軽く肩をすくめた。カーディはにまにまと笑みを浮かべている。
「さあて! じゃあエルザードに帰って、ラブマッスルフレンドフレディ帰還祝いにパーッとやるか!」
オーマが豪快に気炎を上げた。
確かにフレディも無事だったし、赤珊瑚が乱獲される心配もなくなった。これはこれで祝っていいのかもしれない。ノエミも初めて、ほんのわずか笑みを浮かべた。
<了>
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【2829/ノエミ・ファレール/女性/16歳(実年齢16歳)/異界職】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2767/ランディム・ロウファ/男性/20歳(実年齢20歳)/異界職】
【2728/カーディナル・スプランディド/女性/15歳(実年齢15歳)/魔石練師】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。この度は当シナリオへのご参加、まことにありがとうございました。そして、大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。
皆様のプレイングをうまく活かせなくて大変申し訳ない限りですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
ともあれ、無事フレディは救出されました。赤珊瑚も無事でしたし、犯人たちも懲りて新たな人生を歩めそうです。
ただいまマシンの調子が思わしくないので、勝手ながら個別のコメントはご容赦下さいませ。
その代わり、というわけではありませんが、今回は皆様に少しずつ違う作品を納品しております。お暇でお気が向かれましたら、他の方の分にも目を通して頂ければ幸いです。
ご意見、ご感想、苦情等ありましたら、およせ頂ければ幸いです。
この度はまことにありがとうございました。
|
|
|
|