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■おそらくはそれさえも平凡な日々■

西東慶三
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】
 個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
 そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。

 この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
 多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。

 それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
 この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。

−−−−−

ライターより

・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。

 *シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
 *ノベルは基本的にPC別となります。
  他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
 *プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
  結果はこちらに任せていただいても結構です。
 *これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
  プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
  あらかじめご了承下さい。
決戦の時、来る

〜 世界の未来と萌えのために 〜

「木を隠すには森の中」という言葉がある。
 その論法で行けば、秘密組織であるIO2の本部が、アメリカ合衆国のとある工業都市の郊外に、あたかも付近に点在する工場の一つのようなふりをして建てられているとしても、特に驚くには値しないだろう。
 そして実際、それは外から見る限りでは「やや警備が厳しめな工場」でしかなく、その中で何が作られているか――さらにいうなら、何が行われているかについて、興味を払うものはほとんどいなかった。

 そこで何が行われているかを世間の人々が知ったら、一体どんな反応をするだろう?
 そんなことを考えて、水野想司(みずの・そうじ)は小さく笑った。

 今、このIO2本部内では、臨時のIO2本会議が行われていた。
 今回の議題は、「次世代異能力兵器の開発」と「異能者に対する管理の強化と徹底」。
 それはすなわち、風野時音(かぜの・ときね)たちの知る悲しい未来に向けて、さらなる一歩を踏み出そうとしている、ということでもあった。

 本来、まだ未知の部分が多く、確実性に欠ける異能力は、ハイリスクローリターンであまり有用なものではない。
 例えば、普通の人間を一人殺すだけであれば、魔法やら呪いやらに頼るよりも、銃や刃物といった普通な武器を使った方がはるかに手早く、確実で、実行できる人間もはるかに多い。
 それ故に、IO2はあくまでそういった脅威が出現した場合にそれに対処することだけが目的とされ、そのために必要な場合を除いて、異能力を利用するための研究などはほとんど行われてこなかった。

 それが大きく変わったのは、「霊鬼兵」の存在が明らかになってからである。
 霊鬼兵と同じ、もしくはそれに近いシステムを利用すれば、これまでは制御するのが難しかった「心霊力」とでも呼ぶべきエネルギーを、現在使われているエネルギーと同程度には制御することができるかもしれない。
 そのことに気づいた人々によって、水面下ですさまじい開発競争が起こった。
 そして、その中心となったのが、多少とはいえ「心霊力」についての研究を行っていたIO2だったのである。

 それでも、最初のうちは開発は比較的平和に進められた。
 異能者は新たなエネルギーを内に秘めた人々であり、その力を適正な方法で引き出すことを目的として、研究は進められていた。

 ところが、そこに「虚無の境界」という異能テロリスト集団が現れたことによって、人々はその異能力が自分たちの方に向けられる可能性に気づかされた。
 その恐怖は異能者とそれ以外の人々の間にできかけていた絆をやすやすと断ち切り、IO2の異能者に対する見方も、いつしか「協力すべき相手」から「国家規模で管理すべき危険な怪物」へと変わっていってしまったのである。

 かくして、IO2は異能者たちを様々な手段で拘束しては、人体実験によって使い潰す悪魔の組織と化した。
 今止めなければ、きっと、時音の語ったような未来がこの世界にも訪れることになるだろう。

 それを阻止するために、時音たちはIO2の本部内への突入を敢行する。
 想司の目的は、彼らが本部内に侵入するまでの援護であり、そのための準備はとうに整っていた。

「そろそろかな♪」
 物陰に隠れたまま、想司はじっと空を見上げた。
 嵐の前の静けさと言うべきか、空は驚くほどに静かで、雲はゆったりと流れ、ときおり鳥たちが視界を横切っていく他は、動くものの影など見えない。

 と、明らかに鳥ではない「何か」が、こちらに向かって高速でかっ飛んできて、IO2の本部前で空中停止すると、大声でこう叫んだ。
「我輩はへっぽこではなあぁぁいっ!」
 その声とともに、解放されたエネルギーが周囲の警備隊に襲いかかり、吹き飛ばす。
 当然のように警報が鳴り響き、別の場所にいた警備隊がわらわらと集まってきたが、その人物――海塚要(うみずか・かなめ)はザコには一切目もくれず、想司の姿を探して辺りを何度も見回している。
「何処だ! 暴走する十四歳!
 人に馬鹿っていう子の方が馬鹿なんですと今日こそ思い知らせてくれる!」

 その様子を見て、想司は自分の策の成功を確信した。

 IO2の側でも、時音がこの本会議の場を狙ってくることはすでに予期しているはず。
 だとすれば、それを防ぐための手だてはもちろん、それを逆手にとって利用するための策略もすでに用意されているに違いない。
 例えば、襲撃してきた時音たちをテロリストと決めつけ、異能者脅威論を広めるための材料とする、とか。

 今回想司が騒ぎを起こした最大の理由は、そのIO2の作戦をさらに逆手にとるためだった。
 まず、もっとも目立つ本部前で想司と要が警備部隊を巻き込みつつ大立ち回りを繰り広げれば、「異能者によるテロ」から「いつもの想司と魔王の闘争」に問題をすり替えることができ、時間稼ぎもできる上に、派手な戦闘によって人の目を集めることもできる。
 そうすれば、IO2の企てを阻止しつつ、武彦や宵子が行っている工作――「人に異能者というレッテルを貼り、虐殺を行った秘密組織」の存在を暴露することの効果を最大限に高めることができるだろう。

 そして何より、この方法ならば、想司がわざわざこの事件に首を突っ込んだ本当の理由――男の子にとって最大の萌えるシチュエーションを、無理なく(?)作り出すことができる。

「さあ、時音クン☆ ここは僕に任せて先へ逝け!」
 想司はためらうことなくそのセリフを口にすると、時音が一度小さく頷くのを確認して、要の前へと躍り出た。
「来たね♪ 要っち☆」
「ぬう! 見つけたぞ水野想司っ!
 今日という今日こそ我が輩の暗黒萌え力で貴様にごめんなさいの一言を言わせてくれるっ!!」
 要がそう吼えると、辺りに漆黒の稲妻が走り、近くに集まっていた警備隊を巻き込む。
 しかし、今度は彼らが吹き飛ぶことはなく……それどころか、稲妻がおさまると、彼らは声をそろえてこう叫んだのであった。

『Bloomer MOEEEEEEE!!』

「萌えの暗黒面」へと人を引きずり込む「萌え洗脳」。
 その極大版である「萌え稲妻」こそ、先ほどの黒い稲妻の正体だった。

「見よ! これが我が輩の本気だあぁ!」
 洗脳されて「ブル魔派」となった警備隊の連中が、稲妻の影響を逃れた仲間と小競り合いを起こしながら、想司の方へと向かってくる。
 その様子を見て、想司はきっぱりはっきりとこう言い放った。
「なかなかやるようだねっ☆ でも、その程度じゃまだまだ僕は倒せないっ♪」

 かくして、ご近所と異能者の命運を賭けた戦い(?)は、なんだかよくわからない形で始められたのである。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 予期せぬ増援 〜

 表で想司と要が騒ぎを起こしている間に、時音たちはIO2本部内への侵入を果たしていた。

 当初の予定通りに部隊を複数に分け、IO2内部の協力者たちと合流する。
「こっちだ」
 彼らの案内通りに進めば、警備の裏をかいて効率よく進むことができる――はずだった。





 突然、時音たちの前方から、大勢の戦闘員が姿を現す。
「なっ……!?」
 予想外の敵襲に慌てて後ろを振り返ると、すでにそこにも無数の戦闘員の姿があった。

「どういうことだ?」
 時音の言葉に、内通者の一人が困惑しきった様子でこう叫んだ。
「わからん! しかしこんな情報は……」
 その言葉を遮って、敵の一人が勝ち誇ったように笑う。
「残念だったな。内通者がいることくらいすでにお見通しだ」
 どうやら、敵の方が一枚も二枚も上手だったらしい。
 考えてみれば、異能者を管理しようとする組織が、自分たちの下部構成員を管理していたとしても、何ら驚くにはあたらない。

 ともあれ、今さらそんなことをいっても仕方がない。
 こうなった以上、突破するにせよ、戻るにせよ、かなりの体力と時間のロスを覚悟しなければならないだろう。
 加えて、内通者の情報が完全にバレているのであれば、当初の「なるべく警備の手薄なルートを通る」という計画は、もはや使えない。
 このままでは各個撃破されるか、うまくいっても消耗戦になる。
 速射式レールガンや手榴弾といった武器も用意してきてはいたが、この段階から使っていてはとても最後までは保ちそうになかった。

 と、その時。
 突然、前方にいた戦闘員たちの横の壁が吹き飛んだ。
「何だっ!?」
 混乱する敵に、謎の紫色に輝く液体のようなものが浴びせられる。
 その液体は見る見るうちに凝固し、前方の敵たちを壁際に貼り付けてしまった。

 予期せぬ事態に、呆気にとられて壁に開いた大穴を見つめる。
 その中から、姿を現したのは……「TG-136」と書かれた迷彩色のパワードスーツだった。

「撃てっ!!」
 ようやく我に返った後方の敵が、一斉に構えた武器をパワードスーツの方に向ける。
 けれども、パワードスーツの主はいっこうに動じることなく、両手を敵の方に向け――先ほどと同じ紫色の液体で、雨あられと飛んでくる銃弾ごと全てを押し流し、固めてしまった。
 それを見届けて、パワードスーツは感心したように何度か頷く。
「さすがはうちの風紀委員会の御用達だ。よく効きやがる」
 その声に、時音は聞き覚えがあった。
「金山さん!?」
 時音がそう呼びかけてみると、パワードスーツの主――金山武満は黙って右手を軽く挙げ、時音の方に歩み寄ってきた。
「詳しい事情は知らねぇが、よくも宵子さんをこんな危ないことに巻き込んでくれたな」
 その言葉が、時音の胸に突き刺さる。
 もちろん、時音にも「他に頼れる相手がいなかった」という事情はあるが、それは彼女を巻き込んでいい理由にはならない。
「……すみません」
 時音が頭を下げると、武満はそんな彼の肩に手を置いて、ぽつりとこう言った。
「いーや絶対許さねぇ。
 あとで思いっきりぶん殴ってやるから、絶対生きて戻ってこい」

「それを着たままで、ってのはなしですよ」
 感謝の言葉を告げるかわりに、時音は一言だけそう答えた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 無数の想い、宿して 〜

 時音の戦いは熾烈を極めた。

 NINJAやジーンキャリアといったエージェント。
 ブラスナイトの大軍。
 そして、人体実験の結果を利用して開発された戦闘騎兵たち。

 それらと戦っているうちに、レールガンの弾も、手榴弾もすぐに尽き、時音も全身に無数の傷を受けた。

 それでも、時音は戦い続け、前に進み続けた。

 二本の光刃を振るい、並み居る敵を切り伏せる。
 そんな時音の姿は、いつしか、周囲の人々の目を――味方だけでなく、敵の目までも――ひきつけるようになっていた。

 本来ならば、敵にも、そして味方であるはずの人々にまでも、恨まれ、憎まれるはずだった時音が。
 今は、敵であるはずの人々までが、魅入られるような戦いをしていた。

 そう、まるで、彼が姉と慕った人物のように。





 そんな彼のポケットの中には、彼が歌姫に渡そうとした「鍵」があった。

 歌姫に安全な場所に避難していてほしい時音と、なんとしても時音についていきたい歌姫。
 いろいろと考えた末に、二人はある打開策を編み出していたのである。

 歌姫には「隠れ場所」に避難してもらい、その上で、時音が「鍵」をポケットに入れていく。
 そして、そのポケットを開けたまま、「鍵」越しに、精神感応を行い続ける。

 この方法ならば、歌姫にも外の様子はわかるし、戦力アップも期待できる。
 それに何より、これなら歌姫が狙われる危険性は格段に低くなる。

 あらゆる面で、今の二人はまさしく「二人で一人」だった。





 そうして、どれくらい経っただろうか。

 会議場の直前で待ち伏せしていた精神汚染術者たちをどうにか退け、時音はついにIO2の本会議が行われている会議場の前に辿り着いた。
 他の部隊はいずれも苦戦しているらしく、まだこちらに到着しそうな気配はない。
 味方よりも先に敵の増援がくる可能性もあることを考えれば、ここは一人ででも突入するより他ないだろう。

 一人ででも、やらなければ。
 でも、一人でやれるだろうか?

 全身に受けた傷の中には、かすり傷では済まないものも少なからずある。
 それらの傷の痛みと、強い疲労感に、時音の足下がふらつく。

 と。
 ポケットの中の「鍵」を通じて、歌姫が表に飛び出してきた。
 彼女は心配そうな表情で時音に駆け寄……ろうとして、なぜかなにもないところで躓くと、少し照れたように笑った。
 その様子に、時音の中にあった悲壮感のようなものが霧が晴れるように消えていく。

 そうだ。
 自分は一人なんかじゃない。

 仲間がいる。
 支えてくれる人たちがいる。

 そして、今も隣に歌姫がいる。

 できないことなんか、あるはずがない。





 一度歌姫に軽く微笑み返してから、再び気を引き締め直す。

 目の前にある会議場の扉。
 この扉の奥が、きっと最後の戦いの場となる。

 敵は強い。
 決して、楽な戦いにはならないだろう。

 それでも、不思議と不安はなかった。
 穏やかな気持ちで、時音は最後の一歩を踏み出し、目の前の扉を開いた――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0424 / 水野・想司 / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
 0759 / 海塚・要  / 男性 / 999 / 魔王
 1219 / 風野・時音 / 男性 /  17 / 時空跳躍者

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 今回のノベルは、基本的に三つのパートで構成されています。
 今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。
 そのため、少々文字数が多めとなっておりますがご容赦下さいませ。

・個別通信(風野時音様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 
 さて、先日はファンレターの方ありがとうございました。
 本来ならばファンレターシステムの方を通じてお返事をお返しすべきなのですが、メールアドレスの方がありませんでしたので、勝手ながらこの場をお借りして一部だけでもお返事させて頂きたいと思います。

 時音さんくらい設定がしっかりしていると、なかなか動かしにくいというのはよくわかります。
 私もそう考えてしまう方なのですが、「PLが『やらせたい』と思うだけでは、PCがやる理由としては弱い」ですし。
 まあ、設定に関してはお手紙の方にあったような感じで特に問題ないと思います。
 ちなみに、本部にいる「A」は一人だけです(誰かはあえて書きません)。念のため。

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。