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■CallingU 「脚・あし」■

ともやいずみ
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】
 当主に背後からなにか囁かれる。当主は頷いた。
「では、ここへ呼べ」

 座敷に正座をしていたその者は深く頭をさげる。
「お呼びでしょうか、当主」
「今は当主ではない」
「え?」
「四十四代目は、任命した」
 その言葉に目を見開き、怪訝そうにしつつ「そうですか」と呟く。不満のあるような声音だ。
「もっとも……放棄してしまったようだがな」
「……?」
「西の『逆図』は完成したようだの」
「ここに」
 空中から取り出した巻物を自分の座るすぐ前に置く。
「……よし。では続けて東の『逆図』を完成させてくるのだ」
「了解しました」
「四十四代目の作った『逆図』は失敗しておったのでな。おまえは必ずや完成させよ」
 厳しい声に、神妙に頷いた。
「…………必ずや、完成させて参ります。一年前の失敗は、繰り返しません」



 ちりん、と小さな鈴の音がする。
 足音がこちらに近づいて来る。
 そこは…………東京。
「妖魔……憑物の気配……」
 その人物は小さく呟いてから唇に笑みを乗せた。
CallingU 「脚・あし」



「ったく。じーちゃんは人使いが荒いんだからよ」
 魔の気配がするということで、梧北斗はそこへ向かっていた。
 かなり嫌だったのだが、大惨事になってからでは遅い。結局折れたのは北斗だった。
「お。ここか」
 足を止めて見上げる先には寂れた一軒家。
 いかにもな感じだ。
「うわ……。曇り空だし、雰囲気出るなぁ」
 そう呟いていると、ちりんと鈴の音がする。
 あ? と怪訝そうにして周囲を見回すと、後ろから少年がこちらに向けて歩いてきているのが見えた。
 北斗とそう年の変わらない感じの少年だ。濃紫の制服はまるで軍服のように見える。
 靴音を響かせて歩いてくる少年は北斗の横を通り過ぎて家に入って行く。
 ぽかーんと見ていた北斗はドアを開けて入って行く少年に驚きを隠せなかった。
(なんだあ? あれ)
 ハッとして北斗はあとを追いかける。この家はいま、危険なのだ。



 ドアを開けて中に入ると、玄関のところに先ほどの少年が立っていた。
(高校生……? 一年生か?)
 そう思っていると、彼が振り向いてきょとんとする。
「あれ……? なにしてるの、こんなところで」
 穏やかな口調に北斗は視線を泳がせた。
「え……と。いや、仕事でここに用事があって」
「仕事……? ああ、リフォーム?」
「ちがうっ!」
 思わず怒鳴ると、彼は小さく笑った。わかっている表情だ。
(も、もしかして知ってるのか? 俺が魔を祓う仕事をしてるってこと……)
 じろじろと少年を眺める。色素の薄い髪の毛に、整った顔立ち。変わった制服。
(やっぱり年下だよなぁ……)
 ただ身長は自分のほうが下のようだ。なんだかそこだけ憎たらしい。
「そういうおまえは何してんだよ? ここ、空き家だぞ?」
「ここに住むつもりで、不動産屋さんに住所を教えてもらったんだよ」
 にっこり微笑む少年に「え?」と北斗が目を丸くした。
 家を見上げる。確かに住めなくはない。ちょっと屋根が崩れている程度だし……床も、荒れているがなんとかなるだろう。
 そんなことを考えている間に、少年はすたすたとあがっていった。
「あ! おい、ちょっと待てって! ほんとにあぶねーんだって!」
 ヤバイんだって!
 そう声をかけても無視して奥へ進んでしまうので、北斗は彼を追いかけた。
「なあ、悪いこと言わねーからこの家はやめとけよ? 悪霊がいるっていう噂があるだろ?」
「そういうの信じないから」
「いや、でもほら、マジなんだって!」
「幽霊とか信じてるの? あたま大丈夫?」
「おっまえシツレーなヤツだな! 年上の言うことは信じろっての!」
 歩いていた少年が足を止めて振り向く。至近距離からの少年の顔は、かなり可愛いのがわかった。
「年上? そうなの?」
「そうだ!」
「へぇ。でもボクが年下だからってキミの言うことをきく必要はないでしょ」
「なにぃ〜! 先輩の言うことはきけよ!」
「…………」
 黙って北斗を見てくる少年。
 北斗はあまりにじっと見られてたじろぐ。
「本当に年上なの?」
「年上だろ! 高校二年だぞ、俺は!」
「…………じゃあ17歳?」
「ああ!」
「なにそれ。ボクと同い年なの?」
 しー……ん。
 静まり返った家の中で、北斗は口元を引きつらせた。
「お、おな……!? おまえ、17歳なのか!?」
「そうだよ」
 あっさりと言う少年は驚愕している北斗に背を向けるとまたも歩き始めた。まるで家捜しをしている泥棒のようだ。
(ほんとは物盗りなんじゃ……)
 ちょっとだけそう思ったが北斗は少年に駆け寄る。
「だからヤバいんだって! 人の話を聞けよ!」
「幽霊がいるから?」
「……ゆ、床が腐ってるんだよ!」
「へえ」
 まったく信じてない口調だった。まあ実際嘘なのだが。
 は、として北斗は少年の肩に手をかけた。
「やめろ! ほんとにあぶねーんだ!」
 言葉は口から放たれたが、その手は、確かに肩に置かれたはずなのに。
「転ぶよ?」
 北斗の横に少年が居た。置かれるはずだった手が宙を掴み、北斗は前のめりになってしまう体に驚く。足に力を入れて踏ん張った。
「うわっと!」
「なかなかいい反射神経してるね」
「はあ!?」
 姿勢を直す北斗は少年を睨みつける。
「なんで避けるんだ! 危ないじゃないか!」
「なんで避けちゃいけないの?」
 にこにこと笑って言う少年にわなわなと震えた。なんなんだ、こいつ!
 ふと気づいて彼は北斗に尋ねた。
「仕事って言ってたけど、もしかして……依頼されたの?」
「へ?」
「おかしいな。ボクにきた依頼はどうなったんだろ……」
 ぼそっと呟く少年は首を微かに傾げる。北斗は瞬きをして少年を凝視した。
 今の、おかしくないか……?
(もしかして依頼されたの、って言ったな、こいつ)
 ということはもしかして。
 半眼で見る北斗は口を開く。
「おまえ……やっぱりわかってて言ってたな?」
「なにが?」
「ここに巣食ってる悪霊だ!」
「まあね。依頼されて退治に来たから、知ってるかな」
 しれっとした顔で言う少年を前に、北斗はぶっ倒れそうになる。
「おまえ性格悪いな!」
「そう? 一応気を遣ったつもりだったんだけど」
 どこが! と叫びそうになるが堪えた。
 北斗は手ぶらの少年を見てから尋ねる。
「なにも持ってないみたいだが……武器は?」
「武器? 持ってるよ」
 少年は右手を挙げた。やはり何も持っていない。だがそこに黒い染みのようなものが集まった。
 ぎょっとする北斗の前で、黒い染みは集まって形を作る。弓だ。
「弓! おまえの武器も弓なのか!?」
「…………」
 無言の少年はもう一度北斗を見た。
「あのさ、依頼を受けて来たの?」
「いや、俺はじーちゃんに言われて……」
「なんだ。ボランティアなの!?」
 驚く少年は「ふーん」と呟く。なんだか……もしかしなくてもバカにされているんだろうか。
 むすっとする北斗はとりあえず咳払いをした。武器も同じで退魔の仕事もしているというのは、珍しい。そして自分に似ている。
 同じ悩みを持っているかもしれない。
「あー、俺は梧北斗。おまえは?」
「遠逆欠月」
「トーサカ? 変わった苗字だな。あんまり聞かない」
「そうかもね」
「で、おまえ、ここの悪霊を退治に来たんだろ?」
「まあね」
「俺は仕事じゃなくて、じーちゃんに言われたからなんだけどまあ手伝うぜ!」
 意気込んで親指を立てるが、欠月と名乗った少年は少し驚いたような表情を浮かべたあとに笑顔で言い放つ。
「いいよ、べつに」
 発音からして肯定ではなく、否定のようだった。
 遠慮しているのだろうか?
「手伝うって!」
「どうやって?」
 欠月に言われてから、北斗はちょっと視線を天井に向ける。手伝うが、その方法までは考えていなかった。
 どうにも柔らかく微笑んで言われるのでムキになってしまったのだが……。
「そうだなぁ……まあ敵が来たら武器で攻撃するか……」
「梧さん」
「ん?」
「かくれんぼだよ」
「はあ?」
 欠月はにっこり微笑んだ。
「鬼になってくれる?」
「鬼?」
 言われて家を見回す。欠月とのやり取りに夢中だったため、気づかなかった。
 気配が……家全体を包んでいる。
 欠月は笑顔で北斗に背を向けた。そして大声で言う。
「もういいかーい?」
 ざわり、と家が揺れた。
 北斗を肩越しに見た欠月はまたもにっこり微笑む。
「じゃあね」
 ひらひらと手を振っていた欠月の姿が見えなくなる。北斗の視界が真っ黒になったのだ。
 突然のことに「うわあ〜!」と悲鳴をあげる。足場は先ほどと変わった様子はないので、場所を移動したわけではないようだ。
 ただ見えない。瞼は開いているはずなのに、真っ暗だ。
「ど、どーなってんだこれ!」
 一歩踏み出すが額を壁にぶつけてしまった。「いだ!」と悲鳴をあげる。



 どのくらい経ったのか、暗闇の中で北斗は動き回っていた。
 体のあちこちをぶつけてかなり痛い。
「どうなってんだよ……」
 くすくすと笑い声があちこちから聞こえる。なんだかムカッときて矢を乱射した。
 あちこちに矢が当たった音は聞こえたが、それだけだろう。
(あーもうっ)
 パッと視界が明るくなり、北斗は突然の眩しさにのけぞった。
 真っ白な視界に徐々に色がつく。
「あ……?」
「大丈夫?」
 手に巻物を持った欠月が目の前に立っていた。瞬きを数度繰り返した北斗は周囲を見回す。
「おまえ、なんかしたのか?」
「梧さんが鬼をしている間に一緒に隠れてた」
「おまえなあ! なに一緒にかくれんぼしてんだ!」
「いいじゃない。おかげで無事に仕事は終了。もうこの家には悪霊はいないよ」
「え? そうなのか?」
 欠月の言葉は真実のようだ。家には一切その気配はない。ただの荒んだ家だ。
「へぇ〜。どうやったんだよ、おまえ」
 北斗に質問された欠月はちょっと思案してからにっこり微笑む。
「企業秘密」
 欠月は巻物を空中に無造作に投げた。
 あ、と北斗はそれを視線で追う。
 巻物は空中に吸い込まれるように消えてしまった。まるで手品だ。
「い、今のどうや……」
「じゃあお疲れ様」
 北斗の言葉を遮って欠月はすたすたと玄関に向かう。
「おーい、待てよー!」
 追いかけると、欠月は玄関を出るところだった。
 聞こえてないのかと北斗は彼を追って外に出る。
「待てよ、遠逆!」
「あれ? ボクのこと呼んでたの?」
 くるりと振り向いた欠月はきょとんとした。
「おまえ以外いないだろ」
「霊にでも話し掛けてるのかなと」
「そんなわけないだろっ!」
「冗談だよ」
 思わず口元をひくつかせる北斗の前で、彼は表情を一切動かさない。笑顔のままだ。
 なんだか底知れないものを感じてしまうが北斗はそれで怯みはしなかった。
「とりあえず今回、最後は譲ったけど、次はこうはいかないからな!」
「譲った? おかしなことを言うなあ、梧さんは」
「おかしなこと?」
「ボクはちゃんとこの家の建っているこの土地の持ち主から依頼されたんだよ? 梧さんのほうが横から邪魔したってことになるでしょ」
「いいじゃないか、倒せたんだからっ」
「一応プロなんでね。そういうわけにはいかないな」
「わかったわかった! とにかくこれでもうここは安心ってわけだな!」
「まあね」
 北斗から視線をはずし、「じゃあね」と彼は背を向けてきた。追いかける理由もないので北斗は「ああ」とうなずく。
 欠月は突然駆け出すと、軽く跳躍した。そしてそのまま姿が掻き消える。
「き、消えたーっ!?」
 仰天の悲鳴が、しばらく夕焼けの空にこだましたのだった――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 欠月との出会い、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!