■想いの数だけある物語■
切磋巧実 |
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【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
――アナタは眠っている。
浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか？
目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか？
アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――
そこは夜だった。
キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし？」
ふと穏やかな女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく１７〜２０歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい！」
再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい！」
ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女（ひと）だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか？ これなんかいかがです？ こんな感じもありますよ☆」
彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ？ 選んで思い描けば良いのですから☆」
キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
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想いの数だけある物語
「純潔種狩りですと！？」
海底都市は『マーメイドビレッジ』に戻った海原みなもは、地上での出来事をハイランダーの側近へと話した。当然、シャイラを部屋に戻してからの話だ。彼女には悪い夢のままでいて欲しい。
「シャイラさんには黙っていて欲しいんです。その上で、何か対策はありませんか？」
急に地上に出られないとなれば、強引に出掛ける可能性も考えられる。何か対策があれば、今までと変わりなく生活が出来るだろう。少女の濡れたような瞳に、側近の男は戸惑いを見せる。
「‥‥対策が無い訳ではありません。地上の半獣人達には怒りの矛先を我々に向けている者もいるとは知っていました。そこでスパイ用に以前、テストされたスーツがあるのです」
「‥‥スーツ、ですか？」
■マーメイドみなも物語――半獣人スーツ編――
「半獣人スーツ、ですか？」
シャイラが半信半疑に繰り返す様を見て、みなもはクスリと微笑んだ。正に自分がスーツの事を聞かされた時と同じ反応を示したからである。
「はい、素肌の上から身に纏うと、一定時間皮膚と融合して外見は勿論、体臭すらも半獣人化するそうなんです♪ 任意で着脱も可能なんですよ☆」
ことさら楽しそうに少女はクルリと回って、青い長髪を舞い揺らして微笑む。先ずは目の前のお嬢様に興味を持って貰わないと始まらない。シャイラは長い金髪を揺らして小首を傾げていた。
「それが、どうしましたの？」
「え？ だ、だから、楽しそうだなって思いません？ 半獣人になれるんですよ☆ えっと、ほら、シャイラさんが着ている地上で買った洋服みたいなものですよ〜。そう、ファッション！ 半獣人スーツなんて名前ですけど、ファッションなんです♪」
ピッと人差し指を立て、シャイラの顔を覗き込みながらウインクして微笑んでみせる。内心は頭の脇で大きな汗マークが浮かんでいる事だろう。みなもが可愛らしくポーズを固めたまま暫しの沈黙が流れた。
「そうでしたの☆」
パンと両手を合わせて、気品を漂わす少女が穏やかに微笑んだ。みなもは思わず「はい？」と小さく洩らしてしまう。シャイラはクスクスと口元に手の甲を当てて笑いながら口を開く。
「みなもちゃん、そのスーツを着てみたいのですね？」
あながち嘘ではない。否、安全の為にも必要な物だ。
「う、うん！ そうなんです☆ だからシャイラさんも着てみましょうよ♪」
「はい、分かりました☆ もう、そうなら素直に仰れば良いのに♪」
――やりました♪ あたしは頑張りましたよ！
みなもは胸元に手を当てると、天を仰いで安堵の笑みを浮かべていた――――。
●いざ、試着です☆
「これが半獣人スーツですの？」
ずらりと並んだトランクに瞳を流して、シャイラは感嘆の声をあげた。みなもはトランクの中を指差して忘れない内に説明を始める。因みにみなもは渡された時に一種類だけ中を見せられ、装着説明を聞いただけだ。
「えっと、これが鳥型で、こっちが犬型、ウサギなんかもありますよ☆ それとネズミに‥‥猫‥‥あ、狐とか、他には‥‥」
「みなもちゃんは？」
「え？ あたし？」
すっかりセールスマンと化していた少女は自分を指差し、素っ頓狂な声をあげた。すると、小さく唸りながら腕を組み、暫し青い瞳をスーツへと流す。そう言えば考えていなかった。
「えーと、流石に猫は遠慮したいですね」
「人魚ですものね☆」
「うーん、鳥なんてステキですよね？ 飛べるんですよ♪」
「でも、飛んでる途中で脱げたりしないかしら？」
頬に手を当て、不安がるシャイラ。確かに空中で脱げたら大変だ。そもそも飛べるのだろうか？ 否、スパイ目的で製作されたロストテクノロジーの賜物である。安全が懸かっている以上、引き下がる訳にはいかない。
「大丈夫です☆ 一週間連続使用可能なんですから♪ 地上に一週間も遊びに行かないですよね？」
人差し指を立てて何度目かのウインクを見せて微笑む。どうやら本日の必殺技と決めたらしい。
「そうですね、それでは適当に選んじゃいましょう☆」
――適当、ですか？
「そ、そうですよ。試着ですし、適当に選んじゃいましょう♪」
ともあれ、何とかスーツを着てくれるようだ。
「えっと、それじゃ服は脱がなきゃ駄目ですね」
「‥‥みなもちゃん？ 気になったのですけど‥‥下着も、ですか？」
ちょっと恥かしそうにシャイラは訊ねた。みなもは人魚から人間へと変化する度に裸になっているから抵抗は少ないが、彼女にとっては別だろう。
「素肌の上からとなると、そうですね。大丈夫ですよ、融合するんですから」
とは言え、みなもとて詳しく分かっている訳ではない。それでもロストテクノロジーの賜物であるからには問題ないだろう。うん、そう信じたい所だ。
「そう、ですか？ でしたら構いませんけど‥‥」
「はい☆ サクサクいきましょうね」
先ずは率先してみなもが衣服を脱ぎ始めた。不安がる相手をその気にさせるには、効果的な場合もある。いつものセーラー服のような衣を一気に脱いでみせた。次にスカートを落とし、スラリとしたしなやかな白い足が露となる。後は下着と、手を掛けた少女はピタリと固まった。
「‥‥シャイラさん、見ていられると脱ぎ難いんですけど」
眉をハの字に苦笑するみなも。実は先ほどからシャイラに、じぃ〜〜ッと見られていたのだ。
「だって、みなもちゃん、とっても綺麗なんですもの☆ ささ、私の事は気にせずに♪」
「そういう訳にはいきません！ シャイラさんも脱いで下さい。じゃないと、あたしが脱がしますよ？」
襲い掛かるようにおどけて見せると、金髪の少女も慌てて衣服を脱ぎ始める。ぱさりパサリと静寂の中に服が床に音を響かせてゆき、二人の少女は一糸纏わぬ姿となった。互いに頬を染めて瞳を交差させる中、みなもがゆっくりと口を開く。
「それでは、試着しましょう」
「‥‥え、えぇ」
スーツを広げてみると、上下一体型のタイプだった。分かり易く例えれば毛皮のコートに近いだろうか？ 手首と足首より先は手袋や靴下のようになっており、装着をスムーズに行う為には、広げたスーツの上に腰を下ろして、足から入れてゆくのが楽だろうと実行に移した。
「先ずは、足首から先を入れましょう。それから下半身のスーツで素肌を包みます。後はシャツを着るように手袋状の部分に手を入れて‥‥あぁッ、両手を入れちゃ駄目ですよ！ 片腕から入れてスーツを被せて、次にもう片方の腕を入れて被せて、最後に躰を包んで上半身は完了ですね」
「‥‥なんだか、融合って感じじゃありませんね」
「慌てないで下さい☆ 次に頭部を被ります。このゴムで出来たようなやつですね。はい、立ちましょう！ ‥‥シャイラさん、立てますか？」
ジタバタと両手足をバタつかせる少女に、ちょっと笑みが込み上げてしまう。中途半端に着ぐるみ状態なだけに、滑稽だ。何とか手を貸して立たせると、最後の仕上げに取り掛かる。
「それでは最後に、備え付けてあるスイッチを押します」
みなもは説明しながらスイッチを押し込んだ。刹那、ピッ☆ と高い音が鳴ると共に、内部の空気が一気に抜かれ、冷たいジェルのようなものがピッタリと密着する感覚に襲われた。ひんやりとした粘液が全身を包むようで、ピクンと少女達の躰が未知の感覚に跳ねる。
「んッ‥‥なんか、変な感じですね。海草か海月が吸い付いたような‥‥。えっと、後は頭部を融合させます。これも冷たいんでしょうね‥‥えいっ！ あっ‥‥」
予想外に顔を包み込む冷たさは心地良かった。こうして、時間は多少費やしたものの、二人の少女は半獣人と化したのである。
「まあ☆ みなもちゃん、すっかり半獣人になっていますよ♪」
「シャイラさんこそ‥‥う、この匂いって‥‥」
融合が完了してハシャイだのも束の間、何やら生臭い匂いが内部から放たれ、慣れない感覚に二人は顔を顰め合う。因みに生臭いといっても魚のものとも違い、その辺は実際に動物の匂いを嗅いでみると分かるかもしれない。
「みなもちゃん細くて可愛らしいわ☆ なんか、私って太って見えません？」
「そんな事ないですよ、ちょっと胸が強調されているだけですから」
みなもはスマートな体型で、半獣人スーツに身を包んでもそう際立った変化は見られなかった。対してシャイラは、肉感的と例えるのが正しいだろうか。
「さて、シャイラさん、もう脱ぎますか？」
細い腰に手を当て、みなもが先を促がした。シャイラは、頬に手を当て、困惑の色を見せる。
「うーん、そうですね。このまま地上に行って見ましょうか？」
「えっ？」
――誰ですか、さっきまで恥かしがっていた娘は‥‥。
「えっと、どうしようかなぁ？」
このまま地上に出て良いものだろうか？
先ずは側近に断わられたとして、それでも彼女が黙って行ったと仮定しよう。
戻った時に気付くだろうか？ まさかスーツを脱いで証明しなければならないとしたら‥‥。
みなもの頭の中はフル回転で様々な状況を想定しては悩んでいた――――。
「‥‥はい、みなもさん☆」
カタリーナは瞳を開くと、胸元に当てた一枚のカードをみなもに差し出した。
「みなもさんの履歴を更新いたしました。『純潔種狩り対策として「半獣人スーツ」に身を包む人魚のみなもと幼馴染。これで陸にあがれば安全なようだ。欠陥が無ければ‥‥』って感じです☆」
相変わらずな履歴ですね‥‥。しかも欠陥って‥‥。
「はい、ありがとうございます」
流石に三度目となると、何となく慣れたような気がする。みなもは更新されたカードを受け取り、ふと裏表を見回す。今回は更なる進化はなさそうだ。
「それでは、みなもさん、ごきげんよう☆」
カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、みなもは瞳を閉じた――――。
＜人魚の生活を続ける＞ ＜目を覚ます＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
【1252／海原・みなも／女性／13歳／中学生】
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■ ライター通信 ■
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この度は継続発注ありがとうございました☆
ファンレターありがとうございます♪ 切磋巧実です。
お返事が遅れていて申し訳ございません。前回の感想を頂けてホッとしていました。
しかも風邪をひいたとはいえ、ノベルも遅れてしまい大変申し訳ございませんっ。
今回は試着とさせて頂きました。これには理由があり、どんな半獣人スーツに身を包むのか分からなかったからです。多分、シャイラの事ですから「では、みなもちゃんと同じのを☆」なんて言う可能性があり、みなもさんの設定からでは読み取れず、外見の事は意図的に伏せて描写させて頂きました。次回があれば決めて頂けると良いかなと。勿論、お任せもありですが、イメージ崩したくないので一応確認です。
それにしても半獣人スーツですか（笑）。そしてまた使用目的等を考慮すると新たな設定が！ 次第に水面下な状勢が浮かび上がって来たりしています。さて、次回があるとするなら、どうなりますでしょうね？ 半獣人スーツで楽しむのか、それとも欠陥でエライ目に合うのか、はたまた新たな展開か。勿論、別の世界で新たな物語を綴るのも自由です。またカタリーナに聞かせてあげて下さいね。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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