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■CallingU 「脚・あし」■

ともやいずみ
【5777】【焔乃・誠人】【高校生 兼 鉄腕アルバイター】
 当主に背後からなにか囁かれる。当主は頷いた。
「では、ここへ呼べ」

 座敷に正座をしていたその者は深く頭をさげる。
「お呼びでしょうか、当主」
「今は当主ではない」
「え?」
「四十四代目は、任命した」
 その言葉に目を見開き、怪訝そうにしつつ「そうですか」と呟く。不満のあるような声音だ。
「もっとも……放棄してしまったようだがな」
「……?」
「西の『逆図』は完成したようだの」
「ここに」
 空中から取り出した巻物を自分の座るすぐ前に置く。
「……よし。では続けて東の『逆図』を完成させてくるのだ」
「了解しました」
「四十四代目の作った『逆図』は失敗しておったのでな。おまえは必ずや完成させよ」
 厳しい声に、神妙に頷いた。
「…………必ずや、完成させて参ります。一年前の失敗は、繰り返しません」



 ちりん、と小さな鈴の音がする。
 足音がこちらに近づいて来る。
 そこは…………東京。
「妖魔……憑物の気配……」
 その人物は小さく呟いてから唇に笑みを乗せた。
CallingU 「脚・あし」



「どこかに素敵な出会いは落ちてないものか」
 嘆息混じりに呟いた焔乃誠人はとぼとぼと歩いていた。
 すでに夜更け。バイトが長引いてしまったためだ。
「出会い出会い、と」
 地面をちらちら見ながら歩く誠人は、明らかに落し物を探しているように見える。もちろん落し物などない。それに『素敵な出会い』とやらも落ちているわけがなかった。
 暗い夜道を歩き、街灯の明かりを頼りにしていたが唐突に足を止めて大仰に溜息をついた。
「どこかに落ちていないものか……綺麗な女性が」
 はあー。
 と、誠人はぴくりと反応して鼻をひくつかせた。
(……血のニオイ?)
 それに妙な気配を感じる。
 風に乗ってくる血のニオイに、誠人は足をそちらに向けた。
(枷は、外しておいたほうがいいか……)
 何かあってからでは遅いから。



 鈴の音。
 ちりんと空間に響かせて彼女は地面に着地した。
 後頭部につけているリボンと、袴が揺れる。
 彼女はゆっくりと姿勢を正し、瞼を開く。黄と黒の両眼は鋭くソレを見遣った。
「憑物よ」
 囁く。
「おまえを退治に来た」



 歩いていたはずだったのに、いつの間にか走っている誠人であった。
(な、なんで走ってんだろ俺)
 おかしいなあ。
 疑問符を浮かべつつ疾走する誠人はびた、と足を止めた。勢いによって体が前に出たがなんとか堪える。
 目の前で妙な光景が展開されていた。
 漆黒の刀を片手に戦う一人の少女がいる。
 袴と着物をなびかせ、舞うように戦う少女が。
 彼女が戦っているのはこの晴れた月夜に不似合いな雨合羽の男だ。
 男は長い爪で彼女を殺そうとしている。だが彼女は刀で弾き、距離を詰めた。
(き……!)
 誠人の視界が光で溢れる。かなりまぶしい。
(綺麗だ……!)
 すでにフィルターのかかった誠人の視界からはあの少女が薔薇の花びらを撒き散らしているように映っていた。
 少女は男の片腕を斬り落とし、一瞬で首を刎ねた。
(うわっ)
 思わずのけぞる誠人。
 首は空中に飛び、どしゃんと落ちて地面に転がる。濁った目玉が誠人のほうを向いていた。
(ぎゃー!)
 硬直している誠人は、その首が一瞬で消えてしまったのに驚く。
 見れば少女はどこからか取り出した巻物を閉じていた。
 手に持っていたはずの武器もない。おかしなことだったが誠人には全くもってどうでもいいことだった。
 彼はつかつかと彼女に近づき、がっとその手を掴んで見つめる。
 彼女は不思議そうに誠人を見た。
「生まれた時から好きでした!」
 しー…………ん。
 遠くで「うー、わんわん」と犬が鳴いている。
 真剣な目で見つめてくる誠人。少女は唖然としている。
「俺は焔乃誠人! お名前教えてくれませんか!」
 ずいっと顔を近づける誠人の勢いに負けたのか、彼女は口を開く。可憐な唇だなあなどと誠人は思っていた。
「と、遠逆日無子……で、す」
「日無子!」
 さらにずいっと近寄ってから体を離す。うっとりしている誠人は感動に震えていた。
「なんて可憐な名前! お似合いだ!」
「あ、あのぉ……大丈夫?」
「大丈夫!」
 ぐるんと日無子に向き直る。ああ、このちょっとひんやりした手もいい……!
「日無子かぁ……じゃあヒナちゃんだね!」
「へ?」
「え、嫌!? なら日無子って呼び捨てるよ! 呼び捨てちゃうよ! それでいいんだな!」
 一方的に話を進める誠人は興奮しすぎて日無子に全体重をかける勢いで迫っていた。
「よろしくお願いします、日無子さま!」
 もはやなにを自分で言っているのかもわかっていない。
 誠人はささっと日無子から離れて頭をさげ、片手を差し出した。なにが「よろしく」なのか。
 手を握ってくれればお付き合いOKだ。と、誠人はドキドキしていた。
「あの、焔乃さん」
「う、うん!」
 そのままの姿勢で待つ誠人は、彼女の足を見ている。ちょうど彼女のブーツが見えていたのだ。
「酔っ払ってる? 未成年は飲酒は禁止されてるけど」
「じょ、冗談じゃないって!」
 顔をあげる誠人は、目の前に立つ日無子がくすくす笑っているのを見てぽーっとのぼせてしまった。
 そうなのだ。
 誠人は一目惚れをしてしまったのだ。この遠逆日無子という不思議な少女に。
「はっ! ま、まさかあの、もう誰かと付き合っているとか……!」
 可能性の一つに気づいて誠人は一気に青くなった。
 そうだ! こんな可愛い娘さんに彼氏がいないとかそんなこと!
 日無子は空を見上げて「うーん」と呟くと、笑顔で言う。
「いるわ」
「うわーっ!」
 頭を抱えてその場に「どしゃあ」と崩れ落ちる誠人。
(ま、またも負けたーっ!)
 なにに負けたか不明だが、誠人は心の中で絶叫する。だが。
 こんな些細なことで諦めるほど誠人は素直ではない。
 がばっと立ち上がって日無子の手を握り締めた。
「振り向かせてみせる! ヒナちゃんを!」
「がんばって」
 語尾にハートマークがつきそうなセリフに「のぎゃー!」と悲鳴をあげてまたもその場に崩れ落ちた。
(痛恨の一撃……! 望みが薄いってことを遠回しに言ってくるとはーっっ!)
 ひとしきり悶えてから、また立ち上がる。
「あ、復活した」
 日無子の呟きなど耳にも入っていない誠人は彼女をキッと見た。そしてだー、と涙を流す。
 突然のことに日無子は驚いて目を丸くした。
「ひなちゃんのことがすきなんだー……」
「…………」
 えぐえぐと泣く誠人を前に、日無子は唖然とする。
「あの、焔乃さん」
「はい……」
「嬉しいけど……人生を諦めるのよくないわよ?」
「ひぇ……?」
 彼女の言っていることがわからず、誠人はハンカチを出して涙を拭った。
 そして拳をつくって強く言い放つ!
「なにを言うんだヒナちゃん! これからハッピーな日々が始まるんだ! 俺とキミで!」
「うーん……ハッピーにならないと思うけどなぁ」
「なんで?」
 疑問符をたくさん浮かべる誠人。
 日無子は肩をすくめる。
「あたし、退魔士だもの。危険と隣り合わせだから」
「なるほど……でもデンジャラスなほうが恋も盛り上がると言うが!」
「オバケばっかり相手にしてるんだけど……」
「おばけ?」
「さっきの、あたしが倒したようなヤツ。悪霊とか、妖魔とか、悪魔とか……まあ人間にとったら良くないものね」
「…………」
 無言になる誠人は日無子を見つめた。
「あたしのそばにいると巻き込まれると思うから、悪いけど新しい恋の相手を探したほうがいいわよ?」
「巻き込まれてもいい……!」
 断言した誠人を、彼女は不思議そうに見てから呆れる。
「言っておくけど、あたし、あなたを助けないわよ」
「自分の身は自分で守る!」
「……早死にしそう」
 やれやれと肩をすくめる日無子はやがて小さく微笑した。
 誠人が「かわいい」と感動していることなど知らず、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「まあ止める権利はあたしにはないからどうとも言えないけど」
「愛の障害なら喜んで受けるとも!」
「じゃあね」
 ひらひらと手を振って帰ろうとする日無子に、誠人は「うわあー!」と声をあげる。慌てて追いかけた。
「ま、待ってくれヒナちゃん!」
「あれ? まだなにか用事?」
「まだなにか用って、ひどい……」
「ふふっ。おもしろい人だね、焔乃さんて」
 楽しそうに笑う日無子に、誠人は頬を染めて安心する。
 嫌われてはいないようだ。
「送るよ! 夜道は危ないから」
「ありがとう。でも大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
「?」
「ヒナちゃんは可愛いから痴漢が狙う!」
 そのセリフにぽかーんとした日無子は、大爆笑した。おなかをかかえて笑う彼女は苦しそうだ。
「あはは……! 痴漢! チカンね!」
「俺、おかしなこと言った?」
「ふぐ……。お、おかしいわよ! あたしが痴漢に襲われるわけないじゃない!」
「襲われるさ!」
「そんなことするヤツがいたら、ぶちのめしてやるわ」
「いや! 俺がぶちのめす!」
 誠人の言葉にまたもケラケラと日無子は笑った。よっぽどおかしいらしい。
 並んで歩く二人。
 誠人はなんだか嬉しくてたまらない。女性をナンパしてはフラれ続けてきた人生だったが、やっとここで光明が射してきた。
 春だ。人生の春がやってきた。
(こんな可愛い子が俺をフらないなんて……! 人生も捨てたもんじゃない!)
 どちらかというとあまり相手にされていないのだが、そんなことは誠人の知ったことではない。
 邪険にしない日無子はまさに天使であった。
「あのね」
「え? なに?」
「ヒナちゃんて呼びにくくないの? 日無子ちゃんのほうがゴロがいいんじゃないかな」
「え。嫌?」
「嫌ってわけじゃないけど……」
 どこか苦笑に近い笑みで言う日無子。
「まあいいか。好きに呼んでくれても構わないし」
「あ、あのさ、ヒナちゃんはどこの高校?」
 高校の場所を知っておけば会いに行けるし、偶然を装うこともできる。誠人に彼女はさらりと言う。
「高校には行ってないの」
「ええーっ! そんな……高校生ライフが……!」
「お仕事が大変なの。ごめんね」
 にこっと微笑む日無子は微かに反応して視線だけ動かす。それに誠人は気づかない。
 足を止めた彼女を振り向く。
「どうかした?」
「用事ができたから行くね。今日は面白かった。ありがとう焔乃さん。
 きっと可愛い彼女ができるわよ。がんばって」
「ええー!?」
 驚愕と悲痛の声をあげる誠人に彼女は背を向けて走り出した。来た道を戻る日無子はとん、と軽くジャンプする。
 ちりーん、と音がした。
 同時に彼女の姿が暗闇に消える。仰天する誠人であった。
 一人残された誠人は決意する。
「絶対冗談だって思ってる……! 本気だってこと、みせてやる!」
 彼女と縁があるというなら、きっとまた会うことだろう。
「うん! 相手を知っていくことから始まるもんだ!」
 まだ彼女のことをなにも知らないのだから!



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5777/焔乃・誠人(えんの・まこと)/男/18/高校生 兼 鉄腕アルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、焔乃様。ライターのともやいずみです。
 いきなりの一目惚れ、かっこいいです!
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!