■ボトムラインアナザーextract私に教えて下さい!■ |
切磋巧実 |
【0471】【グスタ・―】【オールサイバー】 |
――フェニックス。
アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
――ボトムライン。
かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――
●キサトの決意
「なにぃ! キサトを外に出しただと?」
白衣を纏ったサングラスの男が声を荒げた。サングラスに反射して映し出されたのは、白いスーツに身を固めた一人の青年だ。
「キサトちゃんはバトルに勝とうと真剣なんです! それもこれも、貴方の期待に応える為なんですよ!」
「それが外に出した事の理由になるのかね?」
「‥‥自分を高めてくれる者を探しているんです。サーキュラーは持ち出しません!」
「当然だ!」
「キサトちゃんに警護も付けましたし、私も直ぐに向かいます」
「‥‥ボトムラインに勝ちたいだと? 訓練をやっても駄目ではないか!」
「‥‥何かが足りないのではないでしょうか? 本物のボトムバトラーなら、何かを引き出してくれるかもしれません」
青年は怯む事なくサングラスの男を睨みつけた。苦虫を噛んだような表情を浮かばせると、白衣を翻して背中を向ける。
「世間知らずの小娘を外に出しおって、せいぜい傷物にされぬようにするのだな。キサトの代わりなぞ、直ぐに見つかると思え!」
その頃キサト・テッドは道端で佇み、行き交う人波に声を掛けていた。
「あ、あのぉ、ボトムバトラーですか? あ、ごめんなさい」
訊ねた時の、とびっきりな笑顔(本人談)は、返事を聞いた後に掻き消える。そんな繰り返しを何度も続けていたのだ。赤毛の少女は豊かな胸元に手を当て、深い溜息を洩らす。
「おっかしいなぁ‥‥この人ならバトラーだって思ったんだけどなぁ」
――何が基準だ、キサトよ。
少女の師匠探しは尚も続く。
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ボトムラインアナザーextract私に教えて下さい!
――フェニックス。
アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
――ボトムライン。
かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――
●出会い
フェニックスの町には、ボトムラインコロシアムを中心とした大きな商店街がある。
灼熱の陽光から身を守るように建てられた商店街は、ソーラープラントの復旧により、快適な温度でショッピングを楽しめるようになっていた。今日も多くの人々が溢れ、買い物や食事を楽しむ。
そんな平穏を絵に描いたような一郭を視界に収め、『彼』はゆっくりと前進していた。歩く度に視界は歩行に合わせて上下し、目に映る光景に様々な情報がデータとして羅列されてゆく。行き交う人々は彼に顔を向けるなり驚愕と動揺の色を浮かばせる。中には慌てて逃げるように道を譲る者もいた。それでも子供達は尊敬と好奇心に満ちた瞳を向け、羨望の眼差しを注いだものだ。
「ここがフェニックスの町か。かなり復旧が進んだものだな」
グスタは歩きながら四方に視界を流して感嘆の声をあげていた。その時だ――――。
『あ、あのぉ、ボトムバトラーですか? あ、ごめんなさいッ!』
人波が行き交う道端から焦ったような戸惑う少女の声が流れた。何気に視界を流すと、ボリュームのある癖っ毛の赤いショートヘアの娘が、慌てた様子で両手をパタつかせる姿が映る。どうやら謝っているらしい。刹那、男の怒鳴り声が響き、彼女はビクッと肩を跳ね上げていた。
「ごめんなさいで済むと思っているのかよお嬢ちゃんさぁ!」
「あんたが声を掛けたから時間がズレちまったじゃねーかよ!」
「あの、だからごめんなさいって‥‥それに、そんなに時間なんて、経って、ないんじゃ‥‥」
弱気な抵抗ほど危険なものはない。少女は上目遣いでチラチラと視線を流すが、彼等に弱い獲物と確信させてしまったようだ。強引に娘の腕を掴むと、何処かへ連れて行こうとする。
「は、放してよぉ! わたしは謝ったじゃないッ、ちょ、やぁッ‥‥!?」
あどけない風貌をあげたまま少女は抵抗の力を緩めた。男は今がチャンスと唇を歪ませたが、もう一人の男が彼女の赤い瞳の先を追うように顔を向ける。刹那、短い悲鳴が洩れた。男の瞳に映ったのは、武骨なシルエットに包まれた無機質の単眼だ。人型を模っているが、金属の肢体を輝かす姿は、まるでMSに酷似している。
「嫌がる女の子を無理矢理は見逃せないな」
グスタが口を開くと、男達は脱兎の如く逃げ出した。見るからに勝てる相手ではないと悟ったのか、はたまた少女が探しているボトムバトラーが乗ったMSと思ったのか。いずれにしろ、赤毛の娘は窮地を助けられた事に変わりない。
「あ、あの‥‥ありがとうございます」
「気にするな。困ってる女の子を助けるのは王道だ!!」
グッと拳を固め、何故か『王道』に力を入れるグスタ。少女は見上げたまま暫し沈黙していた。雑踏の中、無言で見つめ合う風景は、かなり異様に見えた事だろう。
「‥‥それにしても、何をしていたのだ? 困っているなら聞いてやるぞ」
「え? でも‥‥ボトムバトラーじゃない、ですよ、ね?」
一見MSにも見えるが、大きさが小さい。かと言って、このままMSに搭乗する姿も想像できない。否、不可能だ。しかし、グスタの視界に映る少女は困惑の色を消していない。
――ならば助けるしかないじゃないか!
「確かに俺はバトラーではないが傭兵だ。少し前は戦場にいた。それでも聞かせてくれないか?」
視界に映る少女は円らな瞳を更に見開き、あどけない風貌を近づけると、豊かな胸元で両の拳を固める。
「わたし、キサト・テッドといいます。わたしに、勝てる戦い方を教えて下さい!」
●プロ(傭兵)の戦い方
望遠カメラ越しに映るのはグスタの姿だ。キサトは今ブルーナンのコックピットの中、彼の指示を待っていた。程なくして通信機からぶっきらぼうな男の声が飛び込む。
『戦闘で重要なのはダメージ勝ちではなく自身が無傷で対象を無力化する事だ。まあ、MS戦では使える武器も作戦も限られるからな‥‥本来は搭乗者を確実に殺す事が一番なんだが今回はそうもいかん』
――搭乗者を確実に殺す事が一番‥‥。
以前にも教えられた言葉だ。銃口を向ける覚悟‥‥。
マスターアームの中でトリガーに掛かる指がピクッと跳ねる。
『武器はアサルトライフル。俺はペイント弾、おまえは実弾を使え。課題は「相手の武器を破壊する」だ。俺はブースターを使って逃げながら戦う。おまえは機体の旋回性能のみで俺の武器を破壊してみろ』
「えっ? 武器を、ですか?」
少女は聞き返した。てっきりグスタ本人を狙えと指示されるものと思っていたのだ。
『ボトムラインのルールは知っている。重要なのは無力化させる事だ』
「あの、旋回性能のみ‥‥って、移動するなって事ですか? あたしは的になっちゃいます!」
ペイント弾とはいえ、動かなければ反撃するだけの的に過ぎない。
『移動しながら当てられるのか? 安心しろ、俺は移動するが武器を隠したりしない。ペイント弾
は後からどれだけダメージを受けたか知るに良いだろう。食らいたくなければ俺の武器を早く破壊するんだな』
「そんなぁ‥‥」
『開始するぞ!』
訓練の始まりをグスタが告げると、キサトの視界から一気に掻き消えた。望遠レンズ内にターゲットの移動を示すカーソルが赤く点滅する。少女は狭いコックピット内で腰を捻り、視界を流す。
「いた! わッ、もう撃って来てるよぉ」
赤い瞳を研ぎ澄まし、トリガーを絞る。照準マーカーがグスタに重なった刹那、彼は背中のブースターを点火させ、青白い尾を引いて再び視界から消えた。再び視界を揺れ動かし、マーカーに標的を重ねると、今度はブースターを点火させたままゆらゆらと小刻みに滑空して、一気に反対方向へと旋回する。視界に映るのは砂飛沫の跡のみだ。
「速い! うぅ〜、動くペットボトルを撃つ練習もやれば良かった‥‥」
『どうした? 流れ弾が俺に当る気配もないぞ! マーカーなど当てにするな。先を予測するんだ』
「先を、予測‥‥あっ」
望遠カメラに捉えるグスタは同じ動きを繰り返していたのである。戦闘にはスタイルがある場合も少なくない。得意を戦術とは自信と共に自然に晒してしまうものだ。否、今回の場合は訓練としてヒントを与えていたのかもしれない。キサトは次に来るであろう武器の位置を予測してトリガーを絞る。乾いた銃声が響くと共に立て続けに弾丸が吐き出され、彼の銃が黒煙をあげると、ブースターを点火させ、得物を手から引き離した。刹那、爆炎が宙で浮かび、武器の破壊を示す。
「や、やったぁ!」
しかし、グスタは地表スレスレを滑りながらブルーナンへと接近を続ける。
『相手の武器を破壊したら次は格闘だ。武器は使わん。剛性を計算して打撃の進路を開き確実に有効打を叩き込め!』
「格闘ですか♪ よーしっ!」
キサトの声は何故か嬉しそうだった。きっとコックピットで笑みすら浮かべているに違いない。
『なんだ? 自信でもありそうだな?』
「格闘は習いましたから! いきますよぉ!」
ライフルを放り投げ、ブルーナンはファイティングポーズを見せる。腕をやや上げて拳を固める姿は格闘家の構えだ。グスタがオールサイバーでなければ、口元を楽しそうに緩めている事だろう。視界にブルーナンが迫る。
『えぇいッ! そこぉッ!』
――ほぉ‥‥。
水を得た魚の如く、視界に映るブルーナンは鉄拳を繰り出し、薙ぎ振るって見せた。直線的な攻撃だけではなく、曲線的なフックを放つ機体に、グスタは感嘆の声を洩らす。
「確かに銃よりは心得があるようだな。だが、カウンターという言葉を知っているか?」
小刻みにブースターを点火させ、ブルーナンの鉄拳を回避すると同時に攻撃を叩き込んだ。視界に映るMSはフックの体勢に入っており、鈍い衝撃と共に大きくよろけていた。形勢は一気に逆転する。
「ガードだけじゃ特訓は終わらないぞ! 立て直せ! ランスシューターなら今頃は串刺しだぞ!」
『ッそんなこと言われてもぉ‥‥わっ! やんっ!』
「やれやれ、また弱音か? こんなじゃ教えてくれた奴ががっかりするだろうな」
『えっ?』
だが、キサトの駆るブルーナンは変わらず腕でガードの体勢を貫いていた。グスタの視界に、叩き込む自分の腕と、MSの装甲から塗料が剥がれ散る光景が暫らく映る。刹那、体勢を低く構えると同時、彼は強烈な衝撃を感じた。直ちにブースターを点火させ、空を向いた視界を戻す。そこには鉄拳を振り上げた機体が映し出された。
「ショートアッパーか?」
『あ、当った‥‥当りましたよね♪』
どんな表情をしているか思い描けるような声だ。
「あぁ、特訓は終了だ」
まだまだ甘いが、一日でこれ以上の成果を求めるのは難しいだろう――――。
●エピローグ
「ありがとうございました☆」
また何かあったら厄介だと、グスタはキサトを出会った場所まで送った。
少女はタタタッと駆け出すと、踵を返して微笑みを浮かべる。彼は視界をズームさせて穏やかな赤い瞳を捉えた。ふわりと赤毛を揺らし、小首を傾げて彼女は口を開く。
「グスタさん、まだこの町にいるなら、バトル見に来て下さいね☆」
「そうだな、仕事が無ければ観戦させてもらおう」
――仕事が無ければ、か。その時はボトムラインに出場するのも悪くないか‥‥。
「はい☆ それじゃ、おやすみなさい♪」
「あぁ、おやすみ」
キサトは振り返って手を振りながら駆けてゆく。
グスタは視界限界まで少女の後ろ姿を見つめていた。
偶にはこんな一日も悪くない――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0471/グスタ・―/男性/45歳/オールサイバー】
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■ ライター通信 ■
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この度は御参加ありがとうございました☆
お久し振りです♪ 切磋巧実です。遅くなり申し訳ございません。
正直、一気に発注頂いた時には、えぇっ!? と思ったのはヒミツです(いえ、先ずは一本確認してから次の発注かなと)。お目に留めて頂き、ありがとうございます。
外伝への参加とても嬉しく思っています。
始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
さて、いかがでしたでしょうか? 「困ってる女の子を助けるのは王道だ!!」なんて言うキャラとは思ってもいませんでした(笑)。かなり難度の高い課題でしたが、グスタさんから評価Sは貰えたでしょうか? 因みにグスタさんがボトムラインに参戦する為には、異種混合バトルになりますね。どうもシルエットから自然に出場できそうですが、オールサイバー。時々忘れそうになります。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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