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■悪ガキ達とハロウィン■

朝霧 青海
【4984】【クラウレス・フィアート】【「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
「トリック・オア・トリート!!」
「いい加減にしろやー、てめえらーっ!!」
 カラースプレーを吹きかけられ、虹色になった霧町・氷(きりまち・ひょう)の叫び声が、ペンション「霧の海岸」に響き渡った。
「馬鹿なお兄さんだよね」
「早く逃げればいいのにね」
「のろいんだよナァ、動きがサ」
 仮装した子供達に馬鹿にされ、氷は苦笑いをした。
「ハロウィンだからってなあ、イタズラにも限度ってモンがあるだろ」
「別にー。お兄さんがお菓子くれないのがいけないんじゃん」
 ボロボロの服を着て、顔を青色の塗料で塗りたくってゾンビの仮装をした男の子、深山・香月(みやま・かづき)が笑いながら言うと、氷の頭をピコピコハンマーで叩く。
「何でお菓子くれないのよ。霧町のおじちゃんとおばちゃんは、お菓子こんなにくれたのに」
 そう言って、黒い悪魔の羽と尻尾をつけデビルの格好をした女の子、赤井・るな(あかい・るな)がポケットに入れたキャンディーやチョコの山を氷に見せ付けた。
「てめえらなんかにやる菓子はない!!」
 氷はるなを睨むと、彼女が見せたチョコをひとつ奪い取り、自分の口に入れてしまう。
「あ、ひどーい!!お菓子とった!」
「子供からお菓子取り上げるなんて性格悪!だから、いつまでたっても彼女が出来ないんだヨ」
 白い布を頭から被って、目の部分だけ穴をあけて前が見えるようにした、ゴーストの長張・光輝(ながはり・こうき)が氷に冷たく言う。
「うるせえっ!それにガキのくせにうざってえ事言うんじゃねえ!」
「何ムキになってるの、本当の事言っただけジャン」
 光輝達は顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「さ、そろそろ帰ろうよ。お菓子くれないお兄さんなんてシカトー!」
 香月がそう言うと、子供達は笑いながら氷の元を去って行く。
「来年もくるから、ちゃんとお菓子用意しておいてねー!」
「もう2度と来るんじゃねえ!!!」
 だが、氷のその叫びも、子供達の笑い声によってかき消された。



「もう散々だ、何で俺ばっかりこんな目に合うんだ」
 Y・Kシティの公園のベンチで、氷の話を聞き、西野・皐月(にしの・さつき)は苦笑をした。
「今話していたのが、去年のハロウィンの出来事?っていうか、お菓子あげればいいじゃない、そんな高いものじゃないんだし」
「誰が悪ガキトリオに菓子なんてやるか!」
 氷がムキになるのを、皐月はただ苦笑するしかなかった。
「今年も同じ目に合うの決定ね」
「あぁ!?何か言ったか?」
 皐月のぼそりとした呟きに、氷が過剰反応する。
「で、どうしたいわけ?」
「だからさ、毎年俺んトコの親戚がやっているペンションで、ハロウィンパーティーをやるんだけどさ、先週俺のおばさんがぎっくり腰になっちまって、動けなくなったんだよ。さらに運が悪い事に、おじさんも風邪こじらして緊急入院中だし、俺一人じゃパーティーの準備は出来ねえわけ」
「なるほど。じゃ、お手伝いが欲しいってわけね」
 皐月がそう答えると、氷はどこか遠い目をして返事をする。
「それはもちろんだが、あの悪ガキトリオをどうにかしてくれるヤツが来るの希望だな。ヤツらに、イタズラにも限度があるってもんを、教えてやってくれよ。頼むからさ」
 氷の顔は、すでに疲れていた。
『悪ガキ達とハロウィン』



「またここへ来たでちゅよ!」
 ペンション「霧の海岸」に、クラウレス・フィアート(くらうれす・ふぃあーと)は再びやって来た。
 夏にこのペンションでちょっとした騒動があったのはもう、2ヶ月程も前の事。クラウレスはその騒動を解決する為にこのペンションへ足を運んでいるが、その時はかなり蒸し暑く、太陽の光で肌が焦げそうな思いをした。今は太陽の力も弱まり、薄着では肌寒さを感じる程であった。
「ああ、あんたか。覚えている。あの時は色々迷惑かけたな」
「めいわくだなんておもってないでちゅよ。きゅうけつきしゃんも、ひょうさんもぶじだったから、よかったでちゅ」
 クラウレスが、氷に笑顔で答えた。
「そうか。しかし、またここで会うとは思わなかったぜ」
「このぺんしょんで、はろうぃんぱーてぃーをやるときいたのでちゅよ。だから、またきてみたんでちゅ」
「なら、早速あがってくれ。まだ準備でせわしねえけどな。大ホールのどっかで待っててくれよな」
 ペンションの入り口から、メイン会場である大ホールにかけてカボチャや蝙蝠、ガイコツやおばけといった飾り付けがされており、先日の依頼の時とはまったく違う雰囲気になっていた。
「まだバタバタして落ち着かねえが」
「きにしないでちゅよ。なんなら、わたちもなにかてつだいをするでちゅし」
 クラウレスがそう答えると、氷が真剣な表情をして振り返った。
「なあ、子供の面倒を頼んでもいいか?俺さ、親戚の代わりにやらないといけねえこと、沢山あるからよ。そこまでできねえわけよ」
「こどものめんどうでちゅか?もちろんでちゅよ。いっちょにあそぶでちゅ」
「やってくれるんだな!」
 氷の表情は、その時やたらに明るく輝いていた。
「じゃ、頼むぜ?まあ、イタズラ好きな連中だからよ。ちゃんと叱ったってかまわねえし」
 氷の案内で大ホールに足を踏み入れたクラウレスは、そばの椅子を勧められたので、しばらくそこに座っていた。すでに小さな魔法使いの格好をしているクラウレスは、飾り付けの中途半端な部屋の様子を見たあとに、そばにあるダンボールへと視線を移した。
「あ、これは」
 ダンボールの中に、ハロウィンのものであろう飾りが詰まっていた。クラウレスはその箱の中身を取り出すと、部屋の飾り付けを手伝うことにした。
「あら、あの方は」
 飾り付けを黙々とやっていると、急に聞いたことのある声で呼ばれた。振り向くと、そこには以前の夏の騒動の依頼で一緒になったマイ・ブルーメ(まい・ぶるーめ)が立っていたのであった。
「クラウレスさんもこちらへ来ていたのですね」
「まいさん、でちゅね。おひさしぶりでちゅ」
 マイは特にハロウィンのような格好はしていないが、派手な水着を着ていたマイのことだから、また何か仮装をするのかもしれない。
「またお会いしましたね。クラウレスさんも、ハロウィン・パーティーに?」
 マイがそう尋ねるので、クラウレスが軽く頷いた。
「そうでちゅ。このぺんしょんでぱーてぃーやるってききまちて。それから、いたずらっこがでるというはなしをきいたので、そのこどもたちゅとあそんであげようと」
「イタズラっ子?」
 マイが首をかしげると、そばを通りかかった氷が答えた。
「すげえやなイタズラする、悪ガキトリオがいるんだよ。あいつらに構っていると、時間がいくつあったって足りやしねえ。俺はどうもああいうのは苦手なんだ」
「そうなんですか。氷さんは、ずっとパーティーの手伝いをするのでしょうか?」
 マイの問いかけに、氷が苦笑を浮かべた。
「ここを経営している親戚夫妻が倒れちまったからな。俺が代わりにきりもりしてるんだよ。だから、子供の相手なんてしている暇ねえのよ、俺には」
「それは大変そうですね。それなら、私も氷さんのお手伝いをしますよ。食事の給仕とか、片付けとか、人手が要るでしょうから」
 にこりと笑顔で、マイが丁寧に言った。
「そうか?そりゃ助かる。それなら早速頼む。もうすぐ、近所の連中がこのパーティーにやってくるからな」
「わたちは、こどもたちゅがくるまで、ほーるのほうでてつだいをしているでちゅよ。こどもたちゅとあそぶでちゅから」
 そう言って、クラウレスはダンボールを手にとり、再びホールの中の飾り付けをはじめた。
「出来る限りの事はいたしますので、よろしくお願いしますね」
 マイの方は氷のあとに続き、配膳や食事の盛り付けを始めたのであった。



 海の向こうから夜が訪れる頃、近隣の者達がこのペンションへとやってきた。会場内にはだんだんと人が増え、賑やかになっていく。
 今クラウレスがいるこの部屋が、ペンションの中では一番大きいのかもしれない。人も30人ぐらいは入れるだろう。部屋はゆったりと広く作られており、ガラスの張られた壁には海の景色が映し出されている。
 中央に長いテーブルが置かれ、マイが料理を運ぶのをせっせと手伝っていた。
 マイはセクシー系の魔女の格好をしていた。たまに男性客がマイを見ているのだが、マイはその視線もあまり気にしてないようであった。
 クラウレスはしばらく椅子に座り、ホールの様子をみまわしつつ、子供達はまだ来ないのだろうか、と思っていた。
「お前もここのスタッフなのか?」
 料理を出しているマイに、やや厚着をした男性に声をかけられた。
「いえ、違います。ですが、ペンションの氷さんが大変そうでしたので。手伝いをしているところなのです」
「俺も少し手伝おう」
 マイの手伝いを始めたその男性は、相澤・蓮(あいざわ・れん)と言うのだという。しがないサラリーマンで、今日は会社の関係でこのペンションに来ていたが、ハロウィンパーティーが始まる事を聞き、帰るはずの予定を変更して、そのまま宿泊を延長したらしい。
 マイと蓮は、すばやい動きで料理を次々に運び込んでいた。
「しかし、ずいぶん派手な格好だな」
 マイの衣装を見つめながら、蓮が言う。
「そうですか?」
「ああ、何ていうか、気合が入っているというか」
 黒いマントととんがり帽子はまだいいのだが、マイの服は肩が出ており、体のラインをやたらに強調している服装であった。
「これは、自分で作ったのか?」
「いえ、そうではありませんよ。私の行き付けの商店街があるのですが、そこの方々にハロウィンパーティーに参加する事を話したら、難しそうな顔をして、この服を薦めてくれたのです」
 そう言って、マイが蓮に微笑んだ。
「ハロウィンじゃそれほど露出は期待できないか、と商店街の方々が言ってましたけど、何の事でしょうね?」
 蓮が何かを言いたそうであったのは、気のせいだろうか。
「こどもたちは、まだみたいでちゅね」
 小さな魔法使いのクラウレスは、蓮に言葉をかける。
「そろそろ来るんじゃないか?」
 と、蓮が答えると、クラウレスはテーブルに置かれた時計を見つめた。
「そうでちゅね。そろそろじかんでちゅし」
「子供は3人と聞いたが、お前も入れて4人か。まとめて面倒をみてやるから」
 蓮がそう言うと、クラウレスは少しだけ笑って見せた。
「わたちのめんどうはみなくてもだいじょうぶでちゅよ。それに、わたちもこどもだちとあそぶためにここへきたでちゅから」
「ん、そか。ま、子供は子供同士の方が楽しいかもしれないしな」
 クラウレスへ蓮が返事をした時、ペンションの入り口の方から、廊下を駆け回る騒がしい音とはしゃぎ声が聞こえてきた。
「玄関の方が騒がしいですね。例の、子供達でしょうか」
 マイはそう言うと部屋の入り口から、玄関の方を覗き込んでいた。
「ハロウィンの主役の登場ってわけだ。さて、楽しく盛り上がろうな♪」
 蓮がそう言って、マイとクラウレスに笑顔を見せたのであった。



 アメリカ式ハロウィンでは、子供達が近くの家に行って菓子をもらったりするのだが、ここはペンションであるので、子供達はパーティー会場を中心にペンションをまわり歩いて、菓子を大人達からもらう事になっているようであった。
 マイは、ペンションに客が集まった後もパーティーの手伝いを続け、空いた食器やごみ等を片付けていた。蓮は飲みものを飲みながら、会場の様子を眺めているようであった。
 一方、クラウレスはマントルピースの横に小さなジャック・オー・ランタンを置き、身に付けている手袋やマントを闇化させて、実体を見えなくさせていた。
「あんなの最初からあったか?」
「どうでしょう?私もずっと見ていたわけではありませんから。氷さんに聞いてみては如何でしょう?」
 クラウレスが見えなくなった事に、マイと蓮が不思議そうな顔をしていた。
「ああ、それもそうだな。さっきも氷が飾りつけやってたわけだし」
 マイの返事に蓮が答えた時、パーティー会場の入り口の扉が乱暴に開けられて、やかましく足音が響いた。
「ハッピーハロウィンー!!」
 大きな声で叫びながら、まず最初に黒い服に猫の耳をつけた黒猫の深山・香月であった。すでに誰かから菓子をもらったのだろう、右手の袋は中身が沢山入って膨れており、左手にはゴムのような玩具を持っていた。
「お菓子をくれなきゃイタズラするよ!」
 続いて入ってきたのが、ボロボロダブダブの服を着ている、スケアクロウの赤井・るなだった。るなは首から下げたポシェットに、溢れそうな程の菓子を詰め込んでいる。
 最後に入ってきた、目の部分だけ開いているシーツを被っているのが、ゴーストの長張・光輝なのだろう。光輝は去年と同じ格好?とクラウレスは心で呟いた。
 あれが例のワルガキトリオ、とクラウレスが思っていると、子供達の後ろから、びしょぬれになった氷が足取りも頼りなさそうに入ってきた。
「早速、やられたのですね。でも、構われる事は好かれてる証拠ですから」
 マイが氷に笑いかける。おそらくは、イタズラで水をかけられたのだろう。いくら世話をクラウレス達に頼んだといっても、子供達に狙われればそれまでである。
 そこまでになるなら、菓子のひとつでもあげればいいのにとクラウレスは思うのだが、今年も可愛そうな目に合ったことからして、氷にはその気もないのかもしれない。
 どんよりとした顔で何かを呟き、氷は何事もなかったように会場内の片付けを始めていた。
「せめて着替えるとかすればいいのにな。さて、そろそろ俺の出番か」
 そう言って蓮が、この部屋の照明パネルがあるところへ駆け寄り、スイッチを全部オフにした。突然部屋が真っ暗になり、明かりといえばテーブルに置かれた蝋燭と、マントルピースのジャック・オー・ランタンぐらいなのだが、誰も驚かないところを見ると、皆、イベントで部屋が暗くなったとわかっているのだろう。
 そのまっくら闇でますます実体のわからなくなったクラウレスは、ジャック・オー・ランタンを手に取ると、ゆっくりと子供達に近づいていった。
「動いてる!」
 光輝が驚きの声をあげて、頭に被っていたシーツを取り外し、興味津々にカボチャへと駆け寄った。
「もしかして、カボチャの妖精?」
 るなと香月も、カボチャへと近づき、3人がカボチャを囲んだ。
 クラウレスは闇に隠れたまま、カボチャをまるで本物のジャック・オー・ランタンの精のように浮かびあがらせ、やがてそれも闇の中へと消し、ついに何も見えなくしてしまった。
「うわー何コレ!」
 香月が叫んだが、3人とも驚くというよりは楽しそうにしている。
「はろうぃんのよるへようこそ。さあ、たのしいまちゅりのはじまりでちゅよ」
 クラウレスが闇の中から声を響かせ、そしてカボチャを消したあたりで突然姿を出現させた。
「はっぴー、はろうぃーん!わたちはじゃっく・おー・らんたんのようせいでちゅ!いっしょにたのしむでちゅよ!」
 蝙蝠羽をつけて先程とはちょっと変わった魔法使いの格好をし、クラウレスは登場した。まわりの人々が、クラウレスの見事な演出に拍手を送っている。
「見事な演出ですね」
 マイがクラウレスを見ながら言った。
「本当に妖精なの?」
 香月が目を丸くしてクラウレスを見つめていた。まわりの大人達はともかく、子供達は本当にクラウレスが妖精だと思い込んでいるようであった。イタズラばかりしてても、やはりまだ子供なのだ。
「よっしゃ!おーい、子供達―!こっちへ来いよ。菓子いっぱいあるからさ!」
 その時、蓮が子供達へと声をかけた。
「おとなのひとがよんでるでちゅ。いくでちゅよ」
 クラウレスが3人を促したので、子供達が蓮の方へと近づいていった。そして、子供達がそばまで来たとき、蓮は蝋燭を手に持ち、仮装姿を皆に見せた。
「サンタクロースだ!」
 香月が叫んだ。蓮は一足早く、サンタクロースの格好をしたのだ。赤い服に白いつけ髭が闇の中で何とも眩しい。
「まだサンタさんの出番じゃないよ」
 るなが蓮を見て呟いた。
「まあまあ、いいじゃないか、仮装パーティーなんだし。さ、いい子にはプレゼントをあげよう」
 蓮が白い袋からプレゼントの箱を出すと、それを子供達に差し出した。嬉しそうな顔をしながらプレゼントを開けた子供達は、次の瞬間悲鳴を上げた。
「蛇―――!!!」
 子供達の悲鳴が見事にハモり、蓮の渡した蛇が床に落ちてウネウネと動いていた。
「蛇?あら、これは」
 そばでずっとこのやりとりを見ていたマイが、蛇を拾い上げた。
「玩具の蛇ですね。良く出来ていますね、これ」
 蓮は子供達を驚かす為に、玩具の蛇を箱に詰めたのであろう。
 電池で動く玩具の蛇なのだが、かなり本物そっくりに出来ている上に、暗闇の中であった為に、子供達は本物の蛇と勘違いしたのだろうか。
 特にるながこの蛇を怖がっているようであった。
「蛇嫌いなの!」
「大丈夫ですよ、これは玩具ですから」
 マイが優しくそう言って、るなに菓子を渡した。
「何だー、玩具かよー。大人のくせにイタズラすんなよな」
 光輝が眉を寄せて蓮を見つめるので、蓮は軽く笑って見せた。
「どっちがより脅かせるかってな。イタズラするのも楽しいかもしれないが、イタズラされるのもいいだろ、たまには」
「ずるいよ、驚かすなんてさ!」
 香月が頬を膨らませて叫んだ。
「それなら今度はこっちからイタズラするぞ!」
 おかえし!とばかりに香月が輪ゴムを取り出し、それをピストルの形をした玩具にくっつけて蓮の顔へと打ち出した。
「あたっ?!」
 蓮が驚きの表情を見せた。
「輪ゴム飛ばすのはやめようよ、痛いからさ」
 しかし、香月は蓮の言う事は聞かずに、2発目の輪ゴムをセットしている。
「はろうぃんのいたずらは、じぶんだけでなく、あいてもたのしんだりわらったりできるものでないといけないでちゅよ」
 ずっと子供達のやりとりを見ていたクラウレスが、ゆっくりと後ろから近づいていった。
「じぶんたちは、そのえがおをかてにしていりゅでちゅよ」
 クラウレスは、部屋の隅でびしょぬれのまま、しょんぼりとしている氷に方へ一瞬だけ顔を向けた。
「おかしをくれないのもいけなかったでちゅが、だからってやりすぎはよくないでちゅから。みんなのえがおがたりないようでちゅ。そのぶんは、きみたちのえがおでおぎなってもらうでちゅ!」
 クラウレスは香月を捕まえると、思い切りすぐりを始めた。突然の攻撃に香月は避ける暇もなく、くすぐられて笑い出した。
「やめてーやめてー!」
「だめでちゅ!まだまだ、えがおがたりないでちゅよ!」
 クラウレスはさらにくすぐった。るなと光輝はその様子を見て、自分達もくすぐったそうな顔をしていたが、ようやく香月から離れたクラウレスがるなや光輝へと顔を向けると、とたんに2人は笑いながらクラウレスから逃げ出した。
「わらいはたいせつなんでちゅよ」
 それはあながち嘘ではない。笑顔でいれば、怖い悪霊や魔物も近寄ってこないだろうと、子供達の表情を見ながらクラウレスは思っていた。



 パーティーはさらに盛り上がり、子供達は、クラウレス達から沢山菓子をもらって大喜びであった。パーティー会場内では相変わらずイタズラをしていたが、目に余るようなイタズラは見られなかったので、クラウレスも安心したのであった。
 ただ、楽しい雰囲気の中、氷だけは子供達からのイタズラを集中的に受けているの見て、クラウレスは心の中でつぶやいた。
(もしかして、あのこたちはこおりしゃんだから、いたずらするんでちょうかね)
 何となく、子供達に本気になって怒っている氷にも、イタズラされる原因があるような気がしたのであった。
 そんな様子を見て、蓮が氷へと話し掛けた。
「ほら、お前も昔は子供だったわけだし?子供を嫌いなんて言わずに、せめて苦手ぐらいになってくれれば、お兄さん嬉しいけどな」
「子供は言うとおりにしねえから、好きになれねえ!」
 困った顔を蓮が見せた時、横から光輝が投げつけたボールが飛んできてそれが氷の顔に当たり、ついに氷は床に沈没するのであった。
「本当に、好かれているのですね」
 床で伸びる氷を見て、マイは笑顔を見せていた。
 クラウレス達はこのハロウィン・パーティーを一晩中楽しみ、翌日はハロウィンの思い出と一緒に菓子の土産ももらい、イタズラ3人組に別れを告げて、ペンションを後にするのであった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0126/マイ・ブルーメ/女性/316歳/シスター】
【2295/相澤・蓮/男性/102歳/「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
【4984/クラウレス・フィアート/男性/29歳/しがないサラリーマン】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 クラウレス・フィアート様

 こんにちわ、ライターの朝霧です。今回はゲームノベルに参加いただき、有難うございました。
 同じ子供同士・・・というのを特に意識したわけではないのですが、一番子供達と同じ視線に立てるのはクラウレスさんだろうと思い、子供達とのやりとりを中心にして描いてみました。ジャック・オー・ランタンの精のフリをするシーンは、あんな感じでよかったのだろうかと、少々心配になっているところですが(汗) 
納品がハロウィンより遅くなって、少々時期ハズレになってしまって申し訳ないです(汗)今回は有難うございました。