■神の剣 吸血通り魔事件 4 吸血神■
滝照直樹 |
【1703】【御柳・紅麗】【死神】 |
赤子は産み落とされた。
神として祀られたと言われる現象化。
しかし其れは不完全なものだった。
現象化し霧散すれば、存在しないものとなる。
しかし、固体化した以上、倒す術はある。
完全消滅は期待できないだろうが、封印は可能だろう。
信仰で成り立った其れを完全消滅は、他の固体としての全吸血種を絶滅させる事しかできないのだから。其れこそ吸血種は無数に存在している(極端な話、蚊も吸血種なのだ)。
更に倒し方が問題だ。
帰昔線を作った世界樹から、杭を作るのはまず不可能に近い。
大体其れがどこにあるかなど知られていない(帰昔線は破壊されたと言われているのだから)。それに(また存在したとしても)、あれに触れた者は否応なく消滅する。
真実の約半分をしっているのは、帰昔線に入って生きて帰ってきた約数名、怪奇探偵の草間武彦と、瀬名雫ぐらいである……。
時間がない。吸血神を弱体化する者と、杭を創り出すものが必要だろう……。
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神の剣 吸血通り魔事件4 吸血神
赤子は産み落とされた。
神として祀られたと言われる現象化。
しかし其れは不完全なものだった。
現象化し霧散すれば、存在しないものとなる。
しかし、固体化した以上、倒す術はある。
完全消滅は期待できないだろうが、封印は可能だろう。
信仰で成り立った其れを完全消滅は、他の固体としての全吸血種を絶滅させる事しかできないのだから。其れこそ吸血種は無数に存在している(極端な話、蚊も吸血種なのだ)。
更に倒し方が問題だ。
帰昔線を作った世界樹から、杭を作るのはまず不可能に近い。
大体其れがどこにあるかなど知られていない(帰昔線は破壊されたと言われているのだから)。それに(また存在したとしても)、あれに触れた者は否応なく消滅する。
真実の約半分をしっているのは、帰昔線に入って生きて帰ってきた約数名、怪奇探偵の草間武彦と、瀬名雫ぐらいである……。
時間がない。吸血神を弱体化する者と、杭を創り出すものが必要だろう……。
〈帰昔線再び〉
1人旅立つ。
過去に戻れるあの列車
されど、帰る場所がある
既に赤子が産み落とされたところだが、草間武彦に会うため織田義明は、草間がディテクターとして良く通うバーに向かった。
義明はロックを頼み、草間の隣に座る。
「……」
「……」
2人には沈黙が続く。
「ゴーストネットの書き込みを見て、思ったけど……。草間さん、あれから“あそこ”はどうなったかわかります?」
「大分昔の事だな。で、何故だ? 今更その事を訊く?」
グラスを傾けて、氷の光を眺める草間。
「必要だからです。アレを倒すため。正確には、最後に行き尽く先の世界樹が必要なのです」
義明が答えた。
「そうか、あれは……単純なものじゃない。元からアレはなかったものと同じ。あそこは儚い夢を追い求める者の為の牢獄だ。もっとも、俺の体験した時は“破壊”した。其の後は知らん」
草間の言葉に、義明は何も反応しない。予想した範疇だ。この先の世界樹がどうなったのか、彼にも分からないのだ。依頼主の高峰も何も言わないと。瀬名雫にしてもそうだろう。
「お前の師匠は何て言っているのだ?」
「あの人も探している。全てを知っているわけではないから」
義明はグラスの液体を3口くらい飲む。
「1人だけの想念で、あれに触るのは難しいし、抑止を担うお前でもムリだろう」
「しかし、やらなくてはなりません。あのままだと、吸血神は全てを呑み込みます」
沈黙が訪れる。
グラスの中の氷が溶ける。
「駅のホームは同じ場所だ。ただ、根源が育ってないとすれば出会う事もあるまい。ただ俺の時の帰昔線は“過去に戻りやり直したいと思った者”しか入れなかった。“今はどうかわからん”」
と、草間は場所を教えてくれた。
「ありがとう」
「お前は想念の1つだから無理矢理にでも行けるだろう、な」
「『私』なら……か」
〈始まり〉
長谷神社に戻っている5人は帰昔線に向かわず、吸血神を抑えるために此処に残るという。アレから数日は経っており、徐々に夜には吸血神の念によって活性化した吸血鬼が動き出した。ただの不適応者から下僕、知能のある程度ある存在まで様々に。存在が増える事で力を増すというのは至極当然のものだ。信仰やら流行というものは普通そうだと思われる。
もっとも、帰昔線に入れるか怪しいと判断したのは聖武威や御影蓮也、御柳紅麗という存在だが、ほかの2人もそうであろう、天薙撫子と宮小路皇騎である。確証がない都市伝説。雫のサイトの書き込みも確実なモノがない。真相自体があやふやになっただけだ。其れより、目の甘えの自体をどうするか優先順位が違うということだ。
今の状態はかなり芳しくない。赤子が産み落とされてから一部の強力な吸血種が活発になっている。IO2が其れの排除に躍起になっているところを見ると固体化した現象のパワーは尋常じゃないのだろう。
長谷神社にて急速に治療を行うのは聖武威に長谷平八郎。88星座の水瓶座と一角獣座で治癒術を施す聖武威。静香との元契約者平八郎が治癒術を使えるのも不思議ではない。
「うーん、使いすぎるとコレがへばるな」
銃を見る、聖武威。
流石に魔法銃が悲鳴を上げているようだ。暫く、メンテナンスも必要になるだろう。
長谷神社に担ぎ込まれた全員は無事安定状態なり1日もすれば回復する。魔力などの回復は見込めないとしても命に別状はなくなるのはよい。その間に宮小路皇騎が配下を使って、警戒態勢を取っている。吸血鬼の中でも非実体存在には退魔師の力は発揮するものだ。西洋タイプの吸血鬼は物理的破壊が基本なので、どちらかというと欧州の秘密結社と契約している聖武威が適任と言える。自分の武器が破壊されただけに留まる御柳紅麗は、一度自分の故郷に帰る。変わりの刀を手に入れるためである。
「済まない復活させてしまった」
意識を取り戻した御影蓮也が謝る。
「いや、どっちにしても復活するんだ。不完全なら希望があるんだろ?」
「まあ、そうなんだけど」
「過ぎた事を悔やんでも仕方ねぇ。今どうするか、だ」
そう、帰昔線に行けるほどの後悔、未練などはない武威。ポジティブに考えている分、尚更である。
義明だけが戻って来られるか分からない帰昔線に赴くことになるのは、全員の意識が戻って暫くしてからだった。
「みな、探しに行かないのか?」
伝説の地に向かう英雄候補のような行いだ。
「ああ、足止めをする」
「紅麗に同じく」
「俺の考えじゃいけないからな。そう考えていた」
「あの、わたくしも……」
「私も茜さんのサポートなどを……え?」
5人とも顔を見合わせる。
よほど、目の前にある危機が恐怖大賞になるのだろう。同じ考えでも此処まで同意見なら困惑するだろうか? まさか、撫子さえもこっちの世界に居るというのが、織田義明は驚いている。「今回は“私”1人であの世界に向かう方が良いのか」
と、腕組みして考える義明。
「よし、皆を信頼する。私が出来る事をしよう」
と、荷造りを始める義明。
そして、準備が出来たとき1人だけその場にいなかった。
「絶対戻って来いよ。杭を持ってな!」
聖武威が笑って言う。
「足止めなら俺たちに任せろ」
御影蓮也と御柳紅麗が言う。
最後に。彼は、長谷神社の鳥居の前に撫子がいた。
「撫子……」
彼女は駆け寄って、
「ご、ごめんなさい。義明君……。でも、此処に帰ってくる目印があれば心強いかと思いまして」
と、困惑しながら言う。
頭を撫でる義明――影斬――。
「ありがとう。撫子」
と、笑い去っていった。
〈全ての欠片〉
赤子は自我を持ち始めた。
「集……める」
かの意志に反応するように低級の吸血種は暴れ回り、そして退魔師にやられる。そのエネルギーを彼は吸っている。カルトもそこかしこ活発化しているようだ。今のところ闇の世界(超常現象)が光の世界(一般生活)を脅かす危機はないようだが、何れ表面化するだろう。
「……知らずのウチに侵されること。それが吸血鬼の恐怖としれ……しかし、血が……足りない」
と、赤子は吸血神の意識を取り戻すように呟く。
「血が足りない。人の伝承、信仰により具現した我を、倒すというのか? 人間は」
まるで、己が思念、妄想で果てろと言わんばかりの憎悪。
“吸血鬼により人が殺される”という、概念の具現化に他ならないこの神。
影法師が佇む。
コレもまた現象の使徒。争いの火付け役。
「抑止の一は?」
「帰昔線の心臓に向かうようです。邪魔を致しましょうか?」
「放っておけ。アレはないはずだ。徒労に終わろう」
「は……」
と、神と使徒は光を避けるように闇に消える。
とある地下鉄駅の片隅、影斬とディテクターは、有りもしないホームに立っていた。普通の人間にはたどり着けないと言うのは嘘なのか? 其れは定かではない。帰昔線の電車が良く通り過ぎる。帰昔線にたどり着いたのは良いが、乗車して終点まで向かう事が出来ない。終点つまり其れは世界樹がある場所。しかし、帰昔線の車両は過去に破壊されたと事により、かなり霞んで見える。“過去を変えたい力”の収束が弱いのかも知れない。
「幽霊電車だな。まさか残っていたとは」
ディテクターは苦虫をかみ殺す様に呟く。
あの、苦々しい事を思い出す。
「? そもそも、あなたが言う通りならば人の想念を一時だけ破壊した様に見えると思う。人や世界がある限り何度でも蘇るようなものだろう」
影斬は、言う。
そして、何時間待ったのか、
「平行世界を織りなすためでない、片道切符をまつより歩いていった方が良いのかも」
列車が止まった。
過去を変えるのではなく、今の危機を救うために……一度過去に戻る。矛盾した行為かも知れない。
「過去の駅に向かえばどうする? お前は自分に合うかも知れない」
と、ディテクターが訊く。
「神格に苦しんでいた私に出会う事はないだろう。相対消滅するだけだ」
影斬は首を振った。
電車が着いた。
「過去に戻りたい事は何個かあるな。俺は何かと運が良い」
ディテクターが苦笑する。
「なんなんだ?」
影斬が訊く。
「もう1人女を救えなかった。それだな」
「……ハードボイルドらしい草間さんの言葉ですね」
「お前は分かってくれるのか?」
織田義明はニコリと笑う。少年の無垢な笑み。
「少しだけですが。俺は思い出かも」
「いきなり、織田義明に戻るな。混乱する」
彼らは世界樹を目指した。
過去に戻りたい思いを持っていたとしても、現実から逃げ出せる事は出来ないのだ。草間は其れが可能であるし、いつも力に悩み続けていた織田義明も……このあやふやな境界線に身を置ける逸材だったのかも知れない。
御柳紅麗が無銘の刀を取りに仙界から現実世界へ戻る中継点、アストラル界の途中。本来直結通路があるのだが、ややこしい吸血鬼問題により封鎖している。澄み切った銀色の世界。見覚えのある人物に出会った。彼がいてもさほど不思議ではないが、流石に面食らうだろう。銀髪の隻眼の存在。黒いコートがトレードマークとも言える、異世界の神だ。
「あ、あんたは……」
エルハンド・ダークライツ。織田義明の師匠にして、臨時装填抑止。
「私は占い師ではないが、1つ忠告があってな……」
「な、なんのだ?」
「お前は死ぬ」
「!?」
その言葉を聞いて紅麗はショックを受けた。他ならずして、強烈な存在に死刑宣告されたのだからムリはない。
「可能性が高いのか。あんたが言うにはかなりのことなんだろう」
「そうだな、これはかなり厳しい。禍の呪縛か今の事件で命を落とすのかは別問題。私は過去にお前がその傷を受けた事は全く分からない。可能性を覆す事にかけて……それは君自身で決めた事だろうからこれ以上はお節介だな」
と、苦笑している。
「まったく、それから逃げろと言うのか? 冗談じゃない。そんなもん死神の名が廃る」
覚悟を言った。
剣聖神は微笑を浮かべ、
「良い答えだ。運命を変えられるのは己の力。不可能を可能にする力になる。おっと、そろそろこの地域は嵐になる。急いで戻った方がいい」
と、言い残し、アストラル界の何処かに飛んでいった。おそらく一度自分の世界に戻ったのだろうか?
「……俺も戻るか」
と、紅麗は気を引き締めて、友人がいる世界に戻った。
撫子が襷がけのすがたで神斬を携える。
「わたくしの失態もあります……」
いま、帰れるか分からない恋人が帰ってくる前に何とか足止めもしくはかなり弱体化させる責任を感じていた。
「茜さん聞こえますか?」
『感度良好よ。竜隻眼サポートOSver.1.05 OK』
神秘連結のインカム越しから連絡を取る。
一方、皇騎は茜の隣で、各陣営の指揮を執っている。
「無茶しそうだな、撫子は」
と、溜息をつくが、全体の警備をしている訳なのでサポートするしかないのだ。
後ろからクラクションが鳴る。
「おいおい、抜け駆けは行けないぜ?」
聖武威が愛車に乗ってやってきた。
「聖様?」
「2人乗りだけどな、乗りな。大体あれの居場所も分かる。すでに宮小路って言う坊ちゃんに座標は言ったさ」
と、鷲座と猟犬座のカードを見せる。
「御影様と御柳様は?」
「ああ、あの坊主達は用事があるってさ。後から追いつくはずだ。先に俺たちが出来るというのはアレを“空間的に封じ込める”ことだ。御影の坊主は器用だが、御柳の坊主は壊す事だけだからな」
つまり、
〈オーバーワーク〉
御影蓮也は御柳紅麗を待っていた。
「おい、皆は?」
紅麗が戻ってきた一言。
「宮小路さんは茜と一緒。天薙さんと聖さんは先に敵のところに向かった。刀を貸せ」
やっと意識を取り戻した蓮也は刀をひったくる様に奪う。
「何する気だ?」
驚く紅麗に蓮也は目を丸くする。
「近頃運斬に頼りすぎた。俺も早く向こうに追いつかなきゃな」
蓮也は丁寧に刀を扱い、目貫を外し、茎(なかご)にそっと指をあてる。その手は、今まで手にしていた運斬を扱っていた者故、慎重である。
まるで彫られたかのように“氷魔閻”と書かれた。
「魂の一部で出来た斬魂刀。くいつきが良い」
と、安堵する蓮也。しっかり、刀を戻す。
「まさか、再現か?」
「とはいっても、限定だ。暫くは持つとおもう。字が消えないように書き記したのってはじめてだから」
「さんきゅ」
蓮也はやおら立ち上がり、
「いこう。原付ぐらい乗れるだろ?」
と、聖と天薙が居る場所に向かう。
夜。
人だかりがある繁華街。
いつもと変わらぬ世界に異様な死の臭いがはびこっている。
路地裏では、薬物中毒者のように喘ぐ若者がいし、いかがわしい町角で、酔っぱらいが憂さを晴らしている。
そんな中に、吸血鬼化した存在がいるという者は誰が知ろうか?
鬼鮫は路地裏で1人の人間だった者を杭を打ち、始末した。
灰に変わる。その存在。
「くそったれ」
唾を吐く。
コレで何匹目か? 数えたくもない。
毎日過度の労働で、遺伝子注射の量が多くなる。トロルの以上再生能力を持ってしても流石に、人の何倍もの力を保持する吸血種に立ち向かうのには骨が折れる。ディテクターは何処かに行ったっきりで分からない。
研ぎ澄まされた知覚が、ある2人の気配に気付く。
「!? 何者だ!?」
「鬼鮫様」
天薙撫子だ。
「なんだ、天薙の嬢ちゃんか。そして何で屋か」
「疲れが見えているぜ? オッサン休んでな。ココは若いもんにまかせろ」
目はマジメになっているが、冗談を言ってみる聖。
「あ? なんだ……?」
と、何か言いかけたが、聖が投げて寄越した缶ジュースを受け取るので言うのをやめた。
「殺気を感じましたので。しかし、本拠の場所は掴んでおります」
「……こっちの方は、まあ、梅雨払いだ。あんた等は逃げた方がいい。これは俺たちの仕事だ」
一気にジュースを飲み干す鬼鮫。
仕事を取られるのはあまり好きでは無いという反応だ。
『此方皇騎。撫子聞こえるか?』
「皇ちゃん……聞こえるけど?」
『現在IO2も現場に向かっているようだ。御柳君と御影君も追いつくから……。IO2との共同戦線という感じが良いかもしれない』
と、皇騎が連絡。
「今鬼鮫様と話しております」
『え?』
間の抜けた声。
「お人好しな奴らだな、あんたら」
鬼鮫が溜息をついた。
「いいじゃねぇか。あんたも暫く休んだ方がいいんだ」
と、鬼鮫に言う聖。
すこし緊張が抜けしたのか、鬼鮫は刀を鞘に戻す。
「気をつけろ、シルバールークの一斉射撃で消滅があるからな」
そして、
「では、龍晶眼を……展開します。サポートお願い」
『はい。静香。千里眼補佐。フィルターレベル5』
「結界班各所に着きました」
撫子は念じる。
展開される目。そこに“目標の敵”が見えた。
全体に結界を貼る。擬似的固有結界。コレにより、一時ながら外界を遮断する。その範囲を聖は、いつ来てもおかしくない敵の警戒、原付で向かう御影と御柳も、その場に急行している。失敗は死を意味する。先ほど鬼鮫が言ったとおり、各所にNINJAやシルバールークが隠れている。この一カ所が完全に火の海になるのだろう。確実に弱点を知っているのはIO2側には居ないとも言えるのだろうか?
「草間様が居られませんね?」
首を傾げる撫子。
「あいつか? あいつならくそったれの神のガキと何処かに消えた」
「そうですか」
少し不安な撫子。
『紅麗だ! 待たせた!』
と、携帯から死神の声がする。
――活きの良い者達が集まったか
それは、全員に聞こえた恐怖の声だった。
「な……!?」
聖は驚く。
「奴さん、気が付きやがった!?」
御影が急いで原付を走らせた。
〈対峙〉
撫子と聖は、構える。
前に見た心臓のようなものではない。本当に人の形をして居るものだ。
しかし其れは人とは言えないかも知れない。禍々しい妖気と概念が入り乱れた。ヒトノカタチをしたものだ。
「吸血神か……」
聖が言う。
「我には名前はない。何とでも呼べ」
笑っているのか、分からない表情。
「神の娘に、星座使い。そして再生者……活きの良い。我を倒すなど愚かな真似をするために来たのか?」
「その愚かな真似のためだって言ったら、どうする?」
聖が挑発させるために言う。
「面白い冗談だな、星座使い」
から笑いする存在。
鬼鮫が動こうとするのを、必死に止めながら聖は会話を勧めようと努力している。
「あんたが概念の固定化って言うのはピンとこないがな。そんな事はどうでも良い。俺は平和に暮らしている人を巻き込むのは勘弁ならねぇ」
「食物連鎖と、ヒトというモノは、憎悪にありきということを知らないのか?」
存在が笑う。影法師のように。
そして、殺意を込めて存在が言った。
「世界の一部を相手していると言う事、身をもって教えてやろう」
ちょうど、皇騎が
「次元結界発動!」
と、前部隊に報告展開させた。
既に外界と遮断された異界の中、人外の戦いが始まる。
「うわぁ! 数にモノ言わせやがるか!?」
紅麗が斬魂刀で、雑魚の吸血鬼を屠る。結界が出来、反応したり、邪魔をしようとしていたりした連中だ。
「1匹いると何とやらで、こんなに増えていたのか?」
蓮也も叫ぶ。因みに原付に「聖属性の武器」と書いてで雑魚を轢き倒し、概念で作った杭を打ち据える。
「俺たちを現場に行かせないつもりらしい」
2人はハモッた。
ココまで来るとボケもツッコミも両方出来るのでは無かろうかと思うほど、息が合っている。
「お互い生きて帰らなきゃな」
と、蓮也が言う。
「あ、ああ」
しかし、紅麗は歯切れが悪かった。
――お前は死ぬ。
エルハンドの言葉が今になって引っかかる。
そして、光を纏った2つの影と闇の象徴の戦いの場にバイクを走らせた。
〈杭〉
義明は雰囲気が変わっていた。
手には1つの杭、そして、折れた『水晶』。
駅のホーム。草間は煙草を吸っている。
「義明? いや、影斬か?」
「織田義明は眠っている。死んだと同じように。私は影斬だ」
2人がどうやって杭を作ったのだろうか? そう彼らにはその経過の記憶がなくなっている。影斬が『自分が死んだ』と言う。その代償は高く付いているのだろう。
「そうか。天薙辺りが泣くだろうか?」
「泣くだろう、な。悲しい事だ」
かなり乾いた声。
何かを落としてきたようなものだ。ヒトとして何か大事なモノを。
「急ごう。人の集合概念は人の集合概念でしか倒せない」
「くそっ」
草間は、舌打ちした。
〈対峙〉
神斬の解放で、斬りかかる撫子。援護射撃する聖。もの凄いスピードで斬撃を繰り出す鬼鮫。しかし、存在には何一つ木津つけられない感じで焦る。
「黄道12星座よ! 俺に力を」
聖は12星座のカードをばらまく。そうすると1枚になり『ZODIAC』と言うカードになる。
「Sun!」
と、彼もまた光り輝く存在になる。
「むぅ! 星座使い!?」
非実体ながら太陽の光の鎧を纏った聖はその力で吸血神を圧倒する!
「うらぁ!」
流石に吸血鬼、太陽の聖なる力にはかなわないらしい。
5発はもろに食らった。
しかし流石に概念存在。物理的にかなわぬと見るや、闇を纏い始める。
「今は夜。我の世界也」
と叫ぶ神。
「そこぉぉ!」
「うらああ!」
撫子の刀と聖の蹴りが同時に捉える。
闇は怯まない。
鬼鮫の一太刀も効いてない。
「やはりムリか!?」
「諦めてはなりません」
「そうだ諦めるなぁ! うわああ!」
と、真横から何かが闇にぶち当たった。
急いで3人は飛び去る。爆発炎上する現場。
追い打ちにもう一回。
そう、御影と御柳が“聖属性”をありったけ込めた単車をぶち当てたのだ。もちろん概念操者の御影の技である。
「おせぇぞ!」
「雑魚がいっぱいだったんだよ!」
「言い訳は後だ見せ場作るぞ!」
と、駆ける紅麗。
聖なる焔となった其れも流石に現象にはあまり効かないのだろうか?
概念も念という。それなら、今の吸血神を書き換えは可能であろう。しかしいまの蓮也は固有物の概念を叩きつけたため、力は出ない。そう、氷魔閻の再現だ。あれは紅麗の魂の一部なのだ。魂を作る事は原則人では出来ない、究極の神秘である。
「俺が念をたたき込む! あらゆる可能性をねじ曲げる! 持ちこたえろ! あいつが帰ってくるまで!」
蓮也が叫ぶ。
其れに答えるかのように、撫子、聖、鬼鮫、紅麗は吸血神に向かっていった。
〈死〉
人の想念で出来た現象化を倒す事は難しい。其れにかなうというのは其れと同じぐらいの質を模したものだというのが通説である。織田義明が影斬になったとき、その人を全うする使命がある。今までの織田義明ではなくなる。このときだけ織田義明は死んだのだ。其れはもう少し先の話なるが……。
吸血神は概念との戦いでかなり弱体化している。
いつの間にか式神の梟も加わり、徐々に弱体化しているのだ。しかし、撫子や聖達の消耗も激しい。
すでに、神斬の力も使い果たし、覚醒状態ではない撫子。死神の力を使いすぎ、禍呪が完全にしみ出して黒くなっている紅麗。胴体から大量に出血している鬼鮫、左の手がボロボロになっている蓮也。
そして、結界の維持のために遠く長谷神社で疲弊している皇騎に茜だ。
しかし、此処までのようになる。
「余興は其れまで」
神が笑う。
『よしちゃんがもどった!』
茜の声だ。
その言葉で、紅麗と聖が立ち上がった。
「あいつにだけは負けねぇ!」
と、神として意地を見せようとする紅麗だ。
「おいおい、無茶するな。お前死にかけ」
「其れ言うならあんたもだ」
2人は笑って、敵を睨む。
「よ、義明君……」
意識が遠のく撫子も茜の言葉に意識を留まらせる。
『撫子、耐えろ!』
従兄の声。
「まだ、俺はいける!」
蓮也は親友の悲運の運命を“みても”、可能性を信じ其れを弄らない。
そして、渾身の一撃を見舞う2人だが、あえなく防がれる。
「闇にとけ込め……」
神が闇を更に纏った。
太陽の光も月の影に隠れると喰われる。
「くそぉ」
――そうはさせるかぁ!
紅麗が、最後の賭に出る。手刀に氷魔閻の切っ先を神に突き刺したのだ。そう、鍛え直す時間がないため、持っていたのだ。渾身の力を込め、聖を斬り飛ばす。
流石に神の力を内部爆発させる。
吸血神に大きな穴が開く。
――おのれぇ!
「おまえ!? 無茶な!」
「ヒトを助けて死ねるのって良いな」
「下手にかっこつけるなぁ! 死神!」
聖と蓮也が叫んだ
仲間の声なのか、それとも敵の声なのか分からない。
そう、禍呪は既に心臓まで達したのだ。
そこで彼は死んだ。
その禍呪が皮肉にも概念対の吸血神を覆い被せていく。禍は完全な無を作ろうとするモノだと言われている。其れ故敵味方関係がない。存在するモノは必ず無に帰そうとするのが、習性とも言えるのだ。
「義明が悲しむな。しかし見事だ」
と、聞き慣れた声。
「!?」
刹那、乾いた風の音。
禍呪もろとも闇を斬り裂いた。
「よ、義明君!?」
結界さえも斬り裂いた人物は、まさに義明とディテクターの姿だった。
「間に合わなかった」
しかし、雰囲気が違う。
手には杭。折れた“水晶”
その杭を、親友である御影に渡す。
「蓮也、トドメを」
「よ、義明?」
「今は影斬だ。君になら可能だ。概念は概念で倒せる」
「あ、ああ」
と、ぎこちなく受け取った。
吸血神は驚く。
「ま、まさかそんな」
信じられなかったようだ。
もちろん、影斬も手にはいるとは思っても居なかっただろう。しかしシンプルな答えがある。 この世界はまだ吸血種が栄える時間ではないのだと。世界樹の念はそう告げていたのだろう?
「遅かったぞ……義明」
「その責は後です。聖さん」
影斬は淡々と喋る。
「永遠に眠れ、
蓮也に託したのは他でもない。
“確実に当たる”と弄れば可能なのだ。其れぐらい抑止でも何でもないのである。
影斬が神の攻撃を受け流し、素早く御影が杭を打ち込む。
「永遠にはない。ヒトが滅びる事も我らの種族が栄えるのも運命なのだ」
と、神は消えた。
そして、ひとつの赤い宝石が其処に横たわった。
こうして1人の犠牲者が出たが、事件は終わる。
〈宝石〉
紅麗の魂は既に禍の呪縛によって消えかけている。肉体も塵に消えた。
「最後にかっこつけやがって、あの人が悲しむだろうが」
蓮也が泣く。
影斬は首を振った。
「未だ間に合う。彼は神だ。物質界での肉体が滅んだだけに過ぎない。撫子……」
禍の呪いは影斬が放った謎の一振りで完全に消滅しているが。後少し遅かったら確実に死んでいる。
「わかりました。わたくしが何とかいたします」
と、撫子は四神剣を放ち、紅麗の魂目がけ突きを入れて宝石化した。禍の呪いは既に来ているため容易かった事が幸いしている。彼の心の現れの宝石。氷のような水晶、その中には渦巻く焔はまさしく彼だ。 暫く彼は死んだ事になるのだろうか? 行方不明のまま記録されるのだろうか? しかし、何時か、戻る時があるだろう。幸い、氷魔閻の欠片が残っている。
「彼の故郷に蘇生術があるかは知らない。しかし蘇生か天性の可能性はある」
と、影斬は紅麗の宝石をみて。
「“義明”がこう言っている。『最高のライバルだ』と」
と、言った。
〈エピローグ〉
それから数ヶ月の月日が流れた。平凡な日々。
数人立役者が居ないがフォーミュラー日本の観客席に御影と天薙、織田、長谷、宮小路がいる。白熱したレースで、優勝したのは聖武威のチームだ。
「レースは初めて見た」
と、歓声をあげる仲間。
表彰台で手を振る聖。
「あの事件が嘘のようだ。しかし、あの死神の死んだ(?)事は事実だな……」
と、心の中で思う聖。
「レース意外で燃えたのははじめてだな」
と、呟いた。
さて、宝石化した紅麗はと言うと、自分の故郷に戻っている。本当に喜び合うのは彼が再び戻ってからだろう……。もしかえってきたら……散々からかわれて、弄られてしまう事が目に見えているが、辛気くささより、楽しく再会した方が心地良いものだ。未だ希望はあるのだ。
赤い宝石は、現在長谷神社に完全に封印されている。
End
■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【ALICE I 副長】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【4464 聖・武威 24 男 レーサー/よろず屋】
■ライター通信
滝照直樹です。参加ありがとうございます。
今回死傷者が出てしました。しかし、御柳紅麗様は復活する余地はあります。魂のままでは何かと不便でしょうが、超常者的では集中治療中という感じです。禍呪が
全員がその場に残ると言う判断でどうしようかと悩みましたが、こういう風にまとまりました。また最後の話も全員参加できる状況のみとしました。
では、何時かまたお会いしましょう。
滝照直樹拝
20051108
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