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■Dead Or Alive !?■

ひろち
【5201】【九竜・啓】【高校生&陰陽師】
「・・・何やってんだ、お前・・・・・・?」
 草むらにレジャーシートを広げサンドウィッチを頬張る深紅に、綺音は問いかけた。
 彼はいつもの気の抜けきった笑顔を向け答える。
「何ってピクニック。普通は明るい時にやるものなんだろうけど、ここには太陽が昇らないからね。綺音も一緒にどう?」
「阿呆か、お前はーーーーーー!!」
 深紅ごとシートをひっくり返した。
「痛・・・っ!って、あー!サンドウィッチが!結構凝って作ってみたのに・・・」
「そんなことしてる暇あったら仕事しろ、仕事!そんなんだから厄介な仕事が回ってくんだよっ」
 ここ太陽が昇らない街・ナイトメアでは人間の命の管理を行っている。ここでいつ誰が死に、誰が生まれるのかが決められているのだ。一日に消える命と生まれる命の数は予め決められており、その通りに調節するのが深紅達の仕事である。人間界では「死神」と呼ばれているらしいが、ナイトメアでは「生命の調律師」と呼んでいた。
「厄介・・・って、仕事来たの・・・?」
「そーだよ。ただし、上の奴らのミスの尻拭い」
「ミス?」
 綺音は溜息をつき、数枚の書類を深紅に投げた。
「何これ。写真・・・・・・?」
「それ、明日死ぬ予定の奴ら」
「じゃあ、この人達がちゃんと死ぬか見届ければいいんだね」
「それがさあ・・・間違いなんだってよ」
「間違い・・・?」
 深紅が顔をしかめる。
「そいつら、手違いでリストに入っちまったらしいんだ」
 リストというのはその日に死ぬ人間の名前が記されているもので、そのリストに載った人間は一部の例外を除き、死ぬことになっている。
「え?じゃあ、この人達が死ぬと・・・」
「生命のバランスが崩れるんだと」
 バランスが崩れると何かとんでもないことが起こる・・・・・・らしい。
「ど・・・どうするの・・・?」
「それが今回の仕事。その写真の奴らが死ぬのを全力で防げ・・・だってさ」
Dead Or Alive !?

「えーっと、九竜・啓。男。外見年齢14歳」
 深紅が書類を読み上げるのを綺音は欠伸を噛み殺しながら聞いていた。
「外見年齢?何だよ、それ」
「何か成長止まってるらしいよ。実際は17歳だって」
「ああ?面倒そうな奴だなあ・・・。で、死因は?」
「交通事故」
「だっさ!!」
 書類を覗きこみ、九竜・啓の顔を確認する。女のように綺麗な顔をしているが、どことなくのんびりしてそうな雰囲気で、これなら不注意で車に轢かれてもおかしくないと思った。
「でもさ、事故なら僕達が注意してれば絶対防げるじゃん。今回の仕事は楽勝だね!」
「お前、そう言ってて楽に終わった試しないのわかってる?」
 いつも何かしらミスをおかし、フォローをするのは綺音なのだ。
 ――こいつなら一緒に轢かれかねねーぞ・・・・・・?
 のほほんと笑っている深紅を横目に、綺音は溜息をついていた。


【散歩をしよう〜九竜・啓〜】


 死亡予定時刻は午前8時〜午後8時の間。この時間を切り抜ければ彼が死ぬことはない。
 午前7時。彼の家を訪れてみたのだが、すでに姿はなかった。
「残念。家にいてもらうのが一番安全だったのに」
「まあ、そうとも限らないけどな」
「へ?」
「お前さあ・・・・・・それでも調律師か?あの死亡リストってのは基本的に”絶対”なんだよ。死ぬっつったら死ぬんだ。たとえ家にいたとしても関係ない。トラックくらい突っ込んでくるぜ?」
 それなら見通しがよく、逃げ場のある外の方が護りやすい。
「そっか。綺音、頭いいっ」
「お前が阿呆なだけだ。とりあえず九竜を探すぞ」

 あきらは家から出て10分程度の場所をうろうろしていた。見るからに迷子の動き方だったが気にせずに話しかける。
 事情を説明すると、あきらはきょとんとした顔で首を傾けた。
「ほぇ〜・・・俺、死んじゃうの?それは、大変だねぇ〜」
「・・・」
 やたら間延びした反応に顔をしかめる。
 ――・・・こいつ、頭ちゃんと働いてんのか?
 念の為、もう一度繰り返した。
「お前、今日死ぬぞ。交通事故で」
「うん。だから大変だよねえ」
「・・・・・・」
「・・・って、えぇぇっ!?俺・・・!?俺が死んじゃうのっ!?」
 やっと状況を飲み込めたらしく、あきらが素っ頓狂な声をあげる。
 鈍い。
 有り得ないくらい鈍過ぎる。
「ど・・・どーしたらいいのかなあ・・・・・・?」
「だーかーらー、さっきも言っただろ」
「僕達が責任持って護るから安心して」
 それを聞くとあきらは綺音と深紅を交互に見上げ、嬉しそうに微笑んだ。
「助けてくれるの?本当〜!?良かったあ!じゃぁ俺、なるべく車道で転ばないようにするっ!ちゃんと前見て歩くように努力するよぉっ」
 大丈夫か、こいつ。
 不安を感じて綺音は深紅の方を見る。彼もこちらの方を見ていた。
 が―――
「よかったね、綺音。あきらくんも気をつけてくれるって。これで今日の仕事は楽勝だよ」
「・・・そーいやお前も駄目人間だったっけな」
 頭を抱えたくなった。二人分のお守を押し付けられた気分だ。
 深紅のミスをフォローしつつ、あきらを護ることなどできるのだろうか。
 あきらの方に視線を戻し―――
「うわあっ」
「な・・・っ、馬鹿・・・っ!」
 さっそく車に轢かれかけていたあきらを慌てて引っ張る。
「あ・・・危なかったあ・・・・・・」
「言ってるそばから阿呆か、お前はっ!!」
 綺音の怒鳴り声にびくっと震えるあきら。
「ふらふらすんな。1ミリも俺達のそばから離れるな。わかったな?」
「う・・・うん・・・。わかっ・・・た」
 人形のようにこくこく頷く。
 深紅が強張った顔を綺音に向けた。
「綺音。僕、この子護りきる自信ない・・・・・・」
「やっとわかってもらえて嬉しいよ・・・・・・」

 鎌形深紅と紺乃綺音。突然あきらの前に現れたこの二人は「ナイトメア」という太陽のない場所から来たらしい。そこでは人間界の魂の管理をしており、今回問題になったのが「死亡リスト」の記載ミス。
 本来死ぬ予定のなかったあきらの名が、手違いでそのリストに載ってしまったというのだ。
 そのリストというのは基本的に絶対であり―――
「うわあ・・・俺、ヘリコプターが墜落するの初めて見たあ・・・」
「お前、落ち着き過ぎ・・・」
 耳元で綺音が呆れたように息を漏らす。
 歩いていたら急に綺音に突き飛ばされたのだ。続いて聞こえたのは轟音。
 あきらの足下、数cm先にはヘリコプターの欠片が落ちている。あと一瞬、綺音の反応が遅かったら直撃していただろう。
 あきらは交通事故で死ぬことになっているそうだが、どうやら相手は車とは限らないらしい。
「あきら・・・お前、もう少し緊張感持ってくれよ、頼むから」
「だって、綺音クンと深紅クンが護ってくれるんでしょ?」
 先程から何度も車に轢かれそうになっているのだが、全て綺音か深紅が助けてくれた。緊張どころか安心しているくらいだ。
「だったら全然恐くないよぉ、俺」
「・・・・・・あっそ」
 何がおかしかったのか、綺音は苦笑し立ち上がる。あきらのことも立たせると、深紅の方を見た。コックピットから投げ出されたらしい操縦士の様子を伺っていた深紅は両手で大きな丸を作って見せる。
「さて、操縦士も無事だったようだし、さっさとここを離れるぞ」
「うん」
「ていうかさ、お前、どこに行こうとしてたわけ?」
「どこって・・・・・・」
 聞かれてみて、気付いた。
「あれ・・・?どこだっけ・・・・・・?」
 綺音ががっくりと肩を落としていた。

「まあ、何の目的もなくふらふらするっていうのもなかなかいいよね」
「あ。深紅クンもそう思うー?俺、散歩とか好きなんだあ」
「へえ。気が合うね」
「ねー」
「やっぱお前ら系統が似てるよな・・・」
 結局目的を思い出せなかったあきらだったが、まあ良くあることだ。気にせず散歩を決行することにした。
 建物の中にいるのは逆に危険だというのが綺音の言い分である。
「でもさ、綺音は久しぶりだよね?こうやってのんびりするのはさ」
「それは毎日、お前の尻拭いで忙しいからだ」
「何かさあ・・・会った時から思ってたけどお・・・綺音クンって溜息ついてばっかりだよねえ」
「は・・・?そうか・・・?」
 綺音の皺が寄った眉間に人差し指を突き付けて、あきらはにこっと笑ってみせた。
「たまにはいいよお?こうやってゆるゆる過ごすのもさ」
「お前の場合、毎日ゆるゆるしてんじゃねーの?」
「えー?そんなことないと思うけどお・・・」
 顔をしかめて考え込んでいると、頭を撫でられる。
「綺音クン?」
「ま。今日はどの道お前と一緒にいないと駄目だからな。好きなだけゆるゆるに付き合ってやるよ」
「あ。僕も!僕もゆるゆる―――」
「お前はもっとしっかりしろ」
「えーっ!」
 二人のやりとりが楽しくて、あきらはくすくすと笑う。
 綺音の方が深紅やあきらよりも年下らしいが、こうしていると一番年上のようだ。
 話によると、綺音には妹がいるらしい。どうりで。
 ――お兄さんってこんな感じかあ・・・
 家族の記憶がないあきらにとっては新鮮な感覚だった。
 自分に兄はいたのだろうか。
 こうやって頭を撫でてもらったことはあるのだろうか。
 全然、わからないけど。
「・・・・・・あれ・・・・・・?」
 ふと顔を上げて、近くに誰もいないことに気付いた。
「綺音クン・・・?深紅クン・・・・・・?」
 いない。
 どこにも。
「あれえ・・・・・・?」
 不安が胸を襲う。
 と―――
「え・・・」
 キキキキキと嫌な音が耳に届いた。
 ――何?
 これは、確かブレーキの音。


「う・・・」
 咄嗟に閉じていた目を開けた時、目の前には綺音の胸があった。仰向けに倒れた彼の上に乗っていることに気付く。
 彼は目を閉じ、ぐったりとしていた。
「え・・・何・・・・・・?」
 彼の頭から流れている赤いものは何だろう。
 胸の奥がざわざわと音を立て始める。いつかも感じたこの感覚。
「何ぃ・・・・・・っ?」
 何。これは何。
 恐い。
 嫌だ。
 嫌だ、嫌だ・・・・・・・!!
 だんだんと視界がぼやけて・・・・・・
「はーい、ストップ」
「っ」
 聞こえた綺音の声にはっと我に返る。
「変な顔すんなよ。俺、死んでないから・・・・ったたたたた」
「・・・へいき・・・・・・?へいきなの・・・・・・?」
「へーきへーき。ああ?何だこれ、血・・・って、うわっ!」
 あきらは綺音の首に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。
「良かったあ・・・・・・」
「あのなあ・・・それはこっちの台詞なんだけど?俺達から離れるなって言ったよな?」
「突然いなくなるから吃驚したよ。まあ、目を離した僕達も悪かったんだけ――」
「良か・・・本当に・・・良かったあ・・・」
「・・・・・・聞いてないな、こいつ」
「だね」
 顔を見合わせて綺音と深紅は苦笑する。
 子供のように引っ付いて離れないあきらの背中を綺音は優しく叩いてやった。


 時計を見る。
 あと10秒。3,2,1・・・・・・
「8時だ」
 綺音があきらに時計を見せ、にっと笑った。
「無事生還・・・だな」
「これで俺、死ななくてすむんだねえ」
「まあ、そういうわけだ・・・が」
「が?」
 両肩を掴まれる。綺音の頭には包帯が巻かれていた。それほど大した怪我ではなかったらしく、もう完全に血は止まっているようだ。
「お前はひっじょーに危ない。危なっかし過ぎる」
「うえ・・・?」
「うん。何かね。近いうちに本気でリストに載っちゃいそうな感じではあるかなあ・・・」
「えええー?困るよお」
 深紅の言葉に泣きそうになるあきら。綺音が後を続けた。
「だからさ、お前もうちょっとしっかりしろよ?のんびりしてんのもいいけどさ。自分の不注意で死ぬってのが一番最低な死に方だ。お前の命なんだ。これでもかってくらい大事に大事にしないと駄目だろ」
「・・・・・・俺が死んだら、綺音クン達は困るの・・・?」
「困る」
 即答する綺音。
「友達が死んだら、俺達だって悲しいんだよ」
「友達・・・・・・?」
 深紅の方を見た。笑顔で頷いている。
 トモダチ。友達。
 そっか。
 友達か。
「うん・・・うん、そうだよね」
 あきらは頷き、綺音の顔を見上げ、満面の笑みを浮かべた。
「俺、大事にする。ちゃんと大事に生きるよお」


 その日以来、少しだけ転ぶ回数が減った。
 少しだけ前を見て歩くようになった。
 少しだけ迷子にならなくなった。
 だから


「またいつか会えるかなあ?」
「会えるとしたらお前が死ぬ時じゃねえの?」
「うえええ!?」
「冗談だって。ちゃんとお前がしっかり生きてたら、また会いに来てやるよ」


 ねえまた3人で一緒に、散歩をしようよ


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5201/九竜・啓(くりゅう・あきら)/男性/17/高校生&陰陽師】

NPC

【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは。ライターのひろちという者です。
今回はありがとうございました!
納品が遅くなってしまい申し訳ありません・・・っ

実はこのシナリオ、あきらくんが初参加者様です。
まだ色々と慣れない部分もあり、試行錯誤しながら書かせて頂いていたのですが、あきらくんが深紅と同じようなタイプののんびりさんだったのでNPCの二人とは大変絡ませやすかったです。
あきらくんみたいな弟いたら可愛いだろうなーという気持ちを綺音に反映させつつ、楽しく書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね。
では、ありがとうございました!