■謎の神像■
神城仁希
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】

「珍しいな。おまえが俺を呼び出すなんて」
 ここは東の街『カグラ』の安酒場。ジェイク・バルザックは、旧
知の冒険者に呼ばれ、暖簾を潜っていた。
「ま、そう言いなさんな。この前、助けてもらったお礼って事で」
 そう言って、孫太行は徳利を掲げた。どうやら既に始めているら
しい。彼は高い酒を好まない。気楽に飲めるのがいい酒さ、と常々
語っている。ジェイクは琥珀色の蒸留酒を注文し、太行の隣の席に
座った。
 しばらくは冒険の話が続き、二人は城壁内部の情報を交換しあっ
た。
「なぁ、ジェイクもジェントスからこっちの街に来ないか? あん
たなら、うちのギルドだって迎えてくれると思うけどな。あっちに
いる理由でもあんのか?」
「理由……か? そうだな。故郷に名前が似ている……それくらい
かな」
 蒸留酒を傾けながら、ジェイクはそう語った。『カグラ』のギル
ドへの移転話は今日に始まった事ではない。だが、この男が自分の
過去を語ったのは初めてであった。
「ほぅ。あんたなら故郷に女の2〜3人くらいは待たせてるんじゃ
ないのか?」
「待っている女……?」
 太行の軽口を聞き、ジェイクは無意識にポケットから一本のナイ
フを取り出した。
「なんだ? それ?」
「ナイフさ。昔……もらった」
 その、特殊な形のナイフをしばらく眺めた後、彼は隣の太行へと
向き直った。
「さて、そろそろ本題に入ろうじゃないか。どうせ例の件だろう?」
 グラスを置いたジェイクを見て、太行も居住まいを正した。酔い
をまったく感じさせない声で、低く話を切り出す。
「……謎の神像の件はあんたの耳にも入っているんだな?」
 黙って頷くジェイク。
「ジェントスのギルドに、不穏な動きが見られるという情報が、ひ
っきりなしにこちらにも入ってきている。実際、あの話が漏れ出し
てからというもの、街に流れ込んでくる冒険者達の数は増すばかり
だ。それも……妙に血生臭い連中ばかりでね」
 苦々しげに語る太行。それも無理はない。外部からやってきた人
間に触発されて、無理な探索を行う冒険者が増えているのが現状な
のである。先日も、彼はジェイクに助っ人を頼んで、そういう連中
を救出に行ったばかりなのだ。
「将已の奴も気にしている。西の連中はギルドナイトを紛れ込ませ
ているんじゃないかってな」
「私兵ごときにナイトを名乗って欲しくはないものだがな……」
 ギルドナイトとは、西の街『ジェントス』のギルドマスターが直
々に用いている冒険者集団の事である。一般的には知られていない
が、粛清などを行う事もあるという。
「とにかく、こちらとしても手をこまねいてはいられないのが現状
だ。信頼のおける人間に、探索を依頼せよというのが上からの指示
でね」
「それで俺か……?」
 肩を竦めるジェイク。彼にしても、太行にしても、そういうギル
ドからの依頼で動く様なタイプではない。
「まぁ、俺は親友からの頼みだから仕方ないってのが本音だな。あ
んたも性には合わないだろうが、頼むよ。……放っておけないとは
思っているんだろう?」
 ため息を一つつき、ジェイクは残った酒を飲み干して立ち上がっ
た。
「まぁ、何人かに声はかけてみるさ。あと、昔の仲間にも声をかけ
てみる」
「ありがとよ。俺はこっちの街で人を集めてみる。……気をつけて
な」 
 黙って頷くと、ジェイクは勘定を済ませて店を出た。夜道を歩き
ながら、フォールン・シティの城壁に目を向ける。
(神殿跡の探索か……)
 それは今までよりも、遥かに中心部への潜入を意味していた。当
然、モンスターやガーディアンに遭遇する危険性は高くなる。
「放ってはおけないだろうな。俺の推測が間違っていなければ……」
 ジェイクは僅かに身震いするのを感じた。それは、けして夜風の
せいではなかった。


『謎の神像〜朽ちた屍〜』

●ギルド〜集う者達〜
 カグラに在る冒険者ギルドとは言っても、別に立派な建物がある
わけではない。一応、窓口としての酒場があるだけで、ギルドマス
ターらが常駐しているわけでもない。そこが通常の酒場と異なる点
があるとするならば、入り口付近に設置された大きな掲示板に依頼
の紙が貼られているくらいであろう。
 この日、孫太行の依頼に応じた人間は全部で7名。出身も職業も
ばらばらの面子である。
「え〜、この度は依頼を受けていただき……って、堅苦しい挨拶を
しても始まらねぇやな。ざっくばらんにいかせてもらうぜ。詳細は
依頼書に書いてあった通り、建物の所在確認と内部調査だ。一応、
俺が指揮をとる形になる」
 太行がごくごく簡単に依頼内容の確認をした後、一同は簡単に自
己紹介をしあう。個性的な面々が集まった中でも、一際異彩を放っ
ていた者といえば、
「オーマ・シュヴァルツだ、よろしくな。何だな、皆で未知とのム
ネドキ大胸筋フォールンミステリー目指しマッチョ★っつー感じな
んかね?」
 身長2mを越すマッチョな親父である。太行も冒険者の中では大
柄な部類に入るが、それでも頭一つは違う。
「それにしてもおまえ、なかなかいい上腕三頭筋してるじゃねーか」
「いやいや。あんたの大胸筋には負けるけどな」
 いきなり筋肉トーク。医者という肩書きを持っていなければ、何
かと紙一重な感じもあるかもしれない。
「どこに居ても、する事は同じだなこの人は……」
「まぁ、個人のパーソナリティというものは、年を重ねるごとに強
固になっていくものだからな」
 かつて一緒に冒険をしたこともある、アレスディア・ヴォルフリ
ードとキング=オセロットは割とクールに流しているものの、麗し
い女性二人からはあまり好意的な視線を受けているとは言えなかっ
た。
「何事もなければ、休ませてもらってもよろしいですか。明日も早
いのでしょうし」
 もう一人の女性、マリス=デスサイズに至っては早々に立ち上が
った。黒衣を翻して、太行に許可を求める。
「ああ、構わないぜ。明日の朝、現地集合でよろしく」
「……では、私も失礼させてもらう。仕込みもあるのでな」
 イルディライと名乗った剣士も席を立ち、階上へと消えていった。
(いやはや、なかなか個性的なメンバーで先が楽しみだぜ)
 オーマの執拗な同盟勧誘をを受け流しながら、太行は明日の探索
行を思って、一人内心で溜息を漏らしたのであった。


●シティ〜初めての冒険〜
「へぇぇ……」
 翌朝、他の探索者達よりも早く、太行らはシティの城壁内部を目
指した。眼前に広がる、無数の倒壊した建物に感嘆の溜息を漏らし
たのは、蒼柳凪である。線の細い感じの少年であり、冒険らしい冒
険は今回が初めてだという。
「目的の場所はここからは見えないが……そら、あの建物の裏側に
なるはずだ」
 太行が指し示した方角には、まだ完全には倒れていない高層建築
が視界を遮っていた。
「すごいなぁ……俺の故郷には、こういう建築物ってなかったから
なぁ……」
 舞術師である凪の故郷には、いわゆる平屋造りの建物が多い。ど
うしても景色自体が横長になってしまうのである。 
「おいおい、いつまでも見とれてんなよ。荷物は持ってやっから、
先を急ごうぜぇ」
 彼の荷物をひょいと抱えあげたのは、虎王丸。口調こそ乱暴では
あるが、何かと初心者の凪を気遣っているようだ。同年代の二人だ
が、体格は非常に好対照であった。
 道程は比較的順調に進んでいった。途中、幾度かモンスターとの
遭遇の機会はあったものの、アレスディアが無用の戦闘を望まなか
った為、それを迂回して進んだこともある。無論、目的地に向かう
には遠回りになるのだが、リーダーである太行もそれについては賛
成の意を示していた。
「ま、怪物を退治するのが目的じゃないしな」
 歩を進める彼の口からは、そんな言葉も聞くことが出来た。しか
し、状況は彼方から聞こえてきた叫び声によって変わった。
「な、なんだっ!? 助けを……求めている?」
 凪が声の聞こえてくる方向に目をやるのと同時に、一行は素早く
そちらへと駆け出していた。


●飛竜〜前哨戦〜
「オーマ! アレスディア! キング! お前らはそっちを頼む!
 あとは俺について来い!」
 廃墟の陰になって判らなかったが、そこは元は公園か何かだった
らしい。開けた空間になっていて、噴水の残骸らしいものも見てと
れた。
(そう言えば太行さんが、こういう場所は気をつけろって言ってた
な)
 出遅れた凪が、ふとそんな事を思い出す。視界に入ってきたのは、
二頭の飛竜に襲われたらしい冒険者達であった。
「はぁっ!」
 その口に冒険者の一人を咥えていた飛竜の足に、太行の火炎槍が
突き刺さる。既に穂先には紅蓮の炎が蓄えられており、強固な鱗を
やすやすと突き破ってその肉を焼いていた。
「俺だって!」
 虎王丸もまた、最上段に構えた日本刀を振り下ろし、反対の足に
斬りかかる。彼の場合は自身の能力である『白焔』によって刀身を
発火させ、その威力を高めている。速攻、突撃、そして炎。彼と太
行の戦闘スタイルは驚くほど似通っていた。内心でライバル意識を
持っているのも無理はないところである。
ギャァァァ!
 既に息絶えている冒険者の亡骸を落とし、飛竜の口から咆哮が響
き渡る。両足に手痛い一撃ずつを喰らった飛竜が、その強靭な尻尾
を振り回して暴れまわる。
「くっ!」
 虎王丸は一旦、間合いをとろうとした。事前に太行から聞いてい
た事だが、尾にトゲを持つタイプには毒を持っているものが多い。
その一撃だけは避けなくてはいけなかったからだ。
ガキィィィン!
「……!」
 やはり気負いがそうさせたのか、一瞬、体を翻すのが遅れた彼を
救ったのはイルディライの巨大な包丁であった。包丁といっても、
刀と呼んで差し支えないほどの巨大さだ。烈風と共に叩きつけられ
た尻尾を、巧みに受け流して自分と虎王丸の身を護ってみせた。
「あ、あんがとよ」
「……気にするな」
 ここまで殆ど口を開かずにいた為、とっつきずらい人物だと思っ
ていたが、それは誤解だったようだ。先程も、飛び出した太行に遅
れずについて来ていたし、冷静に戦況を見つめながらフォローに入
る戦い方は、熟練の凄みを感じさせるものがあった。
(見とれてる場合じゃねぇな……っと、凪の奴は!?)
 虎王丸が巡らせた視線の先には、霊扇を構えて短い舞いを踊って
いる凪の姿があった。空中に舞い上がった飛竜に対して、しきりに
真空破をぶつけようとしている。彼の舞術は何度か目にした事があ
るが、その時の冷静な彼ではない。初めての怪物との遭遇で、パニ
ックを起こしている様にも見えた。
「……まったく!」
 小さく舌打ちをしたマリスが、一歩前へ出て精神を集中させる。
右手の鑓を振るうと、無形の衝撃波が飛竜の心臓部を正確に捉えた。
ソウルブレイクと呼ばれる闇属性魔法である。
 姿勢を崩した飛竜が地上に落ちてくるのを見計らい、太行、虎王
丸、イルディライの三人が斬りかかる。最後はその口を太行が串刺
しにし、二人が両目に致命的な一打を叩き込む事で止めをさしたの
であった。


●飛竜〜前哨戦2〜
「ん〜〜……あっちも終わったっぽいなぁ。では俺たちも、マッチ
ョでクールに終わらせますか★」
「……誰がマッチョでクールだ」
 オーマとキングの間で緊張感に欠ける会話が交わされている間も、
アレスディアはただ一人、飛竜の猛攻を食い止めていた。ルーンア
ームナイトである彼女は、突撃槍を『難攻不落』と呼ばれる灰銀巨
鎧へとその姿を変え、高い防御力でガードし続けていたのだ。
 当初は殺さない方法も探っていたのだが、興奮状態に陥った飛竜
の攻撃は見境なく、このままでは向こうにも飛び火しそうな勢いで
あった。
「……やむを得ないか。二人とも、漫才はそれくらいで。いくぞ!」
 アレスディアの言葉と同時に、キングの体が弾かれたように飛竜
に迫る。暴れる怪物の体の脇を、踊るようにすり抜けながら、至近
距離からの銃撃で翼の根元をピンポイントで狙い撃ちしていく。彼
女はアレスディアの様な防御力は持ち合わせてはいない。だが、常
人には不可能な機動で動く彼女を捕らえる事の出来るものなど、そ
うそういるものではなかった。
「我が命矛として、牙剥く全てを滅する……『黒装』!」
 コマンドワードに反応し、アレスディアの長剣が漆黒の突撃槍へ
と姿を変える。同時に鎧も漆黒の衣服へと変わり、渾身の力を込め
てチャージングをかける。その一撃は確かに飛竜の左足を捉え、キ
ングの攻撃と併せてその移動力を削ぎ取った。
 そして……。
「くらぇぇぇっ! 大・胸・筋……スラーーーーっシュ★!!」
 具現化されたレーザーソードが溢れんばかりの筋肉によって加速
され、文字通りに飛竜の頭部を両断する。オーマの常識を覆すかの
ような一撃に、側で見ていた二人からも溜息が漏れる。
「やはり何でもありだな、この人は……」
「私の能力を持ってしても再現不可能な一撃だからな。……まぁ、
しようとも思わないが」
 どことなく毒気を抜かれたような二人。一方、ノリノリだった割
には、オーマの顔は今ひとつ晴れない。魔物とはいえ、出来れば殺
したくはなかったというのが、本音であったからだ。
 そんな事をしている間に、太行達も近寄ってきた。
「向こうは全滅だ……こっちは?」
「私達が着いた時にはもう……」
 襲われた冒険者達は、装備を見る限り初心者の様であった。太行
によれば、運がよければ怪物に逢わずに奥深くまで来る事は可能な
のだという。だが、それ故に遭遇した時には手に余るケースが多い
のだと。
(俺もひょっとしたら……)
 凪の顔が曇る。人間相手であれば、多少の修羅場は潜り抜けてき
たつもりであった。ある程度は落ち着いて対処できるはずであると。
だが、初めての冒険で僅かばかりの自信はあっという間に打ち砕か
れてしまった様な気さえする。 
「……仕方ねぇだろ。初めてなんだからよ」
 そんな凪に声をかけたのは虎王丸であった。普段はとかくぶつか
りあう事も多い二人だが、こういう、ちょっとした事で気がつく時
も多いのだ。
「お、えらいぞ。おまえさん、なかなか気遣いが上手いじゃないか」
「なっ! だ、誰がこんな奴の事を……!」
 太行が素直に褒めた言葉に過剰に反応し、虎王丸は真っ赤になっ
て立ち去った。だが、その気持ちは凪の心にもきちんと届いていた
ようだ。
「俺は……皆さんの役に立てるんでしょうか」
「誰にだって初陣の時はある……俺にだってな。普段出来る力を必
ずしも発揮できないのが戦場だ。だけどな、初めから誰かの役に立
つ必要なんてないんだぜ? 助けあえる存在がいること。それが仲
間同士でいる意味なんだから」
 太行はぽん、と彼の肩を叩いた。それだけで、凪は肩の力が少し
抜けたような気になったのであった。
 マリスが生命を落とした冒険者達の魂の浄化を終えるのを待ち、
一行はいよいよ神殿跡へと足を踏み入れるところまで行く事となっ
た。


●観察〜神殿跡〜
 その建物は、確かに神殿と呼んでも差し支えないものであった。
少なくとも、巨大な威容を持つ何かを祭っている様に見えた。
「……調べれば、ここの歴史について何か判るかもしれねぇなぁ」
 あちこちを観察しながらオーマが言う。
「他の倒壊した建物とは壊れ方が違うな。強度からいえばもっとし
っかり残っていていいはずだ。ところどころにある傷といい、都市
の落下とは別の要因があった様な気がしてならねぇな」
 確かにオーマの指摘するように、巨大な神殿のあちこちに傷跡の
ようなものが見受けられる。
「……まるで巨大な剣を振り回したようだな」
 太行がぽつりと漏らした言葉は、皆の足を止めさせるのに充分な
重みがあった。確かに、そう考えれば納得のいく部分も多い。
「そんな事はいいんだけどさ。金目のモノとかないのかな?」
 虎王丸だけは、それとは関係なくあちこちをひっくり返したりし
ていたのだが。
 一行はとりあえず、神殿の中心部である大広間を目指す事にした。
そこは先に来た冒険者達がガードゴーレムと遭遇した場所でもある。
太行の指示で事前に決めていた陣形を組み、慎重に奥へと進んで行
く。
「これは……?」
 そこは、かつては大広間と呼ばれていたのだろう。だが、今や壁
と天井からの崩落物に占拠され、瓦礫の山と化していた。しかし、
その奥には開かれた巨大な扉があり、まだ天井部の灯りが生き残っ
ている様であった。
「……何か音が聞こえないか?」
 久しぶりに口を開いたイルディライの言葉に、全員が耳を澄ませ
る。確かに、奥から人の声の様なものが聞こえていた。
「いくぞ!」
 一行は瓦礫の山を飛び越え、大広間の奥に聳え立つ巨大な扉を潜
っていった。


●遭遇〜ギルドナイト〜
 すると、そこには頭部や背中などに竜の面影を有した神像の様な
ものが横たわっており、その傍らには漆黒のプレートメイルを身に
着けた戦士と、呪文の様なものを唱える黒衣の男の姿があった。一
行の姿を認め、戦士が一歩前へ出る。
「孫太行め……生まれ変わってまで私の邪魔をする気か……」
 男が小さく漏らした言葉は、誰の耳にも届かなかった。
「レグよ。儀式の終了まではあと僅かだ。時間を稼げ」
「了解」
 戦士は感情のない声で答え、一行に向かって走り出す。同時に、
いくつか投げられた牙のような物から、数対の骸骨の兵士が姿を現
し、共に向かってくる。
「竜牙兵よ。コンストラクトだわ」 
 マリスがすぐにその正体を見抜く。通常のスケルトンであればタ
ーンアンデッドが効くが、これはアンデッドとは別物である。その
言葉を聞き、横にいた凪がすぐさま舞術を開始した。
「我が身盾として、牙持たぬ全てを護る……『難攻不落』!」
 アレスディアが、ルーンアームを灰銀の鎧へと変えて、眼前に立
ちはだかる。この鎧ならば多少の攻撃ではびくともしない。一方、
キングは真っ先に黒の戦士に飛びかかっていた。小剣を翻し、プレ
ートの隙間を狙って突きを放つ。しかし。
「む……?」
 戦士はそれを避けようともしない。にもかかわらず、鎧に刻まれ
ていた顔のようなものがその一撃を歯で喰い止めた。
「リビングメイルなのか……?」
 キングが僅かに目を細める。その姿をあざ笑うかのように、刻ま
れた口が呪文を唱え、漆黒の炎を打ち出してきた。イルディライが
凪のカバーに入る。特殊な形状の盾を用い、その内の一本を退けた。
「いかなる炎であれ、御する事こそ私の道なり」   
 彼とアレスディア、それに太行がカバーしてる間に、凪の舞術が
完成し、効力を発揮する。全員の体が白い光に包まれる。事前に話
していた連携の一つで、防御力を上げているのだ。
「ワル筋にもムカつくが、筋肉のない奴はもっとムカつくだよ!」
 オーマのレーザーソードが竜牙兵に迫る。それは盾によって阻ま
れたものの、彼はそれごと両断するつもりで腕を振り切った。だが、
ソードは盾を割るだけに止まった。
「何か特殊なフィールドに遮られたようだな」
 一旦、下がったキングが指摘する。だが、追撃した虎王丸の『白
焔』を纏わせた刀に対してはそれが見受けられないという。
「どっかでもあったなぁ……そんなの。男なら筋肉だけで勝負しろ
っていう俺への挑戦かぁ?」
 魔法で作られた玩具ごときにコケにされる謂れはない。大剣を具
現化したオーマは、虎王丸が切り結ぶ竜牙兵に向かって真一文字に
それを振り下ろし、渾身の力で叩き潰してやった。
「みんな下がって!」 
 マリスの声に全員が素早く反応する。黒の戦士もまた、大きく間
合いをあける。両者の間に出来た空間に、氷雪の嵐が吹き荒れたの
は次の瞬間であった。
「くっ……!」
 直撃を免れてさえ、耐え難い魔法の余波が一行を襲う。それが治
まったあとには、砕かれた竜牙兵の残骸だけが残されていた。その
向こうで神像を中心に、二人の男の姿が黒い影に飲み込まれるよう
に消えていくのが虎王丸の視界に映った。
「逃げるのか! この野郎!」
「彼の者の魂に死の理を示せ……!」
 マリスの唱えたソウルブレイクと呼ばれる闇属性魔法は、無形の
衝撃波と化して黒の戦士を直撃した。にもかかわらず、戦士は僅か
なよろめきも見せずに耐えてみせ、二人は完全に姿を消し去ったの
であった。
(今の手ごたえは……?)
 相手の反応に違和感を覚えながらも、マリスは正確に敵の魔法を
分析した。
「影を使ったテレポートですか……。あれだけの質量を転移させる
となるとかなりの技量ですね」
「そうだな……だが、全てはが持ち去られたわけではないようだ。
もう一度周囲を見て、残ってないか確認しよう」
 太行は彼女の言葉に相槌をうったが、どこか腑に落ちない事があ
るようにも見えた。
「他にも何か気になる事でも?」
「いや……あの陰険そうな目つき。どっかで見たような気もするん
だが……」
 それ以上は語らず、太行は皆と共に周囲の捜索へと向かった。


●エピローグ〜カグラの酒場、再び〜
 結局、神像の一部は見つかったものの、素材の異なる部分を採集
して持ち帰るに止まった。それら持ち帰った分に関しては、ギルド
の買い上げという形になり、一行の懐にはそれなりの金が入る事と
なった。
「イマイチすっきりしないが……まぁ、無事で何よりだ。今日はギ
ルドの奢りだからじゃんじゃん飲んでくれ」
 日頃の太行らしくない歯切れの悪さに、凪が心配そうに声をかけ
た。
「結局、神像については何か判ったんですか?」
「あぁ。外側しか採集できなかったんではっきりとは分からんが、
物質からは竜種の因子が検出されたらしい」
「因子……ってなんだ?」
 当然、首を捻ったのは虎王丸である。
「俺も技術的なことはよく解らないが、ジェイクの方の探索報告か
ら推測するに、ガードゴーレムに竜の力を上乗せしたようなものだ
そうだ」
 水のような勢いで酒を飲む太行。ペースは自然と加速していく。
その中で、全く酔いを見せないキングは、いつもの口調で納得した
ように頷いた。
「なるほど。あの時、オーマのレーザーソードを弾いたフィールド
のようなものか」
 太行の説明によれば、一部の攻撃に対して強固に反応する防御フ
ィールドがあるという。彼が故郷で聞いた噂話の中では、ドラグー
ンと呼ばれる竜の力を借りた巨人が存在したという。
「俺も現物を見たわけではないからはっきりとは知らないがな。そ
れ以上の事はジェイクから聞いた方が早いだろう」
 そう言って太行が杯を置く頃には、かなりの酒瓶がテーブルの上
を埋め尽くしていた。酒にあまり強くない凪や虎王丸はともかく、
アレスディアやマリスまでもが頬を赤くしていた。
「オ、オーマ……この酒……一体……?」
「……かなり強いですわね」
 態度こそ崩れないものの、二人とも大分まわってきつつあるよう
だ。そんな彼女らを見ながら、オーマはにやりと笑った。
「カグラの地酒、『美中年』さ。アルコール度はひ、み、つ★ こ
のラベルのマッチョな絵がナイスだよなぁ〜★」
 既に店の中は大宴会モードに突入していた。オーマが話も聞かず
にあちこちで振る舞い酒をしていたからである。
「ま、細かい事は気にするなぁ! 明日は明日の風が吹く〜〜!」
「おぉ〜〜!」
 聖筋界の腹黒親父が本領を発揮しまくり、酒場全体が喧騒と狂気
に彩られていく中で、酔う事の出来ないキングに対して、イルディ
ライは低く呟いたのであった。
「……酒は飲んでも飲まれるな、だ」
「全くだな」
 同意の小さな呟きは瞬く間にかき消され、他の者の耳に届く事は
なかった。

                            了



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業

0811/イルディライ/男性/32/料理人
1070/虎王丸/男性/16/火炎剣士
1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39/医者兼ヴァンサー
2303/蒼柳・凪/男性/16/舞術士
2872/キング=オセロット/女性/23/コマンドー
2919/アレスディア・ヴォルフリート/女性/18/ルーンアームナイト
3112/マリス=デスサイズ/女性/18/ネクロマンサー(秩序の黒)

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。今回はゲームノベルに参加していただき、あ
りがとうございます。
 先にジェイク側から手をつけた為、完成が遅れてしまった事を深
くお詫びいたします。近日中に続編の窓口を開くつもりでいますの
で、懲りずに来て頂けると幸いです。
 今回のノベルを基に、個別ページの情報も更新していくつもりで
すので、よかったらそちらもご覧ください。

>アレスディア
 ルーンアームナイトという職業は書くのが初めてでしたが、いか
がだったでしょうか? 絶対防御などに関しても、書いてみたいも
のですね。

>イルディライ
 料理人という事を公言はしていないつもりですが、いかがなもん
でしょうか(笑)。
 
>オーマ
 ご来店、ありがとうございます。不殺を破っちゃったとこだけ、
ちょっと納得がいかないかな〜。腹黒親父度は、これくらいで勘弁
してください(笑)。

>キング
 物腰が柔らかく、クールな口調というのに悩まされましたが、い
かがでしょうか。結局はビジュアルイメージを優先させましたが(笑)。

>虎王丸
 いかがでしたか?確かに、太行と戦闘スタイルが似ているんです
よね。ライバル意識を持ってくれると嬉しいですな。

>凪
 今回はちょっと初心者としての視点を強く出しましたが、いかが
だったでしょうか。次からはびしばし戦える……かな?

>マリス
 すいません。途中まで竜牙兵ではなくてスペクターで書いていた
のですが、諸事情でこうなりました(元々、竜牙兵は出すつもりだ
ったのですが)。呪文名まで叫ぶのも、それらしくないかと思って
書きませんでしたが、どうでしょう?



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