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■超能力心霊部 ファースト・コンタクト■

ともやいずみ
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】
 ざわめく街角。
 帰宅中の学生。買い物をしている若者たち。
 そんな、日本のどこでも見かける光景。
 その中の、とあるファーストフード店。
 店内には若者が帰宅途中の休憩と言わんばかりに占めていた。

 そのファーストフード店の二階の窓際。
 店の外からも様子が見えるそんな場所に陣取っている高校生の3人組がいた。
 ボブカットの少女・高見沢朱理。
 ストレートの髪の美少女・一ノ瀬奈々子。
 気弱そうな表情で、二人の少女をうかがう外人のような少年・薬師寺正太郎。
 正太郎の差し出した一枚の写真を見遣るなり、奈々子は美しい眉を吊り上げる。
 奈々子の横に座ってジュースを飲んでいた朱理はたいして気にもしていない。
「あなたって人は!」
 ぎろりと正太郎を睨みつける奈々子を、朱理は横目で見る。正太郎はびくりと肩を震わせた。
「いくら私たちと同じ能力者といえど、私たちは『霊能力者』ではないのですよ? この写真にどういう意味があるのかきちんとわかるわけがないというのに……」
「ご、ごめん……」
 肩を落として謝る正太郎をチラリと見遣り、朱理は軽く笑ってみせた。
「まあいいじゃない。なんとかなるって」
「あなたはどうしてそんなにお気楽なのですか!」
「奈々子ほど真剣に考えてないだけだよ」
 平然と言う朱理に、正太郎は少しだけ安堵したような表情になる。
「正太郎だって写したくて写したんじゃないんだし、そんなにカリカリすることないって」
「あ、ありがとう朱理さん」
「いいっていいって。だってあたい、そういう霊とかいうもの、よくわかんないしさ」
 ケラケラと笑う朱理。
「何度言ったらわかるんですか! こういうものの中には、害がある場合もあるのですよ? 警告という形で写真に写ることもあるのです!」
「奈々子さん、落ち着いて……」
「そうそう。あんまり怒るとハゲるよ、奈々子」
「もう! どうしてあなたたちはそうなんですか!」
超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 なにげなく入ったファーストフード店。どうせならと二階で食べることにした梧北斗は、どこに座ろうかと辺りを見回した。
 それほど混雑はしていないが、座りたいと思う箇所は空いていない。
 窓際だって、どこかの高校生に占領されていた。仕方なくその横の空いている席に座る。
 横に座っているのは三人組だ。しかも、全員特徴があって面白い。
 写真を片手にこめかみに青筋を浮かばせている美少女は、目の前に座る金髪の少年を睨んだ。少年はびくびくと震えて鞄で顔を隠す。
 美少女の横に陣取るボブカットの少女は我関せずという表情でハンバーガーを頬張っていた。
「薬師寺さん……あなたって人はまた……!」
「え、だ、だって好きで撮ったわけじゃないし……。奈々子さんが奇妙なもの撮ったら持って来いって言ったんじゃないか!」
 鞄の陰から反論する薬師寺という少年に、奈々子と呼ばれた美少女がぎろりと視線を遣る。薬師寺は顔を完全に隠した。
「こんなあからさまな霊障の写真! どうしてあなたはそうなんですか! 少しは考えたらどうなんです!?」
「やめなよ奈々子。正太郎だって好きで撮ってるわけじゃないでしょ?」
「朱理も! どうしてそんなに呑気なんですか!」
「だってあたい、写ってないもん。関係な……へぶっ」
 後頭部を奈々子に殴られた、朱理という少女は顔面から机に突っ込む。
 思わず「うわぁ」と北斗がのけぞった。あれは痛い。
「そんな態度はやめてください! そういう自分無関係発言は、世の中を乱すことになるんですよ!」
「すでに乱れてる……はべっ」
 起き上がった途端に朱理は頬に拳をくらって窓ガラスにゴン、と頭をぶつけた。
「ひぃぃぃ! やめなよ奈々子さん! いくら朱理さんでも……」
「……あなたも食らいたいんですか……?」
 暗い空気を纏わせて薄く笑う奈々子に正太郎が悲鳴をあげて泣き出す。
「……くっ、はは、あははは!」
 たまらず、北斗は笑ってしまった。
 ちょっと待て。なんだ今の。
(ぶくくく! 漫才か!? トリオ漫才!?)
 突然笑い出した北斗に、三人組は黙ってしまう。
「わ、悪い……急に笑い出して」
「いいよべつに。だってあたいたちの会話、傍から聞いてると可笑しいってよく聞くし」
 謝る北斗にさらっと言ったのは朱理と呼ばれていた少女だ。
「俺、梧北斗。よろしく」
「あたいは高見沢朱理。こっちが一ノ瀬奈々子。で、あっちは薬師寺正太郎」
「朱理!」
「朱理さんっ!」
 奈々子と正太郎が非難の声をあげる。当然だろう。本人の承諾なく紹介したのだから。
「いいじゃん名前くらいさあ」
「どうしてあなたはそうやって警戒心ゼロなんですか!」
「うわ〜! 落ち着いて奈々子さんっ」
 拳を振り上げる奈々子を、正太郎が止める。
 北斗は笑いを堪えた。
(なるほどね。あの朱理って子は後先考えずに突っ走るタイプ。奈々子って子は美人だけど短気。正太郎はその二人を止める感じだが……止めれてないな、あれは)
 ぷるぷると体が震える。どうしよう、すごく笑いたい。
 ごほんごほんと咳をして笑いを抑え、北斗は三人に言う。
「霊障がどうとか言ってたけどさ、なんか困ってんの? なんだったら力になるけど」
「……あなた、面白半分で首を突っ込もうというのでしたら、やめていただきたいんですが」
 きっぱりと奈々子が言い放った。なるほどなるほど。彼女がこの三人のまとめ役ということだろう。
 北斗は小さく笑う。
「いやなに。これでもそういう類いのことにはちょっと詳しいんだよ、俺」
「え?」
 奈々子と正太郎が目を丸くした。朱理はジュースを飲みつつ北斗を眺めている。
「霊媒師とかをされているんですか?」
「退魔師をちょっとね」
 奈々子の問いにそう答えると、奈々子と正太郎は顔を見合う。北斗はとどめとばかりに切り出した。
「その写真、俺にも見せてくれる? なんか手伝えるかもしれないから」



 写真には幽霊が写っている。透けているのだからそうなのだろうが……。
(すっごいハッキり写ってる心霊写真だなぁ……)
 これはこれですごいと思う。ここまで鮮明なのだから、逆に恐ろしい。
 子供の幽霊は公園で泣いていた。
「うーん……」
 呟く北斗をうかがうのは奈々子と正太郎だ。朱理はもぐもぐとポテトを食べている。
「ど、どうですか?」
「実は俺、霊視とか得意じゃないんだよね」
 けろっとして言うと奈々子と正太郎が机に突っ伏した。
「なんですかそれは〜!」
「ひどいよ、梧さん!」
 二人に責められても北斗はにやにやとしている。
「だからさ、この場所に行ってみよう。写真からだけじゃ、読み取れないこともあるし」
「ええーっ!」
 絶叫をあげたのは青ざめた正太郎だ。明らかに嫌がっている。
 奈々子は落ち着いたように頷いた。
「そうですね。わかりました、行きましょう」
「な、奈々子さん〜っ!?」
「この公園、朱理の住んでるマンションの近くでしょう?」
 朱理はちらっと写真を見遣り、「まあね」と頷く。
 北斗は掌を叩く。
「じゃ、決定! よ〜し、行ってみよう!」



 北斗の後ろでびくびくおどおどしている正太郎を肩越しに見遣り、北斗は嘆息する。
(すごいビビリよう……。正太郎は極度の怖がりなんだなぁ)
 先頭を元気よく歩く朱理と、それに続く奈々子。三人の関係が手にとるようにわかった。

 目的の公園はすぐに見つかった。
「ここでしょ。最近子供の泣き声が聞こえるってんで、ちょっと気味悪がられてるらしいけど」
「あなた! 放っておいたんですか、そんな噂を聞いていながら!」
「いだだっ! だ、だってぇ、なんか悪さしたとは聞かなかったし……あぎゃ!」
 耳を奈々子に引っ張られた挙句、力強く抓られる。北斗は「怖っ」と心の中で洩らした。
(一ノ瀬は怖い女……と)
 北斗はハッとする。低い唸り声のようなものが聞こえた。
(な、なんだ……?)
「わああああああああああっっ! なっ、泣き声がするぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 悲鳴をあげて北斗の衣服をぎゅうっと握る正太郎。北斗にははっきりとした泣き声は聞こえない。
「耳が痛い感じはしますけど……」
「そう? ぜーんぜん感じないけどなぁ」
 奈々子と朱理の言葉に「なるほどね」と頷く。
 霊感の強い正太郎だけはっきりと声が聞こえているのだ。
「正太郎! どんな感じだ?」
「ど、どんなって……?」
 物凄い泣き顔だった。思わず吹き出しそうになるが堪えた。
「俺にはちゃんと聞こえないんだ。霊の力が弱いんだろう。正太郎は視えるはずだ。どんな感じ?」
「な、なんでそんなことボクに訊くんですかあ!」
 わんわんと泣き出した正太郎の尻を、朱理が蹴飛ばす。思わずその場に膝をつく正太郎。
「いたぁ〜!」
「梧さんが言ってんだ。早くやりなよ! あとでガリゴリくんおごってやるから!」
「アイス1個でボクに死ねって言うのぉ〜!?」
「いいからやりなさい!」
 ゴン! と奈々子の拳が真上から頭に直撃した。これは……すごく痛そう。
 正太郎は泣きべそ顔のまま、渋々集中している。
「………………う?」
 呟いた正太郎は悲鳴をあげてその場に突っ伏す。
「ど、どうした!?」
「よ、幼稚園の子供、だ……。迎えに来ないから……探しに…………く、車……こ、これ……違う。トラック!」
 頭をゆっくり振る彼は真っ青で吐き気をこらえている。
「いだ……い。ひ、ぐ」
「っもういい! おまえ、感応能力も高いのかよ!」
 正太郎の肩を激しく揺さぶる北斗。がくんと正太郎の首が垂れた。気絶したようだ。
 気絶した正太郎を朱理に任せ、北斗はぐるりと公園を見渡す。夕暮れ時だ。
(正太郎の言葉から察するに……幼稚園に迎えに来ない両親を探しに出て、トラックで轢かれたってとこか)
 この付近で事故に遭ったということだろう。そしておそらくここは――――。
(その子が、親と遊んでいた公園、ってことか)
 泣き声が聞こえる。だが、弱々しい。
 自分たち以外はいないはずの公園だ。
 ままー……ぱぱー……。
 遠い場所から聞こえるような、慟哭。
(見えなきゃ話にならないけど……)
 そう考えて、持っていた写真を見遣った。そうだ!
(滑り台の近く……!)
 北斗はそちらに目を向ける。透けては消える……その繰り返しをする幼い少年の姿がおぼろげながら見えた。
 そちらに歩き、近づく北斗。
 少年の目の前に立つ。
「手伝うよ」
 声をかける。
「パパとママ、探そう。一緒に」
 少年は顔をあげた。
「きっと見つかる」
 大丈夫だと囁く北斗に、少年は抱きつく。
 朱理に訊けば事故現場はわかるだろうし、両親も誰かわかることだろう。
(それが一番いいだろうな)
 無理に退治したり、浄化するよりは…………両親に会って、心残りをなくしたほうがいい……。



「というわけで、一件落着かあ〜!」
 朱理は大きく両腕を伸ばす。
 亡くなった少年を両親に引き合わせたあと、三人は近くのコンビニに来ていた。
 外に出た正太郎は朱理が買ってくれたガリゴリくんをもぐもぐと食べている。
「梧さんもガリゴリくん食べる?」
「いや、俺はこっち食べるから」
 北斗はチョコレートを買った。疲労回復には甘いものが一番だ。
 外に出ると風が気持ちよかった。
(こういう解決法をしたのって……久しぶりかもしれないな……)
 ああいう類いの霊ばかりではない。話しも聞けず、すでに言葉の通じなくなった霊もいるのだ。
「あ! 梧さん!」
 正太郎がこちらを振り向く。
「よっ!」
 片手を挙げると正太郎は安堵したように微笑んだ。
(うーん……なんで正太郎はこんなにビビリなんだろうか……)
 見てて面白いけど。
「ぁぃでっ!」
「店員さんの前であなたって人は!」
 がいんと頭を殴られて店から出てきたのは朱理と奈々子だ。
 それを見て北斗は吹き出してケラケラと笑った。
(うんっ! なんつーか、こいつらおもしれー!)
 笑う北斗を見て三人は顔を見合わせ、肩をすくめる。
 笑いすぎて出てきた涙を北斗は拭った。
「じゃ、帰るか!」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 ちょっぴり悲しくて、ということでしたが……いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。