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■秋深し、寿天苑■

むささび
【1108】【本郷・源】【オーナー 小学生 獣人】
空が高い。つけっぱなしのテレビからは、紅葉だの秋の行楽だのと楽しげな言葉が聞えてくる。中庭に面した縁側に寝転んだ少女は、ふう、と溜息を吐いた。
「秋…なんじゃろうなあ、やっぱり」
 池に居た白い川鵜がこちらを向いて首を傾げたのは、多分、少女の声がやけにつまらなそうだったからだろう。天鈴(あまね・すず)は、実際かなり退屈していた。理由はいくつかある。最近これと言った事件がおきない事。この寿天苑の管理人としての仕事である、『散逸した収蔵品回収』がちっとも進んでいない事。だが。一番彼女を退屈させているのは…。
「いつも春じゃと言うのも、これまた風情の無き事よ」
 ふうむ、と考えていた彼女だったが、ひょこりととび起きると、軽い足取りで蔵に向って行った。
「ふっふっふ。便利な品も、使わねば単なるお荷物ゆえ」
 戻った鈴が手にしていたのは、大きな『すごろく』一式だった。その名も、『四季の旅すごろく』。身代わりコケシを使って遊ぶ、不思議の『すごろく』なのだ。春、夏、秋、冬の四つの盤が収められた箱から、鈴は迷わず秋の盤を取り出した。

秋深し、寿天苑

 空が高い。つけっぱなしのテレビからは、紅葉だの秋の行楽だのと楽しげな言葉が聞えてくる。中庭に面した縁側に寝転んだ少女は、ふう、と溜息を吐いた。
「秋…なんじゃろうなあ、やっぱり」
 池に居た白い川鵜がこちらを向いて首を傾げたのは、多分、少女の声がやけにつまらなそうだったからだろう。天鈴(あまね・すず)は、実際かなり退屈していた。理由はいくつかある。最近これと言った事件がおきない事。この寿天苑の管理人としての仕事である、『散逸した収蔵品回収』がちっとも進んでいない事。だが。一番彼女を退屈させているのは…。
「いつも春じゃと言うのも、これまた風情の無き事よ」
 ふうむ、と考えていた彼女だったが、ひょこりととび起きると、軽い足取りで蔵に向って行った。
「ふっふっふ。便利な品も、使わねば単なるお荷物ゆえ」
 戻った鈴が手にしていたのは、大きな『すごろく』一式だった。その名も、『四季の旅すごろく』。身代わりコケシを使って遊ぶ、不思議の『すごろく』なのだ。春、夏、秋、冬の四つの盤が収められた箱から、鈴は迷わず秋の盤を取り出した。と、そこに、何やらにぎやかな声が聞こえて来たのだ。
「お客人かのう。丁度良い」
 にんまりと笑うと、鈴はぽん、と庭に飛び降り、声の方に駆け出した。

「ほう、綺麗じゃのう、嬉璃殿」
 本郷源(ほんごう・みなと)は、桃の花咲き乱れる庭を見回して溜息を吐いた。外の世界は秋も盛りと言うこの時期に、結界に護られているという苑の中は、春そのままに暖かい。
「不思議な場所なのぢゃ」
 と頷いたのは、源の相棒とも言うべき友人、嬉璃だ。彼女と共に辺りを見回していると、目の前の茂みががさりと揺れた。
「玲一郎、お客人か」
 現れたのは、雪のように白い髪をした、少女だ。髪と着物についた薄紅の花びらを払いながらこちらを見た彼女は、おお、と声を上げた。
「源殿!嬉璃殿!来て下さったか」
「すごろく勝負と聞いては、来ない訳には行かぬのじゃ。なあ、嬉璃殿?」
 と嬉璃を見れば、彼女もうむ、と頷いてみせる。天鈴(あまね・すず)は、屋台の客だ。すごろくの話を聞いて、是非やってみたいと言う源と嬉璃に、ならば、とこの屋敷への道筋を教えてくれた。途中、彼女の弟、玲一郎と行きあったのは、偶然だった。
「で、その双六はどこなのぢゃ?」
 嬉璃に聞かれて、鈴が嬉しそうに笑う。やれやれと溜息を吐く玲一郎を尻目に、嬉璃、源、鈴の3人は桃の木の合間を駆け抜けた。

「では、始めるぞ?」
 桃の花咲き乱れる庭を見下ろす座敷。その中央に置かれたちゃぶ台に、『四季のたびすごろく 秋の盤』は広げられていた。中央には大きく『秋乃盤』と書かれており、うち幾つかには、何やら指示が書いてある。源と嬉璃、そして玲一郎は、鈴の言うままに小指の先ほどの小さなコケシに、自分の息を吹きかけて、始まりの目に置いた。
「組み合わせじゃが…本当に、ひとりで良いのか?」
 鈴が少し心配そうに玲一郎を見る。だが、彼はええ、と頷いて、先にサイコロを振った。出目は、6のゾロ目。
「12進ム!」
 と言う声が聞こえて、玲一郎のコケシがすすうっと進んだ。止まった目には何も書いておらず、それだけだ。
「ふむ、12とは、良き目なのぢゃ。沢山進んだのぢゃ」
 眉根を寄せた嬉璃の肩に、源が手を置く。
「安心するのじゃ、嬉璃殿。同じだけ進めば良いだけなのじゃ」
 と、サイコロ二つを手に取り、えいっと転がしたが…。出目は、5と4。惜しくも玲一郎が出した目には及ばない。しゅんとした源の肩に、今度は鈴が手を置いた。
「まだまだ序の口じゃ。それに、このすごろくは勝つだけが楽しみでは無いしのう」
 と言って、ほれ、と玲一郎にサイコロを渡す。次に彼が出したのは、2と3だった。またも不思議な声が進む数を告げ、コケシがすうっと5つ進む。止まった目には何やら文字が書いてあった。
「…収穫乃秋…?」
 源が首を傾げたその瞬間、玲一郎の姿が消えた。おおっ、と嬉璃が声をあげる。
「どこへ行ったのじゃ?」
 源が聞くと、鈴は事も無げに、
「収穫乃秋の目に飛んだのじゃ。今頃秋の味覚食べ放題をひとりでやっておるであろ」
 と言った。
「一人で…。それは少々、寂しいような気もするのじゃ」
 源が言う間に、嬉璃がぽいっとサイコロを振った。出た目は、5と2。声が告げるまま、三つのコケシがすううっと動いた。止まったのは、玲一郎と同じ目だ。と言う事は…。
「おお、秋のみか…」
 まで源が言ったところで、景色が変った。
「…ここが…」
 周囲を見回しながら源が呟くと、鈴が頷いた。
「収穫乃秋の目じゃ。さて、秋の味覚食べ放題じゃ」
「何でもか?」
 瞳をきらきらさせて聞いたのは、嬉璃だ。鈴が頷くと、嬉璃は
「ならばわしは果物が良いのぢゃ!リンゴをもぐのぢゃ!」
 と叫んだ。あい分かった、と鈴が微笑む。
「では、あちらへ参ろうか。リンゴも巨峰もあるぞ?」
 鈴が案内してくれた場所を、果樹園、と言うと少々違うのではないかと源は思う。そこは少し開けた山の一角で、葡萄からリンゴまで、あらゆる果樹が思い思いの場所で自由に枝を伸ばしているように見えたからだ。秋の陽を受けて真っ赤に輝くリンゴを見て、歓声を上げた嬉璃がまず最初に実をもぐ。ついで、源、そして鈴も続いた。
「おおっ、これは美味いのぢゃ!」
 口のまわりを果汁だらけにして嬉璃が言えば、源も
「こちらの巨峰もなかなか。よく育っているのじゃ」
 と頷き、鈴は梨を手に
「いやいや、こちらもお勧め」
 と微笑んだ。三人は思い思いに果実をもいではかじり、楽しんだ。
「それにしても」
 源が思い出したのは、玲一郎の事だ。彼は一人でここへ来て、楽しかっただろうか。
「やはり一人では寂しいと思うのじゃ」
 呟くと、鈴はふっと微笑んだが、嬉璃はそんな事は無いのぢゃ、と首を振った。
「一人なら、全部一人で食えるのぢゃ。玲一郎は見かけによらず食い意地が張って居るのぢゃ」
 それは違うような気がしたが、源が口を開くより先に景色が変った。座敷に戻ったのだ。玲一郎がサイコロを振ったのだろうと、鈴が言った。見ると、彼のコケシはまた、進んでいる。数えたところ4つ進んだようだ。彼の止まった目には、『秋祭り』と書かれているから、またすごろくの世界に飛んだのだろう。座敷には彼の姿は見えなかった。
「玲一郎は随分進んだのぢゃ。追い越すのぢゃ」
今度は源がサイコロを振る番だった。気合を込めて振り出した目は、1のゾロ目。声が、2進む、と告げた。
「…最悪なのぢゃ」
 動くコケシを見ながら、嬉璃が呟く。源も同じ気持ちだったが、鈴だけはにやり、と笑った。
「これは面白い目を出されたぞ、源殿」
 何故、と問うより早く、再び三人はぽん、と見知らぬ空間に放り出される。そこは、雨と風が吹き荒れ、雷が鳴り響く嵐の世界だった。
「ここはっ!!!!何なのぢゃっ!!!」
 叫んだのは、嬉璃だ。源も同じ思いで鈴を見る。
「嵐の目なのじゃよっ!!!」
「嵐じゃと?!」
 叫び返した源に、鈴が頷く。まさか。源と嬉璃は顔を見合わせた。二人の内心を知らず、鈴がまた声を上げる。
「ここはっ!!!風神とっ!!!雷神のっ!!!支配する空間なのじゃっ!!!」
 風神雷神。それは源と嬉璃のあるスイッチを押した。
「源っ!!」
 嬉璃が叫ぶ。
「わかっておるのじゃ!!」
 源も叫ぶ。懐から取り出したのは、少々ごついベルト三本。腹の真中には何やら金色の紋章のようなものがついている。一つを嬉璃に投げて渡し、鈴にも渡すと自らの腰にも巻いた。
「鈴殿っ、巻くのじゃ!!」
「巻くのぢゃ!」
 二人に言われるまま、鈴がおずおずと腰にベルトを巻いたのを見届けてから、嬉璃を見、二人して頷いた。
「とおっなのぢゃ!!!」
 まずは、嬉璃が飛んだ。
「さあ、鈴殿も!」
 と言うと、鈴も頷いて飛び上がった。源も続く。ベルトの力で天高く飛んだ三人は、すぐさま光に包まれる。着物は消え、代わりに三人の体を特殊なスーツが包み込む。胸元と肩、そして膝には銀色のガードが輝いた。降り立ったのは雲の上だ。予定と違う展開に戸惑う雷神たちを見据えて、まずは嬉璃がポーズを決めた。
「…ライダー一号!紅蓮の紅玉!」
 ローマ字にしただけじゃないかと突っ込む人間は、ここには居なかった。源が続く。
「同じく二号じゃ!疾風のピオーネ!」
「同じく三号!!奔流の新興!!」
 鈴が名乗り終えた所で、三人はぴっと片手を上げて指先をあわせた。
「ライダー、見参!!」
 名乗りがどうも果物くさいのは、どうやらすごろくの力の影響を受けている為らしい。突如現れた幼女ライダーたちに、あっけに取られた風神と雷神が顔を見合わせる。あまりにも予定外の行動についていけないらしい。だが、源は彼らの鼻先にびしりと指を突きつけると、
「覚悟するのじゃ!おんしら!!」
 と叫んだ。
「え、覚悟?」
 雷神が目を丸くする。鈴が慌てて横からこそっと、
「気にせず勝負せい」
 と付け足すと、ようやく我に返ったらしい。威厳を取り戻した様子で、背の太鼓を鳴らして胸を張った。
「よし、勝負だ!」
 と雷神が叫び、次に風神が壷にサイコロを入れ、伏せる。だが源と嬉璃は見ていない。
「丁か半か!」
 と叫び終えるよりも早く、嬉璃が飛び上がった。
「とおうっ」
 と掛け声勇ましく、雷神に向かって蹴りを繰り出す。だが、反応したのは風神の方だ。
「丁と申したか!心得た!丁が出たなら、運ぶぞ!半なら戻すぞ!」
 叫んで、壷をどかした。嬉璃の蹴りで吹っ飛ぶ雷神を横目に、源は鈴と一緒に出目を覗き込んだ。結果は…。
「5、6の…半!!!」
 負けたか、と鈴が呟くのが聞えたとほぼ同時に、風神がその背に背負っていた袋の口を開いた。凄まじい風が、ライダーたちを吹き飛ばしていく。
「くぬぅううっ、小賢しい真似をするのぢゃ!」
 嬉璃の悔しげな叫びも、風にかき消される。気づいた時には、再びあの、山の中に居た。鈴と嬉璃も、すぐ傍でへたり込んでいる。
「…これは、どういう事なのじゃ?」
 やれやれ、と立ち上がった鈴に聞くと、彼女はふう、と溜息を吐いて、
「勝負に負けると、二つ戻る。そういう決まりになって居るからの」
 と答えた。
「それも、普通の勝負では無うて、賽の目…丁か半か、と言うあれじゃ。出目は、半であったからのう」
 わしらの負けじゃ、と鈴が笑う。風神は、嬉璃の掛け声を丁と聞き間違えたのだ。それが単なる聞き違えだったのか、故意であったのかは分からない。だが、負けは負け。すごろく勝負にしても、すぐに玲一郎が上がってしまうのは目に見えている。
「くうっ、悔しいのじゃ」
拳を握り締める源の前に、鈴がひょい、と屈みこんだ。
「まあ、良いではないか。勝つ日があれば負ける日もある。玲一郎は上がってしまうであろうが、それまでのんびり、また食べ放題でもすると致そう」
 見ると、既に嬉璃は果樹園の方に駆け出している。勝負には熱くなるものの、目の前の楽しみには常に躊躇が無い嬉璃を見て、源も頷いた。
「今度は、リンゴも食べてみようと思うのじゃ」
 駆け出しながらそう言うと、鈴がそれは良い、と微笑んだ。火を起こして、焼きリンゴを作るのも、悪くは無いかもしれない。すごろくの中とは思えぬ程にリアルな秋風の中、落ち葉を散らして駆ける三人を、傾いた陽が照らしていた。

<終り>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1108 / 本郷 源(ほんごう・みなと) / 女性 / 6歳 / 】

<公式NPC>
嬉璃(きり)

<ライターNPC>
天 鈴(あまね・すず)
天 玲一郎(あまね・れいいちろう)


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■         ライター通信          ■
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本郷 源様
この度は、初の寿天苑ご参加、ありがとうございました。ライターのむささびです。シチュノベではお世話になっております。今回は諸事情により、プレイングを完全に反映させる事は出来ず申し訳ないですが、ご満足いただければ幸いです。嬉璃さんとお二人でのご来訪でしたが、どうせなら三人一緒に回らせてみたいなと思い、玲一郎には秋の盤一人旅をさせました。勝負そのものには負けてしまいましたが、こればかりは時の運。またいつの日か挑戦いただければと思います。なお、初めて苑にご来訪の源嬢の髪に、桃の花びらが一枚、絡みついてしまったようです。どうぞお土産にお持ち下さい。それでは、またお会い出来る事を願いつつ。

むささび