■CallingU 「小噺・南瓜」■
ともやいずみ |
【5682】【風早・静貴】【大学生】 |
もらったチケットを片手に困るのは、遠逆の退魔士。
せっかくもらったタダ券だったが、ペアということと、ハロウィンの仮装が条件。
困った。
誘う相手もいないというのに。自分は東京に出てきてまだ少し。
さて、どうしよう?
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CallingU 「小噺・南瓜」
「ありがとうございましたー」
販売員の声に、風早静貴は小さく頭をさげて店の外に出る。
大量に買い込んだのはカボチャプリンだ。
(良かった〜。限定のだから今のうちに買っておかないと)
と、静貴は瞬きをしてしまう。
見覚えのある少年がいた。遠逆欠月だ。
(あれは……欠月君?)
私服の欠月は面倒そうな表情でファーストフード店から出てきたところだ。
声をかけない限り彼は気づきそうにない。
(ど、どうしよう……。なんだか不機嫌そうだな……)
どきどきどきどき。
おどおどする静貴は視線を落としてどうしようか悩んだ。
(でも声をかけないのも失礼な気がするし……! う、ううう!)
「なにしてるの、風早さん」
「ふわっ!?」
ばっと顔をあげたそこに、欠月の顔がある。
じわじわと頬を赤くする静貴は照れ臭そうにぎこちなく微笑んだ。
「こ、こんにちは……欠月君」
「?」
怪訝そうにした欠月は片眉をあげる。
「調子悪いの? うんうん唸ってたけど。おなか痛いとか?」
「え? えええ!? ち、違うよぉ」
慌てて両手を振る静貴。
欠月はそれを眺めてから「そう」と小さく呟いた。
と、静貴はそこで欠月が持っているものに気づく。彼はなにかチケットを持っていたのだ。
(あ! 書いてあるお店は……!)
「そ、それ!」
「ん?」
「欠月君が持ってるチケット!」
欠月は片手に持っているものを見遣る。
「ああ、これ?」
「う、うん! それ、どうしたの?」
「どうしたって……仕事のお礼でもらったんだけど」
面倒そうに言う欠月の様子に静貴は不思議そうだ。
欠月が持っているのは静貴もよく知っている店のものだ。お菓子がかなり美味しいことである。
いつか行ってみたいと思っていた店の券を欠月が持っているなんて!
「た、タダ券!?」
「そうだけど。これ、仮装するのが条件になってるんだよね」
嘆息する欠月。
「面倒だからどうしようかって思ってて…………あ!」
気づいたように欠月は静貴をじっと見つめてにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「風早さん」
「え!? あ、はい?」
びくっとする静貴である。
どうしてここまで年下の欠月にビクつくのか、自分でもわからない。
(欠月君は可愛い顔してるし……悪い人じゃないのに)
苦手というわけでもないし。
「これ、あげるよ。風早さんに」
「え、えええええーっ!」
大声をあげる静貴は驚きのあまり持っていた荷物を落としそうになる。欠月がパッと手を出して支えてくれた。
「あ、ありがとう欠月君」
「べつにいいけど。で、もらってくれる?」
「そ、それ、欠月君のでしょ……?」
「まあね。でもこれさ、ペア券なんだよ。ボクには誘う相手もいないから」
にっこり微笑む欠月の前で、静貴は視線を伏せる。
(か、欠月君……こんなに気さくな人なのに友達いないのかな……)
ちらちらと彼を見ると、彼は不思議そうだ。
「どうかした? あ、もしかして迷惑だった?」
「い、いや! そんなこと! で、でもそれ、欠月君のだし…………あの、僕でよければ一緒に行く、けど」
「…………」
じっと見られてビクっと静貴は震える。
(や、やっぱり図々し……)
「そっか。じゃ、行こうか?」
笑顔で言われて静貴はしばらく呆然としていた。
言葉を理解するまで時間がかかったと言ってもいい。
「……風早さん?」
「はっ! え、あ、い、いいの?」
「うん」
頷いて微笑む欠月に、静貴はじーんと感動する。ここで「え? なんで?」と冷たいことを言われたら立ち直れなかった、絶対に。
「仮装か……コスプレと何が違うんだろう……?」
「仮装って、変装するって意味もあるよね。仮にある姿を装うってことでしょ?」
「へ、変装……?」
笑顔の欠月に静貴は感心する。
「そうなんだ。欠月君、詳しいね」
「そう? これでもかなり未熟なんだよ?」
彼は苦笑した。
静貴は欠月が謙遜していると思ってつられて微笑む。
「じゃ、じゃあ、どんな衣装にする?」
「任せるよ」
さらりと言われて静貴は動きを止めた。
そして一気に青ざめる。
「そんな……! で、でも!」
「いいよ。なんでも着るから、ボク」
そんなさらりと!
(し、信用されてるの、かな? それとも、全然考えてない、とか?)
どうにも読めない相手だ。
「じ、じゃあ僕が衣装持ってくよ!」
「ありがと」
にこっと微笑む欠月に、静貴は照れ臭そうに俯いてしまうのだった。
*
「…………」
「そんなに落ち込まなくても」
「でもぉ」
くぐもった声。
カボチャの被り物姿の静貴の横では、黒マントにタキシード姿の欠月がいる。
同じような衣服なのに、二人では決定的な違いがある。
赤いリボンをつけている欠月は吸血鬼だろう。だが静貴は頭にカボチャの被り物をしている。
「こ、これじゃあ食べられない……ね」
しょんぼりしている静貴の持っているランタンが揺れた。
欠月はそのカボチャの被り物をひょいっと持ち上げる。
「わあっ! な、なにするの、欠月君!?」
「食べる時だけはずせばいいじゃない」
「で、でもでも」
「そのくらい、店員さんも許してくれるでしょ」
にこっと笑う欠月に、静貴は嬉しそうに笑う。
(優しいなあ、欠月君て)
「か、欠月君、よく似合ってるよーその格好」
「そう? ありがと」
欠月は笑顔で被り物を返してきた。受け取った静貴は被りなおす。
店内はカップルばかりで静貴は硬直してしまう。
(う、浮いてる……僕たち)
そう思っていると、料理が運ばれてくる。静貴の目的は食後のデザートだが、料理もかなり美味しそうだ。
じっと皿を見つめている欠月に気づき、静貴は不思議そうにした。
「? どうしたの、欠月君?」
「え?」
「じっと料理見てたけど……。なにか嫌いなものでもあるの?」
「いや、普段こういうの食べないからちょっと考えてた」
「あはは。僕も同じ。こういう綺麗に盛り付けられたお料理って、滅多に食べないよね」
「こういうのってさ、見た目と豪華な味を重視してるんだよね?」
「え?」
「……まあいいけど」
一人で勝手に納得する欠月の前では静貴が疑問符を浮かべている。
(か、欠月君て……やっぱりちょっとわからないなぁ)
退魔の家は閉鎖的な環境も少なくないことを知っているので、静貴は欠月にあえて訊かない。
食事はやはり美味しい。
(お、美味しい……!)
きらきらと瞳を輝かせる静貴は、ハッとする。
目の前の欠月は感想すら言わずに黙々と食べているではないか。
(り、リアクションがない……けど、美味しくないのかな……?)
恐る恐るうかがう静貴に欠月は気づいた。
「どうかした?」
「えっ? 欠月君、お、美味しい?」
「美味しいよ?」
「そ、そう」
ならいいんだけど。
心配そうな静貴に欠月はケラケラと笑う。
「ああごめんごめん。ほら、ボクってあんまり喋らないからさ」
「え? そうだっけ?」
「こういう時は会話したほうがいいんだよね。やっぱり勉強不足だな」
「???」
やはり奇妙なことを言う欠月だ。
(話し掛けても大丈夫、なんだよね……?)
「あ、あの」
「ん?」
「この間は、ありがとう。助けてくれたうえに、手伝ってくれて」
「いいよべつに。ちゃんと報酬もらったし、あれはボクが悪いから」
「でも缶コーヒー1本だし」
「十分な報酬だよ」
にこにこと笑みを浮かべる欠月が輝いてみえる。
「か、欠月君て、普段なにしてるの?」
「普段? んー、とね。仕事だね」
しごと……?
瞬きをする静貴は「そうなんだー」と頷く。
(高校より仕事を優先してるのかもしれないしね)
なにしろ自分でさえ大学の講義をサボらされて仕事に行かされているのだし。
「じゃあ大変だね、色々と」
「一日の半分を費やすのも慣れたし、山奥で妖魔退治するより楽だからね」
「…………な、なかなかハードな生活してるね」
「ここは街中なだけ色々障害も多いけど、山奥とかはさ、大変じゃない? 夏場は蚊がいるし、歩いてるといきなり下に変な穴があって足がハマったりとか」
「うん! そ、それわかるよ!」
無理やり行かされた深い森の奥。夏場に行ったために大変な目にあったことを静貴はしみじみと思い出していた。
マンガや小説では描かれることのない実際の退治の現場。それはもう、悲惨である。
「待ち構えてる時に耳元で蚊が鳴くとイラっとするよね!」
「あはは。そうそう。集中する時間は長持ちしないし、大変なんだよねえ。
集中してると気にならないんだけど、ふと気づいたら蚊がたくさん飛んでたりね」
「うんうん!」
激しく頭を振って頷く静貴であった。
*
「ご、ごめん……。なんか僕ばっかり喋ってたね」
食事を終えて出てくると、静貴は欠月にそう謝った。
欠月はふ、と微笑む。
「いや? 楽しかったよ」
「そ、そう!? 途中から余計なことたくさん言ってたような気がするけど……」
客の仮装について散々説明していたのを思い出して、静貴は気恥ずかしくなる。
それを欠月は嫌がる素振りもせずに話を聞いてくれた。
「こんなにたくさん誰かと話すことって、ないからね。いい経験だよ」
「そ、そうなの?」
「うん。実家でも、家にいるより外で仕事してることのほうが多いからね」
「本当に大変なんだね……」
家の仕事と学生を一応両立している静貴とは違い、どうやら欠月は生活のほとんどが仕事のようだ。
「でも僕、うるさくなかった? ふ、普段はこんなことないんだよ?」
あまりに欠月が笑顔で相槌をうってくれるので興奮してついつい話を続けてしまった。
(嫌がってなかったけど……どうなのかな)
どきどきしていると、欠月はやはり嫌そうな顔一つせずに口を開く。
「ううん。よく喋る人は嫌いじゃないよ、ボクは」
「!」
「風早さんこそ、ボクといてつまらなくない?」
「そんなことないよ!」
「そう……」
欠月は薄く笑う。いつもの満面の笑みではないので、ぞっとしてしまった。
だが彼はすぐににっこり微笑んだ。
「なら、いいけど」
「???」
「じゃあボクは帰るよ。それじゃ」
「あ、うん! じゃあね!」
ばいばいと手を振って去っていく欠月を見送る静貴。
欠月の姿が見えなくなって手を降ろし、先ほど出たデザートの味を思い出して再び感動の余韻にひたった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【5682/風早・静貴(かざはや・しずき)/男/19/大学生】
NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、風早様。ライターのともやいずみです。
少しは仲が良くなっているようですが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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