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■CallingU 「小噺・南瓜」■

ともやいずみ
【0413】【神崎・美桜】【高校生】
 もらったチケットを片手に困るのは、遠逆の退魔士。
 せっかくもらったタダ券だったが、ペアということと、ハロウィンの仮装が条件。
 困った。
 誘う相手もいないというのに。自分は東京に出てきてまだ少し。
 さて、どうしよう?
CallingU 「小噺・南瓜」



 手紙を読み終えて神崎美桜は小さく嘆息した。
(そうですよね……考えすぎ、ということもありますし)
 それでも不安はぬぐえない。
 だが……手紙の内容をもう一度見て、今度は大仰に溜息をつく。
(この文面からすると…………ケガ、したんですね)
 嘘のつけない人だから。
 無茶をする人のくせに自覚がないというのは恐ろしい。まあつい最近まで彼はほぼ不死身のような状態だったのだから当然ともいえるが。
(なにが無茶かわかってないんじゃないでしょうか……もしかして)
 そう考えるとぞっとしてしまう。鳥肌が立った。
 考えるとそれがしっくり当てはまり、美桜は震える。
「うぅ」
 唸ってしまう、つい。
(帰ってきたら包帯だらけだったらどうしよう……!)
 あり得るかもしれないのが、一番怖い……!



「え? 私が?」
 電話で兄からの用件を聞いて、美桜はしばし考えてから頷いた。
「ええ。いいですよ」
 笑顔でそう返事をしてからカレンダーを見る。
 兄の友人のパーティーでバイオリン演奏をすることになった。少し緊張してしまう。
 そういえばとテーブルの上を見て美桜は小さく息を吐き出す。
 そこにはマフラーがある。深緑色のそれは、静かに鎮座していた。
 美桜の彼氏は遠い上海で今も戦っている。彼に送ったプレゼントと一緒に作ったものなのだ。
(…………欠月さんは、受け取ってくれるでしょうか)
 嫌いになるのは簡単なことで、好きになるほうが難しいのはわかっているけれど。
 それでも。
 やっぱり、自分の好きな人が嫌われているのは切なくて辛い。
(あの二人にどういう事情があるのかはわかりませんけど…………二人とも悪い人ではないですし)
 性格の不一致だとしたら絶望的だと思いながら美桜はカレンダーに駆け寄って日付のところに丸印をつけた。

 パーティー当日。美桜は無理やり天使の衣装を着させられていた。
(似合うと言っても……)
 これを上海にいる彼が見たらどう思うだろうか。
 いや、兄が写真を撮っていたからまさかと思うけれど……。
(まさか、ね。でも……兄さんのことだからやりそう……)
 写真だけ彼のもとへ送るとか……本気でやりそうだ。それに最近趣味が写真になったのか、ところ構わずデジカメを取り出すので驚いてしまう。
 演奏を無事に終えて帰宅する際も、「ハイチーズ」と兄の言葉につい振り向いて撮られてしまった。
(最近兄さんが忍者みたいに思えてきます……)
 トホホだ。
 暗い夜道を見て美桜は気を引き締める。
(大丈夫……。無事に家まで帰れます……)
 瞼を閉じて深呼吸をし、それから目を開けた。これは美桜の恋人が教えてくれた方法だ。
「不安になったらまずは深呼吸をしろ。目を閉じて。悪いイメージや想像だけで寄ってくるヤツもいる。それを全部消して、落ち着かせることが大事だ」
 イメージの塗り替えだと彼は言っていた。
「よし」
 気合いを入れて歩き出した美桜は道を曲がったところでぎょっとして目を見開く。
 相手は寸前で足を止めて一歩後退していた。
「あ」
 美桜と同時に呟く相手は見知っている。
(欠月さん!)
 遠逆欠月だ。
 彼は少し驚いてから道をあけた。通れということだろう。
「欠月さん、こんなところで何を……」
 彼が普段着というのが気になった。
 欠月はムッとしたような顔だったが嘆息して口を開く。
「べつに。なにもしてないよ」
「…………」
 言葉に刺がある。美桜は肩を落とした。
 自分も敵視されているのは知っていたが……。
(弱気はダメ……! 頑張るって決めたじゃないですか!)
 決意して美桜は明るく微笑んだ。
「お仕事じゃないんですね。どこかへ行かれる途中だったんですか?」
「そういうキミこそ凄い格好だね。どっかの仮装行列にでも参加する気だったの?」
「あ、いえ、これはパーティーに呼ばれたんです。そこで無理やり着せられてしまって……」
 苦笑すると欠月は「へえ」と呟いて微笑した。
「なるほどね。着せ替え人形をされてたわけだ」
「……そ、そうですね」
 心が痛い。声には悪意が含まれている。
 足がすくむ。ここでは味方になってくれる人はいない。立ち向かうのは自分しかいないのだ。
(深呼吸……)
 すー、はー、と息を吸って吐くと美桜はぐっと拳を握る。
「欠月さん!」
「はい?」
「あの! 私を嫌っていらっしゃるのは存じてます」
「…………」
「でも私、欠月さんを嫌ってませんから!」
 欠月は美桜の言葉に驚いたようだ。彼は片眉をあげて美桜をうかがっている。
 反対に美桜はといえば……。
(う、うわぁぁ……やってしまいました。『大きな声を出す』方法)
 これも美桜の彼氏が伝授した方法だ。怖いと思うから弱腰になるのだと彼は言った。
「でも怖いものは怖いですし、恐ろしいものは恐ろしいです」
「だったら自分も相手にデカく見せることをしろ」
「ど、どうやってですか!?」
「大きな声を出す! まあ美桜にはそれくらいが妥当じゃないか? 簡単だし。あとは俺の真似をするとか」
「……ま、真似はちょっと無理だと思います……」
 そんな会話を思い出した。
 いくらなんでも彼の真似はできない。
 大きな声を出すのは勇気も力もいる。なにより普段からそれほど大きな声で喋らないので喉が痛い。
(でも、不思議と……自分が少し強くなったような気がします……)
 頬をほんのり染めた美桜は異国に居る恋人に感謝した。
 目の前の欠月は「はあっ」と面倒そうに溜息をつく。
「どうして?」
「え?」
「なんで嫌ってないの? ボクはね、キミにひどいことを言ってるんだけどさ」
「だ、だって……欠月さんは悪い人ではないはずです」
「……なにそれ。ふざけてんの? 悪い人じゃないなんて、どういう根拠なのさ」
「い、印象です! 私、人を見る目はありますから!」
「そりゃ目がおかしいんだ。眼鏡をかけることをおすすめするね」
 ぐっと言葉に詰まるが、ここで引くわけにはいかない。
 強くなると決めたのだ。
「目は悪くないです!」
 はっきり言い放って、美桜はぜぇぜぇと息を吐いた。
 大きな声を出すことと自分の意見をはっきり口にすることがこれほど辛いとは。
 欠月はあさっての方を見ていたが、ややあって美桜をちらっと見る。
「なんでそんなに構うんだよ。キミは四十四代目の恋人なんでしょ?」
「それはそうですけど、それとは関係ありません!」
「……関係ない、ねぇ……。じゃあなに? ボクと浮気でもする気?」
 にやっと笑って言われて美桜は目を見開き、ひゅんと手を振り上げた。完全に無意識での行動だった。
 平手を受け止めた欠月が「へえ?」と片眉をあげる。美桜はハッとして慌ててしまった。
「うあ! ご、ごめんなさいっ。た、叩くつもりでは……なくて」
「いや。叩かれてないし」
「じ、冗談でもそういうことは言わないでください! 私はあの人しか、見えません!」
 顔を真っ赤にして言う美桜を静かに見つめて、欠月は手を離す。
「冗談だよ。誰があいつの恋人になんて手を出すものか」
 そうだと気づいて彼は美桜に何かを差し出した。美桜も知っている洋食店のタダ券だ。
「これ、あげるよ」
「え?」
「四十四代目と行けば? ペア券だし、仮装するのはちょっとあれだけど」
「…………」
 どうして、という目をする美桜に彼はにっこり微笑する。
「親切であげるわけじゃない。ちょうど処分に困ってたところだっただけだから」
「…………では、私と行きましょう。欠月さんが」
「はあ!? いま言ったでしょ? 四十四代目と行けばって」
「でもこれは欠月さんのですから」
 はっきりそう言う美桜に、彼は呆れた。
「いいの? 四十四代目が嫉妬しても知らないよ」
「大丈夫です。私は欠月さんを異性として見ていません」
「言うねぇ……」
 彼はやっとそこで大きく息を吐いてから微笑んだ。
「わかった。じゃ、行こう」
「はい!」

 次の日。美桜は欠月と共にその洋食店に行くことになる。
 もらった天使の衣装で行くことにした美桜と、黒の長いローブ姿の欠月。
「欠月さんはなんの扮装ですか?」
「死神」
 さらっと言った彼は運ばれてくる料理を口に運ぶ。
(……少しは信用してくれたんでしょうか……)
 うかがう美桜だったが、欠月が何か言うとも思えないので黙って食事をした。
 二人はたいした会話もせずに食事を続け、そろそろ最後のデザートの時間となる。
(あ、ど、どうしましょう……!)
 美桜はおどおどと視線をあちこちに向けたが、やがて決意して紙袋を欠月に差し出す。
「? なに?」
「差し上げます」
「はあ?」
 疑問符を浮かべる欠月に押し付けるように渡す美桜。
「ま、マフラーなんですけど……」
「はあ……なんでボクに?」
「いえ……」
「物で懐柔しようっていうわけ?」
「ちっ、違います! どうしてそうなるんですか!」
「ふふっ。冗談だよ」
 楽しそうに笑った欠月に美桜が仰天する。
(わ、笑いました……! 楽しそうに……)
 欠月は紙袋を開けて中を見て「へえ」と呟いた。
「ありがと」
「いえ、寒くなってきたのでよかったら使ってください」
「…………これ、どうしたの?」
「え?」
「網目からして、手作りでしょ」
「そ、それは……その、すみません。お店で売っているもののように綺麗ではないので……」
 しょんぼりする美桜に、彼は「は?」と言う。
「そうじゃなくて、なんで手編みのマフラーをボクにくれるのかって訊いたんだよ」
「え? 欠月さんのために作ったんですけど……。やっぱりご迷惑でしたか……?」
「はあ!?」
 今度は欠月が仰天する番だったようだ。彼はマフラーをまじまじと見つめてから美桜を見遣る。
「ハロウィンということなので……。お菓子が用意できなかったのでマフラーなんですけど」
「……変な人だね、キミ」
「へ、変?」
「まああいつの恋人なんだから、変わってても仕方ないか」
 欠月はちょっとだけ微笑む。
「使うことはないかもしれないけど、まあ貰っておくよ」
 その言葉を聞いた美桜は嬉しそうに顔を輝かせたのだった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、神崎様。ライターのともやいずみです。
 神崎さまの努力のおかげか、欠月が少しは態度が柔らかくなった感じです。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!