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■エストリエの棺 〜接触〜■

緋烏
【1416】【ダージエル・ー】【異世界の神様】
【深夜の摩天楼】
ネオンサインが煌く街を見下ろし、ニュクスは誰かを待っていた。
「お待たせ、見てきてあげたわよ」
何処から現れたのか、ツーテールの美しい少女が彼に声をかけた。
「素敵なナイトが沢山いるようね。父親としては複雑な気持ちかしら?」
悪戯にそう囁き、顔を覗き込むが、フッと鼻で笑われた。
「いちいち茶化しに反応できるほど、感情豊かじゃないさ」
面白くなさそうに、あらそ。と呟く少女。
「…ところで、兄様とは連絡とれたの?」
「ルシアスは今多忙だそうだ。珍しい事にな」
「あらま、残念」
「いいさ、どうせこっちは遊びだ。奴の興味を惹くに足る内容ではなかっただけの話だ」
「ふふ、まぁいいわ。それより…ショータイムはいつになるのかしら?」
「勿論、次の満月だ」
「…そうよね、遊びはフェアじゃなきゃ楽しくないものね♪じゃあ前日に予告を打ちましょう」
声を弾ませ、楽しそうにそう返すと、ニュクスはにぃっと笑い、夜の闇に消えた。

一人屋上の角に立ちネオン街を見下ろす少女は嘲笑し、ぽつりと呟く。
「…5、600歳の青二才が…400年も費やしてどんなろくでもない事を思いついたのかしら?」

少女の姿も闇に消えた。

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【昼間・都内某教会】
「おや、先客か…」
オニキスの言葉に、ふと顔を上げると聖堂の中から反響する人の声。
「…?」
何だろう。ざわざわする。この感じ どこかで…
中から出てきたのは長身の男性二人。
目つきが鋭いけれど、何処となく柔らかなオーラが見える黒髪の人。そして―――…

すれ違う瞬間。全身に電流が流れたかのような感覚にふいに相手の顔を見た。
「!?」
体の奥底から何かがこみ上げてくる。
「…っ……」
相手は一瞥くれた後、そのまま連れの男性と立ち去ってしまった。
「…違う…そんな筈ない…ここにいる筈が…ここにこれる筈がないわ…」
そう呟きながら教会を見上げ、混乱している頭を何とか落ち着けようとする。
似ているのだ。あまりにも似すぎているのだ。
六十年もの歳月をかけて追い続けた、あの男に…

「リージェス?」
オニキスに呼ばれ、ハッとしてすぐ駆け寄るが、それでも先ほどの人物が気になってしょうがない。
落ち着きのないリージェスを見て、ユリウスはフッと笑った。
「…似ているとは思いましたが……なるほどね〜偶然とは怖いものですねぇ」
「猊下?」
いぶかしむオニキスに何でもありませんよ、と一言。
「ここで待ってる。また後でね、オニキス」
教会の入口で身を翻し、扉から離れてこちらに微笑むリージェス。
やはり教会の中に入るのは些か抵抗があるのだろう。
そんな彼女にユリウスはにっこり微笑み返し、では少し彼をお借りしますね、と言って扉を閉めた。
「さて、本題に入りましょう。敵さんは本格的に喧嘩を売ってまいりましたよ。昨夜郊外にある教会のうち数件に渡って墓荒らしが出没したそうです。まぁ普通に考えれば人の仕業…でしょうが、今回は安易にそう思えない状況だったんです」
「…尋常ならざる力が加えられていた…ということでしょうか?」
ユリウスは浅く頷き、数枚のスチールをオニキスに見せた。
「…!」
「ね?ひどいでしょう。お昼のニュースにはこのことが報じられるでしょう…しかしこれは警察に委ねても解決する訳がありません」
「…でしょうね」
教会裏に広がる墓所に建てられた十字架が全て折られ、墓の一つ一つに小動物の屍骸が添えられている様は、スチールを通してでも錆びた鉄の臭いが漂ってきそうだった。
「あと、これは公にはなっていませんが各教会の壁に秘文字でメッセージが残してあり…このメッセージに各教会の修道士の血が使われた模様です」
「まさか…」
「二名死亡。他は吸血鬼化しておりました…今治療を続けています」
「なんて事だ…ッ」
ユリウスは地図を広げ、犯行地点の各教会に印をつけた。
「馬鹿にしているかのような至極単純な線ですね。螺旋状に内側へ向けて移動しています」
「…すると、次は…おそらくこの二点の教会でしょうね。二手に分けて向かわせる必要があります」
だが、オニキスはこの教会からできることは出来ない。
リージェス一人に任せるには範囲が広すぎる。
「…二箇所同時に…ですか」
「そこは承知してます。こちらで助っ人を用意させていただきますよ」
教会を後にしたオニキスの手には、ユリウスから渡されたスチールと地図、そして残されていたメッセージの写しがあった。


「明晩お会いしましょう」


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【ナハトとユリウス】
「先ほどはどうも。仕事の依頼をしたいのですが、大丈夫ですかねぇ?」
「ああ…ところで――」
ナハトがユリウスに質問するより前に、彼が感じているであろう疑問を察知し、答えた。
「依頼主は先ほどあなた方が教会前ですれ違ったであろう御二人ですよ。他に何か聞きたいことがあるのでしたら、直接御二人に聞いてくださいね♪ではまた明晩」
ほぼ一方的に近い状態で電話は打ち切られ、電話口にたたずむナハトはその場に立ち尽くしていた。

「…直接…か」
先ほどの不思議な感覚の正体を確かめる為にも、この依頼は受けようと思う。
いや、受けなければならない…そんな気がする。
妙な勘が働く。
知らないほうがいい。
けれど知らなくてはならない。

相反する思いに駆られながらも、ナハトは明晩を待つ事にした…