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■CallingU 「小噺・南瓜」■

ともやいずみ
【4757】【谷戸・和真】【古書店『誘蛾灯』店主 兼 祓い屋】
 もらったチケットを片手に困るのは、遠逆の退魔士。
 せっかくもらったタダ券だったが、ペアということと、ハロウィンの仮装が条件。
 困った。
 誘う相手もいないというのに。自分は東京に出てきてまだ少し。
 さて、どうしよう?
CallingU 「小噺・南瓜」



 店の前を通過していく郵便局の配達員。
 今日も彼女からの手紙はなかったようだ。
 谷戸和真の恋人である遠逆の退魔士の少女。彼女は現在上海に在住である。
(…………)
 和真は暗い気持ちになった。
 ついこの間出会った、新たなる遠逆の退魔士……遠逆日無子。彼女について、上海の恋人に手紙を出して尋ねたのである。
 どんな返事がくるのか怖い。
 前だって、関わらないでと冷たく怒られたのに。
 実家に行くと言い出しても怒られたのに。
(………………う)
 胃がいたい。
 また余計なことに首を突っ込んで! と叱咤の手紙が届きそうで、和真は震え上がった。
(う、うううー!)
 怖い。物凄く怖い。
 美人だから余計に怖いのだ。



 和真は休日になると日無子を探しに街に出ることが多くなっていた。
 鈴の音をさせて出現するということは、日無子もまた、移動手段が特殊ということだ。
 遠逆の者は短距離を移動できるすべを持っているらしい。まあ、恋人はつーんとして術について明かしてくれなかったが。
(怒らせたしな……。それに……)
 和真の恋人のことが会話に出た瞬間、日無子の態度はがらりと変化した。
 日無子と彼女がどういう関係かはわからないが、日無子は彼女に好意を持っていない。それだけははっきりわかっている。
 手土産をとりあえず持参した。物で懐柔する気はないけれど、なにか取っ掛かりになればいいと思ってのことだ。
(大丈夫かな……饅頭で)
 歩く和真は視線をきょろきょろさせた。
 あの目立つ格好なら見落とすことはない。それに、日無子はそれほど気配を隠していないのだ。
 和真の恋人は事情から、気配をほとんど隠していた。彼女は憑物を惹き寄せる呪いを持っていたからだ。
 だが日無子にはそれがない。だからなのだろう。
(いないな……)
 嘆息する和真。
 だいたい会って、何を話せばいいのだろうか。いや、話してくれるのだろうか。
 和真には知りたいことがたくさんある。
 かたくなに家のことを喋らない恋人に隠れて、彼女の家について知りたいというのは……少し心苦しい。
 知られたら、物凄い怒りそうだ。
(絶対怒る……あいつは怒る! うぅ、目に浮かぶ……!)
 なにせ写真を撮るのもかなり渋っていたのである。写真は呪詛の媒体に使われることも多いため、遠逆の退魔士は基本的に写真には写らないのだ。
 それを、土下座までしてお願いした経験がある。
 まず、彼女に外見のおだては効果がない。自身が美人だという自覚が薄いからだ。
 渋々の一枚は家にある。微妙な表情の、写真。
 彼女のためだけじゃなく……知りたいからと言っても、絶対に怒りそうだ。

 公園の前を通りかかった。とぼとぼと帰り道を歩いていた和真は、ふと視線をそちらへ向ける。
 びりびりと何かを破いている少女の姿が目に入った。
 目立つ女学生……袴姿の少女。見間違えるはずもない。
(遠逆日無子!)
 和真は目を見開く。
 ゴミ箱に向けて破いたものを捨てて、彼女は嘆息して和真をギロっと見遣った。
 左眼の黄色が和真を射抜く。
「遠逆……」
「…………」
 彼女は目を細めると、スタスタと和真に向かって歩いてくる。
 逆に和真はいたたまれない気持ちになっていた。
 元々和真は女子供に弱いのだ。
「遠逆!」
 思い切ってそう切り出すと、和真の横を通り過ぎようとしていた日無子が足を止めてこちらを見た。
「……なに?」
 にこっと笑顔で言うが、悪意がこもった声だ。
「あの、少し……いいか? 話がしたい」
「嫌よ」
 きっぱり言い放った日無子。
「頼む……。手土産も持ってきたんだ」
「いらない」
「……毒は入ってないから」
「しつこいわね。どうしてそんなにあたしに関わるのよ」
「知りたいんだ。遠逆家のこと」
「…………」
 まっすぐ見る和真の前で、日無子は舌打ちしそうな顔をする。かろうじて舌打ちしなかった、というのがピッタリだった。
「……わかった。じゃあ交換条件よ」
「交換条件?」
「あたしの前で、一度でも四十四代目のことを口に出したら話は終わり。いい?」
「どうしてそんなに嫌うんだ」
「フン。相性が悪いからとでも思っておくのね」
 これ以上は言いたくないという日無子。
 和真は日無子の条件を呑むしかないと思っていた。
 そうでもしなければ日無子はここから去ってしまうだろう。
 いや、なぜ去らない?
(……そうか。遠逆は、そこまで冷徹じゃない、のか?)
 だが日無子がどのような性格までかはわからない。
「言っておくけど、譲歩したのはその手土産だから」
「手土産?」
「代償として、ということよ。べつにいらないんだけど、代価なら検討するしかない」
 わけのわからないことを言う日無子に、和真はきょとんとする。
 どうやら手土産を代価として話をしてくれるらしい。そうでなければ口をきくのも嫌なのだろう。
「なら、また手土産を持ってきたら話をしてくれるか?」
「どこの悪徳なのよ、それは。そうじゃない。一度そうやって譲歩しないと、しつこくあたしを探しそうだからよ」
 鬱陶しい、と言外にいう。
 二人は公園のベンチに腰をおろした。先ほど日無子が何かを捨てていたゴミ箱の近くだ。
「そういえば……なにか破ってたな」
「気にしないで。使わないから捨てたのよ」
「そ、そうか」
 刺々しい声に和真は内心溜息をついた。
「あの、ゆっくり話がしたいから俺の家か……遠逆の家に行きたいんだが」
「デリカシーのない男ね。いきなり家に来いだの、女の家にあがりたいだの」
「!」
 ハッとして和真は顔を赤らめる。そういう解釈もあるか。
「す、すまない」
「それで、何が訊きたいの?」
「……遠逆家の内情、とか」
「内情? そんなのあたしが知るわけないじゃない。バカ?」
「バカって言うことないだろ!」
「あたしみたいな末端の兵士が、深いところを知ってるわけないじゃないの」
「遠逆は末端なのか? あの腕前で?」
「中枢に誰がいるのかわからないわ。当主である長が一番偉いってことはわかるけどね」
 和真が目を見開く。
 恋人に、死を覚悟しろと、そう言った人物だ。
「じゃあ、遠逆の伝統とか、伝承は?」
「それは……あたしが知ってる範囲でいいわけ?」
「もちろんだ」
 なにかの突破口になるかもしれない。知っていて損はないだろう。
 日無子はちょっと考え込むような表情になる。
「そうね……。知っているのは、遠逆は元々退魔士の一族じゃなかったってことかな」
「えっ? 退魔士の一族じゃない?」
「うん。大昔なんだけど、遠逆ってある一族に仕えてたの。その一族が退魔士だったのね」
「そうなのか……」
 意外だった。
 遠逆家の戦闘能力はかなり高い。その一族が主として仕えていた一族がいたとは。
「でも、滅びちゃったんだって」
「滅びた?」
「妖魔に滅ぼされたんだってさ。詳しいことはわからないけど、遠逆が今の遠逆になったのはそれが原因だっていうのは聞いたよ」
 それはどのくらい昔なんだろうか。
 日無子は懐かしいような表情を浮かべる。
 そんな彼女を和真は不思議そうに見た。
(こんな顔もできるんだな……)
「なにか、その一族に思い入れでもあるのか?」
「え?」
 驚いたように日無子が和真を見遣る。ぱちくりと瞬きした。
「思い入れ? 大昔に滅びた一族だよ?」
「でも、今すごく懐かしいって顔してたけど」
「なつかしい?」
 眉を吊り上げた日無子は不審そうに俯く。
「もしかして……この話は一年より前にも聞いたのかな。既視感ってこと……?」
 ぶつぶつと呟く彼女の横では和真が疑問符を浮かべていた。
「気にしないで。体が勝手に反応しただけだから」
「勝手に反応した?」
「ちょっと事情があってね」
 日無子は苦笑する。話す気はないようだ。
「どういう一族なんだ? 滅びた退魔士というのは」
「さあね。伝承だけしかうちには伝わってないし、遠い昔のことだから」
「それは、どれほどの確証のあることなんだ?」
「ないかもしれないよ、確証なんて。もしかしたら、子供を騙すための大人の言い訳なのかもね」
 揶揄する日無子にも、わからないのだろう。
 本当に遠逆という一族は謎が多すぎる。
(遠逆のような、末端の兵士をうまく使う言い訳……か)
 考えられないことではない。
 和真の恋人を殺すための言葉も、嘘がないとは言い切れないからだ。
 一族のことを思えば、彼女を一族総出で殺すはずだろう。殺さなければ自分たちが死ぬのならば。
(そうか)
 気が付く。
 和真はなんとなく、日無子が上海の彼女を毛嫌いする理由を探していた。
 きっと、彼女が一族を見捨てて己の人生を選んだせいだと、どこかで思っていたのだ。
 怨んでいるのではと。
 だから憎んでいるのではと。
 知っているのだろうか、日無子は。
「その滅びた一族について調べたことはあるのか?」
「調べてどうするのよ。もう滅んでるのに」
「調べられないかなと思って……」
「無理だと思うわ。調べて出てくるなら、曖昧な話し方はしないでしょうね、上の連中も」
「そうか」
 落胆する和真だったが、日無子をちらっと見る。
 嫌われているのがわかっていたが、まさかこれほど彼女が喋ってくれるとは思わなかった。
 もしも、上海の彼女を殺さなければ自分たちが死ぬと知っているならば…………日無子は彼女を殺すだろう。
 確信できた。
 だから、日無子は知らない。きっと。
「あの、」
 口を開くと日無子は視線だけ向けてくる。
「遠逆のことも、知りたいと思ってるんだが……話してくれるだろうか?」
「…………」
 唖然と嫌悪の入り混じった不思議な表情を浮かべた少女は、胡散臭そうに和真を観察した。
「遠逆には嫌われてるのは知ってるけど、俺は嫌ってないというか……嫌う理由がないというか」
「…………なるほど。お人好しなのね」
 知りたいと言ってもたいしたことないわ。退魔士なだけよ」
 肩をすくめてみせた日無子は付け加える。
「単に、それだけ」
「…………」
 日無子は立ち上がった。
「さて、と。手土産のぶんは喋ったわ。もういいでしょ?」
「え? もうか?」
「あたしが知ってることなんて少ししかないもの。それに、ここまで譲歩したんだからいいでしょ」
 そう言って和真から手土産を受け取り、彼女はすたすたと歩き出す。
 その後ろ姿を見送った和真は大きく息を吐き出した。
 まだ、わからないことは多い。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4757/谷戸・和真(やと・かずま)/男/19/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、谷戸様。ライターのともやいずみです。
 まだまだな仲ですが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!