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■CallingU 「小噺・南瓜」■

ともやいずみ
【2387】【獅堂・舞人】【大学生 概念装者「破」】
 もらったチケットを片手に困るのは、遠逆の退魔士。
 せっかくもらったタダ券だったが、ペアということと、ハロウィンの仮装が条件。
 困った。
 誘う相手もいないというのに。自分は東京に出てきてまだ少し。
 さて、どうしよう?
CallingU 「小噺・南瓜」



 目の前には、驚いたような彼女の顔。
 捨てようとしていたものを片手に、彼女は動きを止めている。
 通りかかった公園で、彼女は何かを破ろうとしていたのだ。
 獅堂舞人はちょっとした気まずさに視線を横にずらす。
「遠逆……だよな?」
 あの袴姿は。
 遠逆日無子は姿勢を正した。
「こんにちは」
 愛想のいい笑顔の日無子に、舞人は少し安堵する。
 近づくと、やはり紛れもなく遠逆日無子本人であった。
「なにを捨てようとしてたんだ?」
「ん? これ」
 日無子は持っていたチケットを掲げる。
 チケットを見て舞人は「ああ」と呟いた。
「知ってる。この店、美味しいって評判の店だよな」
「そうなの? じゃあこれあげる」
 はい、と差し出してくる日無子に驚く舞人。
「なんで?」
「これ、ペアじゃないと使えないのよ。仮装するのはいいんだけどね」
 そう言われてチケットに目を遣る。
 なるほど。確かにチケットにはそのように書いてある。
 ペアでの来店と、仮装していることが必須条件のようだ。
「一緒に行く相手がいないのか?」
「うん。知り合いがここにはいないから」
「…………そうか。じゃあ、俺が付き合おうか?」
「いいよいいよ。気にしないで」
「いや、俺が遠逆と行きたいから」
 けろっとして言う舞人に、日無子が不思議そうにする。
 彼女は首を傾げた。
「…………あ」
 と、小さく呟いて彼女は視線をうろうろさせる。
「ご、ごめん……。獅堂さんてさ、友達いないの……?」
「へ?」
「いや、だって知り合って間のないあたしを誘うってことは、そういうことでしょ? うわあ、ごめん!」
「……いや、友達はいるが」
「いいのよ隠さなくて! 大丈夫! 友達なんていなくても生きていける!
 ……はっ。あ、あたしを誘うってことは、恋人もいないの……か。ああっ、気づいてごめんなさい!」
 オーバーリアクションをする日無子に、舞人は困ってしまった。
 友達はちゃんといるが、恋人はいない。
(ここまでオーバーにすることかな……)
 無言で日無子を見つめていると、彼女はぴた、と動きを止めた。
「つまんなーい。獅堂さんてノリ悪いのねえ」
「え……と。どういう反応をすればいいのかちょっと考えてたんだが……」
「それがダメなのよ! こういうのはナマモノなの! 鮮度が命なの!」
「そう……か」
「で、あたしを誘うって、どういう心境なの?」
「心境って、そう思ったからなんだが」
「さむーい!」
 ばたばたと足踏みをする日無子。
 と、彼女はまたも動きを止めてちょっと考えてしまう。
「あれ? こういう時は『くさーい』を使うんだっけ?」
 疑問符を浮かべている日無子であった。
「いや、どっちでもいいから……俺と行くのが嫌なら仕方ないけど」
「べつに嫌じゃないけど。物好きなのね」
「モノズキ?」
 つくづく日無子はワケがわからない。
「じゃあ衣装を決めよう。仮装だし」
「えー。適当でいいわよそんなの」
「適当!?」
 ひらひらと手を振る日無子は、本当に衣服に興味がないようだった。



 舞人の姿は死神だ。黒の長いローブ姿に、骸骨のお面。
 日無子は魔女だ。つばの広い帽子に黒のスカート。
「対幻想の死神か」
 自嘲する舞人を、日無子が気持ち悪そうな顔で見ていた。どうも彼女は自分に対してなにか誤解していると思う。
「なにその変な笑い……。熱は、ないわよね?」
「いや、ちょっとなんていうか、格好のことで思うところがあって」
「ふーん。なんでもいいけど、獅堂さんて変な人なのね」
「…………」
 言われたくない。
 舞人は日無子の姿をしみじみと眺める。
 彼女の魔女はとても似合っていた。
「似合ってて可愛いよ。その格好」
「あら。ありがとう。褒めてもなにも出ないわよ」
「でも、服を決める意志がなかったように思うんだが……。適当って言ってたし。服装にこだわらないのか?」
「んん?」
「普段もそうなのか? 仕事時の服装とかも」
 袴姿の退魔関係者というのは珍しい。舞人が見た限りでも日無子しかいない。
 日無子はにこっと微笑む。
「服なんて、似合えばなんでもいいじゃない」
「は?」
「だから、べつになんでもいいのよ。普段は楽な格好をしてるし、仕事の衣服は特殊仕様なだけだから」
「こだわってないのか」
「衣服に重要なのは、機能ね。見かけは二の次。こだわるほど重要なことじゃないでしょ」
 驚いた。年頃の娘のはずなのに、衣服に興味がないとは。
「仕事の服……袴って、遠逆の趣味じゃないのか?」
「趣味? 似合う格好だとは思うけど、趣味じゃないわよ。あれは実家で用意されたものだから」
「え? じゃあ自分で選んだんじゃないのか」
「どれがいいかって訊かれたから、一番自分に似合いそうなのを選んだらアレだっただけね」
 本当に適当に選んだようだ。
 確かにあの袴は日無子によく似合っている。だが、それだけの理由というのが凄い。
「……じゃあ、今の魔女の格好は? 気に入った?」
「褒めてくれたのはあなたでしょ?」
「気に入ってくれたんだ。ならいいけどさ」
 微笑む舞人を前に、またも日無子が半眼になって気味悪そうに見てきた。
「どうして遠逆はそういう顔をするんだよ?」
「なんか、言ってるセリフがむず痒い」
「…………それって、遠逆にはクサいセリフとして聞こえてるってこと……?」
 恐る恐る尋ねると、日無子は納得したのか「ああ」という顔をして掌を打ったのである。

 食事は本当に美味しかった。評判通り、ということだ。
 黙々と食べる日無子を眺めて舞人はまたも不思議な気分になる。
 年頃の娘というのは……食べ方がもう少し違うのではないだろうか?
(業務の一つみたいな食べ方だな……)
 まあいいか。
「遠逆って、好きなものはあるのか?」
「好きなもの? そうねー。うーん」
 首を右に傾けたり、左に傾けたり。
「特にっていうのは……ないかもね」
「じゃあ嫌いなものは?」
「…………」
 ぼそっと洩らした日無子の声は不機嫌だった。だが舞人には聞こえない。
「え?」
「もう言わない」
 ぷいっと顔をそむけた日無子は口を閉じてしまう。
 舞人は軽く嘆息し、ああそうだと思って左手を掲げた。
「この前、こっちの手を見て不思議そうだったよな」
「興味ない」
 はっきりと日無子は言う。笑顔で。
 動きを止める舞人。
「ありゃ? ごめんごめん。ジョークジョーク。べつにすごーく知りたいってわけじゃないだけだから」
 それはそれでひどいような気がする。
 気を取り直して舞人は説明を始めた。
「左手と右足は少し特殊なんだ」
「まあ普通とは違うよね」
「わかるんだな。へえ」
「一応その道のプロだから」
 舞人は左腕を見つめて続ける。
「神秘や異能力を破壊する能力が宿ってる……『幻想は存在しない』という概念が」
「ほうほう」
「信じてないな。まあ相手の能力にもよるが、大抵の神秘は打ち破る能力があるんだ」
「ふーん」
 しーん……。
 反応が「それだけ?」と思えるほどあっさりしていた。
 青ざめるとか、そういう反応を舞人は少し想像していたのだが。
(こんな反応は想像してなかったな……)
 もぐもぐと食べている日無子に、舞人はちょっと困ってしまう。会話が続かないではないか。
「ふーんって、それだけなのか?」
「あたしには関係ない能力だから、べつにどうでもいいもん」
 敵意も悪意もない、ただ事実だけを述べているような日無子の言葉。
「その能力って、獅堂さんが理解できない事柄を打ち消すだけでしょ。たぶん」
「そんなことはないが」
「幻想は存在しないっていうけど、幻想と神秘は全然違うものだもの」
「え?」
「幻想は『現実にはありえない事柄』。神秘は『人間の理解の範疇を超えてる』ってこと。ほら、全然違うでしょ?」
 くるくるとフォークを、まるでトンボの目を回すようなしぐさで回す日無子。舞人の視線はついついフォークに向かう。
「でも、獅堂さんの中では同じことなんだから、獅堂さんが理解できる、できないで判別されてるってことになるんじゃない?」
「そ、そうなのかな……」
 そんな考えはしたことがなかった。
「ありえないと思ってたことが、現実にはありえてることはよくあるからね。ほら、あたしって退魔士でしょ? 一般の人からすればありえなくても、あたしみたいな専門家から見れば十分それは普通のこと。そういう違いが出るからね。
 まあこれは退魔士のあたしの考え。
 そうだ。一番身近にある神秘、教えてあげようか?」
「え? 身近?」
「『心』」
 にこっと笑顔で言う日無子に、ああ、と舞人は納得する。
 そうだ。心が、一番わからない。制御できなくて、曖昧で。
 日無子は何か思いついたのかにやっと笑った。
「一般の尺度ではかるなら、その左手だっけ? それも神秘なんじゃないの? 試しに左手で右足触ってみてよ?」
 じっと見てくるので舞人は冷汗をかいた。
「ねえねえ。やってみてよ〜」
 にやにや笑っている日無子は相当意地が悪い。
「……遠逆って意地が悪いな」
「そうかもね」
 いつもの笑顔に戻った日無子は、舞人を見つめる。
「でもかなりバランスの悪い能力だね、それ。どうやって維持してるの? 削寿命? それとも肉体負荷?」
「触れるっていう条件はつくかな」
「それだけ? そんなのでよく綻びができないのね」
「? 綻び?」
「言ってみれば能力発動・行使によるカウンターの影響。大きな能力保持者は寿命が短かったりするでしょ? あれね」
「ああ、なるほど」
「完璧な人、ってよく言うけどあれって存在しないものなのよ。
 顔立ちも良くて性格も良くて、色々揃ってる人は極端に運が悪いとかが多いの。バランスをとってるんだと思うけど。
 だから獅堂さんももしかしたら、どこかでカウンター食らってるかもね。鳥のフンがよく落ちてくるとか」
 うふふと意地悪く笑う日無子に、舞人はぞっとする。彼女は楽しんでいる。完全に。
「そういう遠逆はどうなんだ?」
「あたし?」
 きょとんとする日無子は「うーん」と唸る。
「カウンターはもろに肉体に出るかな」
 そんなことでさえ、彼女は笑顔で言ったのだ。

 店を出ると舞人は日無子を見遣る。
「送ってくよ。今日は楽しかった。遠逆も楽しめたなら、尚嬉しいけどね」
「話すのは嫌いじゃないから。あと、送らなくていい」
「え? 送るけど」
「いい」
 きっぱりと言い放つ日無子。
 舞人は去っていく日無子を見送ることしかできなかった――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2387/獅堂・舞人(しどう・まいと)/男/20/概念装者「破」】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、獅堂様。ライターのともやいずみです。
 すいません。日無子の考えなのでご容赦いただきたいです……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!