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■文月堂奇譚 〜古書探し〜■

藤杜錬
【5206】【八重草・狛子】【ボディーガード】
とある昼下がり。
裏通りにある小さな古い古本屋に一人のお客が入っていった。

「いらっしゃいませ。」

文月堂に入ってきたあなたは二人の女性に迎えられる。

ここは大通りの裏にある小さな古本屋、文月堂。
未整理の本の中には様々な本が置いてある事でその筋で有名な古本屋だ。

「それでどのような本をお探しですか?」

店員であろう女性にあなたはそう声を掛けられた。
文月堂奇譚 〜古書探し〜

八重草 狛子編

●来店
「このお店ならいい本があるかしら?」
 古書店文月堂の前でそう小さく呟いた女性が立っていた。
 女性の名前は八重草狛子(やえぐさ・こまこ)とある家の専属ボディーガードをしている女性だ。
 綺麗な紅い瞳とさらっとした黒髪が目を引く女性である。
「とにかく苦手苦手と言ってるんじゃなくて、動いて見ることが大事ですわね」
 狛子はそういって自分の事を奮い立たせるように店内に入って行ったのだった。

……
………
…………
ガラッ!

 店の扉を開けて中に入った狛子を待っていたのは一人の黒髪の女性であった。
「いらっしゃいませ」
 そういって出迎えてくれた女性に少し狛子は安堵する。
 見たところ自分とそう歳の変わらない年齢のようだ。
 店の構えからして、とっつき難そうなお年を召した人が出てくるのでは?と少し気構えていたのだが、その気構えが徐々に自分から抜けていくのが狛子にはわかった。
「あ、こんにちは、ちょっと今日は本を探しに来たんですが…」
 ついついそう答えてしまう。
 そんな狛子を見て黒髪の女性は小さく笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ここは古本屋ですから…」
 狛子はついつい自分が間抜けな事を言ってしまったことに気がつき、苦笑を浮かべる。
「そうですね、そうと判っていたから来たのに、おかしいですね。私は八重草狛子といいます、今日は料理の本を探しに来たんですよ」
 「料理の本ですか…、たくさんありますね。ちょっと探さないといけないかもですね…」
 そういって黒髪の女性は料理の本のあるのであろう棚を見つめながら答える。
「そうですよね、一言に料理の本と言ってもたくさんありますものね」
「ええ、それで狛子さんがお探しの本はどのような本ですか?」
 黒髪の女性は狛子にそう聞いた。
「私の欲しい本は…その洋風の料理の本なんです」
「洋風の料理の本、ですか?」
「はい、私は和食の料理ならばそれなりに作れるのですが、洋風となるとその…苦手で、でも美味しく食べていただきたくて…」
 黒髪の女性の雰囲気によるためだろうか?狛子は自分でも意外なほどすらすらと自分の事を話していた。
「なるほど、そう言うのってありますよね、私も得意な料理はいいけど、苦手な料理の時は妹にすごい嫌そうな顔されるけど、それでも美味しく食べて欲しいと思いますから」
 狛子はその言葉を聞いて目の前の女性も自分と同じなんだと言う事がわかり、ほっと息をついた。
「それじゃ、とりあえず探しましょうね、と言ってもあの山の中からだから良い本を探すのも大変だと思うけど……」
 そう言って女性はうず高く詰まれて山となった棚を指差した。

●本の山
「あれ…全部そうなんですか?」
「全部って訳じゃないけど、一応あの辺りが料理の本の置いてある場所だったから…」
 黒髪の女性はそう少しばつが悪そうに苦笑した。
 多分、本が多すぎて、整理が仕切れてないことが恥ずかしかったのだろう。
 どこか少し言いにくそうにする黒髪の女性に狛子は思い出したように問う。
「そういえばお名前をまだお聞きしていませんでしたわ、良ければ教えていただけますか?」
「私?私の名前は隆美、佐伯隆美(さえき・たかみ)といいます」
 黒髪の女性、隆美はそう笑顔で答えるのだった。

……
………
…………

 それからしばらく後、二人はその本の山と格闘していた。
「隆美様、そちらの本をとっていただけませんか?」
「え?ああ、こ、こっち?」
「ええ、その赤い背表紙の……」
「ちょっと待ってね……はい、これで良いのかしら?」
「ありがとうございます」
 狛子は今渡された本を手に取り読み始める。
 しばらく読み進めるうちに、狛子は本を閉じる。
「確かにわかり易いのですけれど…、こうもう少し温かみのあるものの方が良いのでですが…」
 少し思案気味に狛子はそう呟く。
「どう?今までの中で良い本はあった?」
 隆美が本を探す手をひとまず止めて、中身を確かめていた狛子のほうへとやってくる。
「ええ、いくつか良いと思う本はあったのですが…」
 歯切れの悪い、その狛子の言葉に隆美は小さくため息をつく。
「これという本はなかったのですね…」
「すみません…」
「狛子さんがあやまることじゃないわよ、まだこれだけあるんだもの、きっと欲しい本も見つかりますよ」
 隆美はそういって狛子を励ます、まるで本の山と再び格闘する自分を奮い立たせるためにの様にも見えたが。

●手書きの本
 隆美が入れてきた紅茶を飲んで一息ついていた二人はどういう本が欲しいのか、と言う事を話し合っていた。
「もっと、こう…ぬくもりが伝わるようなのが良いんです。どういうのが良いとは具体的には言いにくいんですけど…」
「うーん、難しいわね、私も探すだけは探して見るけど」
「お願いします」
「ま、こうして話してても見つからないし、探すのを再開しましょうか」
「そうですね」
 隆美に促されて狛子も立ち上がる。
 そして二人は再び本の山へと向かうのだった。

……
………
…………

「この本なんてどうかな?」
 手渡された本を狛子は手に取り、読み始める。
「ちょっとこの本は……」
 しばらく読んでいたが、自分の探している本とは違うと思った狛子はそう隆美に告げようとしたその時であった。
「狛子さんちょっと、逃げて…」
 隆美のその言葉と共に、本の山が崩れてきた
 どうやら隆美が本をとろうとして、本の雪崩を引き起こしてしまったらしい。
 本の山と一緒に、脚立に登っていた隆美も一緒に落ちてきていた。
「いたたたた…」
「だ、大丈夫ですか?」
 心配をする狛子に隆美は手にした一冊の本を手渡す。
「良さそうな本があったから無理して手を伸ばしたら崩れちゃってね」
 ばつが悪そうに隆美は苦笑する。
「お怪我はないですか?」
 そんな隆美を狛子は心配するが、隆美は大丈夫、という様に手を振った。
「それよりもその本どうかな?」
 隆美の手渡した本は一冊の手書きのノートのような本であった。
 そこには作者の気持ちの伝わってくるような料理が手書きで書いてあった。
 どこかの料理店か何かの料理人がレシピを書いた物の様に見えた。
 しばらく狛子はその本を食い入る様に見ていた。
「はい、これです、こういう温かみのある料理の本を探していたんです。隆美様ありがとうございます」
「そう、見つかって良かった。探している本が見つかったときって嬉しいから」
 お礼を言われ、どこか照れた様に隆美が答える。
「本当にありがとうございます」
 再びお礼をいった狛子に対して、隆美が更にばつが悪そうに続けた。
「あの、ちょっと言いにくいんだけど、感謝してくれるならこの本の山片付けるの少し手伝ってもらえない…かな?」
 その隆美の言葉に一瞬きょとんとした狛子であったが、しばらくして思わず吹き出してしまう。
「ごめんなさい、ついおかしかったものですから…。そのくらいのことなら喜んでお手伝いさせていただきます」
「本当?ありがとう」
 今度は隆美がお礼を言った。
 そして文月堂にはその後本の山を片付ける二人の姿があった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 八重草・狛子
整理番号:5206  性別:女 年齢:23
職業:ボディーガード

≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、ライターの藤杜錬です。
 この度は『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加いただきありがとうございます。
 狛子さんはボディーガードと言う事でもう少し硬質にした方がいいかな?と思いつつ、このような形になりました、いかがだったでしょうか?
 初ノベルだったようで、緊張しながら書かせて頂きましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
 それではご依頼ありがとうございました。

2005.11.29.
Written by Ren Fujimori