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■【夢紡樹】 閑話日和■

紫月サクヤ
【5201】【九竜・啓】【高校生&陰陽師】
「いらっしゃいませ」

 軽やかな呼び鈴の音を響かせて入ってきた貴方を迎えるのは、暖かな店員の声。
 香ばしい香りと甘い香りの漂う店内。
 喫茶店、人形工房、夢工房。
 貴方の求める場所は何処ですか?

【夢紡樹】 閑話日和



 ひらひらと風に乗って雪が花びらのように宙に舞う。
 公園に座りそれを眺めていたあきらは、その雪を追うように歩き始めていた。
 風に乗った雪は落ちることなくどこまでも飛んでいく。
 ぼうっ、と他の事に気を取られていたらすぐに見失ってしまう。
「あっ……! 待ってよぅ……」
 あきらは店頭のバイオリンから視線を雪へと移し駆けだした。
 追いかける明確な理由などない。
 ただ、その雪が舞うのを見ているのが楽しかったのだ。

 どこまでも飛んでいく雪。

 下に落ちてしまえばすぐに溶けてしまう。しかし空中を漂っている内はその姿を保つことが出来るのだ。
 それは舞い散る雪を観察していたあきらにとって楽しい事柄の一つだった。
 あきらはどこまでもその雪についていく。
 漸く雪がその身を置いたのは、大きな緑色をした葉の上だった。それは葉の上へ落ちると、あっという間に溶けて消えてしまう。
 その消えゆく様をじっと見つめていたあきらはふと思い出したように呟いた。
「あれぇ……? また迷子になっちゃった?」
 雪を夢中になって追いかけてきた為、あきらは今通ってきた道を忘れてしまっていた。目に映るのは見知らぬ街並みと空から舞い降りる雪だけ。
「困っちゃたかもぉ……」
 うーん、とあきらは考え込む。しかし直ぐに笑顔になると雪の中を歩き出した。
「とりあえず少し歩いてみようっと」
 あきらは足取りも軽く、ちょっとした冒険に繰り出したのだった。


 暫く行くと、見覚えのある場所にたどり着いた。
「……ん? ここ……来た事、あるぅ?」
 木の立ち並んだ場所。そこは桜並木ではなかったろうか。春にはここで満開の桜をあきらは眺めた。
 以前来た時は桜吹雪が、そして今は雪が花びらのように舞う。
「きれい………そうだぁ」
 あきらは突然走り出し、一件の店を目指す。
 此処で桜を見ている時にたどり着いた場所。喫茶店『夢紡樹』だった。
 一度思い出すと、店までの道のりがぽんと頭の中に現れる。雪を眺めていた事も道に迷っていた事も忘れ、あきらは店まで一目さんに駆けていった。
 大きな湖の脇を通り、大きな木の洞の中に存在しているそこへと駆け込む。
「いらっしゃーいま……うわっと!」
 告げるよりも前にリリィはあきらに抱きつかれ、一緒に倒れこまぬよう必死に体勢を整える。
「あれれ? えっとあきら?」
「うん、そうなのぉ」
 にぱっ、とあきらはリリィに笑顔を見せると、カウンターにいるエドガーにも笑顔を向けた。
「エドガーさんっ! こんにちはぁ」
「こんにちは、いらっしゃいませ。走ってここまで?」
「うん。雪を追いかけてたらまた道に迷っちゃったんだけど、ここのことを思い出して走ってきたのぉ。そしたらリリィ………ちゃん? リリィ……さん?」
 むー、と呼び方を思案するあきらにリリィは笑い出す。
「リリィはどっちでもあきらの呼びやすい方でいいよ☆」
 頷いたあきらは話を続ける。
「そしたらねぇ、リリィちゃんが居たのが見えて嬉しくて飛びついちゃったのぉ。ごめんなさい」
「いいよー、気にしないで。あきらみたいな可愛い子はどんと来い!ってね☆」
 リリィはあきらの頭を撫で、カウンターへ促した。
 既にエドガーが温かい飲み物を用意していたらしく、あきらが腰掛けると目の前に湯気を立てたカップが置かれる。
「ありがとぉ」
 可愛らしい笑みを浮かべてあきらはそのカップで冷えた手を温めた。


「ここまで一生懸命走ってきたってことは、何か話したいことでもあったんですか?」
 にこやかな笑みでエドガーが尋ねると、あきらは今までで一番嬉しそうな笑みを浮かべ頷く。
「そうなのぉ。あのね、えっとね、今日は……報告? かなぁ」
「……報告ですか?」
「なになにー? まさか結婚報告?」
 キラキラと輝く瞳でリリィがあきらに詰め寄ると、リリィ、とたしなめるようにエドガーが告げた。リリィはぷうっと頬を膨らます。
「冗談だもん。でもリリィも気になるな。あきらの報告」
 教えて教えて、とリリィがあきらに先を促した。あきらは頷き、ぽつぽつと話し出す。
「あのね、俺……今までずっと、身寄りが無くて……知らない人のところで飼われたんだぁ」
 突然の爆弾発言にリリィは動きを止めあきらを凝視した。エドガーもてっきりおめでたい方の話だと思っていただけに、顔には出さなかったが動きを止める。
「えっと……あきら? あのね、知人の家に住んでたじゃなくて?」
「うん、飼われてたのぉ。あんま、家の中に入った……記憶が無いんだけどね」
 苦笑するあきらにリリィはなんと問えばいいのか戸惑う。脳内ではあれやこれやと余計な詮索をしてしまうが、まさかそれを口に出して聞く事は出来ない。
「ううっ……あのさ……えーとえーと………まぁ、いっか。それで?」
 リリィは詮索する事を止め、あきらに話の続きを促す。
「俺、自分が『くりゅーあきら』ってことしか分からなくて、それ以前の他の事何もわからないんだ。でもね、最近……俺の事、前から知ってるって言う……お姉さんに会ってね……」
 ほんの少しだけ沈んだ表情をしていたあきらだったが、それが笑顔に変わる。それを見て、エドガーは少し安心した。
「そのお姉さんは記憶を失う前のあきらさんの事を知ってらっしゃるんですね」
「うん。お姉さん……俺の事、守るって……言ってたけど……」
 そこで再び浮かない顔になるあきらに首を傾げるエドガー。
 自分の過去を知っていて、それでも守ると言ってくれる人がいる。どうしてそのことを不安に思う事があるだろう。人を『飼う』等と表現する人物より、『守る』と告げる人物の方がよっぽど良い。
「どうかしましたか? 何か不安な事でも?」
「違くて……俺の事、守るって言ってたけど、俺も守ってあげたいなって思ってて……」
 なるほどー、とリリィはぽんと手を打つ。
「リリィもあきらと一緒だよ。マスターの事守ってあげたいなって思うもん」
 同士同士、とリリィはあきらと握手をし、ブンブンと振った。
「リリィちゃんも一緒? えっと……大切?」
「うん、何よりも。リリィ、未熟なとこばっかりでマスターに迷惑かけちゃうことも多いけど、でもやっぱり大切だから一緒にいたいと思うし、守りたいと思うし……」
「俺も。……俺も守ってあげたいな……大切だから」
 そう告げるあきらの顔に迷いはない。にっこりと微笑み、リリィと一緒に手をブンブンと振る。
「うんうん、カッコいいね。それでこそ男の子ー!」
「そうでしたか。初めはどんな報告かと思いましたけど、良い方と再会出来て良かったですね」
 エドガーの柔らかい笑みにあきらは嬉しそうに微笑む。
「うん。エドガーさんには報告しないとって思ったの」
 お父さんみたいだから、とあきらは胸の内で付け足す。
「えぇ、いつでも来てください。困った時でも、背中を押して欲しい時でも。何時でも歓迎しますよ」
「リリィも大歓迎ー☆ そうだ! ねぇねぇ、あきら、リリィの弟にならない? 弟に欲しいなぁ」
 可愛いんだもん、とあきらをぎゅっと抱きしめるリリィ。
「リリィ、あきらさん困ってますよ」
「いいじゃない、エドガーがお父さんで、マスターがお母さん??? そしてリリィがお姉さん。あ、でもあきらには大切なお姉さんがいるんだっけ………いやいや、お姉さんなんて何人いても良いよね?」
 リリィの言葉にあきらは噴き出した。
「ひっどーい。リリィ本気なのにぃ」
「だってリリィちゃん可笑しいんだもん。あ、もちろんエドガーさんも、リリィちゃんも皆大好きだよぉ」
 くすくすと笑うあきらにつられ、リリィも笑い出す。
「それならば良し。でもね、何か吐き出したい事あったら溜め込まないでいつでも来てね。エドガーが気合いを入れて色々作ってくれると思うし」
 ほら、とリリィはカウンター内を指差した。覗き込んだあきらの目に飛び込んできたのは、デザートだけではなくしっかりとした料理もある。
 店内にはいつの間にかあきらしか客が居なくなっていた。
「これ……」
「えぇ、あきらさんへのプレゼントといったところでしょうか。せっかく嬉しい事があったんですし、お祝いしましょう」
 どうぞ、とあきらの目の前に料理が並ぶ。
「ありがとう」
 あきらはとびきりの笑顔を見せる。
 暖かな雰囲気の流れる夢紡樹の外では、風に舞う雪が白く世界を染め始めていた。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●5201/九竜・啓/男性/17歳/高校生&陰陽師

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■□■ライター通信■□■
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初めまして。こんにちは、夕凪沙久夜です。
大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
少しでも楽しんで頂けるよう、色々鏤めさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか。
楽しんで頂けたら幸いです。
あきらくんがお姉さんを守ってあげられる事をお祈りしております。

また機会がありましたらどうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。