■かわうそ?と愉快な仲間達 2■
滝照直樹 |
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】 |
沢山の思い出の中で一際印象に残るモノは、人それぞれ。
人は思い出を糧に生きているようなものだ。未来に繋がるために。
様々な人との出会い別れ。
歓談、恋愛、喧嘩、憩い。
平凡な一時。
そんな思い出をこの書は書き連ねていくだろう。
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□神の剣後日談 更なる覚醒
御影蓮也は、あの強敵との戦いから、何かを振り払うかのように特訓を繰り返していた。いつも一緒に馬鹿な話をしていた親友が倒れたことに、己の未熟さを、また強くなるために……親友が戻ってきても笑顔で馬鹿な話が出来るために。
「まだ、腰が低いし。刃筋が通ってない!」
「は、はい!」
しかし、其れは焦っている事も同意。織田義明の指導は彼を打ちのめす。元々義明の力はあらゆるカウンターのために存在する。既に殆ど手遅れの時のみに彼は影斬になる。前回はその境界線での覚醒だった。いまは、只の天空剣師範代だ。
「小太刀二刀なら、守りもしっかりしなくてはダメだ」
二刀の場合、両方で斬ると言うより片方で受け流すか武器を抑え込み、片方出来るというのが普通らしい。小太刀や同じ大きさの武器の場合なら“どっちでも防御に出来る”手段を手に入れないと行けない。
休憩する時も義明は何も言わない。蓮也がこうも自分をいじめ抜くのは己の心の問題なのだ。彼自身がどうこう言う事は出来ない。精々こうした修練の相手をしてやれるぐらいである。
「どうもこうも……」
義明は思った。
彼は影斬としての覚醒頻度が高くなっている。少し人間として抜けているモノが多くなってきた。其れは感情などであろう。どんどん人間味が薄れてきているのだろうか……。
「幾ら自分をいじめ抜いても、彼が“望んだと思われる結果”を悔やむ事はおかしいと思うんだが」
と、心の中で思った。
蓮也は糸の先に見える事ではなく、人を信頼した事に於ける後悔などに苛んでいる。既に時間は進んでいる。彼の能力は過去の出来事を彼の糸により覆す事はまず不可能だ、過去に出来たようで実のところその先の運命を弄っただけの事。本当に其れが出来るのは時間魔術使いでも大魔技ともいえる術者か、願望を有る程度達成させる魔法“Wish”、神の蘇生しかない。しかし、これは殆どこの世界では手の届かないものだ。“一定の運命を覆す”か“特定な事に於ける絶対事象”を作り上げる神秘は、数あるが、蓮也の力はそう言ったものではない。“その場にて先の事さえも塗り替える”能力なのだ。モノの当たりはずれは簡単な事として、強制転移などを御影の運斬では負荷が大きいが可能なのである。故にこの世界では抑止扱いになりやすい。
「未だ、だ」
何かをつかみかけているのに。
「焦っていては何も出来ませんよ?」
と、何者かが声を掛ける。
「??」
辺りを見渡すと、誰もいなかった。
「そ、空耳か」
蓮也は疲れてしまったかと溜息をついた。
それでも、蓮也は一生懸命に修練を繰り返した。何日も。
身体がもうボロ布のようになっている。
「強くなると言うのは様々だ。単に力が付くと言うだけでなく心にもある。義明が達観しているように見えるのは、今をどうすべきかを見定めているからに他ならない。友を思う気持ちは確実にある」
珍しく、エルハンドが蓮也にそう言った。
「身体をいじめ抜いてとしても、心が負けていては何も始まらん」
「エルハンド師匠……」
と、蓮の間でのそばと熱燗の食事の時であった。
つまり、蓮也の今の行為はリストカットに似ているのではないだろうかと。痛みか何らかの刺激により来ていると言う事の確認か、傷を負う事により、現在苛む事象から逃避する行為と思われる
其れが分かったとしても意味はない。彼の心の問題なのだから。結局は自分で何かをつかみ取るしかないという事だ。
吸血神の使徒らしい、影。アレから存在が残っていた。元からあれらは必ず存在する思念の一部な為、大元が封印されていようが何ら変動はない。神が吸い残したカスを取り込んだ影は、
「あの力を使えば新たなる神の復活。我でも可能よ」
と、呟いた。
霊木・静香自体には用はない。あるのは神の力が封印されたあの土蔵だ。
咄嗟に気付く、義明と蓮也。そして、茜と静香だった。他は居ない。
「くそ! まだ残っていたのか!」
「元から現象化の連中だ。一匹二匹いてもおかしくはない」
焦っている蓮也に対して義明は何も言わない。
「茜! 結界を頼む! 俺が倒す!」
蓮也は立ち上がって小太刀を持つ。
「うん! よしちゃんは?」
「可能なら俺は封印の土蔵だけ守る 俺も茜たちの力必要ないだろう」
「え?」
止まる蓮也。
「今回は蓮也だけでアレを追い払えると確信している、それだけだ」
「そ、そんな。ひ……うん。ゴメン蓮也」
何かを悟ったのか茜が謝る。
「……どうしてだ!?」
「アレは過去のような幻想。お前の答えはアレに見える。それに」
「……其処まで言うな。俺が何とかする」
と、義明の言葉を遮って影が向かう土蔵に向かった。
此処の土蔵というのは封印用のものであり、かなり強力な呪物を保管封印している。見た目は普通の作りだが、術式により、強固なモノになっている。只の現象化の影が中に入れるわけもなく、全体を不浄な力に汚染させるしかないのだが、それほど力があるわけではない。長谷神社の霊木自体が此処を清めている以上は彼もまた只の浮遊霊じみたものなのだ。
「封印を解くのはさせない!」
と、蓮也が影に叫ぶ。
「……人間か……」
影は翻り、闇の力を蓮也に向けた。
蓮也はお気に入りの傘によりそれを払いのける。アレに当たると生命力が吸われるという恐怖。
「枝は刃に、砂は聖なる矢尻に!」
と、概念想念結界発動。枝や石が影を貫く。
しかし、所詮は現象化の非実体。影は何も感じては居なかった。
「そ、そんな!」
「我は居ない。この場にいても居ないのだ。その事も分からずしてなにが御影よ」
カカカと笑う影。
逆に彼の闇の力が彼を追いつめた。
蓮也の頭に一気に過去の忌まわしい出来事があふれ出す。
「うわああああ!」
精神的苦痛と生命力が徐々に減っていく苦痛で蓮也は気が狂いそうになる。
糸には
――な、何が足りない?
――今まで運命と諦めて多くを見逃してきたが、今は違うのじゃろ? 主は其れで何を得た?
と、どこかで聞いたような声。
――私は私だって言ったじゃない? 蓮也は?
また懐かしい声。憧れていた女の子の声。
「あ……」
何かを掴んだようだ。
「御影の力は……、過去を変えるものじゃない……未来を……」
と、『輝刃』を具現化する。
「む?」
影は危機感を持って蓮也から離れた。
「今の弱い心を乗っ取り、土蔵を開けようと思えば、なかなかの強情な」
「うるせえ……。乗っ取られるなんて気味が悪いぜ」
汗だくになり、もう一振りの小太刀も投影する。
「過去を悔やんでいたら未来は見えない。笑って再会できる! 俺は生きていく。 影法師。大人しく帰れ。もしくはこの場で完全にいなくなる事になるぞ」
と、今まで教わっていた御影の剣と天空剣で、更に昇華させる構えをとる。
「……我自身は現象。無理な事を」
嘲笑う影法師。
「見せてやるよ」
ゆったりとした剣の流れであるが、何か異なっていた。今蓮也は自分の特異視点「糸」は見ていない。見る必要のないのだ。
「!?」
影法師は逃げる。
本能的に危機を察したのであろう。
その刹那。
距離にして10m、蓮也の刃は届くはずはなかったのだが、彼は3撃、影を斬ったのだ。
「因果殲滅・天剣絶刀」
影は悔しそうに消えていった。
「これで笑ってあえるだろうな」
蓮也は敵を倒したことより、先の事を思い馳せていた。
とは言っても……彼は無理な事をした。
あの奥義、「因果殲滅・天剣絶刀」には決定的に欠陥がある。まず人間の扱える代物ではない。抑止関係に干渉するというものではなくてもパワーが桁違いなのだ。天魔断絶や光明滅明みたいに天空剣の派手な破壊兵器ではないものの、肉体と精神と因果を消滅させるモノ。即ち天空剣の解の技に似ている。神格保持か天使レベルの加護、「 」の直結した強靱な肉体と精神なくしては連発すら出来ない。
そのため、全身地獄の筋肉痛に苦しみ続ける事になる。ついでに言うと影に色々攻撃されて居るため、骨折・打撲含めて全治5週間ぐらいだ。
暫く、長谷神社の関わりがある病院で休む事になった。
「クリスマスが、くるしみますになるのか?」
と、何も手伝わなかった義明がからかいに来る。
「手伝ってくれても」
「俺は存分に手伝った。強くなるためにしごいてやった」
「まて!アレをのがしたのはそのためか!? いてて!」
「アレは偶然だろうし、影は元々数が多いと思うぞ? もうあんなイカサマ技使われたら、吸血神の従者は居ないだろうけどさ。それに、当時(吸血神復活時」にかなわない相手とわかれば万歳突撃などしないとおもうけどな」
其れもそうである。影斬化した義明とあの男の前では、太刀打ちできないのだ。そこまで影は馬鹿ではない。今回は油断したか焦っていたかだろうか?
其れはそうとして、哀れ御影蓮也。 クリスマスは病院の窓から外を眺める事になりそうだ。
「怪我の治療を早める糸の作り方ってないものかな……」
「そんな事で力を使うなよ。運命作用は独り一種だ……あるとしたら。自然回復が一番だ」
強く鉈と思っても御間抜けな会話をする御影蓮也であった。
ついでに、其れに乗る義明。苦しい事になっても軽口は忘れないと言うところだろうか?
正月までに回復していればいいのだが……。
End
■登場人物
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
【NPC 織田 義明(影斬) 18 男 学生 天空剣士】
【NPC 長谷 茜 18 女 学生 長谷家継承者】
【NPC 静香 ? 女 精霊】
【NPC エルハンド・ダークライツ ? 男 天空剣師範】
カウントされないG-NPC
【G-NPC 影 もしくは 影法師】
【G-NPC 吸血神 封印された神】
■ライター通信
滝照直樹です
後日談ということで書きましたが、難易度高かったかなぁと思っています。
決まった過去の運命などを好き勝手に弄る事も、その先の運命をコントロールする事もかなり力がいると思います。どれだけなのかは考え及ばないときがありますが。普通パラドックスは起こるでしょう(そのために平行世界が出来るわけですが)。そのために蓮也様の能力は平行世界を作りやすい能力です。世界矛盾に抵触した結果が他の平行正解を生み出してしまいます。
しかし、クリスマスが病院で過ごすというのは……時期的なものというところでしょうか……はい。
では、又機会が有れば。
滝照直樹拝
20051124著
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