■■生野英治郎の『妖しい』人生相談所■■
東圭真喜愛 |
【1522】【門屋・将太郎】【臨床心理士】 |
■生野英治郎の『妖しい』人生相談所■
その日、草間興信所を訪れたあなたは、扉に貼られた張り紙を見て目を疑った。
『生野英治郎(しょうのえいじろう)人生相談所』
そう、書かれている。
確か、草間武彦とその妹である零は、とある依頼でしばらく留守にする、という話だったが……。
まさか、宿敵である英治郎に留守を頼むわけはないだろう。
あなたは、せっかく来たのだからとノブを開ける。
そして、英治郎とあなたとの忘れられない(?)ひと時があなたの人生の歴史に刻み込まれることになるのだった───。
■ライターより■
▲募集人数1人から受け付けます。ほのぼのコメディの予定ですがプレイングにより、シリアス系、ほのぼのになる可能性もあります。
▲今回は完全個別ノベルとなります。参加されるPC様のプレイング次第、シチュノベ的なノベルになります。
▲ネタばれ&シモネタ系プレイング及び暴力的プレイング以外でしたら、どんなプレイングでも構いませんので、お好きなように生野英治郎とどう過ごしたいかをお書きください☆
(生野英治郎について御存知ない方は、草間武彦受難シリーズのノベル+異界のNPC設定をご覧下さい。→http://omc.terranetz.jp/creators_room/npc_view.cgi?GMID=TK01&NPCID=NPC2165)
▲また、シチュノベよりもかなり自由のきくノベルになるため&個別形式のため、+500円しております。そちらも御了承くださいませ。
▲出来るだけ、プレイングはキャラになりきって書いて頂けますよう、お願い致します<(_ _)>
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■生野英治郎の『妖しい』人生相談所−門屋将太郎編−■
その日、草間興信所を訪れたあなたは、扉に貼られた張り紙を見て目を疑った。
『生野英治郎(しょうのえいじろう)人生相談所』
そう、書かれている。
確か、草間武彦とその妹である零は、とある依頼でしばらく留守にする、という話だったが……。
まさか、宿敵である英治郎に留守を頼むわけはないだろう。
あなたは、せっかく来たのだからとノブを開ける。
そして、英治郎とあなたとの忘れられない(?)ひと時があなたの人生の歴史に刻み込まれることになるのだった───。
■にっこり時々黄昏?な英治郎■
その日、あまりの退屈さに耐え切れなくなった門屋将太郎は、ぶらりと散歩に出ていた。
寒さに負けず小鳥達は澄んだ声で鳴き、遊ぶように飛んでいる。
「いいな、鳥達は呑気で。こちとら商売あがったりだっていうのに……」
つぶやきながら、晴れ渡った空を見る。この寒さではもうじき雪でも降るのかな、と思う。
いつの間にか、見知った風景の場所に来ていた。目の端に、見覚えのあるビル、そこに草間興信所がある。
なんとはなしに足を止めてみると、中に誰かがいるような気配がする。
「しばらく留守だって聞いたが……ちょいと行ってみるか。誰かが代わりに留守番してるのかもしれないし」
決めて彼は、そちらへと足を向けた。
つと、それが扉の前で一瞬とまる。
「……『生野英治郎の人生相談所』……!?」
いつから家主が代わったのだろう。
とうとうあの貧乏探偵、家賃を払えなくて追い出されたのか。いや、待てよ……なにやらこの名前に覚えがあるようなないような……生野、生野───。
「生野……って、以前興信所で厄介な依頼持ち込んだやつじゃねぇか」
そう。
将太郎は以前、彼(と被害者である武彦)に巻き込まれ、酷い目にあったことがあったのだ。
「あんなヤツに人生相談が勤まるか! 商売敵になっちまうじゃねぇか!」
文句言ってやる!
と、些か大人気ない言葉を発しながら、ほぼ殴りこむように将太郎は中へ入った。もっとも、彼も「相談所」という立派な職場を持っているから気持ちも分かるというものだ。
「おい、生野! 草間さんの断りもなしに勝手に開業してんじゃねぇよ! だいたいお前、人生相談なんかできるのか!?」
バタンと勢いよく開かれた扉と同時に、突然の来訪者にも中にいた眼鏡にスーツの美青年───生野英治郎は動じなかった。
否、動じている場合ではなかったのだ。
「しっ! そのまま動かないでそっとその扉を閉めてください!」
「な、」
「早く!」
そのとき将太郎は、英治郎がデスクの前にかがみこむようにして、なにやら煙の出ているフラスコに入っている紫色の液体を見つめていることに気がついた。
確か彼の本業(?)は、謎ではあっても薬剤師、発明家だったような気がする。
今も何か発明途中で、ちょっとの衝撃で爆発でもするのかもしれない───将太郎は一度ごくりとつばを飲み込み、そっと扉を閉めて、足音を忍ばせるように英治郎の隣へ移動する。
「……今度は何の発明だ?」
たずねると、目を輝かせた英治郎が液体から目を離さないまま、こたえた。
「見ていれば分かりますよ。さ、これをたらせば出来上がり……です」
そっと、片手に持っていた試験管の中身、緑色の液体をフラスコに一滴、たらした。
予想していた爆発は起こらず。
フラスコの中の液体は紫から不思議な黄金色に変化し、英治郎は「完成です」と満足そうに微笑みながらため息をついた。
それを持って用意していた薬瓶に入れながら、今度は英治郎が将太郎にたずねた。
「で、あなたの相談事とはなんですか?」
「は?」
「ですから、相談事が入ったから入ってきたのでしょう?」
「違う! 俺の台詞聞いてなかったのか!?」
「聞いてませんでした」
発明に夢中でしたもので、すみません、と臆面なくにっこりと謝罪する。
将太郎は怒る気力もうせ、ソファにどっかり腰を下ろす。
「できるんだったらさ、俺の相談に乗ってくれよ。お前が人生相談できるかどうか、カウンセラーの俺がテストしてやる」
その言葉に英治郎、きらきらと顔を輝かせて将太郎の真向かいに座る。手にはしっかりとどこから取り出したのか、カルテがある。
「ああ、そういえばあなた『も』カウンセラーでしたよね。で、カウンセラーたるあなたの相談とはなんでしょうか?」
すると将太郎、ちらりとあたりを見渡して、身を乗り出して声をひそめる。
「あのな……俺の相談所、今閑古鳥状態なんだよ。どうしたら来談者が増えると思う?」
「それはお困りでしょうねえ」
さらさらとカルテになにやら書き込みながら、英治郎は相変わらずにこにこ顔だ。
「その相談所には私はお伺いしたことはないのですが、どんなところなんです? 例えば、お客さんも入りたくないようにボロビルとか、汚い部屋だとか。あ、観葉植物がないのもダメですよ。まずはお客様向けの環境を作ることをオススメします」
環境か、と将太郎は考えてみる。
確かに時代最先端の相談所とは言えないが、客が入りたくなくなるほど汚れてはいない、と思う。なにしろ彼にはそっちの方面は任せたら万能とも言える、優秀な助手もついているのだ。
「それはまあ、大丈夫だと思う。俺も伊達にカウンセラーの資格取ったわけじゃねぇし」
「それならあとは、お客様に不快に思われないためのアピールですね。まあ妥当なところではビラを作ってスーパーや公民館に置いてもらったり、ホームページを作ったりして検索サイトに登録申請を出したり」
「馬鹿、そんなこともとっくにやった! でも駄目だった!」
「そうでしょうねえ」
チラシ配りやホームページ作りは基本中の基本ですからね、と英治郎は真顔でつぶやく。
こいつ───本気で相談に乗っているつもりなのか? これで。
疑い始めた頃、英治郎は「そうだ」ときらりと瞳を光らせた。
「今作ったばかりの私の薬、試してみませんか?」
「って、どんなのだよ?」
「私も、誰もこないと淋しいので薬を作っていたんです。名づけて『商売繁盛剤液体版』。これを香水のように身体につけるとですね……」
「商売が繁盛するってワケか?」
半眼になりつつ、将太郎。
そうです、と英治郎は笑顔で対応する。
少し考えていた将太郎だが、やがてにこりと笑う。いや、どちらかといえば「にやり」だったかもしれない。
「いいぜ、それ、俺につけてくれよ」
「門屋さんは物分かりがいいですねえ♪ 武彦にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですv」
と言いつつ、英治郎は薬瓶にスプレーの先を取りつけ、将太郎に向けて今しもスプレーをかけようとした───そのときである。
「あっ!」
ふいを狙って、将太郎はソファから立ち上がった瞬間、さも足元を絡ませたといったふうに英治郎に倒れこんだ。手が英治郎の薬瓶を持った手首をつかみ、軽く、痛くない程度にねじる。反射的に力が入り、押されて出たスプレーからの『商売繁盛剤液体版』はといえば。
「おや、私にかかってしまいましたねえ」
のんびりと英治郎が言うとおり、
軽い、ラベンダー系の香りをさせて、作った本人の首元にひと吹きかかったようだった。
もちろん、将太郎の企みである。そうそう毎度毎度、発明品を武彦のように試されてはたまらない。
「さて、とりあえずこれで薬の効果は分かるよな」
と、将太郎が言うが早いか。
興信所の扉がばたんと開かれ、たくさんの───動物達が入ってきたのだった。
◇
「なんで動物だけなんだよ! しかもなんでこの世の動物じゃなくてファンタジーとかに出てくるような動物ばっかなんだよ!」
興信所内はたちまち、ファンタジーの本から抜け出してきたかのような動物達ですし詰めになり、英治郎に次々と人生相談を「動物語」で話しているようで、英治郎もまたそり言葉が分かるようで対応している。
将太郎はといえば、極力すみっこ、それも害のないように手伝いをするはめになり───台所で膨大に茶を淹れている。
こんなもの、ファンタジーの動物達の口に合うのか、と疑問に思ったが何もないよりはマシだろう。
「動物だけでなく、ちゃんとエルフさんもいらっしゃるじゃあないですかv」
「おんなじこった」
片端からお茶を出しつつ、将太郎は愚痴る。
「多分、この世じゃなくどこかのファンタジー世界に、この香りが『扉』となって現れたんでしょうねえ。この現象、もしかしたら興信所やご近所中に残ってしまうかもしれません」
「はぁ!? 興信所だけならともかく、なんで近所まで! つかどのくらいの範囲だ? 俺も近所っちゃ近所だぞ?」
「うーん、遊園地が三つ四つ繋げて建つくらいの範囲でしょうねえ。この香り、控えめではあっても効力はかなりありますから」
「めっちゃ俺の相談所も入ってるし!」
そんな将太郎の袖を、くん、とひっぱったものがいる。
小さな、それは妖精だった。飛ばずに足を地面につけており、何故か羽のあちこちがぼろぼろになっている。
「おい、どうしたんだ? って、言葉通じねえか」
「あ、訳しますよ」
にこにこと、英治郎。妖精は戸惑ったように将太郎と英治郎とを見ていたが、何事か英治郎と言葉をかわす。
やがて英治郎が将太郎を見て、言った。
「この妖精さんは仲間内でいじめを受けていて、つい先ほど羽も傷だらけにされて、飛べなくなってしまったそうなんです。それを相談しているんですよ」
「なんで俺に!?」
「すみませんねえ、この薬。さっき言った範囲分の人間にも同じ効果があるみたいです」
「なっ!?」
文句を言おうとするが、女の子の妖精のつぶらな瞳が、涙をためて見上げてくる。
───負けた。
「えーっと……羽か。つか、イジメも解決しないといつまでも同じこと繰り返すよな……」
すると相談を受けながら何かまた作っていた英治郎が、石鹸に似た香りのする薄桃色のマスクを将太郎の口に取りつけてきた。
「なんだ、これ?」
くぐもった声でたずねると、
「簡易翻訳機です。とりあえずですが、これで少しの間は彼女達と話すことができるでしょう」
さ、頑張ってくださいね、門屋さん♪
そんな顔色で微笑む英治郎を、将太郎は憎たらしげに見上げる。
畜生、絶対企んでいやがった。俺が生野に薬をかけるのを見越していやがったんだ。
『あの……、羽……』
すると英治郎の脳内に、空気中を通した妖精の声が聞こえてきた。はめられたが仕方がない、腐っても自分はカウンセラー。求められたとあらば、手を差し出さないわけには行くまい。
「そうだな、んー、少し瞳を見せてくれないか?」
いくぶん今までよりも優しげに、将太郎は少女の妖精に頼んでみる。将太郎は、瞳を見ると心の中が見えるという能力があった。
この世のものでない生き物達にも通じるかは分からなかったが、どうやら少しは効くようだ。いじめられる根源と、妖精のトラウマとが少しだけ見えた。
「羽がみんなよりも発育遅いのか。それがコンプレックスでもあり、いじめの原因でもあるのか」
発育なんてなあ、と将太郎は語り始める。
「ひとそれぞれなんだぞ。発育が遅いやつほど、後々素敵な人間、生き物になったりするもんだ。羽が小さくても充分飛べるんならかえって希少価値があると思うぞ?」
そんなふうに話して行くと、妖精は『ありがとう』と微笑んだ。実に一時間ほど話していたのだが、不思議に、その間に自然と羽は回復した。どうやら心の思うとおりに、羽は再生したりもできるらしい。
誰にも話せなかったぶん、誰かに話すことだけでもこの妖精には充分癒しになったようだった。
お礼を言うと、すうっと消えた。
「ああ───なんだかこんな気分、久しぶりだな」
将太郎は、いつの間にか順番待ちしていた、次のエルフが前のソファに座るのを見つつ、小さくつぶやく。
結局その日一日かかって、英治郎と共に将太郎は不思議な「客」たちのカウンセラーをし、
久々の充足を彼自身も得たのだった。
◇
「すっかり夜遅くなっちまったな。そろそろ帰るよ、腹も減ったし」
「私はカルテ整理がありますので、ではまた気が向いたらいらしてくださいねv」
「さてなぁ」
そらぶく将太郎だが、また来てもいいかもしれない、なんて内心思っている。
相談所にも、今頃この時間になっても、「客」たちでごった返しているかもしれない。
「じゃ、な」
将太郎は清々しい気分でノブに手をかけた───そのとき、
「英治郎、貴様というやつは!!」
と、今度こそ家主である武彦が扉を勢いよく開けて飛び込んできた。後ろから、慌てて零が追ってくる。
「おや武彦、早かったですね。生憎今、私は忙しくて。お話なら明日の朝お聞きしますよv」
「お前が何かしてるんじゃないかと気になって、依頼も早く片付けて帰ってきたんだよ。案の定だ! さあここから出て行け!」
「……あの、兄さん。何か、焦げたにおいがします」
武彦の剣幕とは裏腹に、神妙な、零の声。
一瞬静まり返る。
「あ」
思い出したように、英治郎が立ち上がった。
「『商売繁盛剤液体版』の素───火にかけっぱなしでした」
そして、
「皆さん伏せてください!」
と、真っ先に自分が床に伏せる。条件反射で将太郎、武彦、零も床に伏せた───それを待っていたように。
どごぉん───!!!
すさまじい勢いで、興信所の天井が、さながら噴火のように火を噴いた。
幸いそれも薬の作用か火事には至らなかったものの、興信所内はといえば───見事にどれも真っ黒焦げ、中には破壊されたものもあった。
武彦と零は言う言葉もなく、呆然としている。
将太郎は、ごほっとひとつ、黒い咳をして。
「生野……お前、やっぱ向いてないよ、この仕事……」
と、もっともなことを言った。
その後、『商売繁盛剤液体版』の効果が切れるまで、近所から苦情の電話やらが武彦のもとに絶えなかったという。
そしてまた、将太郎の相談所がどうなったかは、
本人のみぞ知る。
《完》
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1522/門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう)/男性/28歳/臨床心理士
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)
さて今回ですが、生野氏による生野氏のための───ではありませんが、草間武彦受難シリーズの番外編も番外編、生野氏をメインとして絡む完全個別ものを作ってみました。
内容やオチはプレイングの内容やPC様の設定等からのもの、そして流れもあるのですが───。
■門屋・将太郎様:お久しぶりのご参加、有難うございますv 今回は生野氏ものにしては珍しく(?)まともっぽい流れになりましたが、如何でしたでしょうか。やはり最後はお約束、といった感じになってしまいましたが……少しでも門屋さんの相談所がまともなお客様で繁盛しているといいな、と願う次第であります。
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」を生野氏・草間氏というよりは皆様に提供して頂きまして、とても感謝しておりますv
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
2005/12/03 Makito Touko
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