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■CallingU 「腹部・はら」■

ともやいずみ
【3525】【羽角・悠宇】【高校生】
 連絡はいつも公衆電話だ。なにせ携帯電話を持っていないし、部屋には電話がない。
 だからいつも、報告の連絡はこうして夜の公衆電話だ。
「はい……。順調に進んでおります。
 障害……? いえ、今のところはありません」
 受話器の向こうで言われた言葉に顔を少ししかめる。
「…………引き続き封印をおこないます」
 それから相槌を数回して、受話器を置く。
 電話ボックスから出て空を見上げた。もう夜明けだ。

 そしてまた、鈴の音が聞こえる。
CallingU 「腹部・はら」



 気になって、羽角悠宇は尋ねてみた。
「あのさ……おまえってなんでそんなに他人と関わりたがらないんだ?」
 相手は驚いたような目で悠宇を見る。
「記憶がないから……? だからそうやって人を近づけないように……」
 ひどい物言いをするのだろうか?



 遠逆欠月に出会ったのは、帰り道で偶然だった。
 すたすたと歩いている欠月を発見した悠宇は、一瞬どうしようか迷ってからすぐに追いかけたのだ。
 気づかれないようにとなるべく距離をとって尾行する悠宇はふと思う。
(なんで俺……こんなコソコソ追いかけてるんだ……?)
 疑問符を浮かべつつも欠月を追う悠宇。
 欠月は早足で夕暮れの道を進む。
(……おかしーな……)
 またも頭の上に疑問符が浮かんだ。
 欠月が進む方向には人がいない。いないのは欠月がそういう道を選んでいるからなんだろうが……。
(なんであいつあんなに堂々としてるんだ……? 目立つだろ、あの制服は)
 少しは恥ずかしがれよ、と思ってしまう。
 尾行している最中に、悠宇はこの間会った時のことを思い出していた。
 悠宇の彼女を「奇特な人」と言い放ったのだけは本気でどうかと思ったが……。
(欠月ほど顔がいいわけでもないしな……俺。でも性格はあいつより断然いいぞ)
 そうだ。性格だ。性格の良さで彼女は自分に惚れているのだ。
 欠月は悪いやつではないはず。それは悠宇の直感が告げているのだから。
(なんで……あいついっつも一人なんだろ)
 悠宇が知る遠逆の退魔士も、一人のイメージがあった。たった一度しか会ったことはないが……いつも一人でいるような雰囲気があったのだ。
 欠月にもその影が重なってみえた。
 いつもにこにこと笑顔だが、彼は一人でいることが多い。
(……そりゃ、東京には一時的に居るだけかもしれないけどよ)
 前方で欠月が立ち止まっているのを発見して悠宇は隠れる。
 欠月は大きめの地図を広げて方向を確認していた。そして地図に赤ペンで何かを書き込んでいる。
(? なにやってんだ……?)
 通りかかった女子高生たちに欠月は何か尋ねている。
 女子高生たちは欠月の容姿にちょっと嬉しそうにして、彼の質問に元気よく答えていた。
 軽く手を振って女子高生たちと別れた欠月は、周囲を見回してから近くの電柱に近づいていく。
 彼はポケットから小さなケースを取り出すと、そこからチョークを出して電柱に書き込んでいた。
 後ろを振り向いて何度も方角を確認していた彼は電柱から一歩後退して離れると両の掌をパン! と合わせてぶつぶつと呟く。
 そんな作業を終えた彼は悠宇がいる方向をくるんと見遣った。
「羽角さん、なにしてるのさっきから」
 ……やはりこの距離ではダメか。
 そう思って悠宇は電柱の陰から出てくる。
「よお」
「こんにちは」
 にこっと微笑む欠月。
 欠月に近づくと悠宇は彼が手を加えていた電柱を見遣った。
「なにしてたんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。ボクを尾行してたのは趣味なの?」
「ち、違う! おまえって謎だらけだからさ……」
「べつに怒ってないよ。人間、気になることに興味は抱くものだから」
「そ、そっか」
 悠宇の言葉に欠月は「うん」と頷く。
「それで? なにしてたんだ?」
「罠を作ってた」
「罠?」
「そう……最近このへんで起こる事件、たぶん憑物のせいだと思って」
「さっき地図に何か書き込んでたな」
「あれは変な噂がある場所をチェックして書き込んでるんだよ。噂もバカにできないしね。
 それに、憑物って色々場所を変えたり、移動したりするのもいるからこうやってチェックしておくと次にどこに現れるかだいたいの見当がつくから」
「へえー。結構地道なんだな、退魔士って」
「当たり前でしょ。こういった裏方の商売ってかっこよく見られがちだけど、実は結構大変なんだよ」
 なんか探偵みたいだなあ、と悠宇は欠月を見て思う。
 足でこつこつ、なんて。
 悠宇は少し考えてから口を開いた。
「手伝おうか?」
「なにを?」
「えっ。そういう言い方されると困るんだが……」
「羽角さんに手伝ってもらうことなんてないからいいよ。そうそう、奇特な彼女さんは元気?」
「ま、またおまえ!」
 ムッとするが、欠月がにたにたしているのに気づいて悠宇は口を閉じる。
 欠月はにこ、と微笑んで歩き出した。悠宇も並んで歩く。
「……どうしてついてくるの?」
「いや、暇だし……」
「ボクに付き合うって? 物好きなことするんだね」
 地図を見ながら歩く欠月から目を離し、悠宇は軽く溜息をついた。
 こんなことを欠月は毎日のようにしているのだろうか。とんでもなく大変だ。
 憑物と戦う危険と隣り合わせな職業なだけかと思っていたが、こんなこともしているなんて。
(単に戦って勝って終わりってわけじゃないんだな……退魔士って)
 心のどこかで、もっと簡単なものかと思っていた。
 そう……欠月といい、遠逆の退魔士は退魔稼業を苦にも思っていない風だから。
 本当はもっともっと危険で、辛くて……面倒なもののはずだ。
 夢物語ではない現実の厳しさを、欠月は身をもって知っているのだから。
 かなり歩いてから、悠宇は意を決した。
「……あのさ」
 声をかけると欠月は地図から顔をあげて悠宇を見る。
「なに?」
 気になって、悠宇は尋ねてみた。
「あのさ……おまえってなんでそんなに他人と関わりたがらないんだ?」
 相手は驚いたような目で悠宇を見る。
「記憶がないから……? だからそうやって人を近づけないように……」
 ひどい物言いをするのだろうか?
 そう続けようとした悠宇を欠月が突き飛ばす。彼の手に影で作られた青龍刀が握られていた。
 悠宇のすぐ後ろの場所をそれで斬るように振るう。
 突き飛ばされた悠宇は地面に転倒して見上げた。
 欠月が対峙しているのはセーラー服の少女だ。少女は黒い青龍刀を首を傾けて避けると後方へ跳躍する。
(さっき欠月が驚いたように俺を見たのは……)
 自分に対してではなく、自分のすぐ後ろに対して?
 悠宇は起き上がって欠月を見遣る。
「わ、悪い」
「いいから退がってて」
 邪魔、と言外に言われてしまった。
 セーラー服の少女の見た目は中学生くらいだ。だが目が虚ろで手足も青白い。少し痩せていた。
 ぶつぶつと呟いている少女は塀の上までジャンプし、そこに立つ。
「あれ……なんだ?」
「……なんか色々と混ざってるというか」
 面倒そうな顔で言う欠月は悠宇の手を引っ張って走り出す。
「うええええええっっ!?」
 なんで手を掴まれ、一緒に走るのかわからず悠宇はそんな声をあげた。
「早く走って! 追いかけてくる!」
「い、いや! 走るけどよっ!」
 握られている手の冷たさに悠宇はよくわからないが……よくわからないが凄く不安になったのだ。
(冷え性なのかな、欠月って)
 などとちょっぴり思ってしまう。
「もっと速度をあげるよ!」
 欠月の走る速度がぐんと上がった。悠宇は自身の足の速さに自信があったが、欠月は呼吸も乱さずに走っている。
 後方からセーラー服の少女が物凄い速度で迫ってきていた。
 よく見ればセーラー服は夏服だ。この寒いのに!
「か、欠月っ、追いつかれ……っ」
 自分を置いていけ、と言おうとしたが欠月は後方をちらっと一瞥した。その冷えた目に何も言えなくなる。
 なんの感情もない、眼だ。
「……チッ。思ったより速いな。
 羽角さん、もっと上げるよ」
 もっと上げるって、これで十分だと思うが。
 そう思う悠宇の身体がぐん! と前に引っ張られる。
 欠月がつま先に力を込めて爆発的な加速をつけて走り出したのだ。
(ひっ!)
 悠宇は一瞬で青くなる。
 人間の走る速度を軽々と超える速さだ。
 ジェットコースターに乗っているような錯覚を感じた悠宇は、自分の身体が宙に浮くようになっているのに気づいた。欠月の速度のせいだ。
 欠月は目的の場所に来たらしく速度を落とし始める。
(う……こんなに揺れたら気持ち悪い……)
 がくがくと揺さぶられていた悠宇は後方を見つめた。
 セーラー服の少女の姿はかろうじて見える程度。だが、この速度では追いつかれるだろう。
 欠月はゆるゆると速度を落とし、停止する。悠宇の手を放した。
 地面に落とされたようになっている悠宇は頭を軽く振る。まだぐらぐらしていた。
 空は夜に近い紫。その不気味な空の下、欠月は構える。
 影を刀へと変化させ、両手で握りしめた。
 少女が腕を振り上げる。
「羽角くん、おとなしくしててね」
 欠月の声にろくな反応もできずにいた悠宇はゆっくりと彼を見た。
 彼は狭い道の中央に立つ。
 少女の腕が振り下ろされそうになる。欠月に届くと踏んでのことだろう。
 だが、彼女の動きが止まった。
 完全に停止したように、だ。
「? なんだ?」
 不思議そうにしながら悠宇が立ち上がる。
 よく見ればその場所は欠月が電柱に何かしていた場所だ。
(あっ!)
 罠!
 欠月は構えを解く。
「まさか今日まみえることになるとは思ってなかったな。万が一を考えて用意しておいて、良かった」
 電柱には何かの印がチョークで描かれており、少女の動きはその直線上で止まっていた。
 悠宇は少女を見る。
「なんなんだ……この子は」
「うーん。まあ言ってみれば噂の塊ってやつかな」
「ウワサのカタマリ?」
 もう一度少女を見遣り、悠宇は欠月に視線を戻す。
「女の子って噂話が好きだからね。尾ひれがつく、って言うじゃない」
「尾ひれはわかるが……でも、なんでこんな姿なんだ?」
「都市伝説とか色々あるでしょ。自殺したどこかの中学の女の子が夜な夜な生徒を襲うとか、そんな感じの」
「それの具現化したのがコレってことか?」
「まあそんなものって考えたほうがキミにはわかりやすいでしょ。
 噂だけならいいんだけど、コレはその身体情報に近い浮幽霊を選んじゃってるからなあ」
 悠宇は不思議そうに少女を見つめた。
 ただの噂がこの少女をこんなにしてしまったというのは信じられない。
「その浮幽霊、どうするんだ?」
「埃を落としてしまわないと、また同じことを繰り返すだろうしね」
 欠月は軽く刀を振った。少女の頭部が刎ね飛ぶ。
「だけど、埃を落としてもまた『噂』が寄ってくる。結局堂々巡りだ」
 薄い夜の静けさの中、悠宇は欠月をただ見つめていた――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、羽角様。ライターのともやいずみです。
 呼び方が変わりましたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!