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■想いの数だけある物語ver1.5■

切磋巧実
【1252】【海原・みなも】【女学生】
●オープニング
 ――アナタは眠っている。
 浅い眠りの中でアナタは夢を見ています。
 否、これが夢だとは恐らく気付かないでしょう。
 そもそも夢と現実の境界線は何処にあるのでしょうか?
 目が覚めて初めて夢だったと気付く時はありませんでしたか?
 アナタは夢の中で夢とは気付いていないのだから――――

 そこは夜だった。
 キミにどんな事情があったのか分からないが、見慣れた東京の街を歩いていた。賑やかな繁華街を通り抜けると、人の数は疎らになってゆく。キミは何処かに向かおうと歩いているのだが、記憶は教えてくれない。兎に角、歩いていたのだ。
「もし?」
 ふと落ち着いた女の声が背中から聞こえた。キミはつい顔を向けた。瞳に映ったのは、長い金髪の少女だ。髪は艶やかで優麗なラインを描いており、月明かりを反射してか、キラキラと粒子を散りばめたように輝いていた。赤い瞳は大きく、優しげな眼差しで、風貌は端整でありながら気品する感じさせるものだ。歳は恐らく17〜20歳の範囲内だろうか。彼女の肢体を包む衣装は純白のドレスだ。全体的にフリルとレースが施されており、見るからに――――あやしい。
「あぁ、お待ちになって下さい」
 再び先を急ごうとしたキミを、アニメや漫画で見るような奇抜な衣装の少女は呼び止めた。何故か無視できない声だ。再びキミは振り向く。
「わたくし、カタリーナと申します。アナタに、お願いが、あるのです」
 首を竦めて俯き加減に彼女は言った。両手をモジモジとさせて上目遣いでキミを見る。
「私は物語を作らなければなりません。あぁ、お待ちになって下さい!」
 ヤバイ雰囲気に、キミはさっさと立ち去ろうとしたが、彼女は切ない声で呼び止めた。何度か確認すると、どうやら新手の勧誘でも商売でもなさそうだ。兎に角、少女に先を促がした。
「あなたの望む物語を私に教えて下さい。いえ、盗作とかそんなつもりはございませんし‥‥えぇ、漫画家でも作家でもございませんから、教えて頂けるだけで良いのです」
 何だか分からないが、物語を欲しているようだ。仕方が無い、適当に話して解放してもらおうと思い、キミは話し出そうとした。
「あぁッ、待って下さい。いま準備しますね」
 教えてくれと言ったり、待ってくれと言ったり、我侭な女(ひと)だなと思いながらキミは待つ。彼女は腰の小さなポシェットのような物を弄ると、そのまま水平に腕を振った。すると、腕の動きに合わせてポシェットから青白く発光する数枚のカードが飛び出し、少女がクルリと一回りすると、カードの円が形成されたのである。
 これは新手のマジックか、それとも‥‥。
「どれがよろしいですか? これなんかいかがです? こんな感じもありますよ☆」
 彼女は自分を中心に作られたカードの輪を指差し、楽しそうに推薦して来る。カードは不思議な事に少女の意思で動くかのように、自動で回転して指の前で止まってくれていた。
「あ、説明が未だでしたね。あなたの望む物語は、このカードを選択して作って欲しいのです。簡単ですよ? 選んで思い描けば良いのですから☆」
 キミは取り敢えずカードを眺める事にした――――。
想いの数だけある物語ver1.5

「半獣人スーツぅ?」
 サイエンティスト・ナミは素っ頓狂な声をあげた。眼鏡を掛けた少女は肩ほどまで延びた赤毛の三つ編みを弄び、金色の瞳を対峙する金髪の娘に向けて先を促す。
「はい。私とみなもさんは半獣人スーツの故障で上空から海へ落下したのです」
「なるほどね。それで二人共衣服を身に着けていなかった事情は分かったわ。ふぁ〜あぁ、何か眠くなってきちゃった。明日、海底都市のパイプまで行くわよ。今夜はよく眠って‥‥」
 白衣を纏った少女は眼鏡の内側からゴシゴシと目を擦り、椅子から腰をあげた。空かさずシャイラが彼女を呼び止める。
「あ、あの、ナミさん?」
「‥‥なにぃ? ベッドなら診察用の使いなさい。人魚は水槽に入る!」
「え、えぇ〜! い、いやですッ」
 明らかな拒否反応を見せたのは、青い長髪の少女だ。海原みなもは、首を竦め、上目遣いで白衣の少女を睨む。一時は被験者とか言われ、ナミに拘束された挙句、切り刻まれそうになった水槽である。水は心地良いかもしれないが、夢見が悪そうだ。
「だったら、この娘と同じベッドで寝るか、床に転がって寝るか、好きにすれば? なんなら外に出て海で寛げば良いじゃない? 尤も、アタシなんかより酷い連中に捕まっても知らないけど?」
 ふふん♪ と、ナミはみなもを見つめて微笑む。青い髪の少女は我慢ならないと端整な風貌を崩し、勢い良く腰をあげた。赤毛の少女を前に立ち上がったみなもの露となった細い背中がシャイラの視界を遮る。そう、人魚の少女は身に纏う物を与えられずにいたのだ。
「ナミさんッ! あたしの服はこの際どうでも良いけど(いえ、本当はよくないけど)、シャイラさんにこれは酷いんじゃないですか!?」
 ピッと指差されたシャイラは小さな衣服にむりやり肢体を収めている感じだ。小さな上着は、前ははだけているものの胸元を何とか包んでいるが、腹部は曝け出されており、下半身を覆う衣服はボタンが閉められない始末。無理も無い。みなもが立ち上がってナミを睨む視線は、明らかに低い。自称サイエンティストの少女は12歳位の幼女なのだ。
「仕方ないでしょ? ここはホテルじゃないの! アタシの服に文句いうなら脱いで頂戴!」
「大丈夫よ、みなもちゃん☆ 落ち着きましょうね?」
 穏やかに苦笑して、シャイラはみなもを落ち着かせると、先ほど話そうとした件を切り出す。
「ナミさん? 今は平気ですけど、この格好で外には出られませんわ☆ そこでお願いがあるのですけど‥‥半獣人スーツを作って頂けません?」
「半獣人スーツって、ハイランダーのロストテクノロジーで開発されたって話の?」
「はい☆ ナミさんならきっと作れると思います♪ だって『さんえんてすと』ですもの☆」
 その時みなもは思った。シャイラはよく理解せずに話しているのだと――――。
「ま、まぁ、作れなくはないわよ! 要は半獣人に見える服でしょ?」
「はい☆ きっとハイランダーの皆様も尊敬の眼差しを向けてくれますよ♪」
 いつものようにパン☆ と両手を合わせ、シャイラは聖母のような微笑みを浮かべた。ナミは腰に両手を当て、これ以上ない位に胸を反らして得意顔だ。‥‥未だ作ってもいないのに。きっと大人の学者達が「ブラボー! ゴッドハンド! ゴッドブレイン!」とか称賛の声を響かせる様を浮かべているに違いない。
「いいわよ★ そんなの一日あれば作ってあげるわ♪」

■マーメイドみなも物語――半獣人スーツ拘束編――
 翌朝早く、シャイラとみなもはナミの上機嫌な声に起こされた。
 白衣の少女は目元にクマを作った顔に不敵な笑みを浮かべ、二人に毛皮の衣装を自慢気に見せる。
「どお? 有り合わせの材料だけど、着れば半獣人そのものよ♪」
「まあ☆」
「毛皮のツナギにしか見えませんけど‥‥」
「‥‥人魚は素っ裸で構わないのね」
 手を合わせて感嘆の声をあげたシャイラに素直に渡し、ナミはみなもの一言にクルリと踵を返す。いかん! 生まれたままの姿で歩くのは捕まえて下さいと言っているようなものだ。否、それよりかなり恥かしい! それ所か、頭の弱い美少女と思われるやもしれん。
「あ、えーと、こんな感じでした☆ すごく似ていますよね? シャイラさん♪」
「えぇ☆ ロストテクノロジーの賜物をいとも簡単に作るなんて、本当に『さんえんてすと』は凄いですわ♪」
 ――シャイラさん‥‥本音ですか? 芝居ですか?
「ふふん♪ 本当に正直ね★ さ、試着してみて。ちゃんと空気を抜く機能も付けたわよ。体臭も維持されていると思うわ」
 意外と言うべきか。これはこれで技術の結晶かもしれないと、みなもは認識を改めた。このまま着れば、ただの毛皮のツナギなのは明白だ。全く一体感が無い。しかし、空気を抜く機能があるなら、正にそれは半獣人スーツである。青い髪をサラリと流れさせ、半身を屈めてツナギに足を入れる少女の耳に、シャイラの声が飛び込む。
「まあ☆ 本物より着易いです♪ あとは前のファスナーを上げればよろしいのですね?」
(それはツナギですからね‥‥着易いですよシャイラさん)
 しかし、一つ一つ感心するシャイラの声は、ナミの機嫌を維持させた。少女も満足そうだ。
「次は顔ね★ 苦労したのよ、剥がすのに♪」
 ――剥がす!? 今、頭部と言わず、顔って言いましたよね? 体臭を維持‥‥。
 みなもは片足を入れた途中で固まり、戦慄の表情を浮かべた。さながら気付いてはならない事を知ってしまったホラー映画の主人公である。やはりナミにはマッドを追加するべきだ。
「あ、あの、文句じゃないんです。えっと、病気とか移りませんよね?」
 ナミはみなもに眼差しを向け、ニタァ〜リと口元をおぞましい程に歪ませる。再び少女は戦慄を覚えたものだ。青い瞳は見開かれ、頬にイヤな汗が伝う。
「い、いいえッ、何でもないんです! ほ、ほんとに、き、着易いですね♪」
 予想は確信へと変わったが、状況に変化が訪れる訳ではない。例えこれが何であろうと着なければならない。改めて見ると、内部がヤケに生々しいのは気のせいではないだろう――――。
「あら? 変わった肌触りですわ。匂いも凄いですわね。みなもちゃん? 顔色が優れませんよ?」
「な、なんでもない、です‥‥。きっと、匂いが、強過ぎる、から‥‥」
「気にしないで★ リアリティの問題だから♪」
 空気を抜いて圧縮すると正に猫型半獣人『そのもの』だった。流石に耳や尻尾など可動しないが、ファスナーさえバレなければ、違和感はないだろう。
「ふむふむ、成功ね★ ちょっと待ってて、アタシの分も用意するから♪」
 あ、刃零れしたんだっけ★ なんて言いながら、電動ノコギリを片手に白衣の少女は部屋を出て行った。気のせいよ。みなもは何度も自分に言い聞かせ、両耳を塞いでガクガクと戦慄いた――――。

●それは甘い罠
「いい? この先の街を回避する道は無いわよ。忘れないで頂戴」
 猫型半獣人スーツに身を包んだナミは、ピッと人差し指を出して続ける。
「この街は客とのいざこざは当たり前。特に来店の誘いを断わったら喧嘩になるわ」
 どうやら、これから通る街は商店街らしく、そのまま通過は認められないのが暗黙の掟との事だ。つまり、最低でも一件は店内に入り、何かを買わねばならない。所謂通行証の役割を果たしており、組織的なものなのだろう。噂や事例が広まれば、通過するのに買物は必須となる。
「ここからはバラバラになるわよ。キミ達は勝手にして。街から出たら合流よ」
 こうして、ナミは先を進み、商店街に消えた。
「どうしましょう?」
 門を目前として、シャイラは不安気な声を洩らし、みなもに視線を流す。緑色の瞳は「一緒に行きません?」と訴え掛けていた。青い髪の少女は微笑んで見せる。
「一緒に行きましょう☆ その方が良いですよ」
 二人の猫型半獣人は、手を繋いで街の門を潜った――――。
 商店街は活気に満ち溢れた声が彼方此方から響き渡っている。一直線に続く大通りの左右に軒を並べ、客へと愛想を振り撒く。いつかは海に沈む街だなんて、誰も考えてさえいないようだ。
<近海で獲れた新鮮な魚があるよ! どうだい?>
<こっちだって新鮮だ! なにせ、大海に飛び込んで獲った魚さ!>
 左右から猫型半獣人と鳥型半獣人が威勢の良い声を飛ばす。みなもは買いましょうか? とシャイラに小声で訊ねるが、金髪の猫型半獣人はニッコリと店主に微笑みを浮かべた。
「ごめんなさい☆ 私達、お洋服を見に来ましたの♪」
<洋服なんていらねぇさ! このままで十分魅力的だぜ?>
<ちょっと! そりゃ私の店に喧嘩売ってんのかい?>
 マズイ。魚売りと隣の洋服屋が声を荒げ出した。このまま巻き込まれたら大変だ。みなもは、ぽぉ〜と様子を窺うシャイラの手を引き、駆け出した。人波を掻き分け、店から離れると、荒い息を吐いて立ち止まる。刹那、人懐こそうな女の声が飛び込む。
<ちょっと! そこのお二人サン☆ ウチの店、見て行かない?>
 カウンターに頬をつき、手招きしているのは、シャム猫の半獣人だ。長い睫毛と青い瞳が魅力的で、半獣人の中で美女と言えるだろう。
<アクセサリーとか洋服あるわよん☆ ウチの店においでよぉ♪ 今のお嬢サン達に必要な物もあるわよん>
 感じは悪くない。休むついでに来店して、適当に買物をすれば問題ないだろう。それに、最後の言葉が僅かに好奇心を刺激させた。
「入りましょうか? みなもちゃん」
「そうですね。品も良さそうですし☆」
 店内は狭いながらも見栄え良く商品が陳列されており、店主のセンスが感じられるものだ。シャイラとみなもは普通に買物目的で訪れたように、楽しげに品物を見てはしゃいでいた。暫らくすると、そんな二人にシャム猫の美女が背後から近付く。
<お嬢サン達、純血種でしょ? あぁ、恐がる必要はないわよぉ。ウチの店でラッキーだったって思う筈よん☆>
 軽くウインクして安全だと諭す。シャイラとみなもは顔を見つめ合い、コクンと頷くと、半獣人の美猫に訊ねる。彼女は信用できそうだ。
「どうして分かったんですか?」
<簡単よ。お嬢サン達、手を繋いで歩いてたでしょ? ウチ達、猫の半獣人は嗅覚が優れているのよん。それに楽しそうなのに尻尾が揺れてないわ>
「それでは、他の店でも‥‥」
<ええ、多分バレているわ。あぁん、そんな顔しないでぇ。ここからがラッキーなのよん☆ 裏ルートで入手した半獣人スーツがあるの♪ 見てみない?>
「「裏ルートの半獣人スーツ?」」
 二人は声を合わせてはもり、互いの瞳を交差させて何度か瞬きを繰り返した。シャム猫の美女は、信じられない様子の娘達を見て、薄く微笑むと踵を返して尻尾を揺らす。
<いらっしゃいな。奥にあるから☆>
「ま、待って下さいッ!」
 素直に付いて行こうとするシャイラをみなもは呼び止めた。長い金髪を揺らし、気品漂う風貌に能天気な色を浮かばせる娘は、青い髪の幼馴染を見つめる。
「どうしましたの? みなもちゃん?」
「‥‥そのスーツ、持って来て頂けますか?」
 みなもは青い瞳を研ぎ澄まし、店主へと告げた。シャイラはあの時の事を悪夢としか覚えていない。奥に商品があるという確証は無いのだ。みなもは同じ過ちを繰り返す少女ではない。
<ふーん、用心深いのねん☆ いいわよ、待ってなさいな>
 数刻後、二つのアタッシュケースを両手に、シャム猫の美女が姿を現わし、外に見えるとマズイと手招きした。確かに一理ある。みなもはコップに水を頼み、頭から掛けると、ようやく慎重な足取りで、シャイラを庇いながら進んだ。店主が微笑みながら鞄を開く。
<コンパクトでしょ☆ 右のスーツは鳥型で、両腕が大きな翼の飛行特化型。左が人魚型で、エラや尻尾が2倍以上の潜水特化型よん♪>
「まあ☆」
「特化型って‥‥」
<気になる? つまり、それぞれ極秘任務用に開発されたって感じかしら? 鳥型は他の半獣人を凌駕するスピードを持っているわ。人魚型は水圧にも耐えられ、高度な機動力があるのよ。ステキでしょ♪>
 確かに魅力的だ。特に人魚型は今後もシャイラと遊ぶ時に活用できる。一緒に海中を泳ぎ、自分の部屋へ招待する事を何度夢見ただろうか。
「シャイラさんは人魚型にして下さい。あたしじゃ同じ事だし☆」
「それもそうですね。購入させて頂きますわ♪」
<気に入ってくれたみたいね。でも焦らないで☆ 試着してみなさいな。サイズが合わないと困るでしょ? あそこ、試着室だから>
 シャム猫の美女は先を歩き、カーテンを開いて見せる。仕掛けが無い事を証明しているのか、敵では無い事を理解してもらうつもりか。ともあれ、二人はスーツを抱えて試着室に入った。
<困ったら呼んでねん☆>
 ウインクすると、店主はカーテンを閉めた。足音がゆっくりと遠ざかる。
「さてっと」
 みなもは急いでナミの用意したスーツを脱ぐ。気の所為か、白い肌に肉質なモノが糸を引く粘着感に身震いしたものだ。あっという間に一糸纏わぬ姿となると、少女は安堵の息を吐いた。
「シャイラさん? 着替えました?」
『いま試着中ですよ。あら? このスーツ、腕も入れるのかしら?』
「無駄な抵抗を防ぐんですよ。スーツに包まれていないと水圧で大変な事になりますから」
 壁越しに会話しながら、みなもは細い肢体を鳥型スーツに包んで行く。下半身を覆い、嘴の付いた頭部を被り、両手を翼状のスーツに入れた――――刹那!
(えっ? きゃうぅんッ!)
 急速に空気が抜かれ、細い肢体を尚もスーツが絞め付けた。それは痛みさえ伴うもので、急激な圧迫により、みなもは試着室でパタリと倒れる。微かに耳に同じようにジタバタと足掻くシャイラの悲鳴が聞えたような気がした――――。

 ――あれ? あたし、どうしたのかな?
 ゆっくりと少女は瞳を開いた。ぼんやりと霞む視界に幾条にも縦に並ぶ金属物が映る。
(‥‥柵?)
 みなもは半身を起こそうと動くと、いとも容易く起き上がる事が出来た。不思議な違和感を抱きながら、一歩踏み出す。
(い、痛いッ)
 足と首に痛みを感じ、みなもは甲高く鳴いた。視線を流すと、鳥類特有の細い脚が映り、足首には拘束具と鎖が確認できる。首を器用に回すと、首輪が付けられているようだ。
(なに? あたし、スーツを試着したまま捕われているの? シャイラさんは!? シャイラさーん!!)
 みなもは再び鳴いた。‥‥‥‥鳴いた!?
<うるさい小鳥さんだこと♪ 食べちゃうわよん☆>
 歩いて来たのはシャム猫の美女だ。妖艶な笑みを浮かべ、みなもを見つめている。少女は大きな翼をバタつかせて叫ぶ。
(あたしをどうしたの!? シャイラさんは? シャイラさんは無事なのッ!?)
<あん! 静かにしなさい。ピーピーと喚かないで! お友達ならそこの水槽よん♪>
 指差した方向に首を向け、みなもは驚愕に円らな瞳を見開く。彼女の瞳に映ったのは、大きな尻尾で水面を叩いて暴れる人魚の姿だ。しかし、両手は尾と同化しており、みなもが知る人魚と違っていた。
(な、なんて事を‥‥。あたし達をどうする気!)
 ギンッと睨みを利かせ、みなも鳥は鳴きながら店主に首を向ける。
<なに言ってるか分からないけど可愛そうだから教えてあげるわ。これは純血種狩りの手法なの☆ お嬢サン達が試着したのは拘束用スーツ。このスーツは特殊な技術が備わっていてね、言葉は動物のモノに代わり、主が決まれば、身体の自由も彼らの思いのままになるのよん>
(拘束用スーツ!? 主‥‥って? ‥‥ッ!!)
 薄暗い室内に照明が灯され、みなもは眩しさに首を背けた。ゆっくりと視界に浮かび上がる光景は、同じように檻や水槽に閉じ込められた者達の姿だ。半獣人ではあるが、明らかに人よりも動物の方が際立っている容姿に、みなもは改めて自分の躰を見渡す。
<やっと自分の姿を思い描けたようね。安心して♪ 闇の動物オークションに出荷されるだけだから。主が決まれば可愛がってくれるわよん☆>
(闇の動物オークション!? 痛ッ!)
 短く鳴くと、みなもは躰から力が抜ける感覚に襲われた。急激な睡魔が少女を誘おうとしている。
<暫らく眠ってなさいな。このスーツには用途に分けて様々な注射が内部から打たれるようになっているの。次に目覚める時は会場よん。おめかしさせてあげるからね♪>

●闇の動物オークション
『レディースあーんどジェントルマン!』
 薄暗いステージに立つ半獣人がスポットライトを浴びながら、マイク片手に声を響かせてゆく。
『今宵も純血種フリークの皆様のお越し、誠に有り難うございます! では、普通の純血種に飽きた方々に御覧頂きましょう! 闇の動物オークション始まりでーす!!』
 ステージを囲む客席から盛大な拍手が沸き起こる。いずれも様々な種族の半獣人達だ。ビシッとしたスーツや艶やかなドレスに身を包む観客達は、一目で特別な待遇の者と知れる。
『それでは、昨夜出荷されたばかりの商品を御覧下さい』
 台車に乗った木のセットの中、首輪と鎖に繋がれたみなも鳥が運ばれて来た。瞳はとろんとしており、暴れる様子はない。恐らく何らかの薬を投与されたのだろう。
 ――なにも考えられない‥‥でも、なんか心地良い‥‥あぁ、皆があたしを見てます‥‥。
 次に司会者の声で運ばれたのは大きな水槽だ。中には、みなも同様に暴れる素振りも見せないシャイラが会場を静かに窺っていた。隣に運ばれたものの、互いに意識すらしない。
 ――そっか、シャイラさんもいたんですね。
『では、鳥型拘束スーツの純血種から紹介しましょう。全身は艶やかな水色塗装、愛らしい丸みを描く黄色い嘴、細い背に流れる青い髪、円らな瞳はいつもご主人様を見つめてくれるでしょう』
<ほら、歌を唄いなさい>
 ――あ、歌わなきゃ‥‥あたし、上手か分からないけど、歌います!
 会場内にみなもは声を響かせた。澄んだ水辺を連想させる鳴声に、客達は瞳を閉じて穏やかに微笑む。歌が終わると盛大な拍手が響き渡り、人とインコを掛け合わせた少女は照れたような素振りを見せた。
『次は人魚型拘束スーツです。正に伝説の人魚を思わせる上品な顔立ち、優麗に漂う金髪は幻想的だ。そして、肉感的魅力の肢体は観賞用に十分。さあ、以上二名、新鮮な内にオークションだ!!』
<キミ、中身はどうなんだね?>
『申し訳ありません。躾の期間が必要ですので、今はお見せ出来ません。ですが、捕獲者の言葉ですと、若い女の純血種でルックスも満足できると聞いています。恐らく異性とも交わりはないかと』
 刹那、次々と客席から金額を告げる声が飛び交った。これは闇のオークション。希少価値が高いほど購買意欲をそそるというものだ。
「二人纏めて買うわ!!」
 ――あれ? このひと何処かで‥‥。
 みなも鳥の瞳に映ったのは猫型半獣人の少女だった――――。


「‥‥みなもさん☆」
 あれ? あたしはふわふわと浮いているような感覚の中で瞳を開きました。ここは異空間でしょうか? 辺りには何も無く、ただ、幾つものカードが、あたしを中心にクルクルと回っているんです。
「みなもさん。継続を選んだアナタに履歴だけ教えますね。『地上の或る店で裏ルートの半獣人スーツを試着する人魚のみなもと幼馴染。しかし、純血種狩りの罠で拘束用のスーツだった。闇の「動物」オークションにより「出荷」されると、マッドな娘に買(飼)われてしまう羽目に』って感じです☆」
 あぁ、なんて履歴なんでしょう。あたし、ペットなんですか‥‥。
「それでは、みなもさん、引き続き物語を聞かせて下さいませ☆」
 カタリーナが微笑む中、次第に大きくなる眩い閃光に、みなもは瞳を閉じた――――。

<人魚の生活を続ける>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は継続発注ありがとうございました☆ 
 こん**わ♪ 切磋巧実です。
 連続発注よろしいのですか!? と、初の出来事に驚きと悦びも一入です。
 一気に書き上げてお送りするか、一本一本ずつにするか迷いましたが、タイトルから後先分からない可能性もあり、一本ずつお送りしますね(次の展開を思い描いて見るのも一興かなと)。
 楽しんで頂ければ幸いです。近い内にまたお会いしましょう☆