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■鍋祭をしよう!■

志摩
【1108】【本郷・源】【オーナー 小学生 獣人】
 寒い寒い風が吹く。雪も降りそうな日だ。こんな日はこたつでみかんや、そうあったかいものがとても恋しい。指先もその風の冷たさでなんだが感覚がなくなってきている。
 そんな中、少し茶がかった一枚の紙切れが飛んでくる。ちょうど手にあたって、なんだろうと文面をなんとなく、手にとって見てみるとどうやらどこかで鍋大会をやるらしい。

『おいでませ銀屋!
 好きなものを持ち寄って鍋パーティー!
 良い思い出になること間違いなし!』

 達筆で書きなぐったような文字でそう書かれている。
 鍋。ほくほくあつあつ、色々な具財。
 この寒い日に鍋っていいかもしれないと思い、やっているのかと確認するとちょうど期間中らしい。期間中って毎日やってるんだろうか。場所はここからけっこう近いしもうすぐ始まる時間らしい。紙には参加注意事項として好きなものを最低一品もってくるようにと書いてある。これは多分鍋の材料なんだろう。でもさらに書き足しで何鍋なのかはその当日に決まると書いてある。これは寄せ鍋とかキムチ鍋とか、そういう感じなのかな? 他にも何か書いてあるけれども字が薄れて読めない。まぁ、そこは風にあおられて飛んできた紙だからしょうがない。
 おなかも減ったしその辺で何か購入して、興味半分でいってみよう。ちょうどここからならばスーパーも近くにある。そこで少し温まって、物色していけばちょうどいい時間だ。
 さて何を持っていこうかな。
鍋祭しよう!

 裃に、丁髷の出で立ち。からから、と引き戸が開いてそこに立つ少女に一堂視線を集中させる。
 一瞬何事かと、思ってしまった。
「え、と……いらっしゃいま、せ。御用はなんでしょうか?」
 すぐに平静を取り直し、声をかけてきた青年を本郷・源はキッと睨みあげた。
「見下ろすでない! 今日は鍋奉行をしにきたのじゃ!」
「すみません、ではしゃがみます」
「それでよいのじゃ、うん」
 満足げに頷く源のためにしゃがみこみ、視線を低くして青年は言う。
「僕はここの店主で奈津ノ介、と申します。どうぞ奈津と呼んでくさい。よければお名前を教えていただけますか?」
「奈津殿か、わしは本郷・源じゃ」
「では源さん、どうぞこちらへ。まだ鍋の準備中なのですけど」
 奈津ノ介が促した先、店の奥、少し段差をつけてそこには和室がある。そしてちゃぶ台の上にガスコンロと土鍋。
「丁度良い、今日は玄武の子供が手に入ってそれを持ってきたのじゃ。これで玄武鍋をするとよいのじゃ」
「玄武なんてまた珍しいものを……」
 にこり、と奈津ノ介は笑いかけて、源を和室へと通す。そこにはあと二人、奈津ノ介と少し似ている男と十四、五の少女が一人。
「こちらは本郷・源さんです。玄武の子供、を持ってきていただきました。これって鼈鍋の要領でいいんですかね?」
「いいと思うぞ。源……か、わしは藍ノ介。それの父親だ」
「はじめまして、私は音原要といいます。あの、玄武はもちろんですけどスッポン鍋なんて作ったことないですよ」
「藍ノ介殿、と要殿、じゃな。安心せい、わしが鍋奉行をしっかりやってのけるのじゃ」
 源は二人の名を一度呼んで、覚える。そして胸をとん、と手のひらで叩き任せておけ、とばかりに胸を張った。
 三人は『もしかして鍋奉行するから裃に丁髷でお奉行スタイルなのか?』と言葉にはせずつっこみ、少し不安になりつつその場を源に任せることとした。正直、玄武の子なんてどう扱えばいいかわからない。
「じゃあ、今日の予定だったしゃぶしゃぶはまたにして、玄武鍋ですね。お野菜はいいとしてお肉しまってきます」
「あ、僕が行きます。源さん、何か必要なものは、ありますか?」
「うぬ、玄武も捌いてきたのじゃ。何かあればちゃんと言うのじゃ」
「捌……じゃあお願いします。要さん手伝ってあげてくださいね。親父殿は何もしないでください」
 奈津ノ介はそう言うと、大皿にのっていた薄切り肉を持ち奥へと行く。
 源はでは、とばかりに菜箸をがしっと握る。
「まず捌いた玄武を全部いれて……これは水でいいのじゃろうか?」
「あ、はい。まだ水ですね、出汁もなにもしてません」
 要の言葉にそうか、と頷いて源は荷から玄武を取り出す。甲羅の色は淡いクリーム色。だがその亀甲を刻んでいる模様は淡く金に光っている。その美しさに藍ノ介と要は身を乗り出した。
「それが玄武の甲羅か、美しいな」
「うわーうわーキラキラー!」
「味も一級品じゃ」
 見た目は少々グロテスクな玄武の甲羅、手足などすべてを土鍋にいれ、源は酒と生姜がほしいと言う。
「生姜ですね、お酒は……」
「酒なら、わしが出そう。玄武相手に安酒など使えん」
 生姜はすぐそこにあり、それを受け取ると源は鍋にぽい、と放り込む。
 藍ノ介は和室、その隅のふすまをあけて奥のほうに身体をつっこんでごそごそと酒を探している。
 そして丁度、奈津ノ介が戻ってくる。
「何を探しているんですか、親父殿」
「玄武のためにお酒だしてるんですって」
「ああ……それが玄武ですか? 僕も初めてみます」
 奈津ノ介は納得するとちゃぶ台の前に座り、そして土鍋を覗き込み先ほどの二人と同様に綺麗だな、と感嘆する。
「よし、これだ」
 藍ノ介は一本の酒瓶を持って、土鍋の前へと戻ってくる。その酒瓶には『大吟醸 夢のまた夢』と書いてある。それを見て、源は目を見張った。
「藍ノ介殿、そ、それはっ!」
「おお、知っておられるか。幼子の姿でなかなかの通のようだな。あとで飲むと良い」
 そう言って栓を開けると日本酒の香りがあたりに漂う。藍ノ介はそれを遠慮なくどばどばと鍋へと注ぐ。もういい、と源が合図すると注ぐのとめ、また栓をして傍らにおいた。
「よし、これで二時間煮込むのじゃ」
「二時間とは長い……が、まぁしかし玄武だしな。要、その間酒を飲む」
「おつまみですね。奥で作ってきます」
 藍ノ介に言われ、要は立ち上がると奥へと消える。なにやら調理している音がかすかに聴こえてきた。
「ガスコンロの火じゃ、火力足りないようですね」
「みたいじゃな」
 じゃあ、と奈津ノ介はその炎に触れる。触れると今までの炎の色が青みを帯びた赤から、銀へと変わる。源はそれを見て、綺麗だと言った。
「僕の能力なんです。普通の炎より強いです」
 本当にその言葉どおりで、鍋がぐつぐつと煮え始める。これなら二時間も煮なくてよさそうだ。
 源は、というと酒が気になるらしくそれをじーっと見ている。藍ノ介は普通の硝子コップを渡すとそれをなみなみぎりぎりまで注ぐ。
「よ、良いのじゃろうか、こんなに飲んでしまって」
「かまわん、ぐいっと」
「親父殿、幼子にそれは」
「見てくれで年齢は判断してはいかんだろ」
 そう言われると、自分も齢百などとっくの昔に越えているから何も言えない。源は瞳を輝かせてそれを一口、喉に落とす。日本酒の良い香りが広がって、たまらない。
「う、うまいのじゃ……!」
 そうこうしているうちに要がつまみとなるものを作って帰ってくる。手にある盆の上には揚げ出し豆腐とメザシの焼いたものだ。
 それを藍ノ介と共につまみながら源は鍋の様子をアクを適度にとりつつみる。奈津ノ介と要は飲まないでゆっくり茶などを飲み、その源の手際をじっとみていたりなどであっという間に一時間後。
「ふむ、もう鍋も良さそうじゃな」
「そうですか、じゃあもうコンロの火でいいですね」
 奈津ノ介は炎を一睨み、それだけで炎は元の色に戻る。
 生姜を取り出し、塩で味を加減し隠し味に醤油を少し。そこに野菜などを入れてまた一煮立ち。源があれだ、これだ、というのを要が的確に補佐をしていく。
「甲羅は出さないんですね」
「甲羅からまだ良い出汁がでるのじゃよ」
「なるほど、覚えておこう」
 要は源の言葉に数度頷いて、鍋を見る。煮込まれた玄武の手足はどこかつやつやぷるぷるしているように見える。
「もう良いのじゃ、鍋完成じゃ!」
 源が出来上がった、と菜箸を握りこんで言う。長い時間かかったけれどもそれは美味しそうな雰囲気をかもし出している。
 各々、源の勧めもあって玄武の肉をとる。見た目はかわらずグロテスク。
「見た目はアレでもうまいのじゃ」
 軽く笑ってそれを口に放り込み至福の表情を称える源を見て、三人は目をあわせ意を決し、それを口に放り込み咀嚼。否、咀嚼などしなくていい。口に入れた途端、肉はとろけ濃厚な味わいを出す。臭みがあるかと思ったりもするがそれもまったくない。
「おいしっ、何これ!」
「溶けますね、溶けますね、これ」
「……うますぎる」
「じゃろう?」
 骨があるので食べにくいかと思えば、肉が勝手に溶けてしまうので食べやすい。とろとろになって喉を流れ落ちていくようだ。
 和気藹々、色々と話を弾ませつついつの間にか鍋の中は空っぽだ。こうなると後は雑炊しかない。
「甲羅と骨を出すのじゃ。そして洗った冷や飯を入れて一煮立ちじゃ」
「はーい」
 いつの間にか、要は源の助手になっている。てきぱきとその作業を終え、仕上げの卵は源が落とす。そして半熟になったところを器によそって食す。
 玄武の出汁が染み渡り、深いコクがあるにも関わらずさっぱりあっさり。また薬味を色々と乗せるとバリエーションも変えて楽しめる。
「あー美味しかった……」
「ええ、でもなんかすごく」
「そうじゃな……」
「すごく元気かも」
「目が冴えて寝れそうに無いな……」
 全員苦笑い、だ。玄武を堪能した代償として、色々と漲ってしまったらしい。
「まぁ一晩くらい、寝れなくても問題ないじゃろう」
「そうですね、美味しかったから、良しとします。あ、この甲羅って貰ってもいいですか?」
「うむ、良いのじゃ」
 奈津ノ介はありがとうございます、と笑う。甲羅をどうするのかと問われると、いつか何かの役に立つかもしれない、と言う。
 ふと、藍ノ介と源の視線が合う。藍ノ介は緩く微笑んでから口を開く。
「汝は、酒が好きなのだな」
「好きじゃよ、それがどうかしたのじゃ?」
「今度会う時までに酒を探しておこうと思ってな。良い飲みっぷりであったから」
 キラキラと源は瞳を輝かせ嬉しそうにする。
 次が楽しみだな、と藍ノ介は呟いてもう一杯、とコップに大吟醸を注いでやる。
 うまい鍋をありがとう、と藍ノ介からのせめてもの心積もりらしい。
 これが閉めの一杯だ。


<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1108/本郷・源/女性/6歳/オーナー 小学生 獣人】


【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897/雑貨屋居候】
【NPC/音原要/女性/15/学生アルバイト】

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■         ライター通信          ■
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 本郷・源さま

 はじめまして、ライターの志摩です。此度はご依頼ありがとうございました!
 此度は素敵な姿でお越しいただきありがとうございます!プレイングにて色々と書いていただいていたのでこちらも源さまのキャラを掴み易くとても書きやすかったです。
 またうまく鍋奉行っぷりがでていれば!と思います。鍋奉行、お疲れ様でした!

 それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います。
 最後に誤字を発見されましたらどうぞ突っ返してくださいませ…!