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■鍋祭をしよう!■

志摩
【5201】【九竜・啓】【高校生&陰陽師】
 寒い寒い風が吹く。雪も降りそうな日だ。こんな日はこたつでみかんや、そうあったかいものがとても恋しい。指先もその風の冷たさでなんだが感覚がなくなってきている。
 そんな中、少し茶がかった一枚の紙切れが飛んでくる。ちょうど手にあたって、なんだろうと文面をなんとなく、手にとって見てみるとどうやらどこかで鍋大会をやるらしい。

『おいでませ銀屋!
 好きなものを持ち寄って鍋パーティー!
 良い思い出になること間違いなし!』

 達筆で書きなぐったような文字でそう書かれている。
 鍋。ほくほくあつあつ、色々な具財。
 この寒い日に鍋っていいかもしれないと思い、やっているのかと確認するとちょうど期間中らしい。期間中って毎日やってるんだろうか。場所はここからけっこう近いしもうすぐ始まる時間らしい。紙には参加注意事項として好きなものを最低一品もってくるようにと書いてある。これは多分鍋の材料なんだろう。でもさらに書き足しで何鍋なのかはその当日に決まると書いてある。これは寄せ鍋とかキムチ鍋とか、そういう感じなのかな? 他にも何か書いてあるけれども字が薄れて読めない。まぁ、そこは風にあおられて飛んできた紙だからしょうがない。
 おなかも減ったしその辺で何か購入して、興味半分でいってみよう。ちょうどここからならばスーパーも近くにある。そこで少し温まって、物色していけばちょうどいい時間だ。
 さて何を持っていこうかな。
鍋祭しよう!

 自分のちょっと先、なんだか危なそうに歩いていく者がいる。藍ノ介はちょっとそれが気になって注意していた。そして自分の家の前で立ち止まるのを見て客か、と思う。
「おい、もう店は終っているぞ」
 声をかけると、九竜・啓は此方を向いて少し不思議そうな表情を浮かべた。
「お腹空いてるから……鍋……」
「ああ、なるほど。それならまだしてるだろう。入れ入れ」
 引き戸をからからと藍ノ介は開けてやる。そして背を押すように店の中に入れた。
「汝、名は? わしは藍ノ介」
「俺? くりゅーあきら」
「あきら、か。良い名だ」
 藍ノ介は笑い、奥へと声をかける。奈津、今帰ったぞ、と。奈津ノ介も戸が開く音を耳にして店へと顔を出したところだった。
「お帰りなさい。今まで酒屋に座ってたんですか……って、お客さんですか?」
「ああ、鍋祭のな。わしも腹が減っておる、この酒も飲むのだ」
「もう終りましたよ。ああ、でも雪鍋の片付けはまだだから、それで雑炊なら……」
 奥からでてきた青年はあきらにこんばんわ、と言って微笑んだ。それにあきらもにへら、と笑み返す。
「なんだか残り物みたいで悪いんですが、雑炊でも、いいですか?」
 その言葉にあきらは嬉しそうにこくん、と頷く。そして手にしていた荷を差し出す。
「ご飯……好き。持ってきたよ」
「そうですか、えっと……」
「あきら、という名だ」
「そうですか、あきらさん。僕は奈津ノ介といいます、奈津でいいですよ。こちらにどうぞ」
 うん、と頷いてあきらは奈津ノ介の後ろをついていく。そしてその後ろから藍ノ介が見守るような雰囲気で追う。
「なんというか……心配になるな、汝は」
「え? なにがー?」
「いや、なんでもない」
 間の抜けたような声色で答えられて藍ノ介は苦笑する。だが嫌な気分にはならない。
 店の奥、和室に上がってぺたり、とあきらは座り込み、そしてじっと鍋を見る。ガスコンロの上にある鍋が鎮座している。奈津ノ介はそれを点火して暖め始める。
「今日は豪勢な鍋だったようだな」
「ええ、ブリの雪鍋とアンコウ鍋でした。あ、冷蔵庫にマグロの刺身ありますよ」
 その言葉に、それはとってこねば、と藍ノ介は奥へと消える。
「あきらさんはどんな雑炊が好きですか? できる限りご要望にお答えしますよ」
「好き……一番好きなのは……オムライス……でも雑炊……だから……」
「ああ、確かにオムライスはちょっと無理ですけど、じゃあ落としましょう、ふわふわにして、気分だけでもオムライス」
「うん、する」
 嬉しそうに笑うあきらに奈津ノ介は心和ませる。本質的に人を癒したり、甘えたりすることが彼の持つ才能なんだろうと思った。
「じゃあそろそろご飯入れますか。やります?」
「うん……いれる」
 自分の持ってきたご飯、タッパーに入ったそれを取り出してあきらは鍋へと入れる。そのご飯が入った鍋を奈津ノ介がかき回して適度に広げて少しあたためる。
「奈津、卵も持ってきてやったぞ」
「ああ、珍しく気が利きますね、親父殿」
 刺身ののった平皿と卵を三つ持って藍ノ介が戻ってくる。ふと、あきらと目が合って微笑み返されて、それにまたつられて笑み返す。
「あきらはあれじゃな、癒し系」
「癒し、系……? 俺はくりゅーあきらだよ」
「ああ、そうだな、そうだ。うん」
 あんまり言葉の意味がわかっていないらしく苦笑。不思議に穏やかな雰囲気を纏ったあきらに藍ノ介は興味を持って関わろうとしているらしい。
 あきらの隣に座って、買ってきた酒の栓を開けると気にいりのグラスに注ぐ。
「ん、汝も飲むか?」
「ううん……ご飯、食べたい……」
「そうかそうか」
「うん……鍋って言うと……」
「どうした?」
 あきらが何か思い出して、言葉を紡ぐ。それを藍ノ介は焦らずゆっくり受け止めようとする。そんな姿を奈津ノ介はひっそり笑いながら眺めていた。珍しい、光景だ。
「死にかけた思い出が……あるなぁ……」
「ははは、そんな思い出があるのか」
「うん……うっかり、とんでもない味の鍋を……食べちゃって……」
 じっと、鍋を観察しているのか、視線を鍋からはずさない。これは大丈夫なのか、ちょっと考えているようだった。そんなあきらに奈津ノ介は言う。
「これは大丈夫ですよ、僕も食べました。おいしかったから、雑炊になっても美味しいですよ」
「うん……これはきっと、大丈夫……な感じがする」
 鍋から視線をはずして、奈津ノ介をみてあきらは言う。その表情は本当に嬉しそうで、楽しそうな雰囲気だ。
「じゃあ、卵落としましょう。ふわふわにして」
 奈津ノ介はいつの間にか卵をわって準備していたらしい。菜箸で流すようにして土鍋の中に卵を落とす。土鍋に落ちると卵は少し色を変えていく。
「もういいですね、じゃあ食べましょうか」
 奈津ノ介は雑炊を器によそってはい、とあきらに渡す。あきらはそれを嬉しそうに受け取っていただきます、と言ってから口に運ぶ。
「奈津、わしも食べるぞ」
「はいはい、どうぞ」
 藍ノ介の分も器によそって、奈津ノ介はおたまを置く。まだ先ほど食べた鍋で満腹らしい。
「……美味しい……かも! うん、美味しい……ご飯が入ってるから……かもだけど……でも、おいしい」
「そうですか、よかった」
「うまいな……やっぱり鍋はいいな、うん」
「奈津クン……食べないの? 美味しいよ?」
 ふと、奈津ノ介が食べていないことに気がついてあきらは言う。奈津ノ介はお腹はいっぱいだけどじゃあ少しだけ、と器によそってそれを食す。
「美味しいですね、卵、ふわふわになってますか?」
「うん、ふわふわで……好き」
 いつの間にか器を空にして、あきらは微笑む。奈津ノ介がおかわりしますか、と問うとうん、と嬉しそうに言う。
「あきらは米が好きなのか?」
「一番好き……なのはオムライス……だよ」
「オムライス、か。ならばそれにケチャップいれたらその味になるんじゃないか?」
 その言葉に、奈津ノ介もあきらも沈黙する。どうやら想像しているらしい。
「ケチャップ……入れるの?」
「うぬ、入れるのだ、そこに」
「それは……どんな発想で言っているんですか」
「米と卵とケチャップでオムライスだろう?」
 藍ノ介は何かおかしいか、と言う。オムライスと雑炊ではものが違うというのが抜けているらしい。
「あのですね、オムライスは水気がないから別物になりますよ。それに雑炊には鍋の味がついてるんです。それにケチャップ入れるとか、チャレンジャーですよ、やるなら親父殿だけやってください」
「そうかぁ? いけると思ったんだけどな」
「ケチャップ……」
 奈津ノ介は藍ノ介を真っ向否定する。だがあきらは、その言葉にちょっと揺れているようだった。それに気がついて奈津ノ介はフォローをいれる。
「ケチャップいれるのは、やめておきましょう。今度きたら、ちゃんとおいしいオムライスを料理の上手な人が作ってくれますから」
「本当? おいしいの?」
 その言葉に、あきらはきらきらと瞳を輝かせる。約束です、と奈津ノ介は言う。
「じゃあ、ケチャップは……やめとく」
 少し残念そうな表情を浮かべつつ、ケチャップを入れることをあきらは断念する。たしかにこの状態でおいしい。何度もおかわりをして、そしてお腹はいっぱいになる。幸せ気分だ。
「おいしかった……ありがとう」
「ええ、それはよかったです」
「うぬ、腹いっぱいで幸せなのは良い事だ」
「うん、お腹いっぱいに……なったから……家に帰る」
 あきらはゆっくりと立ち上がって和室を降りる。その動作もゆっくりとおぼつかなくて藍ノ介はその後ろをついていく。
「ちゃんと、帰れるよ?」
「いや、なんとなく心配だ。途中まで送ってやる」
 奈津ノ介にちょっと送ってくる、と藍ノ介は告げ、あきらの後を追う。丁度店の引き戸のところにいる。奈津ノ介も、少し心配だったらしい、お願いします、と言うのが聞こえる。
 藍ノ介は引き戸を開けてやり、そしてあきらの歩くペースにあわせて歩む。
 ゆっくりゆっくり。
「あきらは、不思議なやつだなぁ……何故かな見ているだけで和む」
「うん? そうかな?」
 不思議そうに見上げたあきらに、藍ノ介はそうなんだ、と笑い返した。
 外は寒いけれども、先ほど食べた雑炊で心も身体も、あたたかい。


<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5201/九竜・啓/男性/17歳/高校生&陰陽師】


【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 九竜・啓さま

 はじめまして、ライターの志摩です。此度はご依頼ありがとうございました!
 あきらさまかわいいじゃないか!と一人できゅんきゅんしながら書かせていただきました。藍ノ介もめろめろのかわいさです!(ぇ)お先にいただいていた方の続き、という形でごはん好きを活かすようにお話を作らせていただきました。個人的にあきらさまも啓さまも書きたかったのですが今回はあきらさまのみで…!あきらさまのかわいらしさがでていれば良いなと思っております。
 
 本当に今回、ありがとうございました!それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います。
 最後に誤字を発見されましたらどうぞ突っ返してくださいませ…!