■神の剣 静香と茜と悪魔■
滝照直樹 |
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】 |
「焼き芋美味しい」
と、長谷茜はご機嫌である。
落ち葉を集めてホカホカの焼き芋を作って、長谷神社の常連(偶々居合わせた人もいるが)で食べる。皆で食べるとやはり美味しい。
色々会話している人達のなかで……
そうした和気藹々雰囲気で独りぼっちなのは、精霊の静香であった。何せ、彼女は特殊な精霊といえども、人間のような実体がない。彼女は見えないが見える人物は限られている。茜や過去の契約者の平八郎、エルハンドと、一時期リンクした草間零ぐらいだ。元から姿を見せない事が彼女の考え。その矛盾も分かっているが何か寂しいものだ。
そんな中、母屋の方で長谷平八郎の断末魔といえそうな悲鳴が聞こえる。
「おじさん!?」
義明が気付いて走る。
「な、何かあったの!??」
皆が、急いで駆けつける。
部屋には平八郎が倒れており、粉々になった宝石らしきモノが散らばっている。
「危ない!」
静香が皆を庇う。
何か強力な魔力が襲いかかってきたのだ。
「静香!?」
茜が叫ぶ。
閃光で目がくらむ。
皆が気が付くと……
目の前に美しい女性が倒れていた。そして、なにやら灰色の肌をつ妙な生き物が痙攣している。
「な、何があったのですか? おじさん」
「静香! 静香!?」
女性は茜の叫び声で「静香」と言うらしい事は何となく分かったが。
「むぅ……」
生き物が先に起きた。
「ふはー! 精霊の力がみなぎってるー!」
その生き物が喜んで何処かに向かってしまった。
「あの悪魔を! あの生き物を止めてくれ! 大変な事になる!」
「え?」
状況を把握しようとした織田義明は平八郎の言葉にかなり間抜けな声を出してしまった。
和気藹々とした雰囲気が一気に大変な事になったようだ。
静香が動かない。その事でかなり大変な事を知る。
「静香……静香が死んじゃう……だめ……お願い……よしちゃん」
「落ちつけ茜。何とかして捕まえる」
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神の剣 静香と茜と悪魔
「焼き芋美味しい」
と、長谷茜はご機嫌である。
落ち葉を集めてホカホカの焼き芋を作って、長谷神社の常連(偶々居合わせた人もいるが)で食べる。皆で食べるとやはり美味しい。
色々会話している人達のなかで……
そうした和気藹々雰囲気で独りぼっちなのは、精霊の静香であった。何せ、彼女は特殊な精霊といえども、人間のような実体がない。彼女は見えないが見える人物は限られている。茜や過去の契約者の平八郎、エルハンドと、一時期リンクした草間零ぐらいだ。元から姿を見せない事が彼女の考え。その矛盾も分かっているが何か寂しいものだ。
そんな中、母屋の方で長谷平八郎の断末魔といえそうな悲鳴が聞こえる。
「おじさん!?」
義明が気付いて走る。
「な、何かあったの!??」
皆が、急いで駆けつける。
部屋には平八郎が倒れており、粉々になった宝石らしきモノが散らばっている。
「危ない!」
静香が皆を庇う。
何か強力な魔力が襲いかかってきたのだ。
「静香!?」
茜が叫ぶ。
閃光で目がくらむ。
気が付くと…… 。
目の前に美しい女性が倒れていた。そして、なにやら灰色の肌をもつ妙な生き物が痙攣している。
「な、何があったのですか? おじさん」
「静香! 静香!?」
女性は茜の叫び声で「静香」と言うらしい事は何となく分かったが。
「むぅ……」
生き物が先に起きた。
「ふはー! 精霊の力がみなぎってるー!」
その生き物が喜んで何処かに向かってしまった。
「あの悪魔を! あの生き物を止めてくれ! 大変な事になる!」
「え?」
状況を把握しようとした織田義明は平八郎の言葉にかなり間抜けな声を出してしまった。
和気藹々とした雰囲気が一気に大変な事になったようだ。
静香が動かない。その事でかなり大変な事を知る。
「静香……静香が死んじゃう……だめ……お願い……よしちゃん」
「落ちつけ茜。何とかして捕まえる」
〈力のあり方〉
後の誰かは語る。
――力というのは時として厄介だ。
「平八郎さん。アレは一体?」
御影蓮也が平八郎に訊いた。
「仕事で封印した悪魔じゃ。しかし、封印宝石の限界が来てしまったようじゃ。一足遅かった」
「な。限界があるって……」
「あの悪魔は、あらゆる力を吸い取る。底無し沼の存在じゃ」
「どういう事ですか?」
「それはな……」
「大変! 田中さんが階段で倒れてます!」
零が、田中裕介が伸びているところを見つけた様だ。
「また犠牲者がでよった……」
「捕まえないと……あ、焼き芋……。美味しいのに」
蓮也と一緒に長谷神社にやってきていた御柳狂華は、焼き芋に未練があるのだが、急いで“飛んでいった”。元から魂と一元化している存在なので直ぐに行動を起こせる様だ。
そこで、彼女は異様な光景を目にする。
目の前に大鎌を持った男と、その悪魔が戦いって居るのだが、男はそのまま殴られて気を失ったのだ。
大鎌を持っている事自体何かあると思うのだが、あっけなくやられるというのも……拍子抜けする狂華であった。
しかしどこかであった様な? とふと思う狂華だったが今は其れどこではない。
「……急がないと……」
悪魔は空を飛んで逃げていく。狂華も其れを追った。
個人的な事もある。自分が属する“禍”と関係するのかどうか調べなければならない。
しかし、其れが仇となると思いもしないだろう。
「やっほー。何十年ぶりだー」
悪魔は有頂天になっている。
閉塞した世界から解放されれば誰でもそうなるのだろう。
それに、静香から力を吸い取った。世界の一部でもある力を得たのだから、歓喜するだろう。何せ自然リンク能力もあるわけだ。無尽蔵とも言える力を蓄えられる。
「逃がさない!」
少女がやってくる。
「うひゃ! 何かキター!」
悪魔は嫌らしい笑いを浮かべた。
先ほど、あの大鎌の男から力を奪った。あの少女は“同じ物”だ。出所は違うが下方存在である!
「愚か。愚か!」
と、笑いながら彼は少女に襲いかかる。
「汚らしい!」
狂華は抜刀する。
力は、そこらの死神以上である狂華が、ひとつの力だ。しかし、この悪魔は様々な力を得ていた。
其れを同時に干渉せずぶつけられると、多対一。危険である。
狂華は、彼が禍でない事を知り、コレは危険だと察知したのかその一撃を避けた。
「あ……危ない!」
「おっと! やるな」
悪魔はその隙に逃げる。
「ま……?」
狂華の携帯が鳴る。
「はい、今、追ってるんだけど? 蓮也?」
[あいつは危険だ。能力を吸い取るぞ!]
「え?」
[あまり深追いするな! 田中さんもやられている!]
「ど? どういう事?」
長谷神社。
静香は少し息苦しい感じであるが、田中裕介の手を取って何とか意識を保っている様だ。神式の服を着ており足は一応ある様だ。この場にいる物の殆どはその美しさに一瞬見とれる程。最もいつも見ている長谷親子や、過去にリンクした零は完全実体で見る事以外では驚きはしない。いつもの田中裕介なら格好の“獲物”を見つけたとウキウキするかも知れない。もっとも、今の田中裕介では、其れは無いようだが。
今此処にいるのは、御影蓮也、織田義明、長谷茜、長谷平八郎と、顎に湿布を当てている田中裕介に、クリを沢山抱え込んで、長谷茜を支えている宮小路皇騎だ。因みに草間零はたき火を一度消して戻っている最中らしい。
「まったく、油断し追って……」
裕介がブツブツ言う。
「申し訳ありません。咄嗟の事でして」
「いや、“こやつ”のことじゃよ。裕介の事じゃ」
と、田中裕介は「自分」を指さした。
「なんか、雰囲気変わっているな……?」
「多分、小耳に挟んだ『別の意識体』と、思う」
と、御影蓮也と織田義明はひそひそ話している。
「何をひそひそ言っておるか! こわっぱ」
苦笑しながらも叫ぶ田中裕介。
「わしが、こうして静香と手を繋ぎ、力を供給しないと静香が倒れるじゃろう」
ケケケと笑う裕介別人格。
「ヒョッとして、エロ爺じゃない?」
織田義明がぽつりという。何となく、前にやられた傷が疼くようである。
「で、一体あんたは誰なんだ?」
御影蓮也が“裕介らしいもの”に訊いた。
「裕介の力をあの悪魔が奪って、結果的に私に主導権が来たのじゃ。わしは大鎌の意識じゃよ。最もこうした珍しい事がない限り出られないがの」
そう、田中裕介を構成する意識の中で、いつもの田中裕介とその根底にある大鎌が存在するそうだ。詰まりこれも多重人格といえる。
「今流行か? 神秘関係での多重人格?」
「流行だろう。お前も影斬となったときの口調が全然違う」
義明が言うと、蓮也が突っ込んだ。
「む……。其れぐらいにして欲しいものじゃが」
長谷平八郎が咳払い。
「あ、すみません」
皆が平八郎に向き直る。
「平八郎様、あれが復活したとなると……」
「もう一度封印するのに手間がかかるのう」
「一体何なのですか教えて下さい」
宮小路皇騎が言った。
「あれは、未だワシが継承者になってまもなくの頃、一番大きな仕事じゃ。あの悪魔は人の能力を吸収して其れを消費し、悪行を重ねる別次元の存在なのじゃ。何とか封印した物の、あやつに吸われた力は数多かった」
平八郎は話し始める。
「なんとか、虚をつき封印した物の、かなり苦戦した。何せ吸収した能力を理解し、直ぐに使いこなせるのだからの」
「む、其れってかなり厄介ではないですか」
皇騎が驚く。
「それに……悪魔は其れを平気で浪費しよる」
「最悪だ……」
「急いで捕まえないと! 倒す方法は!?」
皇騎が訊く
「弱体化させないと行けない。今では無尽蔵の生命力じゃ」
と、首を振る平八郎。
今の彼には、術が使えない。只の老人なのだ。
「今狂華が追っている。まかれる事はないと思う」
と、蓮也が言う。
「?」
「まあ、あの娘ならそうそうやられる事はないが……如何せん“裕介”の力じゃからのう……」
と、自分が優位である事を誇示するためか、静香の手を撫でる。
「あ、裕介様……」
少し恥ずかしがる静香。
「こらー何どさくさに紛れて静香に何かしよ…… ……ってひぃ!」
今度は素早い動きで茜の背に周り、尻を触る。
「茜さんに何をするんだ! 君は!」
クックックと笑い、茜になにやらちょっかい出しているエロ爺状態の田中裕介に、怒る皇騎。この混沌とした状態に、溜息をつく一部の人達。
その最中に蓮也は携帯で狂華を呼んだのだ。
〈恐るべしは、誰の力〉
「うわ……」
狂華は空を飛びながら、気配を辿る。携帯には長谷神社で起こっている、馬鹿げた喧嘩の声が聞こえていた。流石の狂華も其れには渋い顔しているわけだが。
「えっと、なんだ。一応長谷家の領域から外に出さない方向でいいの?」
[そうだね。まだそれほど遠く入ってないでしょ?]
電話は義明の声になっていた。
静香の霊木の領域はかなり広い。その半径云キロメートルは神秘使いとしての領域が決まっている。
[大体この先の公園の噴水で、俺たちが行くから。エロ爺は静香さんを見る事になる]
「エロ爺?」
[今の裕介さんの事。メイド魔神ならぬエロ爺]
「?? ま、いいか……分かった」
[無茶するな]
義明は何故か焦ってない。どうしてだろうと言うと考えるが、彼は色々考えているのだろう。もしくは相変わらずの天然なのだろうか? やはり読めない。
「うん、何とかやってみる」
狂華は目的の場所に差押し込む様に飛んでいった。
「良いのですか? あの状態で?」
「世界樹と繋がっているというならば、彼に任せるしかないかと」
皇騎と蓮也と義明は、自転車で公園に向かう。
飛行している物の速度と道を行くものとの道のりは違う。こっちは道路を行かなければならない。皇騎は完全に今の裕介を良くは思っていない。しかし、状況が状況だけに彼に任すしかなかった。
上空に、悪魔と狂華の影。つかず離れず誘導しているもようだ。
「大丈夫かな?」
「彼女なら大丈夫だ」
皇騎の心配を余所に蓮也は言う。
「恋人信じないでどうするかってやつか?」
「義明!」
義明の横やりで赤面する傘。
ああ、緊急事態なのにこののどかな天然剣客は何を考えているのだろう? とたまに思う蓮也。とりあえず、自分の力が吸収される可能性の“糸”を斬っておき、備えている物の、その“糸”が結構多い。頭の中がパンク寸前だ。どこからか可能性がいっぱい出てくる。
「むむ〜コレは覚悟しないと行けないか……」
「む、彼女の様子が!」
皇騎が空を指さす。
なんと、狂華が悲鳴を上げて落下していくのだった!
「え? 狂華!」
蓮也はペダルを漕ぐ。全速力で向かった。
「ひゃはは。禍……マガツか!?」
悪魔は嘲笑う。
「全てを否定し無くす存在。己もあってはならぬという矛盾!」
「何がおかしい!」
挑発に乗ってはならない。
触られたら、彼女の力も吸い取られ悪用される。
つまり、アレには命以外の大事な物がないが、其れを光滅の代価とする事が可能らしい。つまり、今の膨大な力・即ち静香の力を使い暴走されては困るのだ。おそらく、田中も力を吸収されたんだろう。
「なのに! なのに! 生を持つ奴らに寄り添う!? 己等は俺等とは違い無を欲しがるもの!」
悪魔はあざける。
冷静に、狂華は追いかける。
確かに自分は矛盾している。敵の存在だ。しかし、本来はそうなりたくなかった。
「あの、男の力も美味そうだなぁ。命も戴くかぁ」
と、悪魔は地上を見る。
「……!! やめろぉ!」
スイッチが入った。
それだけは“盗られて”はならない。彼は彼女の平常心を失わせるのだ。
「かかったぁ!」
「!?」
悪魔は屋根に立っている。
いきなり自分の霊力が無くなった……。
「な?」
「あの大鎌の男こんなトリッキーな物持っていたんだよ」
にたにた笑う悪魔。
霊力や神秘の力がなければ飛行は無理だ。
つまり、田中裕介が得意とする結界を貼れば……彼女は落ちるのは当然だ。闘気以外の神秘力を遮断する結界……七枷。この空間では闘気以外の個人神秘は通用しない。
公園に続く道路。
蓮也はそのまま概念展開。幸い空中にしかあの結界はない様だ。
――地は羽毛のごとき柔らかに!
と、一気に地面に書き記す。概念文字使いの技。
そして、彼は彼女が落ちる地点まで自転車を跳ばす。
彼女が地に落ちるまで5秒……4…3…2……、
自転車もろともスライディングをする蓮也。何とか彼女を抱き留めた。彼の周り、全ての堅い物体は羽毛の様なクッションになる。そのまま転げて噴水に当たる。狂華は気絶していた。
「ほほう! 騎士様やるねぇ」
七枷を解いた悪魔は、蓮也の後ろを取っていた。
「!? 何時の間に!」
そのまま、蓮也は具現刀で切り伏せようとする。
しかし、悪魔は躱わして……どこからともなく大きな布をかぶせた。
「布!?」
「大人しくしてくれ! お前を食うのは後だ! ひゃはー」
凶器に満ちた笑い声。
蓮也の頭らしいところをポンポン叩いた。
「くそ! 何を!」
藻掻くが何も出来ない蓮也。
そして、皇騎と義明と悪魔が対峙した。
「良くも静香さんを!」
「俺を倒す? 俺を倒す? やってみれ〜」
怒る皇騎に笑う悪魔。
しかし義明は何も感情を篭もった事を言わない。そのまま退魔装備の鋼糸を取り出した。
「お前を封印する……」
そう、冷酷に。
隣にいた皇騎も悪魔も寒気が走った。
皇騎が式神の梟2羽を呼び、武器を召喚する。
当然、相手は神秘使いという事を分かっている為、七枷を再発動する悪魔。とたんに剣は効果を失い、式神も只の紙となる。
「む! こしゃくな!」
「コレあんたはただのひとー そこの坊主は違うけど」
「厄介な物を吸い取られて……田中さんは……」
ここに居ない相手を罵倒する皇騎。
しかし、彼には賭があった。
「此処は俺が、皇騎……」
「いえ、私が行きます。結界を解呪して下さい」
と、義明を静止してそのまま走る皇騎。
「おろかな! 抑制されているだけなのに! 向かってきたか!」
「其れも計算のうちだ! 悪魔!」
交差する2人。
「ぐは」
倒れる皇騎。
「……?」
義明は、七枷のひとつを鋼糸で外した。
瞬間、悪魔はのたうち回る。
「ぎゃああ!」
「電脳創成……やはり大きな物から奪うか……って?」
しかし、彼にも誤算があった。
「皇騎さん! それは!」
義明が驚く。
いきなり地震が起きたのだ。
「ぎゃああ!」
悪魔が苦しんでのたうつ旅に大きく地揺れとなる。
「ど、どういう?」
「今世界と繋がっているのがあの悪魔なんです!」
「あ……」
そう、誤算も恐ろしい。
悪魔は理解しているがオーバーワークすればその影響が世界にも関係する。
地揺れに立っていられない義明と皇騎。
「ぎゃあ! ひぃひー! ふうう」
と、彼は皇騎の奥手すらも理解し、立ち上がったのだ。
「ひゃあー 世界を二つだ! 所詮は人間が使った電子の世界! 複雑になれ度限度があるわけだ! 個人の力なんてそんなものだー!」
と、笑う悪魔。
「くぅ!」
抑制が取れたので、皇騎と義明が走る。
「馬鹿目」
と、地面を蹴る悪魔。
地面が揺れた。
「そこの坊主が言っている様に、俺は今世界と完全に繋がっているんだ。おめぇらには無理だよ」
不敵な笑い。
「くそぉ!」
立ち上がろうにも、また揺れ、風の刃、気温の変化で2人は身動きできない。
「そこまでだ!」
やっと布から脱出した蓮也が叫ぶ。
概念操作により、彼は何とか立ち上がれているようだ。
いや、その力ではない様だ。
皇騎は固まっている。
そして悪魔も……。
同時に悪魔が操っていた世界リンクが“切れた”。
「!? 今だ!」
蓮也は、そのまま文字概念をたたき込む。
「全ての能力を返して貰うぞ……」
「ぐは……此処が大衆の多い場所で……さらに秋葉原かあれば……」
「?」
悪魔はそのまま突っ伏した。
「ふぅ」
手応えを確かめ、溜息をつく蓮也。
「悪魔……そこだとあまり違和感ない……かもしれない」
「電脳世界で限定された世界を体験したのか……?」
皇騎と義明が首を振っている。
「どういう事だよ?」
「服装よく見ろ」
と、義明が言う
「? ……!? なんかあしがすーすー……」
自分の姿を確認して、硬直する蓮也。
「なんじゃこりゃー!」
蓮也の声が公園に木霊した。
あの布は着せ替えの術の布。蓮也はメイド服に着せ替えられていたのだ。因みにメイド喫茶の様な短い丈のスカートではない。由緒正しい(のかどうかは定かではないが)長いスカートの清楚な物である。それでも、特定地域だとネタになる事間違いなし。
「前にもこんな格好を……」
――確かゴスロリだったか? あれもメイドだったか?
恐るべし、メイド魔神の力。もし、蓮也この姿に気が付いていたら暫く動けなかっただろう。恐怖ではなく羞恥のために……。
そして、悪魔が目覚めると……。
「げ? 力が抜けている!?」
雁字搦めに封印呪が貼られている。まだ、封印石になっていないらしい。
「茜さんや静香さんを困らせた罪。万死に値する」
宮小路皇騎がにっこりと悪魔に微笑み、襟首を掴んだ。
「さて、色々困らせた罪を……」
「私もやりたい……」
意識を取り戻した狂華もにっこり笑う。
「うわ……ちょ……」
次は悪魔の断末魔が聞こえた。
とりあえず、蓮也と義明はその光景を見る事はしなかった。蓮也はそれどころではないが。
「まあ、こうなるとは何となく……分かってたんだけど」
「どうしてですか? 義明君」
封印石になった悪魔を持ちながら義明が呟くその内容に、皇騎が訊いた。
「いや、田中裕介という意識自身が奪われたとすると、厄介だと思っていたんだ……。どれだけ何が奪われていたか、確証持てなかったし……」
「其れを早く言ってくれ……」
と、なんとか着替えた蓮也。
隣には狂華がいる。
「もう、力も解放したし。静香さんや皆さんの力も回復するでしょう」
「エロ爺が抑えられていたらいいですが……」
皇騎は溜息をついた。
〈気を取り直してたき火〉
「お芋出来ましたよ〜」
草間零が手袋を浸けてたき火から新聞紙やアルミホイルにくるまった芋を取る。
「ヤッパリ焼き芋はこうでなくちゃいけませんね」
と、ほかほかの芋を食べる。
「はい、狂華ちゃん」
「ありがとう♪」
茜が狂華にお芋を渡してあげた。
「うん、おいしい」
狂華が満足そうに焼き芋を頬張る。
「蓮也は?」
キョロキョロ見渡すが御影蓮也が居ない。
「多分あの時のショックがあるので……。ほら、あそこ。あの木の陰で泣いているんだろうと」
狂華が指さして溜息をついた。
確かに、木陰に隠れ泣いている蓮也が居る。
「小麦色が居なくて良かったですね」
零がぽつりと言った。
「ほほう、暫く栗ご飯で行くかのう。栗づくしだ」
「お土産に戴いたのですよ」
と、平八郎と皇騎は縁側でゆっくりしており、たき火を見つめている。
「皇騎さん、焼き芋♪」
茜が皇騎に寄ってきて焼き芋を渡した。
「ありがとうございます」
霊木の前にて……。
「名残惜しいですが……」
静香は未だ姿を現して裕介の前にいる。
「なに、わしはあまり表に出ては行かぬ存在じゃ。おぬしもそうだから姿を現さない? そうじゃろ」
「ええ、本当に助かりました」
静香は少し姿が見えなくなる。
「まあ、またあえる。おっと、そろそろ、裕介が起きる事じゃ」
木々の精霊は別れを告げる。
何か郷愁を感じなら別れる事は辛い。
「ではまた」
「ではな」
そして、田中裕介の意識が入れ替わる。
「? あれ?俺は? 一体?」
既に裕介の目には静香は見えない。
霊木の前にいつの間にか立っている。
「俺も、何かおかしいのかな?」
悩んでいる裕介に……
「あ、メイド魔神だ!」
茜がヒョッコリ顔をだす。その後ろには狂華と殺気立っている皇騎だ。
「静香! みんなにお礼言わないと! 姿出して!」
「え? そ、そんな……恥ずかしいです!」
「? 静香さんいるのですか?」
状況が分からない裕介。
「皆焼き芋食べているから!」
長谷神社の庭で正式に静香のお披露目。
メイド魔神のメイド服着せた意欲を何とか抑え込んでいる(茜のハリセン、皇騎の式神の攻撃もあったが)、狂華は茜に懐いていることもわかった。しかし、蓮也は先ほどのショックで落ち込んでいる様だ。
「確か零さんは一度リンクしているから見えるのですよね?」
「はい。そうです。こうしてお話ししているときがあります」
「メイド服は嫌いです。茜、何度言ったらわかるのですか」
「え? 可愛いのに? 似合いますよ?」
「そう言う次元ではありません……」
「だからー裕ちゃん! 静香に無理矢理着せようとしない!」
「いつもメイド魔神、裏を返せばエロ爺……はぁ」
「義明君、そのため息は何ですか? っ! ……痛い! 痛い! 皇騎さん黙って式神出して突かないでください!」
「……」
「蓮也……元気出して」
「うう、どうしてこうなるんだよ……」
などと、会話が成されていた。
其の後は栗ご飯となっていた。先ほど言ったとおり、皇騎のお土産でそうなったのだ。
悪魔を封じた宝石は今ではしっかり封印されている。
End
■登場人物
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【1098 田中・祐介 18 男 高校生兼何でも屋】
【2213 御柳・狂華 12 女 中学生&禍【十罪衆】】
【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】
■ライターより
滝照です。
神の剣に参加ありがとうございます。
今回は、田中様の能力がかなりで張っています。
プレイング見たときに、“恐るべし田中裕介。恐るべし、メイド魔神”でした。
では、又機会が有れば。
滝照直樹拝
20051218
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