■ＣａｌｌｉｎｇⅡ 「小噺・除夜」■
ともやいずみ |
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【0413】【神崎・美桜】【高校生】 |
今日で今年も終わってしまう……。
そして、新たな一年の始まり。
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ＣａｌｌｉｎｇⅡ 「小噺・除夜」
最近体調がいい。
神崎美桜は窓越しのカレンダーを見遣る。
年末。新しい年を迎えるのだ。
クリスマスに美桜の恋人が帰ってきてくれたので、美桜はいま元気だ。
だが気がかりは一つある。
遠逆欠月。
もう一人の遠逆の退魔士。
（嫌われてるのはわかってますけど…………なんとか仲良くなれないものですかね）
温室の手入れをしていた美桜はぼんやりとそう思っていた。
ふ、と声が聞こえる。
この温室にあるクスノキの声だ。
（年越しのお祭りに欠月さんを……？）
動物や木々が集まって過ごす、その年越しのお祭りに？
うーんと悩む美桜は、頷く。
「やってみなければわかりません。とりあえず、当たって砕けろ、です！」
砕けては困るが美桜はそう言って己に気合いを入れていた。
美桜はふと気づく。
「あ……でも欠月さんがどこに居るかわからないです、ね」
場所がわからなければ今日連れてくることはできない。
困っているとすりすりと足もとに動物たちが寄ってきた。視線をそちらに向ける。
どうやら彼らは欠月を探す手伝いをしてくれるようだ。
欠月は意外に早く見つかった。
地図を片手に徘徊していた欠月のズボンの裾を引っ張って現れた犬の頭を、美桜は優しく撫でる。
「ありがとう。見つけてきてくれたんですね」
犬はわんっ、と明るく吠えて返答した。
欠月はちらっとその犬を見て、離れた瞬間その犬を軽く蹴飛ばす。驚く美桜が蹴飛ばされた犬をかばうようにした。
「な、なにをするんですかっ!?」
「あんたのしわざとはね」
不愉快だよという顔で言う欠月。
「変な犬だとは思ったんだ。ボクに寄ってくる動物は、基本的にいないから」
「で、でも蹴ることないじゃないですか」
「なんとなくだよ」
肩をすくめる欠月は悪いことをしたとは思っていないようだ。
神崎邸の前で彼は腕組みする。
「で？ ボクになんの用？」
「あ……あの、良かったら年越しのお祭りに参加してくださいませんか？」
「ヤだ」
即答であった。
思わず無言になってしまう美桜だったが、ハッとして我に返る。
（だ、ダメです！ 諦めそうになりました）
あまりにさっぱりと言い切るものだから、「そうですか」と納得しそうになってしまった。
「そう言わず……。別にパーティーとかではないんです。うちの温室でするんですけど、温室の木々や動物だけのもので」
「なにそれ。そういうメルヘンちっくなの、趣味じゃないね」
「め、めるへん……」
見ようによってはそうかもしれない。
美桜は困ってしまい、自分の手をもじもじとさせる。
「あ、あの……少しでいいんです……」
「あのさあ、なんでボクを誘うんだよ。四十四代目を誘えばいいじゃない」
「あの人は上海に行っているので日本にはいないんです」
「え。そうなんだ」
初耳だったようで欠月は素直に驚いた。
「ふーん。じゃあ日本に居ないんだ……」
「ですから……その、本当に少しでいいんです」
「あんたも懲りない人だね。自分の男が留守だからって、他の男を家にあげる気？」
「温室にしか入れません」
「へー。まあ少しだけならいいよ」
あっさりと欠月が折れたので美桜は驚いて目を見開く。
かなり粘る覚悟をしたというのに……。
（珍しい……どういう心境の変化なんでしょうか……？）
＊
クスノキの木の下という特等席に鎮座する二人は、その年越しの祭りに参加していた。
神秘的な光景に微笑む美桜は、ちら、と横に座る欠月を見る。
欠月は見惚れるわけでもなく、ただ無表情で眺めているだけだ。
（…………やはり、気に入らなかったのでしょうか……）
考えてみれば美桜とは違って欠月には植物や動物の声は聞こえないのである。
…………つまらないのは当然かもしれない。
「あのさぁ……これ、どこが面白いの？」
こそっと美桜に耳打ちする欠月。
「え……。面白いとかそういう出し物ではないんですけど……」
「こういうぬるま湯的なの……ボクさ、苦手なんだけど。痒くなる」
がーんと青ざめる美桜に、欠月は続けて言う。
「神崎さんてこういうのが好きなんだ」
へー。
感心というよりは、呆れたというほうが近い。
「四十四代目もこういうの好きなの？」
「いえ……あの人は現実主義者なので……」
前に温室で木々について楽しそうに語る美桜を、ちょっぴり難しそうに見ていた彼の心境が今ならなんとなくわかった。
遠逆の人は理想とか、夢とか……そういうものと無縁なのかもしれない。
「へぇ。そういうとこは遠逆って感じだね」
「あの、欠月さんもやっぱり苦手ですか……こういうのは」
「童話とか、絵本が好きな人は好きなんじゃないの、こういうの」
言外に「ボクは嫌い」と言われた。
落胆する美桜は上海の彼を思い浮かべる。
（苦手でもあの人はこんなにストレートに口にしなかったので気づけませんでした……。そうですよね、男の人にはつまらないかも……）
恋愛映画よりもアクション映画を取りそうな遠逆の退魔士のことだ。さぞやつまらないことだろう。
せっかくの仲良くなる作戦が……。
がっくりしている美桜に、動物や木々がお願いするのが聞こえた。
（え。一曲歌ってって……）
どうしよう。
ちら、と欠月を見るが彼は欠伸をしていた。本当に興味がないようだ。
（まあいいか。歌うくらい……）
たとえ欠月が聞いてくれなくても。
そう思って立ち上がり、美桜は動物たちに微笑みかける。
美桜の歌は優しく美しく、温室に響いた。
「へえ」と感心した欠月の声が聞こえた気がしたが……気がしただけで違うかもしれない。
歌い終えて欠月を見ると、気の抜けた拍手を欠月がしてくれた。
（う……本当に嫌われてるんですね、私）
しょんぼりしてイスに腰掛けた美桜は、少し考える。
隠し事をしている自分が、欠月のことを知りたがるのは…………どうも違う気がする。
（そうですよね。うん）
彼氏にも、戻って来たこの間のクリスマスの時に全部喋ったし……。
その時のことを思い出して美桜は頬を赤らめ、自分の思い返した映像をぱっぱっと手を振って追い払った。
「欠月さん」
「ん？」
頬杖をついていた欠月がこちらを見る。
「あの、聞いて欲しいことがあるんです」
「どうぞ？」
聞くだけならという欠月の態度に美桜は微笑む。
「私……一度壊れたことがあるんです」
「は？」
「うまくは言えませんが、耐え切れなくて……。壊れちゃったんです」
「ふーん」
「そのことがあって、自分の能力が怖くてたまらないんです」
美桜は空を見上げた。
温室の天井越しに見える星空はとても綺麗だ。
「でも……私の能力を使えば欠月さんの記憶が戻る可能性があります。でも…………怖くて、できません。ごめんなさい」
「いいって。べつに物凄く戻って欲しいものじゃないし」
ひらひらと欠月は手を振った。
美桜は自分の過去を話して安堵する。
どうしてなんだろう。
遠逆の人間はどうして、態度が変わらないんだろう。
美桜の彼氏はわかる。そういうことは気にしない人だ。
でもまさか。
（欠月さんも、全然変わらないなんて……）
興味がないから？ それとも。
「私が、いま私がここに居るのは……兄さんが居てくれたからなんです」
「…………」
「そうやって、支えてもらって今の私がいます。だから、私は私の大切な人たちの支えになりたいんです。
こんな、ポキっと折れちゃいそうな私ですけど」
ふふっと軽く笑う美桜に、欠月は同意した。
「ほんとだよ。虚弱っぽいのになにが支えだよ。支えてるあんたがボキって折れるでしょ、ふつうは」
「ひ、ひどいです。確かに体力はあるほうではないですけど……」
「そう思うならジョギングとかして少しは運動したら？ 家にこもってるより全然健康的じゃない？」
「あ……はい。そ、そうなんですけど」
「外に行くのが怖いわけ？ 臆病なんだね。それとも、そうやってこもるのが好きなの？
エステとか色々あるじゃない。運動する方法はさ。やってみれば？」
「そ……うですね」
それはあまり考えたことがなかった。
自分のスタイルを気にしたことはなかったし、兄にも必要は無いと言われていたからだ。
（運動……ですか）
「せっかく胸が大きいんだから、持続する運動をしないとすぐ垂れるよ」
「！ なっ、なんてこと言うんですかっ！」
真っ赤になって焦る美桜に、欠月は楽しそうに笑う。
「そのほうが四十四代目も喜ぶでしょ。体操とかは家の中でもできるんだし、やってみるんだね。
温室で植物や動物の相手をしてるよりはいいと思うけど」
「植物や動物にだって感情はあるんですよ？」
「あっても、普通の人間には通じないし、その声は聞こえない」
「そ、それは……」
「ボクだってどっちかと言えば異能の部類に入る人間だから親切で言ってあげてるんだよ。
この日本も含めて、普通の人間のほうが大多数なんだ。ボクらみたいな人間は少数なんだから」
「…………はい」
「その世界で生き抜くってことは、普通の人間の目線に合わせなきゃならない。
あんたがこの屋敷から一生出ないで暮らすなら余計なお節介だけど、もしそうじゃないならちゃんと考えたほうがいいよ。
外の世界では人間は『植物も動物の声も聞こえない』のが当たり前なんだからさ」
欠月の言っていることは正しい。
宴を見ていた美桜は「はい」と小さく頷いた。
ここは閉ざされた楽園だから……許されているだけだ。本当は……あってはならない光景なのだから、これは。
ここに閉じこもってもいいと言う兄や恋人とは違い、欠月は現実に目を向けろと厳しいことを言ってくる。
「友達だから、忠告してくれるんですか……？」
そっと尋ねると欠月は片眉を吊り上げてから微笑した。不敵な笑みだ。
「そうだね…………そういうことにしておいてあげるよ、美桜さん」
「！」
美桜さん、と彼が呼んでくれた。
（少しは……認めてくれたんでしょうか……）
呆然とする美桜の横で、欠月はイスから立ち上がる。
「さて。もう遅いからお暇しようかな。やれやれ。まさかこんなところで年を越すとは思ってもみなかったな」
「ありがとうございました、欠月さん」
頭をさげて、もう一度あげた時には欠月が背を向けて歩き出しているところだった。
彼は温室から去っていく。
美桜はぐっと拳を握りしめた。
（友人としてあなたを支えます。けっして折れたりは、しません）
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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ＰＣ
【0413／神崎・美桜（かんざき・みお）／女／17／高校生】
ＮＰＣ
【遠逆・欠月（とおさか・かづき）／男／17／退魔士】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、神崎様。ライターのともやいずみです。
名前の呼び方が変わりました。かなりゆるやかですが、一歩前進、です。
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました！ 書かせていただき、大感謝です！
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