■CallingU 「小噺・除夜」■
ともやいずみ |
【3525】【羽角・悠宇】【高校生】 |
今日で今年も終わってしまう……。
そして、新たな一年の始まり。
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CallingU 「小噺・除夜」
もうすぐ新しい年か。
羽角悠宇は夜道を歩いていた。鐘を撞きに行く途中なのだ。
(やっぱ大晦日の日は鐘を撞かなきゃだよな)
上着のポケットに両手を突っ込んで上機嫌で歩いていた悠宇は「ん?」と気づく。
向こうの道を歩いている濃紫のあの服は!
(ええーっ!? 今日って大晦日だぞ? あいつこんな日も仕事してんのかー?)
疑問符を浮かべる悠宇は声をかけるべく欠月のほうへと向かった。
「おーい、欠月ー」
声をあげると欠月は足を止めて振り向く。
「やあ、こんばんわ」
「こんばんわってあのなぁ。おまえこんな大晦日の夜に何してるんだ? ぴりぴりしてない……から、仕事じゃなさそうだな」
「あのね、いつもいつも仕事なわけないでしょ。どんだけ物騒なんだよ、日本って」
「うるさいな。おまえって仕事してるイメージしかないんだから仕方ないだろっ」
自分で言っておきながら「すごいイメージだな」と悠宇は思ってしまう。
そうだ。それくらい欠月はいつも仕事を……退魔の仕事をしているということだ。
「たまにはのんびり年越しもいいんじゃないか? 除夜の鐘つきに行こうぜ」
「…………」
無言の欠月の雰囲気にハッとして悠宇はむっ、と眉間に皺を寄せる。
「お、おまえの言いたいことはだいたいわかるぞ……」
「おやすごい。テレパシー?」
「アホ! おまえのこと、少しはわかってるつもりだからな! こう言いたいんだろ?
彼女がいるんだから彼女と行けばって!」
「すごいねえ。キミは超能力者か」
「おまえが嫌味ったらしく言うのくらい予想ついてんだよっ!」
にこにこと笑顔の欠月は、悠宇の怒鳴り声に怯みもしない。
「予想ついてるんだったら、その『奇特な彼女』と行けば?」
「あのなぁ……高校生の女の子をいくら大晦日とはいえ夜中に誘えるわけないだろうが」
初詣を一緒に行く約束はしてあるのだが。
「そのくらい判ってて言ってるだろ、欠月」
「常識のあるなしと、冒険心のあるなし、の差じゃないかな。そういうのって」
「はあ?」
「キミみたいに一応常識を重んじるなら夜中に連れ出したりしない。
常識より彼女と一緒に居ることを望む冒険者は連れ出す。
そういうことだよ」
「好きだからって、なにしてもいいわけじゃねえだろ」
不思議そうに言う悠宇に、欠月はちょっと目を見開き、薄く笑った。
「おや。キミは子供っぽいって思ってたけど意外に大人なんだね」
「なんだと!」
頭に血がのぼるが、なんとか堪える。
震える手で道を指差し、笑う。笑顔は引きつっていることだろう。
「と、とにかく鐘つきに行こうぜ」
*
「ボクの家は無宗教だから……別に鐘なんて撞いてもしょうがないような気もするけど」
「いいの! これは日本の習慣みたいなもんだから。文句言うなよ」
「はいはい」
肩をすくめる欠月と並んで歩く悠宇は、不思議な縁だな、と思っていた。
欠月と出会った時はまさかこうして年越しの時間を一緒に過ごすなんて思ってもみなかったからだ。
「来年はいい年になるといいな。勿論、今年がいい年じゃなかった、ってわけじゃないけど」
欠月とも知り合えたし。
そう内心で洩らす。
本人の目の前で言ってみろ。きっと何か嫌味なことを言うに違いない。
欠月はたいして興味はないようで「どうだろうね」と呟いていた。
「なんだその気のない返事! もうすぐ新年だってのに」
「新しい年だからって何か変わるの? いつもと一緒だよ」
「……冷めてるなあ」
不憫そうな顔をする悠宇は空を見上げた。
「もっと色々想像を巡らせろって、来年について。
もっとたくさん色んな発見があって、毎日わくわくするようだったらいいなって俺は思うけど」
「毎日わくわくしてたらつまんないよ」
「お、おまっ……すぐそうやって……。
あれ? 子供っぽいって言わないのか?」
「言って欲しいの?」
「いや、友達にも彼女にも……時々笑われるからさ。いくつになっても子供みたいなところが抜けきらないんだな、って」
「へえ。その友達、愚かだね」
「え。オロカ?」
とんでもない単語が飛び出したことに悠宇がびくっと反応する。
どうしてこの男は想像もしないことをぽんぽん言うんだろうか。怖い。
「子供みたい、ってどこが?」
「え……いや、その」
「夢をみることは子供っぽいことじゃないよ。だいたいキミは、そうだったらいいなって、思ってるだけなんだし」
「そ、そうか? 欠月はそう思うのか?」
「思うよ。明日がいい日だったらいいなって思う人とどこが違うの。一緒でしょ」
冷めた口調で言う欠月を、悠宇は呆然と見る。
彼は淡々と続けた。
「明日が楽しい日だったらって思う人を笑うなんて、どうかしてるんじゃないの」
はっきりと、欠月は言い放つ。
悠宇は、知らない。
こんな風に考える人間を、知らない。
少なくとも今まで周囲にはいなかった。
子供っぽくないと否定したりする者や、同じように同意する者はいたが……。
そうじゃなくて。
(そういう次元の話じゃ……なくて)
なんだか胸にじーんときて、悠宇は俯いてしまう。
「な、なんだよ。さっきは毎日わくわくしてたらつまんないって言ってたクセに」
「それとこれは話が違うでしょ。毎日わくわくしてたらそれが当たり前になって、単調になるってことを言いたかっただけなんだけど」
「………………フーン」
そうなのだ。こいつは……悪いやつじゃない。
こういうところでそれを思い知らされると……ちょっとぐっときてしまう。
ちら、と見ると無表情の欠月は思った以上に顔が整っていて、どきりとさせられる。まるで、人形、だ。
(いっつも笑顔だから気づき難いけど…………ほんとに綺麗な顔してるよな……)
表情の無いほうが美しいなんて……。
「どこが子供っぽいのか、ボクにはわからないね」
「そういう夢みてるみたいなとこが、子供っぽいってことなんだろ?」
「夢をみて悪いわけ?」
「いや、悪くはねぇけど……。やっぱり大人になると現実を見ていかなきゃならないからだろ」
「大人になったら夢をみることは悪いの? だいたい、キミはまだ高校生で未成年でしょ。
子供なのに、子供だって笑うんだ。変なの」
「そ、そうだよな……うん。言われてみればそうかも」
自分はまだ子供なのだから……確かに『子供っぽい』と言われるのは変かもしれない。
なぜだろう。欠月の言う事に完全に自分は納得しかけている……!
「……欠月は、そういう夢とかあるのか?」
「ん?」
「あるんだろ? 明日がいい日だったらいいなとか」
悠宇をじっと見る欠月。右の紫の瞳を細めた。
「ないね」
「は!?」
「そんなこと願ったことすらないね。なに願っても時間は止められないし、願ったところでなにか変わるわけでもないから」
「…………現実的なこと言うんだな」
呆れる悠宇である。
欠月は肩をすくめた。
「だって事実じゃない」
「夢のない男だ……」
げんなりする悠宇は、目的地に着いたことに安心したのである。
*
「ねえねえ、どのくらいの力でやればいいのかな」
こそこそと耳打ちする欠月に「ええ?」と悠宇が振り向く。
並んで待っている悠宇は顔を引きつらせる。
「なに言ってんの、おまえ」
「軽く? 本気でやると壊しそうだからさあ」
「おまえ……。いくらなんでもそれは……」
無理だろ、と言いそうになったが口ごもった。
欠月は細いくせに時々信じられないような力を発揮する。
(や、やるかもしれない…………こいつなら)
ぞっとする悠宇は、うーんと唸った。
「そうだな……。軽く、だな。音がちょっと鳴るくらいがちょうどいいんじゃないか、欠月は」
「軽く、ね。了解」
にこっと微笑む欠月。
なんだか嫌な予感がして「へへへ」と笑う悠宇であった。
(妙なところでこいつはズレてるからなぁ……)
心配だ。すごく。
「お、おい、間違っても力強く、思いっきり撞くなよ……?」
「しないよー。そんなことー」
なんて軽い声だ。胡散臭いっ。
しかもなんでそんなにニコニコしてんだ?
物凄い心配になってじとっと見遣る悠宇に、欠月は笑顔を崩さない。
順番がきて、悠宇はゴーンと鐘を鳴らす。
これがないとやっぱり新しい年は迎えられない。
すっきりしたのもつかの間、振り向いてハッとする。
「か、欠月……た、頼むから力を抜いてくれよ……?」
「えー? 信用ないね。ちゃんとやるよ」
片手で紐を持つ欠月に背を向けて降りる悠宇。
さて、という顔をした欠月はぐいっと引っ張ってどのくらいの力にするか試していた。
はらはらしてしまう悠宇である。
(こんなハラハラした気分で年越しとか……!)
すっごく嫌だ。
欠月はひゅん、と腕を振る。その動作に「ひえっ」と悠宇が洩らした。
今の動きはやらないだろ、ふつう!
ごーん、と鐘が鳴る。
無事に撞いて降りてきた欠月の前で、悠宇は心底安堵したように長い息を吐く。
「良かった……変なことしないで」
「失礼だね。軽くって言ったのはキミだよ?」
「いや、軽くで合ってて良かった」
腕時計を見て、悠宇は気づいた。
針は0時を回った。
欠月に向けてにっこり笑う。
「あけましておめでとう!」
「…………」
欠月は悠宇の言葉に面食らったようにきょとんとした。
「今年もよろしくな」
「……うん。おめでと」
いつもと同じようにさらっと言う欠月に、ガクっと肩を落とす。新年早々これか?
「も、もっとこう……なんていうか感動がないか?」
「なんで? いつもと同じじゃない。ただ日付けが1月1日になっただけだよ」
「…………雰囲気ないな、ほんと」
あーもう早く彼女と初詣行きたい。
うんざりする悠宇はやがて苦笑して嘆息した。
(今年も欠月は変わらないんだろうなぁ)
そう想像したら笑うしかない。
出会いからまだ少し。だけど、欠月のことは少しずつわかってきている。
だから。
(今年もきっといい年だ)
きっと――――!
「なに笑ってるの?」
「べつに! さ、帰ろうぜ!」
不思議そうにする欠月をおいてズンズンと悠宇は歩き出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/男/16/高校生】
NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、羽角様。ライターのともやいずみです。
欠月との鐘つき、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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