■【楼蘭】初春の宴■ |
はる |
【2517】【ソル・K・レオンハート】【元殺し屋】 |
聖都エルザードから東へ4月と4日、船旅を経た場所にあるという……蒼黎帝国は帝都楼蘭。
日に日に暖かくなり、風もどこかやさしい気配を色濃く漂わせている。
一つの庵の前で今年も紅梅と白梅が見ごろを迎えていた。
「そろそろ春だねぇ」
そういえば、秋につけた仙酒のできばえは今年はいかがなものだろう。
仙人である瞬・嵩晃は庭の梅の花を見上げ季節の移り変わりを肌で感じていた。
「苔桃に山葡萄、桑に山査子……結構今年も仕込んだんだっけ」
薬酒にもなる酒を冬になる前に仕込んでいたものがそろそろ飲み頃であろう。
「そうだ、誰かを呼んで……」
久々に酒盛りをするのも悪くない。
梅の花びらを杯に受け詩を読もう。
となれば……早速筆をとり嵩晃は客への文を認めた。
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【楼蘭】赤き犬の陣+(ぷらす)
聖都エルザードから東へ4月と4日、船旅を経た場所にあるという……蒼黎帝国は帝都楼蘭。
折もよく城では新年の儀が執り行われていた。
「主上に置かれましては、ご機嫌麗しく……」
九拝を受ける相手は、みすごしにあくびをかみ殺していた。
「暇じゃ……」
「主上…」
「分かっておる」
じゃが、暇なものは暇なのじゃ。未だ声は若く、どちらかというと幼い。
傍に控えた女性が嗜めるも、出てくるあくびは止まるものではない。
退屈な近隣諸侯と家臣と挨拶。毎年変わらず続いているものとはいえ、なんとかならんものかと考えあぐねていたとき。
「おーほっほっほっほ……か弱きものどもが、よくもまぁ此処まで集って・・・」
高らかに笑う女の声が、厳粛な楼閣内に響きわたった。
「女丑の尸……この女狐め」
舌打ちしたのは誰だったか。
「帝都の皆々様にわたくしから、贈り物ですわ」
どうぞお受け取りになって。
女が手をあげると、数匹の赤い巨犬が空より現れた。
「天犬!?」
それは騒乱の世に現れる、赤き犬の名。
「くそ!とっつかまえて食ってやる!!」
いきり立つ将達が各々武器を手にする。
「此処は拝殿じゃ、争いは表でなされ」
「相変わらず、お優しい宰相様ですこと」
「余計なお世話じゃ。各々ぬかる出ないぞ」
主命を守るは武士の本懐。
「とはいえ……だれぞ、助っ人を呼んだほうがよいかのぅ」
「ご主人様、未だお買い物をなさるのですか?」
寒くないよう、膝よりも長い丈のコートを羽織った少女が溜息を付く。
「もう少し、まってー」
これとあれが気になるんだよね〜。
此方も異国の装束に身を包んだ青年が、店先に並べられた商品を物色していた。
「あまり、ガラクタを増やさないでくださいまし」
どうせ後片付けが出来ないのですからと、少女の声は冷たい。
和やかな買い物の時間が破られたのは正にそのときであった。
怒号と悲鳴、そして血臭が広がる。
「なんでしょうか……」
白いコートの少女が眉を潜める。
「あ、アレは天犬!?まさかここで合えるとは思わなかったなぁ」
ちょうどいいや。
「リール、次はあれを持って帰ろう」
「……本気ですかご主人様……」
あれもコレクションに加えよう、といたって気楽な調子でブランシア城の主は供につれたメイドの少女に告げるのだった。
牙を剥き出し唸り声を上げる、妖獣を前にしてもソル・K・レオンハート(2517)は眉一つ動かさず、冷徹な眼差しで獣を見つめた。
「……これを捕まえればいいのか?」
道端でであった、青年に懇願され天犬というらしい怪物の捕獲を依頼されたソルは戸惑ったように相棒である朱雀を見た。
誰かの攻撃を受けたのか自身の傷か、それともその鋭い爪で何れかの者を屠った返り血か、赤い犬の通った後には点々と赤い血痕が残っていた。
暗殺者としてソルにとって生死をかけた戦いは常に傍らにある隣人。
「殺すのなら簡単なんだが……」
同意を示すように肩口に止まっていた朱雀が高い声で鳴いた。
「……無傷で済ますには無理か………」
その一撃で人の頭など、容易く叩き潰しかねない獣と対峙し乱れ刃の長刀を抜き放った。その銘は陽炎。
「むふふふ〜ん♪」
るんたったー♪と鼻歌交じりに逃げ惑う人ごみを逆流するようにスキップをする、鍛え抜かれた肉体にふりふりピンク色のエプロンがまぶしい親父が一人。
スキップスキップウサギのワルツ、お花のアップリケの可愛い買い物籠は下僕主夫の定番アイテムである。
「おんやー?」
なんか楽しそうなことやってんなぁ?とオーマ・シュヴァルツ(1953)が片腕でひょいっと、そのたくましい肉体を屋根の上の人とする。
「確か……」
以前訪れた事のある、古城の城主とそのメイドの姿が丁度目に入った。
「どうかしたんかい?」
「あーキミは…えっとあれを持って帰りたいんだよねー」
お願いできる?ブランシア城の城主の指差す先には1頭の赤い大犬と向き合うソルの姿があった。
さらに後方星陵殿のある辺りに、キーンと腕を広げて空を翔るもう一人のムキムキマッチョなオーマの姿が見えたような気もするが、気にしてはいけない。
親父愛秘奥義666ゴッド分筋の術という、世にも珍妙な現象の賜物だから。親父マッチョのランデブーもその逞しき筋肉のなせるシンフォニーに変わる。
「ずいぶんとぷりちーなわんちゃんだな、おっし俺のラブラブ桃色親父筋肉でいちころだぜ!」
「くれぐれも生け捕りで頼むよー」
剥製って言うのは味気ないから。捕まえる側の苦労は露知らず、ニコニコと青年は言い切った。
「お前さんの城にいたケルベロスといい勝負だな」
迫力あるその体躯は遠目にもありありと、存在感を誇示している。
「うん、あの子の遊び相手になると思うんだよねー」
随分と物騒な城になりつつあるような気もするがあの古城においてはそれほど奇異なことではなかった。
「んじゃま、いっちょいってみっか」
桃色美筋下克上、反逆スウィートらぶげっちゅvと謎な、せりふを残してスキップのステップも軽やかにオーマが天犬に向かって行った。
「おっし、きゃわゆいワンちゃん勝負だぜ!」
右手にピンク色で親父愛書かれた両手持ちの巨大な中華なべ、左手に愛しマッスルと刻まれたピンク色のお玉。本日青黎帝国使用のオーマの新装備である。
「薔薇筋褌……メタルゴッドアニキビーム!」
ばっとフリフリエプロンを脱ぎ捨てたオーマは寒さもものともせず、薔薇の刺繍鮮やかなレースのふんどし一丁。
キラリとメタリックカラーに変色したその胸筋からハート型のビームが飛ぶ。いかなる手法か、薔薇の花びらが舞い散り馨しい花の香が漂う冬の楼蘭にひと時の暑苦しい春の風が吹き抜けた。
「超兄貴親父アルティメットラブインフェルノ!」
これでハートは鷲づかみだぜ!暑苦しい逞しい腕を素早く犬の首に回してホールドをかける。
意表をついたその攻撃に天犬がひるむ。オーマが本気になれば子牛の首の骨も折りかねない強烈な技である。
「犬といえばこれだ!下僕主夫特製ドッグきび団子お色気フード!!」
ちゃららちゃっちゃちゃ〜♪と妖しげな効果音とともに、オーマは褌の中に隠しもっていた謎の団子を取り出した。
果たして食べられるものなのであろうか……と、遠巻きに様子を伺っていた民衆が寒風の中に舞い踊る親父筋肉の美技に見ほれかけていたとき、ゴウッと火炎がオーマの腕を焼いた。もちろんその手にしていた謎の団子は消し炭と化す。
「うぉ!あっちぃ!!」
守護聖獣の加護のおかげで火傷こそ免れてものの、突然の炎激にオーマは狼狽する。
「……はずしたか……」
「はずしたというか、俺様のことを故意に狙ったろう!!」
レースの褌一丁の親父にずびしと、指を突きつけられてもソルはまったく気にも留めない。
「……不可抗力だ」
戦いにトラブルは付き物。深いことは気にするな。
「朱雀、追い込むぞ」
南から回れ、俺は2本先の路地で迎え撃つ。
「ツウか無視か、おい!」
「……燃えてるぞ……」
いいのか?何がと聞くまでもなかった。
「ぬおぉ―――」
み、みず――!!折角の一張羅のレースの褌が燻りあわててオーマは水を求めて駆け出した。
「さて……待たせたな」
相変わらず敵意を剥き出しの赤い犬を前にして、金色に輝く左目を眇め、ソルはその手にした長刀の切っ先を突きつけた。
「行かせてもらう……」
踏み込みは深く、素早く刃をなぎ払う。其処は流石は野獣、その反射スピードは並みではない。振り下ろされるその前足が石畳を砕く。
だがソルはその攻撃の眉一つ動かさず、むしろ自殺行為に近い距離まで近づく。一歩間違えればもちろん命が危うい。
それでも、防御よりも攻撃を好むソルは自らの傷には頓着せずにさらに懐深くまで踏み込んだ。
「……これなら、どうだ!」
軽くフェイントをいれ刃を返す、後方の中空、陽炎の刃先の届かない範囲に高く飛び逃げた天犬をソルは待っていた。
「朱雀!」
同時に声ならぬ声で剣の銘を呼ぶ。炎を……中に浮いた状態の天犬に逃げ場はなかった。豪炎が柱となり赤き犬を包み込む。
「……そういえば、生け捕りににということだったが……」
少しやりすぎただろうか……炎の柱が納まった後には、痙攣する巨大なが転がっていた。
「生きてはいるようだな……」
それは、重畳。
「いやーホントありがとうね♪」
少し焼け焦げてはいたが、ソルの捕らえた天犬は無事に城主に引き渡された。
「確か他にもいたよなー、俺も欲しいなー」
いいなーいいなーとふりふりエプロン姿にもどったオーマが城主の服の袖を引く。
「確か、城の方にもでたらしいからきいてみればー」
早くしないと食べられちゃうよー。何せここの連中ときたら4足のものは机と椅子以外は全て食べつくす食通(?)の集まり。
「また、何かあったら呼べ……」
そういうと、相棒の朱雀を連れソルは人ごみに消えた。
なにはともあれ、ブランシア城の城主の妖しいコレクションのペットの中に天犬が無事追加されることになった。
【 Fin 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2517 / ソル・K・レオンハート / 男 / 12歳(実年齢14歳) / 元殺し屋】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
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■ ライター通信 ■
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大変お待たせいたしましたはるでございます。
お時間目いっぱい使わせていただきました、赤き犬の陣+(ぷらす)をお届けさせていただきます。
ブランシア城の城主のわがままに突きあっていただきありがとうございました。
何とか謎な新しいコレクションが増えた模様です。
何かイメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。
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