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■Misty Town ---始---■

雨音響希
【4410】【マシンドール・セヴン】【スペシャル機構体(MG)】

 名は全てを表し、全てを肯定する
 其の名は其だけのもの
 其は其の名においてこの世界に存在し得る固体
 名を意識の外に弾かざる事無かれ
 名をしかと己の心中に刻みつけよ
 其を繋ぎとめる其の名を
 決して忘れる事無かれ―――


 どこか遠く。それこそ意識の外側で、そんな声が聞こえた気がした。
 けれどそれはあまりにも小さな声で、幻聴だと言われればそれまで。
 ツキリと針が刺さったように心臓が痛んだ。
 目の前が淡くぼやけ・・・全ての意識を闇へと引きずり込む。
 漆黒に染まる世界が、段々と白色に染まって行く。
 淡く、甘く、朧に揺れる世界の中で・・・瞳を開ければそこは霧が支配する世界。
 己が何故ここに居るのか、そして己が誰なのか、全ては霧の向こう。
 ボンヤリとした頭で考えられる事など何も無く、ただただ前へ前へと進むのみ。

 辺り一帯を、濃い霧が覆いつくす。
 全ての町並みが、白くぼやける・・・。
 此処が何処なのか、何処に向かって歩いているのか、全ては遠い記憶の中。靄に覆われて思い出せない。

 先ほどまでは、学校に居た。その次は図書館に居た。その次は何処かの家の庭に居た。その次は・・・どうして記憶が繋がらないのだろうか?まるで1つ1つの記憶が点として存在しているかのようだった。
 はたと足を止めた。記憶の辻褄の合わなさに、軽い眩暈を覚える。
 そもそも、此処は何処なのだろうか?そして、自分は誰なのだろうか?自分の名前・・・名前・・・。

 『・・・・・・』

 名前を思い出した瞬間、目の前の景色がぼやけ始めた。今まで居た大通りが形を崩し、徐々に新たな形を作り始める・・・それは教会だった。大きな教会の中からは、微かにパイプオルガンの音が聞こえてくる。誰か居るのだろうか?
 教会の両開きの扉に手をかけた瞬間・・・

 リンゴーン リンゴーン リンゴーン

 鐘が鳴った。威厳深くもどこか哀しそうなその音は、きっかり3回鳴ると、ピタリと止った。
 空気が振動したせいか、霧が更に濃くなっている気がする。ぐずぐずしていたら、教会の扉ですらも霧に飲み込まれてしまいそうだ・・・。
 大慌てで教会の扉を押し開けると、その中に入った・・・。


―‐―‐― 教会 ―‐―‐―

 扉を開けると、パイプオルガンの音は一層大きくなった。
 漆黒の髪の少女が一心不乱に鍵盤を叩く背が見え―――こちらを振り返った。
 緑がかった金色の瞳は妖しげで・・・はっと息を呑むほどの美少女だった。
 「貴方・・・誰?どうしてここにいるの?」
 長い長い髪を払うと、少女はすっと立ち上がった。足首まである髪が柔らかに揺れる。
 「どうしてここにいるのか解らないって顔。でも、みんなそうだから。貴方一人じゃないから。」
 酷く優しい声で少女はそう言うと、虚ろな微笑を浮かべた。
 「私の名前は―――」
 段々と目の前がぼやけ始める。意識が、何かの強い力によって引っ張られているのを感じる・・・。

   クラリ

 目が眩み、一瞬だけ目の前が闇に染まる。
 なんとか意識を持ち直そうと、キっと目を開けた先・・・そこは巨大な駐車場の真ん中。

―‐―‐― 駐車場 ―‐―‐―

 どうなっているんだ・・・?
 目の前で起きている事が信じられないと言う風に、顔を上げる。
 先ほどまでは確かに教会に居たはずなのに・・・少女と顔をあわせていたのに・・・今はだだっ広い駐車場の真ん中に座っていた。
 相変わらず濃い霧は、目の前にあるはずの建物を隠している。
 それにしても、ここは何処なんだ?何故自分はこんなところに居る?
 キョロキョロと辺りを見渡しているうちに、ふいに霧の中から誰かがこちらに向かって来ているのが見えた。
 金髪の美女・・・。
 「ようこそ。霧が支配する町へ。」
 霧が支配する街?ここはどこなんだ・・・?
 「ここは現実のようで現実ではない街。けれど決して夢ではない。隔離された世界。誰かによって創られた世界。そして、貴方は此処に引きずり込まれた哀れな人。」
 きゅいっと口の端を持ち上げ、美女は優雅に微笑んだ。
 「大切な事は“自分自身の力を信じる”と言う事と“仲間を信じる”と言う事。この町では、ソレがないと生きてゆけないの。生き残りたいのだったら、一人の力だけじゃ無理ね。冷たい静寂が支配するこの町に住んでいるのは、異なるもの。」
 美女はそう言うと、ポンと目の前に何かを投げた。
 携帯電話―――?
 突然場違いなまでに明るいメロディーが流れ出し、液晶が点滅する。
 「取りなさい。一瞬の判断が全てを決める。どんな情報を生かすも殺すも、貴方次第。」
 言われるままに携帯の通話ボタンを押す。
『麗夜です。聞こえますか・・・?俺も、上手く説明ができないんですが・・・扉が、開かないんです。皆さんは現実に引き込まれてしまったんです。こちらからも、手立てを探しますが・・・もし・・・な・・・探・・くだ・・・』
 切羽詰ったような男性・・・恐らく、声からして歳は10代半ばか後半くらいだろう・・・の声は、ブツリと途中で途切れてしまった。
 そもそも、扉とは?現実とは?そして・・・探せとは・・・?
 目の前に置かれているのは、携帯電話とナイフ、そしてパンと水・・・。
「言ったでしょう?一人の力じゃ無理だって。仲間を探しなさい。生き残りたいのなら・・・ね。」
 美女はそう言うと、手を振った。そして去り際に一言だけ、呟くように言葉を残した。


   『“世界の果て”を目指しなさい。全ては“虹の球体”が教えてくれる。』


 そして霧の中に溶けて行った―――。
 ―――声が聞こえる。何処からとも無く、まるで囁くように、霧の間から・・・。
 『繋がらない世界が、どうして繋がらないか知っている?其れはね、世界が終わってないから。創られ終わってないからよ。だから全ては繋がらずに突然消えたり現れたりするの。全ては終わりがないから。けれど、終わらせる事は出来るの。この意味が、貴方には解る?』

Misty Town ---始---



 ―――そこは霧に閉ざされた町

 創られ終わっていない世界の中で、世界の終わりを目指す。

 ―――世界の終わりは ド コ ・ ・ ・ ・ ・ ?


◆ 進入 ◆


 マシンドール セブンは、目の前に置かれた二つ折りの携帯を取ると、パカリと開けた。
 液晶に映るのは青い空と緑色の草原・・・・・。
 小さな果物ナイフを取り、数度手の中で回転させて使い心地を確かめる。
 クルクルと手の中で回るうちに、ナイフはセブンの手に馴染んできたらしく、使い心地は悪くなさそうだ。
 最も、こんな小さなナイフ程度でどうにか出来るのかは非常に心配だったが・・・・・。
 何か不思議な力が働いているらしく、本来持っているはずの機能が動かない。
 ・・・武器になるものを探さないと・・・
 「ここは・・・どこでしょう・・・・。」
 呟いた言葉は霧の中に引き込まれ、霧散する。
 問いかけても答えてくれない霧は、いっそなければ良いと思うほどに冷たくて―――
 視界を遮る霧が、酷く冷たいものに見える。
 セブンはふっと視線を下に落とした。
 ハテナマークが点滅する頭の中を落ち着かせようと、いったん考えを無にもどす。
 まず、どうしてこんな所に来てしまったのか。
 普段通り、興信所に居て・・・そう、キィっと、甲高い蝶番の音が聞こえたのだ。
 扉が開く時特有のソレに顔を上げ―――目の前が数度光った後に、気づけばこの世界に降り立っていた。
 そして、教会で遭遇した少女。
 ・・・漆黒の髪と緑がかった金色の瞳を有した―――。
 あの少女は誰だったのだろうか?そもそも、あの教会は何処に消えてしまったのだろうか。
 「それにしても、先ほどのの電話の方は誰だったのでしょう・・・。」
 “麗夜”と言っていた気がするが・・・携帯をパカリと開ける。
 履歴を調べ・・・やっぱり。
 セブンはふっと、再び自分の足元に視線を落とした。
 履歴には何も残っていない。それは、ある程度予想していた事だったけれども・・・それでも、こんなわけの解らない場所に一人、飛ばされてしまったのだ。
 誰だか解らないながらも“麗夜”と言う人物からは敵意は感じなかった。それどころか、どこか安らぐものがあって・・・。
 ・・・味方なのだろうと、セブンは思った。
 「仲間を探せ・・・と言う事は、飛ばされてきたのはわたくしだけではない・・・と言う事ですよね?」
 先ほどの人もそうだし、もしかしたら他の人もいるかも知れない。
 そっと瞳を閉じ、周囲に意識を集中させる。
 とは言え、今現在周囲に人が居る気配は無い。
 勿論、この霧のせいで感覚が鈍ってしまっていると言うのもあるだろうが・・・それにしても、濃い霧だ。
 ここはどこかの駐車場だろうが、その先にあるであろう店が見えない。
 「・・・ここに居ても仕方がありませんね・・・。」
 この先何が起こるか解らない。この場でじっとしていれば助けが来るなんて思わない。
 自分で行動しないと、始まらない・・・・・。
 セブンは一応、目の前に置いてあるパンと水を掴むと、そっと移動を始めた。
 最も、セブンにとってパンと水は必要のないものだったけれども・・・仲間に、渡せれば・・・
 ベッタリと身体に絡み付いてくる霧。一寸先はすでに霧の向こう側になってしまい、見えない・・・。
 周囲に気を配り警戒はしているものの、どうしてだろう、いつもよりも随分と感覚が鈍ってしまっている気がする。
 この霧のせいだろうか?
 その質問に答えられるものは誰も居ないけれども―――。
 しばらく霧と格闘して、目の前に聳えるスーパーの全貌が明らかになったのは大分近づいてからだった。
 半分閉まったシャッターの隙間から覗く中は明るい。
 ・・・それにしても、気温が低い・・・。
 風が吹いているわけではないが、どこからかヒンヤリとした空気が漂ってくる。
 セブンは周囲に気を配りながらも、とりあえずスーパーの外壁に沿って一周回ってみた。
 かなり広いスーパーらしく、一周するのに結構な時間がかかる。
 一周して見て解った事は、どうやら出入り口は1箇所しかないと言う事だ。
 この、半開きになっているシャッターの奥、開け放たれた扉以外からは中に入る事は出来ない。他の扉には全て厳重に錠が下りていた。
 ―――ここから入るしかないようですね。
 セブンは覚悟を決めると、半開きのシャッターの下から中へと潜り込んだ。
 シャッターに触れないようにそっと屈み、自動ドアは丁度人が1人入れるほどに薄く開いていた。
 そこから身体を滑らせる。
 ・・・明るい店内の奥では何かがチカチカと青い光を放っていた。
 それがやけに不気味で―――


◇ 仲間 ◇


 1歩、中に入る。
 入り口右手には食品がズラリと並び、壁際には出店のようなものも並んでいる。
 クレープの絵に、ホットドッグの絵・・・軽食がそこで食べられるらしく、長椅子も等間隔に並べられている。
 左手を見れば上品な雰囲気の喫茶店があり、シャッターが開け放たれ、透き通るガラス越しに開店前の店内が見える。
 積み上げられた椅子は深い茶色で、どこかシックな印象を受ける。同じ色の丸テーブルも上品で・・・よく見れば、値段も“上品”だった。
 珈琲1杯580円。紅茶1杯580円。モカ1杯600円・・・・。
 目の前にはシャッターの下りたエスカレーターがあり、その右にはシャッターの下りた雑貨屋。左には服がズラリと並んであるコーナーがある。
 シャッターの向こう、エスカレーターの脇には1本の小さなツリーが置いてあった。
 チカチカと青色の光を発しながら―――この光だったのだ。
 そう思った時・・・突如店内に音楽が鳴り響いた。かなりアップテンポのその曲は“始まり”を連想させるかのようなもので・・・
 『皆様、ようこそお越しくださいました。本日は・・・ク・・・で・・・午・・・い・・・』
 アナウンスの音がひび割れる。
 段々とフェードアウトしていき、ついにはプツンと言う音の後にノイズが数秒響き、無音になった。
 今のはなんだったのだろうか?
 小首を傾げながらも、セブンはコツコツと床を鳴らしながら奥へと進んで行った。
 エスカレーターの奥にはそれなりの大きさの噴水があり、その前には木のベンチが数個置かれている。
 噴水の右には書店。左には・・・トイレ・・・だろうか?マークはトイレのマークだが、シャッターが下りているためによく解らない。
 さて、これからどうしたら良いのでしょうか・・・。
 とりあえず・・・仲間を探した方が良いのでしょうけれども・・・
 とは言えそれらしい気配は感じ取れない。なにか靄のようなものがかかってしまったかのように、感覚が酷く鈍くなっている。
 いったん入り口の所まで戻って・・・そう考えるセブンの視界の下、何かがすっと現れた。
 咄嗟にそちらを振り向き―――緑色の髪の女性と、驚くほどに悪人面の男性・・・。
 ベンチの下に折りたたまれた男性の身体は酷く窮屈そうだ。
 「貴方もこの世界に飛ばされてきた人?」
 緑色の髪の女性がそう言う。・・・瞬時にセブンはこの人達が自分の“仲間”なのだと悟った。
 「・・・そのようですね。・・・気づいたら駐車場にいました。」
 「そう・・・貴方もマリー・・・」

  コツン

 靴音を、セブンの耳が捉えた。
 「誰か・・・来ます。」
 そう言うと、クルンと後ろを振り返った。
 コツコツと靴音を響かせながらこちらに歩いてくる少年の姿が見える・・・。
 「あ〜・・・良かった・・・。人が居て・・・。」
 ふわんと、穏やかな笑みを浮かべながら少年はそう言った。
 3人の目の前ですっと立ち止まり、皆さんもこちらに飛ばされて来てしまった方達ですよね?と、ゆっくりとした口調で訊く。
 「なんだか、これだけ人が居ればかなり心強いですね。」
 背の高い男性がそう言って嬉しそうに微笑み・・・その微笑みは酷く怖いものだけれども・・・
 「まずは自己紹介ね。みんな、会うのは初めてだし・・・私は火宮 翔子(ひのみや・しょうこ)」
 「CASLL TO(キャスル・テイオウ)です。」
 「ななと申します。・・・正式にはマシンドール セヴンですが・・・。」
 「玖珂 冬夜(くが・とうや)って言います。」
 どこかふにゃんとした笑みを浮かべながら冬夜がそう言い・・・ペコリと頭を下げた。
 「そう言えば・・・さっき外で女の人に会ったんだけど・・・。」
 「マリーさんの事ね?マルケリア・デ・ルーブ・・・以前、ちょっとした事件でお世話になって・・・。」
 翔子はそう言うと、ふっと視線を落とした。
 何か大切な事を言おうか言うまいか迷っていると言った感じの表情をし、しばらくしてからすいっと顔を上げた。
 「あのね、最初に言っておきたいんだけど・・・マリーさんは、敵か味方かわからないの。」
 「確かに・・・不思議な感じはしましたね。」
 セブンはそう言うと、小さく頷いた。
 「でも・・・多分、言ってた事に嘘は含まれていないはずだから・・・。」
 「・・・虹の球体とは何なのでしょうか。」
 「あの声の事も・・・引っかかるよね・・・。」
 冬夜の言葉に、3人が顔を見合わせて小首を傾げた。
 「声・・・ですか?」
 「あれ・・・聞こえなかった・・・?“繋がらない世界”とか・・・“世界が創られ終わってない”とか・・・“終わりがないけれど終わらせる事が出来る”・・・とか。」
 記憶を辿る。
 確かに、そんな声が聞こえた気がした。
 霧の向こう側から、微かにではあるが―――
 「終わりがないけれど終わらせる事が出来る?どう言う意味でしょうか?」
 「さぁ・・・。」
 終わりがないけれど、終わらせる事が出来る・・・終わらせるためには、終わりが必要で・・・。
 そもそも、世界はどうやって創られているのだろうか?・・・そこが解らない限りは世界を創る事は出来ない。
 「“虹の球体”と・・・なにか関係があるのでしょうか?」
 セブンが小さく呟く。
 世界を創っているものが、虹の球体・・・?では、虹の球体とは・・・?
 ―――虹の球体とは、世界を創っているもの・・・・??
 質問は始めに戻り、答えの出ないまま再び同じ質問に舞い戻ってくる。
 まるでメビウスの輪のように、答えのない質問は同じ場所をグルグルと回っては返って来る。
 「うーん・・・解らないものは、解らないよね・・・。とにかく・・・“虹の球体”を探して・・・“世界の果て”を目指す。それしか、ここから出られる手段はないんでしょう・・・?」
 「そうですね・・・。」
 冬夜の言葉にCASLLが小さく頷き、困ったように眉根を寄せる。
 「・・・どうしてこのような場所に飛ばされて来てしまったのでしょう・・・。」
 「多分、現実の扉の不具合ね。」
 「現実の扉・・・ですか?」
 「夢幻館ってところにある、夢と対の扉で・・・夢宮 麗夜君って子が司っているのだけれど・・・。」
 翔子以外の3人が小首を傾げる。
 夢幻館・・・初めて聞く名前だ・・・。
 「夢宮さん・・・ですか・・・?」
 「えぇ。私も詳しくは説明できないんだけれど・・・ここは、限りなく夢に近い現実って所かしら。」
 麗夜の司る“現実”は、本来の意味である“現実”とは若干意味を違えている・・・。
 「夢幻館には夢と現実の扉って言うものがあって・・・そう、夢と現実、現実と夢、そして現実と現実が交錯する館・・・。」
 翔子の呟きに、不思議そうな瞳を向ける。
 2つの現実、そして夢・・・そんな世界が交錯する館なんて、不思議な場所に違いない。
 「夢宮 麗夜さんって・・・あの電話の人?」
 「そう。携帯にかかって来た電話の・・・待って。それなら皆携帯を持っているって事?」
 「持ってますよ。」
 CASLLが携帯を取り出し、セブンと冬夜もそれにつられてポケットから携帯を取り出した。
 「あ・・・アドレス交換・・・」
 「そうですね、しておいて損はないですね。」
 アドレス帳を呼び出し、3人のアドレスを登録する。
 「・・・とりあえず、一緒に行動してても仕方ないわね。・・・それぞれに分かれて情報収集をしましょうか。」
 「そうですね。・・・このスーパーも広いしですし。手分けした方が良いかも知れません。」
 「何かあったら、携帯に電話してくだされば・・・。」
 「・・・終わったら・・・ココ集合、とか?」
 冬夜がそう言って目の前の噴水を指差す。
 「そうね。解りやすいし・・・それで良いかしら?」
 「えぇ、それで・・・・・・・」
 はっと、4人の表情が固まった。
 4人の背後で何かが動いた気配があったのだ。サっと、それはかなりのスピードで入り口方向から喫茶店の中へと入って行った。
 「なんでしょうか・・・?」
 CASLLがそう呟いた時、今度は喫茶店からこちらに向かって“何か”が走って来た。


◆ 遭遇 ◆


 ひゅんと、風を切りながら走って来た“人”の手には、鋭く輝くナイフが握り締められていた。
 それは一直線にこちらに向かって走って来て―――
 「危ない・・・」
 運動能力SクラスのCASLLが、咄嗟に3人を突き飛ばした。
 突き飛ばされた3人はなんとか受身を取り、何が起こったのかと振り返る。
 噴水の上に佇む人物は、外見年齢30代くらいだろうか?金色の髪に青の瞳。白人種のその男性は、ギラつく瞳を3人に順々に注いだ。
 「味方・・・のわけないわね。」
 「友好的には見えませんね。」
 翔子の言葉を受けて、セブンが冷静に分析をする。
 「・・・こっちの世界に住んでる人・・・かな?」
 「どうでしょうか・・・。」
 「見てください。」
 セブンはそう言うと、すっと男性を指差した。
 見詰める先、男性の向こう側が微かにだが見える。・・・つまり、彼は透けているのだ。淡く、向こう側が見えるほどに・・・・・。
 「・・・死んでるって事・・・?」
 「解らないわ。」
 冬夜の言葉に、翔子が力なく首を振った。
 持たれたナイフに視線を注ぐ。
 自分達が持っている果物ナイフとはちょっと違う、もっと殺傷能力の高そうなナイフに思わず顔をしかめる。
 「ど・・・どうしましょう・・・。」
 CASLLが不安そうに男性とこちらを交互に見比べる。
 ピクリと、男性が動き始める。1歩、また1歩、近づくたびに男性の呼吸が荒くなる。
 肩で息をして、まるで何かに狙いを定めるかのように―――
 『・・・霧・・・支配・・・町・・・全て・・・飛ばされ・・・虹・・・世界を・・・物質・・・創る・・・其れ・・・大切・・・ここ・・・イレイヴ・・・死・・・助け・・・殺・・・血・・・』
 単語単語に区切られた言葉は、あまりにも意味を成さなかった。
 それでも、その単語に重要なヒントが見え隠れしている事は確かで―――
 ゴクリと息を呑む音が聞こえる。それは些細な音であるにも拘らず、あまりにも大きく響いた。
 「・・・来ます・・・っ・・・!」
 セブンの言葉を合図に、3人はバラバラの方向に走った。
 「一先ず、どこかに隠れましょう・・・!」
 翔子の声が響く―――
 敵は誰を追って良いのか解らずに、思わず躊躇し・・・その隙に手頃な場所に身を隠す。
 『・・・殺・・・死・・・血・・・イレイヴ・・・虹・・・終わり・・・創る・・・芽・・・』
 そう呟きながら、敵は食品コーナーの方へと歩いて行ってしまった―――


◇ 分担 ◇


 「イレイヴ・・・?」
 セブンはそう呟くと、柱の影から姿を現した。
 CASLLがベンチの下から、冬夜が服売り場の商品棚の下から、翔子がベンチの陰からそっと姿を現す。
 「それだけ・・・カタカナ・・・だったよね。」
 「何か意味があるのでしょうか?」
 「解らないわ。・・・とにかく、手分けして情報収集をしましょう。ここが何処なのか、虹の球体が何なのか・・・」
 「・・・どうすればこの世界から出られるか・・・ですね。」
 「まずは・・・此処がどこなのか・・・正確に知らないとだね。」
 「さっきの方は、食品街の方に行きましたよね・・・。」
 CASLLがそう言って、顔を上げた。
 「そうね・・・どうしましょうか・・・。」
 「私が行きます。」
 キッパリと言ったCASLLの顔を、他の3人が穴が開くほど見詰める
 「・・・危険だよ・・・?」
 冬夜が心配そうな顔でそう呟き・・・CASLLが軽く首を振った。
 「それでも、水や食料は必要です。それに・・・皆さんにもやっていただきたい事があります。」
 「なんですか?」
 セブンが小首を傾げ・・・CASLLがすっと書店と雑貨屋を指差した。
 シャッターが硬く閉じており、格子越しに見える中は薄暗い。
 「雑貨屋では、何か武器が見つかるかも知れませんし、書店では何か情報が手に入るかも知れません。」
 「えぇ。そうね・・・でも、シャッターをどうしましょうか・・・。」
 「鍵とか・・・探せば落ちているかも知れませんね。」
 そう言うセブンに、翔子が困ったような顔をしながらそんなに上手く行くかしらと呟く。
 ゲームの世界ならいざ知らず・・・これは現実だ・・・。
 「玖珂さんは、服売り場でなにか適当な服を見繕ってください。ここは・・・寒いですし・・・。」
 「うん・・・そうだね。・・・解った。あと、もし・・・できるようならあそこの喫茶店も見てみるよ。」
 そう言って、入り口近くの喫茶店を指差す。
 「私は食料品や飲み物を中心に探して見ます。」
 「気をつけて・・・」
 「何かあったら呼んでください。」
 翔子とセブンがそう言い、じっとCASLLを見詰める。
 「電話・・・してくれれば・・・直ぐに行くから。」
 まったりとした口調で冬夜がそう言い―――それじゃまた後でと言ってCASLLが食品街の方へと走って行った。
 「気をつけて・・・!」
 背にかかる言葉に、片手を上げて応えるとそのまま左手方向へと伸びる道へと姿を消した。
 「大丈夫でしょうか・・・。」
 「大丈夫よ。それよりも、CASLLさんがあっちで頑張っている間にこっちもどうにかしないと・・・それにしても、シャッターをどうしましょうか・・・。」
 「俺も・・・手伝った方が良い?」
 冬夜の言葉に、翔子が少し考えた後で大丈夫だと首を振った。
 「それよりも、冬夜君は何か着る物を・・・」
 「分かった・・・それじゃぁ、何かあったら呼んでね・・・?」
 冬夜がそう言って、服売り場へと走って行く。
 その後姿を見詰めながら、来るものを拒むように下りているシャッターをまじまじと見詰めた・・・・・。
 「さぁて、どうしましょうか。」
 「シャッターに、鍵穴があります。ここに鍵を差し込めば良いのでしょうが・・・」
 セブンが小さな鍵穴を指差しながら言って、周囲を見渡した。
 それにつられて翔子も周囲を見渡し・・・・・


◆ 捜索 ◆


 「鍵なんてどこかに落ちているものかしら・・・」
 「普通に考えれば確率的に落ちていると言う事はあまり考えられませんが・・・あ・・・っ。」
 キョロキョロと周囲を見渡していたセブンの瞳が、シャッターの上部に向けられて止まった。
 シャッターの一番上、青いタグのついているソレは―――
 「嘘でしょう・・・鍵・・・?」
 何処の鍵だかは解らないものの、シャッターの一番上の段には確かに青いタグのついた鍵が引っかかっていた。
 落ちそうで落ちない、微妙な位置は・・・それこそ、ガチャガチャとシャッターを揺らせば落ちてくるくらいで・・・。
 けれどもし、シャッターの内側に落ちてしまったならば・・・
 「あれを使えば・・・届くかもしれません。」
 セブンがそう言って、すっと青色のゴミ箱を指差した。
 ベンチとベンチの間に押し込まれるようにしておいてあるソレは、少し不安定そうではあるが・・。
 「私が上るから、セブ・・・っと、ななさん・・・は、下を押さえていてくれるかしら?」
 「分かりました。お任せ下さい。」
 セブンがコクリと頷き、青色のゴミ箱を持ってくるとトンとシャッターの前に置いた。
 翔子がそうっとその上に乗り・・・セブンがしっかりとゴミ箱を押さえる。
 ぐらぐらと安定感のない上で、そっとシャッターに手をかけ―――指先で鍵をこちらに引き寄せる。
 取れた・・・そのままポンと身軽にゴミ箱の上から下りると、シャッターの鍵穴に入れた。
 スっと上手く入り、右に回すとカチャンと小さな音がした。
 キィーっとか、甲高い音を立てながらシャッターが開き・・・もしかしたら先ほどの男性が音を聞きつけてやって来るかも知れない。
 そう思い、警戒するもののソレらしい音は聞こえて来ない。
 「開いたわ・・・。」
 「雑貨屋の方もその鍵で開くのでしょうか?」
 「やってみて損はないわね。」
 翔子が頷き、鍵穴にそっと鍵を入れ、右に回した。
 先ほどと同じように、甲高い音を立てながらシャッターが開き・・・
 「開いたわ・・・。」
 「良かったです。」
 セブンが思ったことを素直に言葉に出し、ほんの少しだけ、ほっと安堵したような表情を見せる。
 「とりあえず、一緒に動いても仕方ないわね。書店と雑貨屋、二手に別れましょう。」
 「火宮様は、書店の方をお任せしても宜しいでしょうか?」
 「えぇ。良いわ。何かこの世界に関する資料があると良いんだけれども・・・」
 翔子の呟きに、コクリと1つだけ頷いて見せ、セブンは雑貨屋へと足を向けた・・・・・
 暗い店内を見渡した後で、壁に沿って歩き・・・手に触れた小さな突起を押し込む。
 パチっと、小さな音が上がり店内が明るく染まり―――
 まず一番最初にセブンの目に飛び込んできたのは日用雑貨のコーナーだった。
 台所用品、お風呂場用品・・・
 セブンは台所用品のコーナーに向かうと、並んでいる包丁を手に取った。
 壁際に置いてある黄色い買い物カゴを掴んで、その中に使えそうなものを次々と入れて行く。
 工具に縄に・・・双眼鏡に、ポリタンク・・・
 勿論自分ではポリタンクは必要ない。これは、水を飲まなければならない他の3人のためのものだ。
 人間は水を飲まないと死んでしまうから―――
 あと、懐中電灯もあって損はないかも知れない。
 そう思い、クルリと踵を返し、懐中電灯を探す。
 少し奥まったコーナーに大小様々な懐中電灯が陳列されており・・・セブンは中ぐらいの大きさの懐中電灯を掴むと、4つカゴの中に入れた。
 ついでに電池も探し、少し考えた後で小さな懐中電灯も4つカゴの中に入れた。
 予備用に・・・この先、懐中電灯が再び手に入るかどうかは分からない。電池も、あって損はない。
 棚の1つ1つを丁寧に見て回り、使えそうなものを探す。
 ゴミ袋に、コピー用紙に、洗濯バサミに・・・これは・・・?
 ハタと足を止めると、視界の端を掠めたものを見詰める。
 銀色に光る―――鍵・・・だろうか・・・?
 どうしてこんなところに鍵なんて?
 鍵のコーナーはもっと入り口近くの場所に置かれていたはずだ。それに、これは生身のまま無造作に置かれている。
 先ほど見た鍵達は、透明な袋に入っていたと言うのに―――なんだか、気になる。
 セブンは散々悩んだ挙句、鍵をそっと手に中に入れた。
 買い物かごのなかにストリと落とし・・・随分と重たくなってしまった買い物カゴを両手で掴み、入り口まで行くと1回だけ中を見渡した。
 そして、少し考えた後で壁の電気をパチリと消した。
 ・・・それに意味があるのかどうか、自分自身に問いながら―――


◇ And ◇


 リュックの中に、ものを詰め込む。
 冬夜が見繕ってきたリュックは中々軽く、容量が大きく勝手が良かった。
 洋服を畳んで中に入れ、CASLLが見繕ってきた食料品と水、薬品関係を丁寧に入れ、セブンが無言で懐中電灯を2本差し出す。
 小さいものと、中ぐらいのもの―――丁寧に電池までついている。
 「・・・あ・・・あの、皆さんに・・・見て頂きたい物があるのですが・・・。」
 CASLLが不意にそう言うと、買い物カゴの中から1冊のノートを取り出した。
 パラパラとページを捲り・・・3人がソレを覗き込む。
 『12月10日:レイン・シェフォード、12月11日:ウェバー・ゲイル、12月12日:シェリア・メイファ』
 「カタカナ名・・・ですね?」
 セブンの呟きに、CASLLはただ頷いた。
 パラパラと、更に先のページも捲る・・・それは、12月23日で終わっていた。
 『12月23日午後10時:ディー・セヴェル』
 「恐らく当番表などの類のものだと思うのですが・・・一番見て頂きたいのはこちらです。」
 パタンとノートを閉じ、表紙を3人に見せる。
 『2000年、冬』
 「え・・・2000年・・・?」
 驚きの声を上げ、冬夜が目を丸くさせる。
 パチパチと大きな瞳を瞬かせ―――
 「そうね・・・麗夜さんの世界だから、あり・・・だと思うわ。未来の世界にも繋がっていたはずだし・・・」
 ではここは過去の世界なのだろうか?
 いや・・・違う気がする。
 どこが違うとは明確には言えないけれども―――
 「私もね、見て貰いたいものがあるの。」
 翔子はそう言うと、手に持った本を3人に手渡した。
 パラパラと捲る・・・そして、3人ともあるページでピタリと手を止めた。
 
  『Elave:イレイヴ』

 「町の名前だったんですか・・・?」
 自然豊かな観光の町と書かれており、その下には詳細な地図がつけられている。
 「・・・ここって・・・本当に日本なのかな・・・?」
 冬夜がそう言って、すいと視線を下げた。
 「さっき、値札を裏返してみたら、1円単位まで細かく書かれてたし・・・喫茶店のレジには、ドル札が入っていたんだ・・・。」
 「私も気になっていたの。」
 「そうですね。どこか不自然と言いますか・・・。」
 「何かが、違うんですよね。」
 「ここは“誰かによって創られようとしている”世界だから。そう・・・オリジナルを基に進化する・・・いわば、途上の町。」
 凛と響く声は艶かしく、コツコツと響くヒールの音は高い。
 入り口の方を振り向く・・・胸の部分を大きく開けた服を着て、金色の髪を靡かせながら、マルケリアが入って来た。
 右手には先ほどの男性を持ち―――ぐったりと動かない男性をその場にグシャリと落とすと、4人の目の前でピタリと歩を止めた。
 「お買い物は終わったかしら?」
 「マリーさん・・・」
 「はぁい。さっきも会ったけれど・・・相変わらず凛とした美人ね、翔子。そして・・・後の3人は初めましてね?私は・・・あぁ、その顔。翔子が先に紹介していたのかしら?」
 「えぇ。」
 「それならば私にも紹介してくれないかしら?この先も会う事になるでしょうし・・・名前も知らないんじゃぁ、あんまりだもの。」
 「ななと申します。正式にはマシンドール セブンですが・・・。」
 「CASLL TOと申します。」
 「・・・玖珂 冬夜って言います。」
 「ななに、CASLLに、冬夜・・・ね。覚えたわ。・・・それで、お買い物は終わったかしら?」
 マルケリアが一番最初にしたのと同じ質問を4人に向ける。
 「マリーさん、その前にこっちからも訊きたい事が・・・」
 「駄目よ。ゲームにはルールしか要らないの。先にヒントを得てしまっては駄目。」
 そう言うと、悪戯っぽく微笑む。
 これ以上は何を訊いても無駄そうな雰囲気に、思わず溜息が漏れる。
 「マリーさん・・・1つだけ、訊いても良い?」
 「踏み込んだコトでなければ。今、貴方達が知っておかないといけない情報内なら。」
 随分と難しい事を言う。
 冬夜はしばらく考えた後で、ゆっくりと口を開いた―――
 「ここは、日本じゃない・・・よね・・・?」
 「そうね・・・オリジナルは日本じゃないわ。“Elave”は日本ではない。けれど、日本に限りなく近い。」
 「どう言う―――」
 「それを考えるのが、貴方達の役目。オリジナルは日本ではない。けれど、ここは限りなく日本に近い。どうしてか?答えは1つ。けれど、それを導き出すのは容易ではない。今はまだ、情報量が少なすぎるわ。つまり、今はまだ知らなくても良い事。」
 ふわり、薔薇の香りを撒き散らしながらマルケリアが髪を肩から払った。
 キュイっと口の端を上げる。
 真っ赤なルージュが蛍光灯の光を受けて生々しい程に赤く光る・・・。
 「情報を見つけ、頭を使いなさい。どんな些細なものでも、見逃してはいけない。どんなものにも、意味はあるはず。私がここに居る事も、貴方達がこの世界に居る事も、全てが偶然の必然。必然が故に偶然・・・。」
 不思議な言葉を繰る。
 曖昧に濁された言葉は、まるで霧のようだった。
 一寸先は見えない。けれど、その先には確かに何かがあるはずだった・・・。
 「先ほど貴方達を襲ったあの男は、この町に住んでいた者。ここの住民達は、例外を除いて全ては“victim”となり、貴方達に襲い来る。最も、敵は“victim”だけじゃない。けれど、貴方達が出会うまで、私は言わない。」
 「例外を除いて・・・ですか・・・?」
 「貴方達も会っているはずよ。教会に住まう一人の少女・・・他にも、居るかも知れない。自らの意思を持った・・・名を持つ存在が。」
 「それは、どう言う・・・」
 「ここでのおしゃべりはもうコレでお終い。貴方達は次の部屋に進まなくてはいけない。虹の球体を探さなくてはならないから。」
 「虹の球体とはなんです?」
 「見れば解る。世界を創りし要素の入った、モノ・・・。さぁ、なな・・・鍵を出して。」
 「・・・え?」
 セブンの瞳が大きく見開かれる。
 「鍵を、見つけなかったかしら?次へと進む鍵を。」
 その言葉に、セブンがすっとリュックの中から小さな銀色の鍵を1つ取り出すと、マルケリアに手渡した。
 それを手に取ると、マルケリアがスタスタと歩き出し―――エスカレーターの前でピタリと止まった。
 閉じたシャッターの鍵穴に細い針金を通し、ものの数秒でカチリと開ける。
 ガラガラと両手でシャッターを開け・・・
 「この先、エスカレーターの向こう。何処に繋がっているのかは解らない。貴方達が、同じ場所に飛ばされるとも限らない。」
 その言葉で、4人は互いの顔を見詰めた。
 折角出会った仲間だけれども・・・先に、進まない事にはどうしようもない。
 4人は決心を決めると、マルケリアに1つだけ頷いて見せた。
 それを確認した後で、エスカレーターの側面にある小さな鍵穴に鍵を差込み、右に回した。
 小さな機械音とともに、エスカレーターが動き出し・・・
 「マリーさん。ここは、実在した町なのでしょうか?少なくとも、2000年までは・・・」
 動き出したエスカレーターを見詰めながら、CASLLがマルケリアにそう問いかけた。
 「2000年の12月24日に“Elave”は“霧の町”となった。それは・・・創りし者の、意思。」
 ・・・それは、どう言う事なのだろうか・・・?
 創りし者の意思・・・・・??
 混乱する頭の中を見透かしているかのように、1つだけ小さく微笑むと、ポンと軽く背中を押した。
 それを合図に4人が次々とエスカレーターに乗り込み―――
 「決して自分を見失っては駄目。名前は、決して忘れてはいけない。この世界で、名前は大切な要素の一つだから・・・」
 マルケリアの声が、段々と遠くなる。
 ・・・ソレと同時に、意識が・・・体から離れていくような感覚がする・・・


 ―――目の前が、真っ白な霧に覆われる


   耳の奥に、エスカレーターの小さな機械音を響かせながら・・・



          ≪ END ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3974/火宮 翔子/女性/23歳/ハンター

  3453/CASLL TO/男性/36歳/悪役俳優

  4410/マシンドール セブン/女性/28歳/スペシャル機構体(MG)

  4680/玖珂 冬夜/男性/17歳/学生・武道家・偶に頼まれ何でも屋

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『Misty Town ---始---』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座います。(ペコリ)
 マルケリアは、敵なのか味方なのかの見極めが重要だったりします・・・。
 前回のお話ではギリギリ味方だったマルケリアですが、今回のお話ではどうでしょう・・・今のところは味方のようですが・・・。
 次は何処の場所に繋がっているのか・・・勿論、スーパーの2階に繋がっていると言うわけではない・・・と、思いますが・・・。

  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。