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■CallingU 「小噺・除夜」■

ともやいずみ
【1600】【天樹・火月】【高校生&喫茶店店員(祓い屋)】
 今日で今年も終わってしまう……。
 そして、新たな一年の始まり。
CallingU 「小噺・除夜」



 一年も無事に終わりそうだ。
 神社への道中、天樹火月は見知った人物を見かけた。
(あれは……)
 ぼんやりと歩いている遠逆日無子を見つけたのだ。
(遠逆……さん?)
 人の流れとは逆方向に歩いていく日無子は、今日はあまり目立っていない。
 まあ年末……しかも大晦日だ。日無子のような格好の者も、多いのかもしれない。
「遠逆さん!」
 声をあげて日無子に駆け寄る。
 日無子はぴた、と足を止めて肩越しに火月のほうを見遣った。
 生気のない眼だ。
 驚く火月は思わず動きを止めてしまった。
「あれ〜? どうしたの?」
 すぐさま笑顔になる日無子は「ぶふー」と笑う。
「今のナイスリアクションだった! うぷぷ……! 今の顔ったらないよ!」
「! い、今の演技だったんですか!?」
 顔を赤らめて仰天する火月に、日無子はふふんと笑ってみせる。
「あなたの声は憶えてるからね。声をかけてきた相手がわかればこういうイタズラもできるってこと」
「あんな怖い目をしておいてよくも……」
「いいじゃーん。ちょっとしたオ・チャ・メ・だよ」
 ウィンクする日無子は上から下まで火月の格好を見て「ほほう」と声を出した。
「ああー、お参り? そういえば大晦日だっけ」
「遠逆さんは違うんですか?」
「所用でここに居ただけ」
 お正月とかどうでもいいやという口調の日無子に、火月は呆れる。
 本当に自分より年上なんだろうか。
(目を離すととんでもないことしそうだよな、この人……。同い年でも全然普通に通じる外見だし)
「そうだ。遠逆さん、一緒にお参りに行きませんか?」
「えー、やだー、デートのおさそいー?」
 物凄くオーバーな言い方をする日無子の前で、火月は反応に困った。
 どうしてこの人はここまでわざとらしい言い方をするのだろうか……からかわれているのか? 自分は。
 日無子は背筋を正してふっと笑う。
「冗談よ。お参りねえ……なにが面白くてそんなことしてるわけ?」
「面白いからするんじゃないんですが……」
「ふーん。暇人なのね」
「あ……もしかして、もうお参り終わった……とか?」
 だから逆方向に歩いていたのだろうか?
 日無子は首を横に振る。
「そんなもんしてない」
「そんなもんって……」
「いや、うちって無宗教だしね。参ってもなんかいいことがあるわけでもないし」
「…………遠逆さんて、日本人だよね?」
「そうだよ? どう見ても日本人じゃないの。あたしが外人に見えるっていうわけ?」
 胸を張る日無子に、火月は「はあー」と溜息をついた。
(もはや宇宙人の領域だと思う……遠逆さんは)
「一緒に行きましょう。とりあえずお参りしておいて損はないですから」
「ほほう。その根拠は?」
「ありません」



 人込みを進む中、火月は日無子が歩き易いようにと思って気を配っていた。
 日無子は周囲をまったく気にしない。
「あ! 危ないです、そっち」
 集団でこちらに向かってくる人々に気づいて、火月は日無子に言った。
 どうやらあの集団はお参りを済ませたらしい。わいわいと楽しそうに喋りながら歩いている。
「遠逆さん、こっち……」
 日無子の手を掴んで引っ張った。
 彼女は何も言わない。
「す、すみません……こんなに人が多くなるなんて……」
 怒っているのだろうかとうかがう火月は、彼女の手を握ったままなのに気づく。
 あ、と小さく声を洩らした。
(やっぱり、女の子の手だ)
 小さい。けれども、硬かった。
 掌の皮は硬く、マメの潰れたあともある。
 戦士の手だ。
 たたかうもの、の手だ。
「天樹さん、どしたの?」
 日無子の声に火月は自分の手を見遣った。日無子の手を握っている、左の手。
 ガラにもなくじっとりと手に汗をかいていたことに我に返り、火月は手を離そうとする。
「あ、ご……」
「なに? 手? ああいいっていいって。あたしは手が冷たいからね、天樹さんくらいのほうが丁度いいよ」
「いや、俺は汗かきってわけじゃ……」
 言われてみて、日無子の手がひんやりしているのに気づいた。確かに今日も寒い。
 火月に手を握られていても嫌な顔一つしない日無子は増えてきた人に押されるようになっていた。
 彼女は笑う。
「すっごーい。人が多いとこうなるんだね。ぎゅうぎゅう。牛が満員電車にいる時」
「それ知ってますよ。牛だからギュウギュウなんですよね」
 微笑むと、日無子も微笑み返してきた。
「そうそう! なかなかうまいこと言うよね」
「そうですか? あれってナゾナゾみたいなものでしょう?」
 日無子が言った『牛が満員電車にいる時はなんて言う?』という感じのなぞなぞだったような……。
「あれ? そうだっけ?」
 首を傾げる日無子の行動に火月は小さく笑う。
(そうだよな。遠逆さんは退魔士なんだから……手にマメがあっても当然、だし)
 なにを緊張してしまったのか。
 知っていたけれど、実感した……からだろうけど。

 お参りをして、願い事を……。
 賽銭箱にお金を投げ入れた火月を、日無子はじっと見ている。
「ん? どうしました?」
「いや……」
 日無子はごそごそと衣服から小銭を探す。10円が2枚だ。
「これでいいのかなぁ……」
「いいですよ?」
「ほんとに? 賽銭箱にお金投げたことなくて……」
 後頭部を掻いてから、日無子はお金を賽銭箱に投げ入れた。
 火月のしぐさを真似て、両手をパンパンと合わせる。
 瞼を閉じて真剣に願い事をしている火月を、日無子はぼんやりと見ていた。勿論、瞼を閉じている火月は彼女に見られていることなど、知りもしなかったわけだが。
 それを終えて、二人は人の流れに押されるように神社をあとにする。
「なーんでこんなに人が多いのかしら。みんな暇なのねえ」
「一応大晦日……。あ、もう新年ですけど」
 腕時計を見て火月がやっとそのことに気づいた。
 あけましておめでとうございます、と日無子に言う。
「…………うん、おめでと」
 ぼそっと呟く日無子は、たいしてめでたくないようだ。
 自動販売機を見つけて火月が指差す。日無子は頷いた。
 甘酒を買う火月を観察していた日無子に、彼は不審そうだ。
「あの……なんでそうじろじろ見てるんです……?」
 なにか変なことをしたんだろうか、自分は。
 不安そうな顔をする火月に、彼女はにんまりと微笑んだ。
「べつに。気のせいだよ。気のせい」
「……視線を明らかに感じてたのに気のせいはないでしょう?」
「まあそう言わないで」
 日無子はまたもごそごそと着物から小銭を探して自動販売機に入れる。
 この人は財布というものを持っていないのだろうかと火月はぼんやり思った。
 日無子はポタージュスープを買う。
「甘酒にすればいいのに」
「そんなのあたしの好みの問題でしょ」
「それはそうですけど……。美味しいのに、甘酒」
 甘酒を飲みながら火月は嘆息した。
 人込みを抜けたこともあり、火月はやっと落ち着けるなと安堵する。
「遠逆さんはどんなことをお願いしました?」
「え? あたし?」
 日無子はちら、と火月に目配せをするとふふっと軽く笑った。
「してないなー。全然」
「してない? なにもですか?」
「だって神さまとか信じてないんだよね」
 さらっと言い放った日無子に、火月は苦笑する。
「叶うかどうかじゃなくて、願うことが大事なのに」
「お。なんかかっこいいこと言うね」
「そんなんじゃないですって」
「そっか。願うこと、ね」
 遠い目をして空を見上げる日無子。つられて火月も見上げた。
 空はまだ暗く、星がまたたいている。
「キミはどうなの、天樹くん」
「俺ですか?」
 そう言ってから、火月はバッと日無子を見遣った。
 彼女はこちらを見ていない。
 だが。
(いま……『天樹くん』って…………)
 聞き間違いじゃない……はず。
「み、皆や日無子さんが怪我をしませんように……かな」
「そう。でも難しいなあ。あたしは職業柄、ケガはしちゃうと思うんだよね」
 星空をじっと見て、そう言う日無子。
 彼女の色違いの左眼がやけに暗い。
「ケガとかするの嫌いだから、滅多にないとは思うけどね。女の子だし、ケガとかあったら困るし」
 瞳の陰の深さと違って声と口調は明るい。
 それがやけにバランスが悪くて……火月は小さく身震いした。
 それを誤魔化すように火月は日無子に向けて言う。
「そうですよ。日無子さんは女の子なんですよ? この間は本当に驚いたんですから」
「まあ血まみれで現れたらびっくりするよね。うん、それはわかる。どこの幽霊かと思うよ」
「幽霊と思うのは日無子さんだけ。普通は事故にあったか殺人事件や殺傷沙汰に巻き込まれた人だと思います」
「やぁだ。あたしがフツーの人間にやられるわけないじゃ〜ん!」
 爆笑する日無子であった。確かに彼女の言っていることは正しいだろう。
 火月は持っていたカバンから何かを取り出した。
「日無子さん、これ」
 彼女に差し出したのは小さな袋だ。
 日無子はそれと火月を交互に見て疑問符を浮かべる。
 日無子の手を掴み、袋をぽん、と掌に乗せた。
「この間助けてくれたお礼です。今日……あ、昨日作ったんですけど……よければ」
「クッキー?」
「はい。この間助けてもらった時に俺、クッキーの材料を持ってて。戦わなくて済んだから材料が無事だったんですよ」
「ああ。そういえばなんか荷物持ってたね」
「人込みの中にいたので、もしかしたら……多少は潰れてるかもしれないですけど、味は保証します」
 自信を持って言う火月をじっと見て、ふーんと日無子は声を洩らす。
「そっか。お礼なら、貰わないわけにはいかないか」
「? もしかしてクッキーとか……苦手ですか?」
「甘いものは食べれるよ。味音痴とは言わないけど……あんまり味わって食べないからなあ……」
「味わって食べないって……早食いでもしてるんです?」
「惜しい! それに近いね。腹に入ればみな同じなのよ、あたしにとっては」
「…………作り手にとっては腹立たしい発言ですねえ、それ」
「えー、そういうもん?」
「味わって食べてください。『お礼』なんですから」
「う……。わかったわよ」
 日無子の言葉を聞いて火月は満足そうに微笑む。
「それではまた」
「え? うん、また」
 つられるように返事をした日無子の言葉に火月は手を振ってその場を後にしたのである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1600/天樹・火月(あまぎ・かづき)/男/15/高校生&喫茶店店員(祓い屋)】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、天樹様。ライターのともやいずみです。
 手を繋がせてみました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!