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■CallingU 「小噺・除夜」■

ともやいずみ
【5682】【風早・静貴】【大学生】
 今日で今年も終わってしまう……。
 そして、新たな一年の始まり。
CallingU 「小噺・除夜」



 ざんざんざん。
 そんな足音をさせて。
 気合いの入った足音をさせて風早静貴は近所の小さな神社へ向かっていた。
(もはや神頼みしかないっ!)
 来年の講義の回数を計算しても、全部出ないとまずい。とってもまずい。
 留年なんてしたくないっ。こうなったら神さまに頼むしかないだろ!
(でも寒い……)
 夜道はとても暗く、寒い。
 小さく震えて空を見上げる。
「あ。月」



 小さな神社とはいえ、近所の人はみなそちらへ向かう。
 結構な人の多さだ。
 静貴は人の流れにのって歩いた。
(そういや、歌合戦は今ごろ誰がやってるのかな……)
 ぼんやりとそう思いつつ、出店のほうを眺める。
 なんかいいにおい。おなかがすく……。
「たこ焼き……あとは焼き鳥……リンゴあめ。それに……」
 急速におなかがすいていく。
 溜息をつきかけた時、視界に紫が入った。
 そのまま視線を前に戻して歩き続けて。
(えっ!?)
 と、思って振り向く。
 紫というキーワードは、静貴の中ではある人物に結びつくものだ。
 遠逆欠月。
 退魔士の少年。
「えっ? えっ?」
 きょろきょろと先ほどの紫色を探す静貴は、やっと見つける。
 見間違いでも勘違いでもなく、遠逆欠月本人だ。
 彼はいつもの濃紫の制服姿で出店の前に立っている。
「あっ、あっ」
 行っちゃう! 早くしないと!
 慌てて静貴は流れに逆らって欠月のほうへ向かった。
(どうしたんだろう、こんなところで。欠月君も初詣なのかな。それとも…………)
 仕事?
 そう思って、ちょっと考えてしまう。
 仕事だったら邪魔をするのは悪いだろう。暇だったらいいけど。
「欠月君!」
 声をかけると欠月がこちらを振り向く。
 微笑する欠月は本当に綺麗な男の子だ。
(う、うわぁ……。ほんとに美形だよなあ、欠月君て)
 実感する静貴であった。
「風早さん。こんばんは」
「えっ。あ、うん、こんばんは」
「お参り?」
「う、うん」
 先に、言おうと思っていたセリフを言われてしまい、静貴はただ返事をするだけになってしまう。
「欠月君はっ!? お参り?」
「いや、仕事でちょっとこっちに用があってね」
 あ。やっぱりそうなんだ。
 落胆する静貴は「へえ」と小さく呟く。
「お仕事どうだった?」
「普通。終わったよ、もう」
「えっ。じゃあもう暇なの?」
「あとは帰って寝るだけだね」
 欠月の言葉に静貴は顔を輝かせる。
 これは誘うべきだ! 誘おう!
「一緒にお参りしない!?」
「え……。でも、ボクの家は無宗教だし……」
「そうなんだ。でもそれなら僕もそうだよ。なんとなくお参りだけは行ってるんだー」
 嬉しそうに言う静貴の前で、欠月は苦笑した。
「いつも元気だね、キミは」
「えっ? そ、そうかな」
「そうだよ。無駄に元気」
 笑顔で言われたが……もしかしてバカにされたのだろうか……?
(ううん。そんなことないよ。欠月君はとってもいい子だもん)
 そう考えて、欠月がふつうの人とズレていることを思い出す。
(いや、うん、そんな、ねえ?)
 つうっと、頬に汗が流れてしまう静貴であった。
「あ、そ、そうだ。欠月君おなかすいてない? 何か食べる? 今日ちょっとお金持ちだから奢るよ!」
 張り切って言う静貴を見て、欠月はくっくっ、と喉を鳴らす。
「ほんとに元気だなあ。いいよ、じゃあ奢るのを代価にしてお参り、付き合ってあげる」
「え? なになに? どういうこと?」
「奢ってくれるのを代償にして、静貴さんのお参りに付き合ってあげると、ボクは言ったの」
「?? よ、よくわかんないけど……一緒にお参りするってこと?」
「後でたこ焼き買ってくれるならね」
 微笑む欠月の前で、静貴は心底嬉しそうに頷いたのであった。



 縁起をかついでお賽銭は二十五円、だ。
 願うことは無病息災! そして留年回避!!
 パンパン! と力強く両手を合わせて真剣に祈る静貴である。
 横に立つ欠月はそれを見遣り、小さくくすくす笑っていたのに静貴は気づかなかった。

「よーっし! お参り終了っと!」
「……すーっごく真剣な顔で願ってたけど……なんかあったの?」
 欠月の問いに静貴はよくぞ聞いてくれた、という表情をする。
「実は僕ね、大学生なんだけど」
「知ってるよ」
「こ、講義に出てる回数……出席回数がね、ぴ、ピンチなんだよ……!」
 絶望的に言う静貴の横に並んで一緒に歩く欠月は「はあ」と気のない相槌をした。
「ことあるごとに、姉が! 姉がね! 僕に仕事を押し付けるんだよ! それで出席が……っっ」
「なるほど……。だからそれを神頼みってわけか」
「そうなんだよ! 留年とか冗談じゃないからっ!」
「……ふーん。解決方法はあるよ」
 さらっと欠月が言う。
 静貴は彼を見た。
「お姉さんを殺すっての、どう?」
「…………………………はい?」
「じゃあ静貴さんが仕事をせずに放置しておくってのどう?」
「こ、怖いッ! 怖いよ欠月君、発想が!」
「いいじゃない。しょせん困るのは他人だもの。
 静貴さんが仕事を放置しておけば、お姉さんの評判は悪くなるでしょ? 仕事もこなくなる。そうすればキミも万々歳。どうかな」
 ひええええええええーっっ!
 なにを笑顔でさらっと言ってるんだ、この人は!
「ああ、でもお姉さんを殺したらキミに負担がいくわけだから困るねえ」
 って、なんでそんな綺麗な笑顔で! 声と表情が合ってないからっ。
 青ざめる静貴の心の叫びなど知らず、欠月はふふっと軽く笑っている。
「か、欠月君……いつもそんな感じのこと考えてるの?」
「ええ? まさか」
 またそんな綺麗な笑顔で……。
 静貴はふふっと乾いた笑いを洩らす。
「えーっと、あとは健康についてお願いしたよ。無病息災」
「へー」
「へーって……欠月君だって健康じゃなかったら困るでしょー?」
「…………」
 無言になる欠月が首を傾げる。
「だってボク、病気になったことないからさ」
「……ないの?」
「ないね。記憶にある範囲で、だけど。風邪もひいたことないし。病気になるって、辛いっていうけどほんと?」
 無邪気な顔で問われてしまい、静貴はうーんと唸った。
「熱が出ると正直辛いよ。意識が朦朧とするし、頭はガンガンするしー」
「…………やっぱりそっか」
 そう呟いた欠月の表情は。
 静貴は怪訝そうにする。
「欠月君、病気になるのに対して嫌なことでもあったの?」
 思わずそう訊かれた欠月は、青ざめていたのだ。
 欠月はそれに気づいたようで「あれぇ」と気の抜けた声を洩らす。
「全然憶えはないんだけど……。もしかして、以前になったことあるのかも……。ほら、忘れていても、身体は覚えてるってやつ?」
「だ、大丈夫?」
「うん。気持ち的には落ち着いてるから。そっかー。病気になったことあったのか、ボク」
 へー、とか、ふぅん、とか呟く欠月であった。

 出店を二人で眺めている時に、静貴は訊きたかったことを口にする。
「そういえば欠月君ていつも制服だよね。大丈夫? 寒くない?」
 どこの制服なんだろうか。欠月は高校には行っていないはずだし。
「…………寒く見える?」
「見えるよ」
 せめて上着とか……コートでも着ていればいいのに。
 静貴の横で彼は微笑する。
「まあ、寒いんだけどね」
「やっぱり!」
「でもこれが仕事着だから。特殊なんだよ、これ」
「どう見ても制服にしか見えないけど……」
「ははっ。そうだね。それは思う。いや、でもボクに似合うでしょ? だから選んだだけ」
 欠月は制服を見下ろす。
 どこか、嫌悪に染まった瞳を一瞬……。
(欠月く……)
「やあ、でも結構暖かいよ? あれかな。冬は暖かく、夏、涼しく」
「……なにそれ」
 尋ねるタイミングを逃した。
 そう、静貴は思う。
 いいや。見ては、気づいてはいけないことだったのかも。けれども。
(あんな目……するんだ。欠月君でも)
 欠月はいつものように微笑する。
「他の仕事着ってね、ショボいのばっかりだったんだよね。あれ着るくらいなら……さ」
「そんな遠い目しなくても……」
「あ、でもね。ボクはいつもこの格好ってわけじゃないから誤解しないでほしいな」
「え? 違うの?」
「仕事が入ってる時はさすがにこれ着ないと危ないから仕方ないけどさ。
 仕事の全然入っていない、例えば、買い物にしか行かない日には普段着だよ? コートも着てるよ? だから大丈夫」
 にっこりと笑う欠月に、そうなんだと納得する静貴であった。
 戦闘の時にコートなどを着ていれば……確かに邪魔になることもあるだろう。できるだけ衣服は軽いほうがいいのは道理だ。
「そういえば欠月君は今日も仕事だったっけ。大変だね」
「大変といえばそうかも。でも、もう半分くらいは封印したし?」
「は?」
「憑物封印ってのしてるの。それが目的で東京まで来てるんだよ、実は。四十四の憑物を封じるのが、ボクの一番のお仕事だから」
 初耳だ。
 静貴は呆然とした表情になる。
(そっか。欠月君は東京の人じゃないんだ……)
 見かけない人だなとは、思っていたし……。
 沈みかけた気持ちを浮上させ、静貴は頷く。
「そーなんだ。欠月君はその憑物封印をするのが目的だったんだ」
「まあね。でもこれさ、すごいことなんだよ。腕がないと任せてもらえない特別な仕事なの」
「へー。すごいね」
「ボクは強いから、当然とは思う」
「自分で言わないでよ、欠月君」
 呆れる静貴に、欠月は笑みを崩さない。
 はっ、として静貴は言う。
「あ、そうだ! 来年もよろしく!」
 急に言われて欠月は瞬きする。
「どうしたの、突然」
「もうすぐ来年だからね。今のうちに」
 新しい年を迎えたら、きっともう一度言うだろう。
 今年もよろしくと。
「あ。リンゴ飴! 買ってあげようか、おにいさんがっ」
「……調子に乗ってると転ぶよ」
「まさかあ! ってウワーっ!」
 前に体が傾く。足をどこかに引っ掛けたようである。
 欠月が腕を掴んでぐっと引っ張ってくれたので転ばずにすんだ。
「あ、ありがとう欠月君」
「ドウイタシマシテ」
「う。また笑顔で……」
 きっと来年もこんなふうになるだろう。
 きっと――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5682/風早・静貴(かざはや・しずき)/男/19/大学生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、風早様。ライターのともやいずみです。
 呼び方が変わりました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!