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■CallingU 「小噺・除夜」■

ともやいずみ
【5777】【焔乃・誠人】【高校生 兼 鉄腕アルバイター】
 今日で今年も終わってしまう……。
 そして、新たな一年の始まり。
CallingU 「小噺・除夜」



 初詣に向かっていた焔乃誠人は着物姿の女性とすれ違うたびにはしゃいでいた。
(女の子の着物姿って、ほんと、いい目の保養になるからな〜)
 ただ……こういう日は男女のカップルも多いのだ。
 一人で初詣に向かっていた誠人は大きく嘆息する。
(ヒナちゃんがいればなぁ〜)
 笑顔の日無子を思い返してうっとりする誠人であった。
 と、視界に見覚えのある袴姿が入る。
(へ!?)
 初詣に行く流れと逆方向に進むのは、遠逆日無子だ。
(ヒ、ナちゃん?)
 なんでこんなところに?
「ヒ……!」
 声をかけようと手を挙げかけるが……ふ、と思い返す。
 そういえば日無子は恋人がいる、と最初に出会った時に言っていた。
(もしかして……誰かと待ち合わせ……?)
 日無子の後ろ姿を目で追いつつ、誠人は少し考えて頷く。



 すたすたと歩く日無子のあとをこそこそ尾行する誠人は、彼女の恋人がどんな人物なのかとハラハラしていた。
(どういう感じなんだろうな……。キラキラした感じの男か……それとも、メガネ秀才タイプ……)
 そもそも日無子の好みの男とはどんな感じなのか……。
(そ、想像つかないなぁ。ヒナちゃんて異性には興味なさそうだし……)
 それで恋人がいるというのだから……ちょっと信じられない。
(いや! もしかして、恋人の前ではかわいくなっちゃうのかもしれないし……!)
 そんな日無子を見たかったりするが、見たくないような気もする。
(ヒナちゃんが照れるのなんて……想像できないよ……)
 尾行していると、日無子は電話ボックスに入っていく。
 受話器を持ち上げて小銭を取り出して入れる。
 彼女は最初は真剣な顔で喋っていたが、次第にいつものようににこにこと笑顔を浮かべた。
(…………話し相手が恋人なのかな……)
 誠人は俯き、それから顔をあげた。
 もうやめよう。
「なにしてるのかな、こんなとこで?」
「わああああっっ!」
 いきなり声をかけられて誠人が悲鳴をあげる。
 見ると、日無子だった。
「ひ、ヒナちゃん!?」
「下手っぴの尾行してた理由はなあに?」
 意地悪な笑みを浮かべて言う日無子に、誠人は苦笑してみせる。
「あのね、前にヒナちゃんが恋人がいるって言ってたでしょ? それでもしかしてその恋人と待ち合わせかな〜って思っちゃって尾行してた」
「……こいびと?」
 不審そうに呟いた日無子は「ああ!」と納得した。
「そういえばそんなこと言ったなあ、あたし」
「え? そんなこと?」
「だって恋人なんていないもん」
「ええーっ!?」
 ウソだったのか???
 誠人はガーンとショックを受けるべきか、喜ぶべきか悩む。
「ウソついてたの、ヒナちゃん!?」
「会ったばかりの怪しげな人に恋人がいるかどうか訊かれたら、フツーはそう言うものだと思うけど〜?」
「俺は本気で訊いたんだよっ!」
「あまーい!」
 ビシ! と日無子は誠人に人差し指を突きつける。
 誠人はのけぞった。
「だいたいいきなり目をキラキラさせてそんなこと訊かれてみなさいよ! 引くっての!」
「そ、そう……?」
「そうですとも」
 冷たい目で言う日無子は腕組みして何度も頷いていた。
 どうも動作がオーバーなような気がするが……そんな日無子もかわいいのでまあいいとしよう。
「でも俺は、ヒナちゃんのこと気になるんだし……しょうがないじゃないか」
 ぼそぼそと言う誠人を、日無子はにんまりと笑顔で見遣る。
「フーン。そう。そんなにあたしのこと気になるんだ」
「うん!」
「へー。でもあたし、浮気するようなタイプって嫌いなの」
 天使の微笑みを浮かべる日無子。
「焔乃さんて、女の子にすぐ声かけるようなタイプじゃない?」
「う」
 そういえば、今まで散々綺麗な女の子や女の人を見つけては「好きでしたー」と声をかけてきたような気がする。
 日無子はずいずいと近づいて来る。
「明らかにナンパ慣れしてたもんね、あたしと会った時。そういう男の人って信用できると思う?」
「それはぁ……」
「じゃあそれを女の子に置き換えてみたら? いい男を見ると声をかけまくる女の子。どう? 恋人にしたい?」
「…………」
 それは……ちょっと、困る、かも。
 好きな子なら多少は我慢するかも……しれないが。
(それじゃ、彼女に捨てられるかもしれないっていうか、別れ話もわりと早く出てきそうだしな……)
「ヒナちゃんの意見はもっともだと思う」
「そういうこと。まあでも今は、焔乃さんは女の子好きだけど、悪い人ではないってことはわかってるから」
「ヒナちゃん……」
 うるうると瞳を潤ませる誠人であった。
「焔乃さんが浮気しないって確信できたら、あたしの恋愛対象に入れてあげる」
「ほんとに!?」
「絶対ほかの女に声かけないならね」
 ニヤリ、と笑う日無子。
 すでに条件反射のようになっているため、誠人は汗を流した。なかなか難しいことを言う。
「でも愛の伝道師だからさ、俺」
「ああそう。じゃああたしは諦めてね」
 にっこりと微笑む日無子。
 誠人は「ううー!」と唸った。
「ひどいよヒナちゃん!」
「ひどくない」
「じゃあヒナちゃんが止めてよ」
「そこまで親切じゃないの。ゴメンね」
 笑顔の日無子に誠人がしゅーんと落ち込む。
「止めてくれたっていいじゃん! ケチ! ヒナちゃんのケチ!」
「他人に止められるのを当てにしてるっての…………チョームカツク」
 唾を吐き出しそうなほどの嫌悪混じりの言い方だった。
 青ざめる誠人に、日無子はにこっと綺麗に笑う。
「なんちゃって。今の、どう? なかなか上手かった?」
「なんなのヒナちゃん……俺をからかって遊んでるの……?」
「今のに懲りたら二度と言わないで。一人の女も大事にできないなら、軽々しく『好き』なんて言うんじゃないの」
 笑顔で言うから余計に怖い。
 しかもその可憐な表情と声の凄みがマッチしていないのも、より怖さ倍増の理由であった。
 誠人はすぐさま話題を変えようと別のことを言い出す。
「ヒナちゃん、そういえば電話はいいの?」
「え? あ、そっか。見てたんだっけ。
 あれは実家への報告だから、もう終わったよ」
「ヒナちゃんの……実家?」
「そうだよ」
 なんだ。じゃあ本当に恋人とかではなかったのか。
 安堵した誠人は笑顔で日無子に尋ねる。
「じゃあさ、初詣行かない? ねえねえ」
「ああ、神社とか寺に行くやつね」
「行こう行こう! 暇なら行こう!」
「そんなにしつこく言わなくてもちゃんと聞こえてるってば。
 わかった。行く。
 でも代価は?」
「代価?」
「まさかと思うけど、あたしに無償であなたと行動を共にしろって言うわけ?」
 お金のかかる女みたいな言い方をする日無子をじっと見つめる誠人。
 しばらく考え込んで、ぽん、と掌を叩いた。
「なにか支払えってこと?」
「そういうこと」
 財布を取り出す誠人を、呆れたように日無子を見遣る。
「お金はいらないわよ?」
「え? 俺、貧乏だからお金は払えないよ」
 財布を覗き、誠人は「よし」と頷く。
「おみくじ買ってあげるよヒナちゃん!」
「はあ!?」
「お守りでもいいけど」
「…………」
 呆然とする日無子は、笑顔になる。
「おみくじでいいよ。そっちのが安いでしょ」



「でもヒナちゃん今日も袴姿だね。今日もお仕事?」
「そうだよ」
 あっさりと頷く日無子。こんな大晦日の日も彼女は仕事だったとは驚きだ。
「大変だね、ヒナちゃん。俺にも何か手伝える?」
「余計な気を回さなくていいから。それより、愛の伝道師なら可愛い女の子がいないかチェックしてれば?」
 笑顔と言葉が合致していない。
「ヒナちゃんひどいよ〜」
「言われたくないなら、努力するのね」
 またも笑顔だ。口調と合致していない。
「横にヒナちゃんがいるのにそんなことするわけないって!」
「いなかったらするんだ。へー。ほー。なるほどー。
 あなたって、初対面でいきなりあたしに好きだとかほざいてたけど、ほんとに好きか怪しいもんだわ」
「ええー! そりゃないよ!」
「口先だけならなんとでも言えるもの。じゃあ訊くけど、今はどうなの?」
「今?」
 そう言われてしまって、誠人はうーんと悩む。
 日無子のことはとっても可愛いと思うし……。
「どう思ってるかわからない人に付き合ってあげるあたしって、親切よね」
「ヒナちゃ……」
「うわ、人多いね」
 誠人の言葉を遮って、日無子は神社に集める人を珍しげに見ている。
 彼女は目を細めた。
「夜はいつも静かでいいのに。新年を迎えるとなると、こんなにうるさくなるわけか」
「ヒナちゃんは夜型なの?」
「そうね。うん、夜に活動してるから」

 お賽銭を入れてお願いをした後、誠人は「おみくじ引こうよ」と日無子を誘う。
 元々それを引くために日無子は来たようなものだったので、素直に誠人について行った。
「す、末吉……か」
 いいのか悪いのか。
 大吉だったら盛大に喜ぶのだが、これでは微妙な反応しかできない。
 横の日無子はおみくじを眺めている。
「ヒナちゃんはどう?」
「あたしは凶」
「きょ、凶!?」
 ズバリ言い放った日無子の言葉に誠人が無言になった。
 どう言うべきだろう?
 大丈夫だよ。当てにならないって。おみくじなんて運試しみたいなもんなんだからさ! ……か?
 それとも。
 うわあ、残念だったね。でもダイジョーブ! 君には俺がいる! か?
 ………………後者だ。後者にしよう。
「うわあ、残念だったね! でもダイジョー……ぶぅ!?」
 日無子は目の前でぐしゃっと握り潰してぐりぐりと両の掌を合わせて丸めて小さな玉状にすると、ぽいっと後ろに投げ捨てた。
「な、なにすんだよヒナちゃん!」
 罰当たりなことをする! と慌てる誠人の目の前でその玉は空中にかき消えた。
(ええー!? て、手品!?)
 ぽかーんとする誠人は日無子を見遣る。
「ヒナちゃん、今のは……?」
「手品」
 いい笑顔だ。
(絶対ウソだな……これは)
 ハッとして誠人は日無子に向けて言う。
「遅くなったけど、あけましておめでとう!」
「おめでと。全然めでたくないけど」
「ヒナちゃん……それは言わないほうがいいと思うよ、俺」
「日付が変わっただけで騒ぎすぎだよ」
 明るく言う日無子の言葉に、誠人がきょとんとする。
 本当に変わった娘だ。日無子は。
 新しい年が始まったというのに、それを今までの延長だとさらりと言う。
 一年が終わろうと、始まろうと、日無子にはあまり関係ないのだろう。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5777/焔乃・誠人(えんの・まこと)/男/18/高校生 兼 鉄腕アルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、焔乃様。ライターのともやいずみです。
 ほんの少しだけ仲が進んだ状態ですが、いかがだったでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!