■文月堂奇譚 〜古書探し〜■
藤杜錬 |
【5828】【上水流・つかさ】【美術品の修復士(見習い)】 |
とある昼下がり。
裏通りにある小さな古い古本屋に一人のお客が入っていった。
「いらっしゃいませ。」
文月堂に入ってきたあなたは二人の女性に迎えられる。
ここは大通りの裏にある小さな古本屋、文月堂。
未整理の本の中には様々な本が置いてある事でその筋で有名な古本屋だ。
「それでどのような本をお探しですか?」
店員であろう女性にあなたはそう声を掛けられた。
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文月堂奇譚 〜古書探し〜
上水流・つかさ編
●今昔艶装絵草紙
日も落ちかけ、徐々に夕闇の迫る古書店文月堂に一人の黒いウェーブの掛かった髪の女性がやって来ていた。
女性の名前は上水流・つかさ(かみずる・−)古美術品などの修復を主に生業としている修復士だ。
「ここにならあるかも……」
そう小さく呟いたつかさは文月堂の中へ入って行った。
「いらっしゃいませ……、あ、つかささんこんにちは」
つかさの事を店内で出迎えたのは黒髪の女性、佐伯・隆美(さえき・たかみ)であった。
先日あった騒動のおかげでその後つかさとよく話をする様になった人でもあった。
「隆美さん、こんにちは、今日はちょっと探し物があってきたんだけど」
「探し物ですか?」
隆美が聞き返すとつかさは頷いて自らの持ってきた写真を鞄から取り出す。
「この掛け軸なんだけど……今、修復を頼まれているんだけど、あまりに損傷が激しくて直すのがなかなか難しいんだ。それでこの絵について描かれている本を探して今日はやってきたんだ」
隆美に写真を見せながらつかさは説明をする。
写真をまじまじと見た隆美は思案顔で答える。
「確かにかなりひどい状態みたいですね、でもそれだけじゃちょっと判らないかも……。だって、ほら……」
そう言って隆美は店内をぐるっと見渡す。
文月堂の店内には整理済み、未整理の本が山の様に積まれていたからである。
「ただこの絵について書かれている本って言っても、探すのはかなり大変だと思うわ……」
小さくため息をつく隆美を見て大丈夫というようにつかさは微笑む。
「それなら大丈夫、ちゃんとその本のタイトルは判っているから」
そう言ってつかさは鞄の中から手帳を取り出しページをめくる。
「えーと本の名前は、『今昔艶装絵草紙』っていうんだ。タイトルが判ればすぐ見つかるんじゃないかな?って思うんだけど……」
つかさはそこまで言って隆美の表情を見る。
隆美は相変わらず難しい顔をしたままだった。
「ごめんなさい、聞き覚えのある本だったらいいんだけど……、今初めて聞いたタイトルの本なの、だからタイトルだけ言われても、一から探さないといけないと思うわ…」
隆美のその言葉とため息を聞いて、つかさも本の山を見る。
「確かにこの山の中から探すのはちょっと骨が折れそうだね、でも頑張ればきっと見つけられると思うよ」
●本の山
二人はしばらく考えたあと本の山へと向かった。
二人が古書、特に草紙の類が多くおいてある棚を中心に見て行ったが、なかなか目当ての本は見つからなかった。
そんな中つかさが本をめくる手を少し止めた時、文月堂の扉ががらっと開いた。
「ただいまー」
神聖都学園の制服に身を包んだ、銀髪の少女佐伯・紗霧(さえき・さぎり)が帰って来た。
「あれ?お客さんが来てたの?ってなんだつかささんか」
「紗霧さんこんばんは」
「つかささん今日はどうしたの?」
「あ、今日はちょっと探している本があってね」
「探している本?」
「ええ、でもなかなか見つからなくてね」
「そうなのよ、私も見たことなかった本だったからこの有様」
つかさと隆美は思わず向き合って苦笑しあう。
「そうなんだ、それでどんな本なんですか?つかささん」
「それはね、『今昔艶装絵草紙』って本なのよ。いわゆる美人画の描かれている本なんだけど、今請けている仕事で直している掛け軸の資料用にどうしても欲しいのよ。掛け軸の損傷がかなりひどくてね、何かを参考にしないとちょっと……って感じなわけよ」
「そうだったんですか……」
その話を聞いて紗霧がその白い手を顎に当てて考え込む。
「どうしたの?紗霧さん?」
つかさがそんな紗霧に声をかける。
「つかささん、つかささんの九十九神と話す力でその本の事は聞けないんですか?」
「あ……」
今までなんでその事を思いつかなかったのだろう。
つかさは思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「確かにつかささんの力ならこの本たちに『聞く』事が出来るわよね」
隆美も今思いついたように頷く。
「私もなんで今まで気がつかなかったんだろう?って今自分で自分の事を思っちゃいましたよ」
照れ笑いを浮かべるつかさ。
「それじゃちょっと聞いてみますね」
つかさは目を閉じゆっくりと意識を集中させる。
『ここにいる本の九十九神達よ……。私達の探している本の所在を知らない?本の名前は『今昔艶装絵草紙』……』
つかさの心にしばらくざわざわとしたざわめきが帰ってきたが、しばらくのち一冊の本の九十九神が答えた。
『その本のことなら私が知ってますよ』
『本当?その本はここにあるの?』
『うーん、あると言えばあるしないと言えばない……』
『あると言えばあるし、ないと言えばない?それはどう言う事?』
『ここの店にはないって事ですよ、先日まで私の下にいたんですが、そこにいる紗霧のお嬢ちゃんがどこかへ持っていってしまったんですよ』
「え?」
つかさは思わず声を上げてしまう。
慌てて答えてくれた本にお礼を言うと紗霧に向かって聞いた。
「紗霧さん、本達は紗霧さんがどこかへ持っていってしまったって行ってるんだけど……」
「本当?紗霧」
慌てて隆美も紗霧に聞く。
二人に聞かれて慌てふためいた紗霧であったが、ふととある事を思い出す。
「ひょっとしたらだけど、一昨日、学校のレポートの資料用にって部屋に持って行った本の中にそういう本があったような気もする……」
「調べてきてもらえる?紗霧さん」
つかさは急に目の色が変わった様に紗霧に頼む。
「う、うん、ちょっと待っててつかささん」
紗霧は靴を脱ぎ慌てて自分の部屋のある2階へと上がって行った。
「もし紗霧の言っていた本がその本だったら、丁度良かったわね」
隆美がつかさに少しほっとしたように話しかける。
「そうですね、でもまだそうと確実に決まった訳じゃないし……。でも同じような本だったらひょっとしたら、何かの役に立つかもしれないですしね」
どこか自分に言い聞かせるかのようにつかさも答える。
「それにしても紗霧、遅いわね……」
隆美がなかなか戻ってこない紗霧の様子を見てこようかと思い階段の下まで歩いていく。
「ちょ……お姉ちゃんどいてーっ!?」
丁度そこへ慌てて走って降りてきた紗霧がいて二人はぶつかり合い倒れこむ。
「隆美さん紗霧さん二人とも大丈夫?」
そんな二人を見てさっきまでの考え込んでいたつかさの顔も思わずほころんでしまう。
「痛たた……紗霧、階段はもっと静かに降りなさいっていつも言ってるでしょ」
「ごめんなさい……。あ、つかささんんこの本じゃないですか?」
紗霧はぶつけた所をさすりながら立ち上がり一冊の古書をつかさに手渡す。
その古びた本の表紙には『今昔艶装絵草紙』としっかり書かれていた。
「この本よ、ありがとう」
つかさが嬉しそうにその本を抱きしめる。
「それじゃその本でいいんですね?」
「ええ」
隆美が確認するとつかさはすぐに答える。
「それじゃすぐに戻って作業を開始したいので、御代はここにおいて行きますね」
つかさはそう言って懐からお金をカウンターに置いてそのまま走って文月堂を出て行った。
「やれやれ、つかささんもせっかちね」
「そうだね」
「そういえば紗霧?本を持ってく時は一言、言ってからにしなさいっていつも言ってるでしょ?」
「ごめんなさい……」
つかさの出て行った後姿をみながら、二人はそんな会話を交わした。
●エピローグ
その騒動があってから数日後。
再び文月堂にやってきているつかさの姿があった。
「隆美さん、紗霧さんこんにちは」
「あらつかささん、こんにちは。今日もまた本を探しに?」
「隆美さん違いますよ。今日は先日見つけた本のおかげで無事に直った掛け軸を見てもらいたくて来たんですよ」
「え?それじゃあちゃんと掛け軸直ったんですか?」
「ええ、ってその様子だと私の腕を信じてなかったんじゃない?紗霧さん」
「そ、そんな事ないですよ〜〜」
慌てた様子の紗霧を見てつかさも思わず笑みがこぼれる。
「冗談よ、そんな風に思ってるなんて思ってないから安心してね」
「よかった……」
ほっと胸をなでおろす紗霧と笑みを浮かべるつかさを見て隆美が声をかける。
「それじゃ折角だし、こうやって立ち話もなんだから奥でゆっくりとお茶でもいただきながら見せてもらっても良いかしら?」
隆美がつかさに聞くとつかさは嬉しそうに答えた。
「もちろんっ!?」
満面の笑みで答えるつかさの姿があった。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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≪PC≫
■上水流・つかさ
整理番号:5828 性別:女 年齢:21
職業:美術品の修復士(見習い)
≪NPC≫
■佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋
■佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋
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■ ライター通信 ■
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どうもこんにちは、ライターの藤杜錬です。
この度は前回の草間依頼に続いて、ゲームノベル『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加ありがとうございます。
つかささんのお仕事のお手伝い、という事でこのようになりましたが、いかがだったでしょうか?
今回のプレイングも色々試行錯誤されたんだな、と見ていて思いましたが、私の異界にプレイングの書き方のコラムみたいなものも作っておりますので、もし良ければ参考になれば?と思いました。
楽しんでいただけたら幸いです。
それではありがとうございました。
2006.01.18.
Written by Ren Fujimori
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