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■超能力心霊部 ファースト・コンタクト■

ともやいずみ
【0622】【都築・亮一】【退魔師】
 ざわめく街角。
 帰宅中の学生。買い物をしている若者たち。
 そんな、日本のどこでも見かける光景。
 その中の、とあるファーストフード店。
 店内には若者が帰宅途中の休憩と言わんばかりに占めていた。

 そのファーストフード店の二階の窓際。
 店の外からも様子が見えるそんな場所に陣取っている高校生の3人組がいた。
 ボブカットの少女・高見沢朱理。
 ストレートの髪の美少女・一ノ瀬奈々子。
 気弱そうな表情で、二人の少女をうかがう外人のような少年・薬師寺正太郎。
 正太郎の差し出した一枚の写真を見遣るなり、奈々子は美しい眉を吊り上げる。
 奈々子の横に座ってジュースを飲んでいた朱理はたいして気にもしていない。
「あなたって人は!」
 ぎろりと正太郎を睨みつける奈々子を、朱理は横目で見る。正太郎はびくりと肩を震わせた。
「いくら私たちと同じ能力者といえど、私たちは『霊能力者』ではないのですよ? この写真にどういう意味があるのかきちんとわかるわけがないというのに……」
「ご、ごめん……」
 肩を落として謝る正太郎をチラリと見遣り、朱理は軽く笑ってみせた。
「まあいいじゃない。なんとかなるって」
「あなたはどうしてそんなにお気楽なのですか!」
「奈々子ほど真剣に考えてないだけだよ」
 平然と言う朱理に、正太郎は少しだけ安堵したような表情になる。
「正太郎だって写したくて写したんじゃないんだし、そんなにカリカリすることないって」
「あ、ありがとう朱理さん」
「いいっていいって。だってあたい、そういう霊とかいうもの、よくわかんないしさ」
 ケラケラと笑う朱理。
「何度言ったらわかるんですか! こういうものの中には、害がある場合もあるのですよ? 警告という形で写真に写ることもあるのです!」
「奈々子さん、落ち着いて……」
「そうそう。あんまり怒るとハゲるよ、奈々子」
「もう! どうしてあなたたちはそうなんですか!」
超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 仕事までまだ少し余裕がある。
 都築亮一はコーヒーを飲みながら資料に目を通していた。
(まあたまにはこういうファーストフードのお店でのんびりというのもいいですしね)
 いつもなら喫茶店に入っているところだ。
「うあっと!」
 声が聞こえた。
 亮一は顔をあげる。
 ひらひらと何かが目の前を舞い、足元に落ちた。
 亮一は落ちたものを拾う。
「すいませ〜ん」
 顔をそちらに向けると、先ほどの声と同じことからこの娘が落としたものだとわかった。
 ボブカットの小柄な少女は苦笑して頭を掻いている。
 亮一は視線を写真に向けた。すぐに彼女に返そうとしたのだが。
(これは……)
 写真には三人の高校生が写り、彼女たちは様々な表情で驚いている。
 一人は美人な女の子。彼女は青ざめて悲鳴をあげていた。
 一人は金髪の少年。彼はもはや気絶寸前という凄まじい表情だ。
 ただ一人、ボブカットの少女だけは喜んでいるような表情であった。
 そんな三人の前には池があり、そこから無数の手が出現しているのだ。どうやら三人はそれを見て驚いている、という写真のようである。
 場所に亮一は見覚えがある。寺にきた依頼の、場所だ。調査して欲しいというので亮一は寺を抜け出す理由にそれを引き受けたのである。
 写真を渡すと少女はぺこっと頭をさげた。
「その写真の場所へ行ったんですか?」
 さりげなく笑顔で問うと、少女は苦笑する。
「いやぁ……行ってないんだけどね。これから行くかも」
「?」
 わけのわからないことを言う娘だ。
「朱理! 落とした写真は……」
「この人が拾ってくれた」
 朱理と呼ばれたボブカットの少女は、窓際の席から走って来た長髪の少女に向けて言う。勿論「この人」というのは亮一のことだ。
「そうでしたか。ありがとうございます」
 長髪の少女は丁寧に頭をさげると、朱理の腕をぐいぐい引っ張って席に戻っていった。
 窓際には今の二人と、もう一人少年がいる。写真に写った面子だ。
(あの場所は自殺や殺人で死んだ霊が溜まり易い場所……あそこに行くのは危険ですが)
 これから行くかも、と言った朱理の言葉が亮一の心に引っかかる。
 通りすがりではあるが、一応忠告だけはしておこう。
(やれやれ……俺も甘いですね。最近本当にそう思いますよ)
 妹に年恰好が近いからだろうが、お節介をやいてしまいたくなる。
 窓際の席を観察する亮一。
 先ほどのあの朱理という少女は、亮一の妹にはない明るさを持っている。あれほどハキハキと元気よく喋ってくれたらとついつい思ってしまった。
 朱理の横に座る長髪の少女は見かけが美人で髪が長いためか、妹に雰囲気が似ていた。
 そして彼女たちの向かい側に座る少年は苦笑ばかり浮かべている。そういう性格なのだろう、彼は。弱腰のところが妹に……。
 ハッとして亮一はブンブンと頭を振った。
(なんでもかんでも妹と比べるのもどうかと思いますよ…………大丈夫ですか、俺は)
 自分で自分が心配になる、今日この頃である。
(とにかく危ない場所なので近づかないようにと忠告をしましょう)
 立ち上がった亮一は三人に近づいていく。
「あの……」
「ああ、先ほど拾ってくれた方ですね。どうかしましたか?」
 長髪の少女が怪訝そうにこちらをうかがう。
 亮一はにっこりと微笑んだ。
「すみません。写真の場所を知っている者なんですけど…………余計なお世話とは思うんですが、あまりその場所に近づいてはいけないので……」
 思わず、亮一は言葉を止める。
 三人全員がこちらを凝視していたためだ。
(え……と?)
 なんでそんなに見ているんだろうか?
「お兄さん! この場所、知ってるの!?」
「ええ……はい」
 曖昧に頷くと、朱理はぱあっと顔を輝かせる。なんとも素直な娘だ。顔に全部出るタイプらしい。
「ヤッター! これで歩き回らなくてすむ! ね、正太郎!」
「うん!」
 朱理の言葉に同意して激しく首を上下に振るのは、三人の中で唯一の少年だ。正太郎という名らしい。
「すみません。この場所を探してるんです、私たち。よければ教えてください」
 真っ直ぐこちらを見て言うのは長髪の少女だ。
 亮一は三人をゆっくりと見回し、嘆息してから微笑む。
(乗りかかった船というか……まあ、いいでしょう)
「わかりました。ですが、そちらの事情も聞かせてくださいね」



「都築亮一と言います。高野山所属の退魔師をしています」
「私は一ノ瀬奈々子。横は高見沢朱理。都築さんの横が薬師寺正太郎さんです」
 奈々子が全員を紹介する。
 亮一に朱理と正太郎はかなり好意的だ。二人とも笑顔で亮一を見ていた。
「やったあ! 退魔師だって! あたいの出番ナシじゃんっ!」
「よ、良かったあ。すぐに終わりそうだね、今回」
 二人が笑って言った瞬間、それぞれの頭に拳が降る。
 ゴンゴン!
 亮一が唖然としてしまうほどの早業であった。
 頭にコブを作った二人などお構いなしに、拳を見舞った本人……奈々子が真剣に亮一を見つめる。
「私たち、こういう心霊写真を実は時々撮ってしまうんです」
「ええ〜? 時々だっけ〜? いつもじゃ……へぶっ」
 横の朱理の頬に肘を入れて黙らせると、何事もなかったように奈々子は続けた。
「未来のことも写ってしまうことがあるので、こうして集まって謎解きをしているんです。ですが、私たちは霊能力者ではありませんので都築さんのような方が居てくださると助かります」
「霊能力者ならそこに居るじゃんか〜」
「薬師寺さんはある『だけ』です」
 頬をおさえて言う朱理を見もせずに言い放つ奈々子。
 亮一は笑顔でいたが、内心は嫌な汗を流していた。
(一ノ瀬さんはかなり強気な性格なんですね……)
 見た目の雰囲気で妹に似ている、などと思ったつきさっきの自分に訂正してやりたい。
 よく見れば奈々子は少し吊り目がちで、意志の強い瞳の持ち主だ。まがり間違っても妹にはこんな目はできないだろう。
「つまり、未来の写真、というわけですか?」
「はい。ボクたちはこの場所には行ったことがないんです」
「そうですか。この場所、かなり危険ということでお山に調査依頼がきたばかりなんですよ」
 亮一の言葉に三人が「えっ」という表情をする。



 時刻は夜。四人がやって来た場所にはすでに人の気配がない。
 亮一は仕事に同行してきた三人を、振り向いて見遣る。
 あれが未来の写真だとすれば、あの三人はきっとここに来ることになるだろう。
 ならば亮一が一緒に来て悪霊などを退治すればいいのだ。
(やはり、甘いですかねぇ)
 どうしても妹と同い年くらいだと考えると放っておけないのである。
「わあ! ほんとにあの写真の場所だ!」
 うきうきと騒いでいる朱理は一人でどこかに行きそうでハラハラしてしまう。
(高見沢さんはもっと落ち着いたほうが…………あ)
 横を歩いていた奈々子が朱理の頭を容赦なく殴った。なるほど、と亮一は納得する。
 朱理の行動を抑制しているのは奈々子のようだ。
 朱理の横にいる正太郎は明らかに具合が悪そうに青ざめてよろめいている。
「薬師寺君……顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「え…………あ、はい」
 全然大丈夫に見えない……。
 亮一はこの妙な三人組の行く末に一抹の不安を感じてしまう。
(仕方ないですね。パッパと片付けてしまいましょう)
 それが一番いい。
「危ないのでこれをそれぞれ持っててくださいね」
 身代わり符を渡すと、三人は不思議そうにそれを眺めていた。
 目的の場所はすぐに見つかる。
 公園の奥のほうに寂れた池があった。そこから霊気が漂ってきているのだ。
「これは……かなり酷いですね」
 澱んでいる。周囲の空気もそれに汚染されて妙な臭いをさせていた。
 と、亮一の横を通り越して朱理が池に向けて駆ける。いきなりだったので亮一は反応できなかった。
「すっごーい! きったなー!」
 はしゃいでいる。
 濁った池の中を覗き込む朱理に、奈々子と正太郎が青ざめて駆け寄る。
「なにしてるんですか、あなたは! せっかく都築さんが……!」
「そうだよ! 乗り出すと落ちるよ!」
 あ、と三人が動きを止めた。水面が振動して、そこから無数の手が浮かび上がってきたのだ。
 まさにあの写真のシーンである。
 亮一は持ってきていた阿弥陀鉄扇を取り出すや、朱理たちに向けて伸びる腕をことごとく払い落とした。
「ええー! 都築さんて関西人なの!?」
 鉄扇をハリセンと思った朱理の場違いなセリフに亮一は笑うしかない。
 襲い掛かってくる手の波に、亮一は素早く反応して鉄扇を振り回す。
(中心になっているものがあるはず……)
 攻撃を防ぎながら見回す亮一は、池の中心の異様な黒い塊に気づく。
 深いところに。
 鉄扇を強く握り、ブン! と思い切り振るう!
 強力な風が手を薙ぎ払い、池の水を跳ね上げた。
 水の中に見えたソレに亮一が素早く剣指を向ける。指先から放たれた亮一の念によって、ソレが真っ二つに割れた。
「すごーい! レーザービームだー!」
 朱理がわあわあ騒ぐ。
 池の水が静かになり、手が消え失せる。
「ど、どうなったんですか?」
「負の念を引き寄せる元凶…………櫛を破壊しました」
 奈々子の問いに亮一は答えた。
 古い櫛だ。無念が……濃い無念があの櫛にはあった。だから引き寄せたのだろう。似たような者を。
 持ち主はすでに亡くなっているだろう。
 要をなくしたために溜まっていた霊たちが霧散していくのを亮一は静かに見ていた。
「あたいにもできるかなあ、レーザービーム! ね、都築さん!」
「ビームではないんですけどね」
 まとわりつく朱理に亮一はくすくす笑う。
「そうだ。無事に終わったので、よければ皆さんで食事に行きませんか?」
 朱理と奈々子はすぐに了承するが……。一人足りない。
 すぐにどこに居るかわかった。彼は途中で気を失って倒れていたのだ。
 気絶している正太郎の姿に三人は顔を見合わせて笑いあった。
「薬師寺君は怖がりなんですね」
「怖がりのくせに霊感あるからねえ。おーい、正太郎起きなよ〜。もう終わったよ〜」
 朱理が揺するものの正太郎には起きる気配がない。
 亮一は微笑む。
(面白そうな三人組に出会ったものですね)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【0622/都築・亮一(つづき・りょういち)/男/24/退魔師】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、都築様。こちらでは初めまして、ライターのともやいずみです。
 鉄扇大活躍! を目指しました。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。