■惚れ薬 再び■
志摩 |
【5980】【ラッテ・リ・ソッチラ】【存在しない73柱目の悪魔】 |
「バレンタイン前なので惚れ薬・改を売り物にしようかと思うんですが、どうにもしっかり完成してるとは思えないんですよね……」
「奈津、物好きだな……あれだけ騒ぎを起こして」
「あれは、まぁ半分僕の責任としてあとは自業自得です」
奈津ノ介はちゃぶ台の上に透明な小瓶を幾つかおいて、うーむ、と考える。
「もうわしは飲まんぞ」
「わかってますよ。その前に飲まれたら困ります、大変なんで。自分で飲んでもだめだしな……」
思案する奈津ノ介をちら、と藍ノ介はみて溜息をつく。どうしてこんなに変なものを作ることに執着するのか不思議だ。しかも結構それにこだわる性質なのも困りものだ。
「客で実験したら良いだろう」
「えええ……それはご迷惑かかるし……あ、でも……うーん。そうだな、それもありかもしれない」
「おい、冗談で言ったのに真に受けるな、愚息」
呆れる藍ノ介に奈津ノ介は半眼で笑う。
「大丈夫ですよ、今回は解毒薬も用意してるって状況ですから」
「……わしはどうなっても知らんぞ」
■ライターより
惚れ薬が帰ってきました、改になって。
募集受注人数は未定。バレンタインまで放置です。同じ日にいただいたPCさま同士は絡んでいただこうと思います(!)人数が奇数になった場合やライターの気分でNPCを追いかけることもあります。
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惚れ薬 再び
軽くスキップ、気分は上々といったところ。そんなある日。
ラッテ・リ・ソッチラはふと一件の雑貨屋の前で足を止めた。
「あら、こんなところにお店……面白そうだから入ってみましょう」
からり、と引き戸を開けるとそこは多種多様、こだわりがありようでなさそうな品ばかり。興味を引かれて数歩中へ。自分の他に人がいる気配はない。
「あ、いらっしゃいませ」
と、自分に気がついて一人、にこやかな笑顔で奥から青年がでてきた。いらっしゃいませの言葉から店の人間なのだと理解。銀色の髪と青い瞳が印象的だ。
「こんにちは、お邪魔させていただきますね」
「ええ、どうぞゆっくり。あ、そうだ、よければちょっと僕のお願いに付き合っていただけませんか? 初対面でお願いするのも躊躇うところがあるんですが……データがほしくて」
何をですか、とラッテは首をかしげる。彼は最上級の笑みを浮かべた。受ける印象はまずまず、悪くはない。
「あ、僕は奈津ノ介といいます。よろしければお名前教えてくださいませんか?」
「私はラッテ・リ・ソッチラと申します。それで、どんなお願いなのですか?」
奈津ノ介はは何か企んでいるようないないような、そんな表情だ。
そして口を開く。
「惚れ薬改良版の被験者になってください」
単刀直入。すっぱり言い切って彼の笑みはそのままだ。
ラッテは目を見開き、少しの間をおいて、そしてがしっと奈津ノ介の手を掴んだ。その掴む手にこもる力は強い。
「奈津ノ介さん、あなた最高よパーフェクトよ、よくぞこんなすばらしくて摩訶不思議アドベンチャーなもの作ってくれたわね!! 飲みます!! 飲ませてください!!! ぜひ!!」
ラッテは鼻息荒く興奮した模様で奈津ノ介に怒涛のように言葉を投げる。
こんな面白いこと見逃してなるものかと。
「本当ですか? どうもありがとうございます」
じゃあこちらへどうぞ、と奈津ノ介はラッテを奥へと案内する。そこには少し段差になって和室がある。そこへ彼女を通すと奈津ノ介はちょっと待っていてくださいね、と奥へと行きすぐ戻ってくる。掌の上には小さめの赤いのと青いカプセルが一錠ずつ。
「赤いのが惚れ薬、青いのが解毒薬です。解毒薬は僕が持っておきますね」
どうぞ、と奈津ノ介はそれを渡す。
「あ、薬が効き始めて最初に見た人が惚れる対象になるはずなんですけど……」
「あらそうですか……」
「まぁ、誰か来るかもしれませんし……何なら上にいる僕の父親呼んできますよ?」
ラッテはその言葉にぴくりとする。
奈津ノ介の父親ということは素敵なオジサマに違いないという直感。
「僕も横から見てるほうがデータのとり甲斐がありますし……」
「ではでは、呼んでくださいな、バッチコイ!」
声色が心なしか楽しみ、というような雰囲気だ。それに彼はわかりましたと答え立ち上がる。
「私は薬を飲んでここで待っておりますね」
「はい」
「ああ、どんな方か楽しみね」
とんとん、と奈津ノ介は奥に消え、そして階段を登っていく足音が聞こえる。
父親とはどんな人なのだろうとラッテはドキドキうきうきだ。
上から声が聞こえる。何か揉めているような、そんな声だ。
と、なんだか身体の中、というか心の中というか少し熱を感じる。
「だから何故わしが……」
「まぁまぁはいはい、降りてください」
「!!」
と、一目見る。瞳にその姿を映す。トキメキとはこういうものなんだろうか。
眉間に皺を寄せてあからさまに不機嫌。白い髪をゆるゆると後ろに束ねた男。奈津ノ介と雰囲気が似ている。どこがとは明確に言えないけれどもそう思う。
「え、お? 汝、客があるのにほっておったのか?」
「いえー彼女はこの前親父殿が客で実験をしろと言った惚れ薬を飲んでいただいた方なんです」
「は!?」
本当にやりおったのか、と父親は一瞬表情を引きつらせ、そして溜息をついた。
「親父殿も責任とって手伝ってくださいね」
そう奈津ノ介が言い終わったときだった。
ラッテは立ち上がり奈津ノ介の父親にと抱きつく。
「なっ、待て!」
「私……あなたが好きっ……! お名前教えてくださいっ!」
「うわーい、ちゃんと効いてるみたいですね」
ひしっとしっかりラッテは抱きついて離れようとしない。奈津ノ介は淡々とその様子を観察している。声がからかっているような嬉しがっているような面白がっているような、そんな気がしないでもない。
「ま、まず離れよ、それからだ!」
「離れませんどこまでも一緒!」
「ち、違うとりあえずくっつかれるのは……」
「慌てる姿もかわいらしい、ときめきます!」
「かわいいとか言うな!」
きゃあきゃあと体当たりなアピールをするラッテと、慌てて少し気恥ずかし気な藍ノ介。
この後十分間、この二人は同じようなやり取りを続ける。奈津ノ介も最初のうちはデータがいっぱいとれるな、と喜んでいた物のさすがにそろそろ助けてやるかとラッテと父親を引き離しにかかる。時々助けろと睨んでくる視線があったのも一つの理由なのだが。
「何をするんですか、奈津ノ介さん!」
「いえ、ずっと立ちっぱなしも疲れますから、ね?」
やんわりとラッテを宥めながら奈津ノ介は言う。
「親父殿、こちらはラッテ・リ・ソッチラさんです」
「藍ノ介、だ」
「きゃあ、素敵なお名前ね」
ラッテは頬を染めつつもじもじしつつ上目遣いで藍ノ介を見上げる。藍ノ介はというとどう接したらいいものかと困っている様子だ。
「奈津どうしたらいい!?」
「自分で考えてください」
にじりよじり、距離を詰めるラッテと、すでに背中には壁、逃げ場のない藍ノ介。そしてその様子をちょっと面白そうに観察する奈津ノ介と。
「……積極的にくっついて自己アピールと……ちょっとテンション高め」
「よし、何か話をしよう、汝の好きなものは?」
「それはあなたです」
話のテーマの選び方が悪いですね、と奈津ノ介は冷たくさらりと言う。
「うっ、そう……ではなくてな……たとえば花だとか食べ物だとか、酒だとか……」
「お酒は好きです。私、バーを持っていますよ」
「そうかそうか、わしも酒は好きだ」
この話題ならば大丈夫そうか、と一安心して藍ノ介は頷く。
「是非一度いらしてくださいね、最初の一杯はタダですから」
「うむ、機会があればな」
「機会があればなんて……! 社交辞令ですね、酷いです、私はこんなにもドキドキしてあなたのことが好きなのにその気持ちを無碍にするなんて……!」
「いや、してない、そういうつもりじゃない……!」
わぁっとラッテは顔を手で覆いそして泣く。正確には泣くふりなのだけれども。
「ひどいですっ……!!」
おろおろとし始めた藍ノ介を見てそろそろ可愛そうだから助けてやろうと奈津ノ介は溜息をつく。そしてラッテの傍へ。
「ラッテさん、ご協力ありがとうございました」
「え……!! むぐっ」
奈津ノ介は油断していたラッテの口に青いカプセル、解毒薬の方を放り込んでそのまま手で口をふさいで息を止める。
そうなったら飲み込まずにはいられない。
こくん、と喉が鳴るのを確認して奈津ノ介は手を放す。
「手荒にしちゃってすみません」
しかも悪びれなく笑顔だ。
「けほっ……く、苦しかったです……」
「な、何をするか相変わらず……危ないやつだ……」
我が子ながら恐ろしい、と藍ノ介は呟く。
「藍ノ介さん、息子さんに苛められました……!」
「! 効いておらんではないか!」
コレはチャンスだ、とばかりにラッテは藍ノ介にすばやくぴっとりとくっつく。どうやらまだ薬の効力は切れていないらしい。
「効くまでに時間少しかかるんですよ」
「適当だなその薬」
「はい」
にっこり返されて溜息だ。だがもう暫くでこれも終るらしいので藍ノ介はおとなしくラッテにくっつかれておくことにした。別に害はないしいいのだが、どうにもこうにも気恥ずかしい。
「ああ、もう好きなだけくっついておれ……」
「はい」
つかの間でもいいあったかい気持ち。幸せを定義するのならこれでいいとラッテは思う。
でもなんでこんな風になったんだったか、とラッテは思い出す。
そういえばこれは惚れ薬を飲んだせいなんだとしっかり覚えているがそれでも感情はどうしようもなく好きだ言っている。
「私、こうゆうのしばらくぶり、初めてかもしれません」
「わしもン百年ぶりだろうな」
「あら、何歳ですか、今?」
「八百とちょっとだな」
と、突然いきなり、ラッテの中で心境の変化が起こる。
今までくっつきたいもっと色んなことを知りたい目があっただけで赤面すると、そうゆう事を引き起こしていた感情が萎える。
どんどん萎えていく。なんでこんな人にくっついているんだろう。
ラッテはぱっと身体を離し、あからさまに残念そうな表情を浮かべる。
「素敵なオジサマだと思ってたのに若造……こんな若造に惚れるなんて……ショボーンです……」
「なっ、わしが若造!?」
「ええ、私その何倍も長く生きてますから……ハァ……残念……」
ふっと小馬鹿にするような表情と溜息。だけれどもラッテはちょっと嬉しそうだ。
「でも、まぁ楽しかったです。今度があれば幼女か美少女だとものすごくとっても嬉しいんですけど」
「幼女はいないですけど美女なら心当たりが。機会があれば是非。こちらも色々とデータがとれて役に立ちましたよ」
「お力になれてよかったです」
ラッテと奈津ノ介はにこにこと笑みをかわしながら放す。そしてその横では若造呼ばわりされてちょっと凹み気味の藍ノ介。
ラッテはその様子をみてフォローを一応いれますか、と苦笑する。
「藍ノ介さんはいい男だと思うのですが、私の趣味ではなかった、そうゆうことです」
「だそうですよ、親父殿」
「……なんだか二人に弄られて終った気分だ……」
脱力、心底疲れたと藍ノ介は力なく笑う。
たまにはこんな、気が抜けるようなそんな時間を過ごすのは悪くない。
ラッテはそう思いながら笑う。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5980/ラッテ・リ・ソッチラ/女性/999歳/存在しない73柱目の悪魔】
【NPC/奈津ノ介/男性/332/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897/雑貨屋居候】
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■ ライター通信 ■
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ラッテ・リ・ソッチラさま
はじめまして、ライターの志摩です。このたびはありがとうございました!
プレイングが楽しくて、私もノリノリで書かせていただきました!
この話は絡む相手を阿弥陀で決めるというもう適当でしょう、それ、という方法で決めております。ラッテさまには藍ノ介がお相手として参りました。幼女でも美少女でも素敵なオジサマでもなく若造……ショボーンな結果となりましたが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またどこかでご縁があって出会えれば嬉しく思います。
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