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■惚れ薬 再び■

志摩
【1252】【海原・みなも】【女学生】
「バレンタイン前なので惚れ薬・改を売り物にしようかと思うんですが、どうにもしっかり完成してるとは思えないんですよね……」
「奈津、物好きだな……あれだけ騒ぎを起こして」
「あれは、まぁ半分僕の責任としてあとは自業自得です」
 奈津ノ介はちゃぶ台の上に透明な小瓶を幾つかおいて、うーむ、と考える。
「もうわしは飲まんぞ」
「わかってますよ。その前に飲まれたら困ります、大変なんで。自分で飲んでもだめだしな……」
 思案する奈津ノ介をちら、と藍ノ介はみて溜息をつく。どうしてこんなに変なものを作ることに執着するのか不思議だ。しかも結構それにこだわる性質なのも困りものだ。
「客で実験したら良いだろう」
「えええ……それはご迷惑かかるし……あ、でも……うーん。そうだな、それもありかもしれない」
「おい、冗談で言ったのに真に受けるな、愚息」
 呆れる藍ノ介に奈津ノ介は半眼で笑う。
「大丈夫ですよ、今回は解毒薬も用意してるって状況ですから」
「……わしはどうなっても知らんぞ」



■ライターより
惚れ薬が帰ってきました、改になって。
募集受注人数は未定。バレンタインまで放置です。同じ日にいただいたPCさま同士は絡んでいただこうと思います(!)人数が奇数になった場合やライターの気分でNPCを追いかけることもあります。
惚れ薬 再び


 その日、海原みなもは久し振りに銀屋へと遊びに来ていた。店の中は以前と変わらずだ。和室にあがってゆっくり茶など飲んで談笑している。
 その途中、そういえばと思い出したように奈津ノ介が話を切り出す。
「みなもさんはこの前惚れ薬で惚れられたんでしたよね。実は、あれを改良してみたんですけど……飲んでみますか? 今データをとってて色んな人に飲んでもらってるんですけど……今回はちゃんと解毒薬ありますし」
「この間のを改良? 解毒薬があるなら飲んでみたいです。あたしって、人を尊敬したり憧れたりすることはあるんですけど、好きになることってあんまりありません……というかないかも」
 みなもは苦笑しながら言う。中学生で初恋もまだなんて、遅いんだろうな、と心の中で思いながら。
 薬の力でもいいから人を好きになってみたいな、そんな気持ちがある。
「じゃあ薬とってきますね、待っててください」
「はい」
 そう言うと奈津ノ介は立ち上がって店の奥へと向かう。
 暫くして戻ってきた彼の手には小さな青と赤のカプセル。
「この赤い方が惚れ薬で、青い方が解毒薬です。どうぞ」
 赤い方を渡されていざ口にぽいっと掘り込む。こくん、と喉が鳴ってそれは体内へ。
「ちょっと効きだすまでに時間がかかると思います。このままだと僕になっちゃいますね、誰かきたり……」
 そこまで奈津ノ介が言った時だった。がらりと勢い良く入口の引き戸が開く音がして二人ともそちらを向く。
「なっつー! 遊びに来たよ!」
 人懐こい笑顔と高いテンション。手にはスーパーのビニール袋。ちょっとたれ気味の緑色の目と青いくせっけ。二本歯の下駄を脱ぎ捨てて和室へと上がってくる男。
 一目見て、胸がきゅんと締め付けられるような、そんな感覚。
 きっとこれが薬の力なんだと、そうわかるのだけれどもどうにも止められない。
 この人が好きだ、恋してる。恋ってこんなにドキドキして想いが止まらなくなるものなのかと思う。
 顔が、熱い。
「あれ、はじめましてだよね、ボクは南々夜って言うんだ、キミは?」
「あ、あたしは海原みなも、です」
「そっか、えーっと、じゃあうなちゃんだね」
 ニカっと微笑まれてまた心臓の鼓動が早くなる、そんな気がする。
「南々夜兄さんは僕の父親の友達なんです。僕も昔から色々お世話になってるんですよ」
「そうそう、してるしてる。あ、これお土産。蜜柑とか貰ったんだー」
 南々夜はそう言って手にしていたビニール袋をひっくり返す。中からころころと蜜柑がいくつもこぼれる。その一つがこつん、とみなもの膝へと当たった。
「なっつーもうなちゃんも食べよ」
「食べます。ええと、もうちょっと近くに行っても、いいですか?」
「うん、いいよ」
 その言葉が心底嬉しくて、みなもは頬を染めつつ笑う。
 そして南々夜の横に座ってさらに心拍数が上がる、ドキドキがとまらない。
「あのですね、兄さん」
「ん、なーに?」
 奈津ノ介は南々夜に呼びかける。事情を説明しておかなくちゃいけないかなと思ったらしい。
「今、みなもさんは僕の作った惚れ薬で、兄さんに惚れてしまってるんです」
「え、そうなの? あは、また面白いことしてるねなっつー」
 南々夜は笑って、そしてみなもを見て、そして言葉を紡ぐ。
「一時でいーなら恋人するよ? 薬のせいでも良い思い出欲しいもんね」
「え、じゃあ……くっついてもいいですか?」
「うん、いいよー。てかボクがくっついたり」
「きゃ」
 いきなり突然、傍に引き寄せられて吃驚する。今自分は南々夜に肩を抱かれて距離はゼロだ。自分のドキドキする心臓の音が聞かれないかそれが心配になる。
「あ、なんだか恋人同士っぽいですねー」
「うん、ボク達仲良しだよ、ね?」
「ええ、仲良しで大好きです」
 ねー、と二人顔を見合わせて笑いあう。奈津ノ介はその様子を見ながら観察中だ。
 みなもの薬を服用した様子はとっても恋する乙女。ちょっとしたことで頬を染めて照れて、いつもよりも優しく柔らかく微笑む。
「あ、蜜柑食べなきゃね。ボクが剥いてあげる」
「じゃああたしが食べさせてあげる」
 南々夜の剥き終った蜜柑をみなもは受け取ってそして一房とって、あーん、とにこやかに言う。それを口に運んでもらい南々夜は食べ、おいしいと笑う。
「じゃあ今度はあたしに食べさせてください、なんて」
「うん、いいよ、はい」
 みなもの手の中にある蜜柑を一房とって、南々夜は彼女の口へといれる。そして小首をかしげておいしいでしょ、と笑う。
「おいしい、です」
 ふわりと、笑む。ごくごく自然、心臓の早鐘もおさまってきた。だんだん自然体でいられるようになってきたが、やっぱり心の暖かさ、嬉しさ、そういった感情は膨らむばかりだ。
 と、ふいにみなもはこれが長く続かないのを思い出す。薬の力、今の感情はまやかしかもしれないけれど、でも今この時間があるのは確かだ。
「あの、よかったら一緒に写真とか……とりたいな、なんて」
「写真? いいよー、なっつーカメラある?」
「ポラロイドあったと思います。ちょっと探してきますね」
 奈津ノ介は店の奥、二階へと上がっていくようで階段を上がる足音が聞こえる。
 二人っきり。
 そう思ったら途端に恥ずかしく、でも嬉しくなる。
「大丈夫? 顔、赤いよ?」
「あっ、だ、大丈夫、です」
 覗きこまれて、顔が近くにある。そのまま数センチでキスの距離だ。
 そう気がつくと、さらに照れる、顔が赤くなる。
「うなちゃんはかわいいね」
「え、あ、ありがとうございますっ」
「ボク、かわいい子大好き」
 にへら、と笑って言われる。それは誰にでも言っていそうな言葉なのだけれども、でも、自分だけに言われている気がしてならない。
 そのまま、視線がはずせない、見詰め合う。
「ありましたよ、カメ……ラ……」
 と、その現場を奈津ノ介に見られてしまう。別に何も悪いことはしていない、それでも気まずくなる。奈津ノ介は苦笑しながらカメラを手に近づいてくる。
「お邪魔しちゃったみたいですね」
「あはーなっつー最悪だね」
「そんなことないです」
 ちょっといい雰囲気だったのは確かだったからちょっと残念に思う。
「じゃあ、写真撮りますね」
「うん、うなちゃんもっとこっちこっち」
 戸惑う間も無く南々夜はみなもを自分の傍らに一層寄せる。ぎゅっと方を抱く掌は大きくて、でも暖かい。
「うなちゃんもピース、ほらほら」
「あ、はい」
 にっこりと笑顔、ピース付。照れつつはにかみつつのその表情。
「いきますよ、はいチーズ」
 カシャリとシャッターの音がする。そして出てくる写真はまだ真っ黒だ。
 恥ずかしくなって離れようとするみなもをまだ南々夜は放さない。
「まだだよ、ボクも写真ほしいから」
 戸惑っていると優しい声が降ってくる。遠慮がちに上目遣いで見上げるとその声と同じ優しい表情だった。なんだか安心する。
「なっつー、早く」
「はい、いきますよもう一枚」
 もう一度、とポーズ。カシャリとシャッターの音。でもそれよりも自分の鼓動の音のほうが大きく聞こえる。
「一枚がボク、一枚がうなちゃん、これでバッチリ今日の思い出だね」
「はい!」
 微笑ましいな、と奈津ノ介は傍らで見ている。でもそろそろ、これも終わりだ。
「みなもさん」
 すっと差し出された手の中には青いカプセル、解毒薬だ。
「このままでも良さそうですけど、でも薬の力ですから、どうぞ」
「あ、はい」
 それを受け取り、南々夜を見る。彼はただただ笑って見守っている。
「うなちゃん、薬切れてもボクのこと好きでいてね。恋じゃなくていいんだ、友達でいいから」
「お薬の力、ですものね」
 少し名残おいしいな、この感情とさよならするのは。
 そう思いながらもみなもはそのカプセルを口にして、こくんと飲み込んだ。
「……あたし、まだドキドキしてます」
「ちょっとだけ時間がかかりますから」
「じゃあ最後の最後の思い出に抱きついとこっか!」
 ぎゅっと後ろから抱きしめられる。突然すぎて何が起こってるのかわからない。
「え、あの、あの……!」
 ドキドキする。けれどもなんだか今までのドキドキとはちょっと違う。
 ドキドキ、嬉しいよりも、恥ずかしいの感情のほうが強くなる。
 と、腕の力が抜かれて南々夜が離れていく、それが、自分の恋心も消えていく感覚とかぶる。
「は、恥ずかしかった……です、きゃー」
 顔を半分手で覆って、みなもは今までしてきたことを思い出す。
 密着したり、蜜柑を食べさせあったり。
「でも、後悔はしてません」
「うん、楽しかったよ、ボクも」
「こんな経験なかなかできませんから」
 ふと写真の中の自分が目に映る。
 写真を手にとってみるとその中の自分は本当に嬉しそうで、そして恥ずかしそうで、でも言葉で出来ないような感情を持っているのがわかる。
 恋する乙女になった良い思い出の記念。
 こんな自分にまたいつかなれるのかな、そうみなもは思った。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋】

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■         ライター通信          ■
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 海原・みなもさま

 お久し振りです、ライターの志摩です。このたびはありがとうございました!
 恋する乙女なみなもさまはいかがでしたでしょうか?運命の阿弥陀(…)の結果、南々夜と絡むこととなりました。ノリの良い彼なので良い思い出になったと思います。あ、うなちゃんという呼び方微妙!思いましたらいつでもご希望の呼び方にさせていただきますので…!と少しでもこのノベルで楽しんでいただければ幸いです。
 それではご縁がありましてまたどこかでお会いできれば嬉しいです!