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■例えばこんな物語 第二章■ |
紺藤 碧 |
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】 |
「遊びに来てくれたの!?」
青年――コールは白山羊亭で知り合った冒険者の訪れに、満面の笑顔を浮かべる。
「ストックしてある物語読んでみる? それか…」
コールはそこで一度言葉を止めると、新しい真っ白の本を取り出してドンと机の上に置く。
「新しい物語とか、どうかな?」
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例えばこんな物語 第二章
相変わらず本に埋もれた中で顔を上げたコールに、キング=オセロットは笑みを浮かべて声をかける。
「年始年末と挨拶に顔を出さなかったな、と思ってな」
オセロットが特別に忙しかったとか、別段コールが何かしていたとかそう言ったわけではないのだが、気がつけば機会を逸していた。
オセロットは居住まいを少しだけ整えると、
「改めて、昨年は世話になった。あなたに物語を紡いでいただけて、楽しかったよ。ありがとう」
と、頭を下げる。
「え、えっと! そんないいよ別に」
好きで物語を紡いでいるだけだから。と、礼を述べて頭を下げたオセロットに、コールはオロオロと駆け寄る。
「オセロットちゃんが楽しんでくれたなら、それだけでいいよ」
「ならば、今年も良いかな?」
顔を上げて問いかけたオセロットに、コールは大きくなずく。
「ではよろしく頼む」
と、オセロットはコールに向けて微笑みを浮かべる。
話の内容は前からの続き。
どうやらオセロットは続きが気になる質らしく、一番最初に紡がれた【アフェランドラの騎士】から途中の冒険譚を含み【サクシフラガ計画】まで一貫して同じ役で通している。
話を考える体制に入っていたコールに向けて、オセロットは思い出したように声をかける。
「……その前に一つ」
きょとんと首を傾げるコールに向けて、オセロットは少し照れたような声音を含みながら、
「あなたは私を初めて物語として紡いでくれたとき、『騎士』と紡いだ。王を守る代々の騎士、と」
コールはただオセロットを真正面から捕らえ、言葉の続きを待つ。
「……私は、実のところ、そんな良い血筋ではない。孤児だったのでね。物語は物語、現実は現実。それでいいのかもしれないが、あまり高く買っていただくとどうにもこそばゆい」
過大評価なのではないかと思って、オセロットは少し自分も事も知ってもらおうと出自を話した。
「僕は多分、オセロットちゃんが孤児だって知っていても、騎士にしていたと思う」
ただ物語りの中での出自の方法が違うだけ、他は何も変わらなかっただろう。それは、コールが初めてオセロットと出会った時に感じたイメージだから。
その言葉にオセロットは少しだけ面食らったように一瞬瞳を大きくして、その後話を聞き入るように瞳を伏せる。
「前置きが長くなったか。では、お聞かせ願おうかな」
【プリムラの鐘】
プリムラの鐘が鳴る。
それは誰のため?
「お父上もお母上も、それはもう立派な騎士でございました」
キング家に古くから仕える執事が、まだ幼いオセロットに昔を懐かしむよう話しかける。
オセロットという跡継ぎが残されていた事もあり、落ち着いた貫禄を見せる初老の現女王の采配によって、キング家は取り潰される事なく慎ましやかにただオセロットが騎士として城に上がるその日を誰もが待っていた。
ただ貯蓄をするくらいならば貧しいものに分け与えるという精神を持っていた両親は、眼に見えての遺産はほとんどなく両親が他界した時に雇っていた使用人のほとんどを解雇せざるを得なくなっていた。
それでもオセロットを、キング家自身を好いていてくれたこの執事1人が今でもここに残ってくれていた。
老年の執事は祖父の代からこのキング家に勤めるベテランの執事で、キング家のことにかけてはきっとオセロットよりも詳しいだろうと思われた。
そして政治や礼儀作法、その他上流階級知識、そして騎士とはなんであるかという心構え、その全てをこの執事が何処からか探してきた家庭教師がオセロットに教えていた。
給料も満足に払えていないと思うのに、その費用はこの執事が払ってくれていたに違いない。
しかし家のことまでも全て任せている上に自分の勉学の事までも全て任せてしまっては執事の負担が増えると考え、オセロットは決意の元一般教養だけは学費の安い国立の学校へと向かう事にした。
そこで出会ったのが1人の少女である。
「オセロット〜」
私が家を再興させなくてはいけない。と、どこか張り詰めていたオセロットの心に春風のように入り込んだ少女。
「どうした?」
相変わらず彼女の両手は包帯だれけで、見ているこちらが心配になってしまう。
「また傷が増えたな」
母子家庭だという彼女は母親の手伝いのためにいつも家事を行おうと必死らしいのだが、生憎とその手のことにかけては不器用さに拍車がかかり、こうして毎日生傷が耐えないらしい。
「こんなに台所の事好きなのになぁ」
自分の傷だらけの手を見ながら彼女は呟いてオセロットにバスケットを差し出す。
「お昼一緒に食べよ」
バスケットの中にはサンドイッチ。まさか血の味がしやしないかとヒヤヒヤとしてしまうのだが、作ったものの味が悪くないのはある意味才能かもしれない。
そんな親友とも呼べる友ができ、オセロットの学生生活は充実していた。
玄関で執事と身なりが整った見知らぬ人物が話しをしているのを目に留めて、オセロットは軽く首を傾げながら声をかける。
すると、話が終ったのか見知らぬ人物はオセロットに小さく会釈をし、颯爽と去っていった。
「どうかしたのか?」
「女王がお倒れになったそうでございます」
ある意味オセロットのスポンサーは初老の現女王。その女王に何かあればキング家自体が危うくなってしまう。
何よりなおも問題なのは現アフェランドラ王国女王には娘がいないこと。
そう、跡継ぎが居ないのだ。
それはすなわち女王がこのまま崩御してしまうような事があれば、この国はたちまち地図から姿を消す危険性を孕んでいるということ。
「オセロット様お時間は?」
「あ…あぁ」
その事実にしばし呆然としていたオセロットだったが、執事の一言にはっと我を取り戻すと、オセロットは急いで学校へと向かう。しかし、その日は一日ずっと女王が倒れたことばかりが頭の中にあって、授業がまったく頭の中に入ってこなかった。
「今日一日ぼーっとしていたけれど、どうかした?」
友の指摘に本日二度目にはっとして、将来騎士となる身である自分がこんな事ではいけないと、自身の頬を軽く叩く。
今日は友の母の仕事が休みらしく、ケーキを焼いたので遊びに来ないかという誘いに生返事ながらも頷いていたらしい自分の対応に反省しながら学校を後にする。
「家の前に誰か居る?」
目をパチクリとさせた友の視線の先を見れば、確かに数人の人影が彼女の家の前で戸を叩こうとしているようだった。
「家に何か用事ですか?」
「貴女が―――」
人影の中心に居た一人背の低い女性が友の名を問いかけるように声をかける。
そして、友が承諾の頷きを返した瞬間、
「探しましたよ」
数人のお供を連れ深く外套を被ったその女性は、親友の少女にゆっくりと手を伸ばし、優しく抱きしめた。
友は困惑したような瞳をオセロットに向け、その光景をただ見ていたオセロットは徐々に瞳を大きくしていき、小さく呟く。
「アフェ…ランドラ女王……」
その呟きに、女性はただゆったりと微笑んだ。
そして数年の時が経ち。
オセロットとかの友人は女王の私室に呼ばれ、話しを聞くこととなった。
現女王には子供がいない代わりにたった一人の弟がいた。
王位継承は女性が継ぐこの王国に置いて、王子という立場は確かに強いものではあったが、王女ほどに束縛される立場というわけではなかった。
実際女王の弟はかなり奔放な人だったらしく、「旅に出る」という一言を残したきり一切の消息を絶ってしまったらしい。
数年後、病死したという知らせと、結婚していたという知らせを同時に聞き、女王はその時からずっと友を探していたのだという。
まさか自国のこんな近くにいるなんて思いもよらずに、女王は「灯台下暗しとはよく言ったものね」とコロコロと微笑んだ。
「ねぇ、オセロット」
受勲を受け王国の騎士に名を連ねたばかりのオセロットが、女王の部屋で少女と共にこの話しを聞きながら、突然名を呼ばれた事に緊張して返事を返す。
「貴女を、この子付きの近衛騎士に任命するわ」
突然の言葉にオセロットは驚きにただ瞳を大きくして、その後深く頭を下げ、嬉しさに口元を震わせる。
「……御意の、ままに」
ここから、アフェランドラ王国奇跡の物語は始まった。
終わり。(※この話はフィクションです)
続きを…と、思っていたら何の変化球か過去の話になってしまった。
これもオセロット自身が少しだけ自分の事を話した影響だろうか。その結果、家柄は話に共通して同じといえど、若くして両親を無くしたという設定が追加された。
「物語は物語、現実は現実……わかっては、いるが」
オセロットはその話の創りに口元に微かな苦笑を浮かべて小さく呟く。
「どうだった?」
小さく首をかしげて問いかけるコールに、気を取り直すように一度長く瞬きをした後、
「楽しかった、ありがとう」
と、言葉を続ける。
「やっぱり物語には始まりも必要だもんね」
そうにっこりと微笑んで答えたコールにオセロットもつられるように微笑を浮かべた。
また続きを――と口に出そうとして、オセロットははたっと何か思い当たったかのようにその言葉を飲み込む。
「昨年から同じことを言っているような気がするが」
何だかお礼の言葉が少し月並みになってしまってきたような気がしてきた、しかし、
「今年もまた、お聞かせ願えるかな?」
続きをまた聞きたいのも事実で、オセロットはそう言葉をかけた。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
例えばこんな物語 第二章にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。突発の窓開けにも関わらずご発注くださりほんとうにありがとうございました。感謝の言葉もございません。なんだかオセロット様の物語内での設定がドンドン確定していくのがこちらも楽しくて仕方がありません。いつか初恋とか書いてみたいです(ぁ)
それではまた、オセロット様に出会える事を祈って……
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