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■日々徒然■

志摩
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】
 雑貨屋銀屋。
 店は開いてます。商品もアクセサリーから服から最近は怪しげな薬までおいてある。
 店主は銀狐の妖怪だとか。
 店主以外にも他の妖怪が出たり入ったり。色々と面倒事もあったり飽きはなく。

 さて、そこで何をします?

 お客様次第です。
日々徒然 〜一番偉くて大変な人〜



 日々変わらない?
 日々変わっていく?
 喧嘩するほど仲が良いって言う。
 あなたたち息がぴったりだ。
 大人で子供、苦労するね。
 けど―――




 ふらりと街を歩く。そんなのは別に普通のことだ。
 ふと、何か惹かれるような、そんな感じがしてあたりを見回す。目に付いたのは銀屋と看板のかかった店。どうやら雑貨屋らしい。
 菊坂・静はそこをじっと見つめた。
「銀屋? ……何だか不思議なお店だね」
 興味がわいてそっと店の中を覗くと今は人はそんなにいないらしい。けれども何やら揉めているような雰囲気。
 ぎゃーぎゃー騒ぐ声とそれを煽る声が漏れ聞こえてくる。
「……喧嘩かな?」
 その声に今は入ってみるのをやめておいた方がいいかな、と店の引き戸、その入口に背を向けたときだった。がらっと、勢い良くその扉が開き、なんとなく気になってか、振り返ってしまった。
 自分よりも高い身長広い肩幅、白く長い髪を一つに束ねて表情は苦々しい。店の奥を睨むような目つき。
「もういい! わしは出かける!」
「待て、まだ話は終ってない」
「ちょ、髪を引っ掴むな引っ張るな!」
 即座に後ろから声がかかり、その男は引き戻される。そしてがくっと体勢を崩しかけた彼が咄嗟に掴んだのは静の肩だった。いつもならうまく逃れるだろうに、何故だか気が逸れてしまっていた。自分でも、驚く。
「……え? っ!!」
 一瞬視界に青空。そして受身を取る間無く倒れこむ感覚。けれども何故だか安堵感。支えてくれる感覚がする。
 どさ、と鈍く重い音。周りには少しの埃が舞っていた。
「あ、痛……遙貴、汝っ! じゃない、そうじゃない。すまん、汝、とっさに掴んでしまった」
 後ろに怒鳴ろうとした瞬間、静の事が先だとオロオロとするような、そんな雰囲気。容姿に見合わないな、などと思いながら静は苦笑しつつ言葉を紡ぐ。肩越しに彼と、その後ろの彼を見ながら。どちらも普通じゃない、人じゃない、けれども人くさい雰囲気を感じる。
「僕は大丈夫だよ、そっちこそ……怪我は?」
「怪我なんてしても気がつかない馬鹿だからそれは。巻き込んでしまってすまない」
「遙貴、もとは汝の所為だろうが」
「えっと……僕は静っていいます……お二人は?」
 一瞬二人に漂った剣呑な雰囲気を悟ってか静はやんわりと、切り出す。二人は目を合わせて一時休戦とばかりに同時に溜息。なんだか似ているような、でも違う感じだ。
「わしは藍ノ介。あっちは遙貴」
 自分を受け止めた、というか巻き込んだ方は藍ノ介と名乗り、そして後ろ、両サイドだけ長い金糸が朱に染まる彼を視線で示して名を伝える。どちらもきっと街中を歩いていたら良くも悪くも目立つタイプだ。特に遙貴の方はド派手という文字が似合う。
「藍ノ介さんと遙貴さんですね」
 立ち上がりながら静は柔らかく、ふわりと笑う。それにふぅん、と遙貴は興味を示す。じっと見つめられて、そして微笑まれた。
「どうかしました?」
「いや……若そうなのに大人だな、と思って。何時までたっても幼いこれとは違うな、と。それと……うん、でもこれは内緒かな」
「気になりますね」
 にこりと笑いあう静と遙貴の間にちょっと不穏な空気。何を感じ取ったのか、気になるような。そしてどちらも引かずといったところ。そんな雰囲気の中にいるのは苦手らしく藍ノ介は困ったような表情だ。
「とりあえず……静よ、茶でも飲んでいけ」
「いいんですか?」
「迷惑をかけた、礼だ」
「藍ノ介は茶を淹れるの、下手だけどな」
 一言多い、と不貞腐れた表情の藍ノ介が奥へと進む。静もこっちへ、と促されて奥へと行くとそこにはちょっと段差になった場所に和室がある。こじんまりとちゃぶ台があって落ち着ける雰囲気だ。
 靴をそろえてそこに上がるとぼふ、と座布団を出されて座れと促される。大人しくそれに従って腰を下ろすと何故だかほっとするような、そんな感覚に襲われた。だけれどもそれはすぐ居心地が良すぎて悪いような、そんな感覚へと変わる。
「静は歳はいくつだ?」
「十五です」
「十五って言ったら……」
「要と同じだな」
 ことん、と湯飲みを差し出しながら藍ノ介が言う。要はここでアルバイトをしている子なのだと付け足しながら。
「そうなんですか。そういえば、お二人は何か揉めていたようですけど……」
「ああ、あれは……」
「遙貴が悪いのだ」
 キパッと言い切る藍ノ介と半眼で笑う遙貴。どっちもどっちのような気もすると思うが静は言葉にしない。茶を一口飲み、なかなかおいしいと思う。
「遙貴がわしと奈津の事に口を挟むから……関係ないだろうに」
「本当にそう思うのか? 奈津は我にとっても子のようなものだぞ」
「血は繋がってないだろう」
「そこは問題じゃない」
「奈津を否定しておるくせに、かわいそうな」
「奈津のためだ」
 ギッと二人の視線がぶつかる。静がいることも忘れて、火花が飛びそうなほどの激しさ。
「貴様は奈津が貴様だけのものと思っているのか、それは親の身勝手だろう」
「そんなことはない。ただ汝に指図されるのは不愉快というだけだ」
「昔っから貴様はオツムが弱いんだ、言ってやらねばわからんだろうが」
「何を言うか、汝こそ昔はこけたぐらいで泣くほどの軟弱者であったくせに!」
「あの時は女だったからいいんだ」
 どんぐりの背比べ、五十歩百歩といったところか。とてもくだらない言い合いが続くのを静は黙って、時折茶を飲みつつ静観していた。きっと口を出せば巻き添えを食う。それに低レベルなことを言っているのに、おもしろい。やり取りを聞いていると二人は昔から、長く続く仲であること、先ほど名前を聞いた奈津、というのは藍ノ介の子らしいことなどがわかる。なんとなく、その奈津という人が苦労しているのではないかと想像がつく。
「貴様とは一度ちゃんと決着をつけなければいけないようだな」
「望むところだ」
 ばっと立ち上がって二人距離をとる。手には、座布団。
 静は湯飲みを持ったまま立ち上がると靴を履いてさっと店内へ、安全そうなところへと降りた。そして振り向くと、案の定二人が座布団の投げあいをしている。
「見てて飽きないなぁ……あ、もうお茶なくなっちゃった……」
 彼らはどこか楽しそうで幼い。自分よりも年上のはずなのにそんな感じが微塵もしない。
「!」
 と、座布団が一枚、自分めがけて飛んでくる。静はそれを咄嗟に、反射的に叩き落とした。流れ弾ならぬ流れ座布団だ。それを拾って軽く叩いた後、静はじっと座布団を見て、思う。
 ちょっと投げてみたいかもしれない、顔面にでも当たったら面白そうだな、と。もし投げるなら、相手は藍ノ介だろう。理由は弄りやすそうだから。それに遙貴にあてると後々根にもたれそうな印象がある。
 しばらく座布団を持ったまま、静は考える。
 やっちゃおうかな、と。
 だけれどもそれを実行に移す前に和室に不機嫌な、あからさまに怒った声が響く。
「何してるんですか……」
 声は低くないのだがその声色は恐ろしい。地に響くような印象。
 藍ノ介と遙貴が座布団を投げるのをぴたりとやめた。その動作が一緒で静はクスリと笑った。表情を凍らせるタイミングも一緒だったのだ。
 そして二人を絶対零度の笑顔で見る人物へと視線を向けた。ゆるやかな銀糸の隙間から見える藍色の瞳は笑っているが笑っていない。
 静はきっとこの人が奈津なのだろうと思った。どこかしら、藍ノ介と雰囲気が似ているような気がする。瞳は一緒で、髪は藍ノ介の方が白いのか、と違いを観察。
「僕、なんて言いましたっけ……親父殿?」
「う、あ……頭痛いから二階で寝る。静かにしろ、問題起こすな、店よろしく」
「遙兄さんは?」
「あ、藍ノ介を、頼む……」
 優しい言葉、だけれども有無を言わさない、否有無を言えない強さだった。静かに起こっているのが嫌でもわかる。と、彼は静に気がついてにこりと笑いかけた。その笑みは二人に向けるものとは違って穏やかでいたって普通の笑みだった。切り替えが恐ろしく早い。
「すみません、ご迷惑おかけして……僕は奈津ノ介と申します」
「あれ、奈津がお名前じゃなかったんですね。お二人が奈津、奈津と呼ぶからてっきり……僕は菊坂静と言います」
「奈津と呼んでくれて構いませんよ。醜態をお見せしてしまって……恥ずかしいです」 ふと緩い笑みを浮かべたかと思うと、彼はまた絶対零度の笑みを二人に交互に送る。この人がきっと一番ここで権力があるんだと嫌でもわかる。
「いつもなら、大抵は親父殿が阿呆でもして墓穴ほって騒ぎになってるんでしょうけど、なんだか今日は遙兄さんまで騒いでくれたみたいですね。おかげで僕の頭痛は治ったかと思ったのにまた頭痛くなりそうです、いえ痛いです。まぁ……店のものを壊してないのでよしとしましょう」
「すまんな奈津。藍ノ介が馬鹿を言うから」
「なっ、遙貴押し付けるのか汝は!」
「また揉めるんですか?」
 やんわりにっこり。でも圧力のある言葉に藍ノ介は紡ごうとした言葉をぐっと飲み込んで渋々と座布団を片付ける。
「静さん、どうぞ。もう大丈夫です」
「はい」
 しっかり片付け終わるのを確認して、奈津ノ介は静に笑いかける。確かに、もうこの人がいれば問題は起きないだろうなという安堵感がある。
 奈津ノ介をはさんで藍ノ介と遙貴はそっぽを向いて座り、静は丁度奈津ノ介と対する形でちゃぶ台の前に座った。
「大変そうですね、いつもこうなんですか?」
「時々、ですね。まったく……何時までたっても子供で」
 本当に困ります、と奈津ノ介は苦笑する。
「親子なのに立場が逆なんだね、でも奈津ノ介さんもちょっと楽しそうです」
「そう、みえますかね。親父殿は考えなしに色々言うし、遙兄さんも時々見境無くしてはしゃぎますからね、誰かが止めてあげないと」
「待て奈津、わしは何も考えてなくないぞ」
「我もはしゃいでなど」
「そう言うなら喧嘩するのやめてくださいね」
 二人は押し黙る。うまい抑え方だな、と静は感心する。
「あ、お茶飲みますか? 親父殿、急須の茶葉捨てて、あとポットにお湯も入ってないですよ、入れてきてください」
「何故わしなのだ」
「あなたがこの家に住んでる人だからですよ」
 む、と眉を顰めたが了承したようで藍ノ介は立ち上がる。台所はどうやらまだ奥にあるらしくゆっくりと歩いていっている。
「……で、本当のところ、喧嘩の始まりは何だったんですか?」
「え? ああ……奈津が頭痛がするというから何でもっと早く気がつかないんだって言って……それで、うん。なんというか……」
「うるさい汝に言われんでもわかっておるわ、とでも言ったんでしょう。まったく仕方ないなぁ……」
 仕方がないと言いながらも彼はどこか嬉しそうで、そして安堵している。そんな雰囲気。でも何か違和感がある。
「仲が、良いんだね、いいですね、そうゆうのは」
「我も藍ノ介も子離れが出来んのだ、未だに」
「そうですよ、僕もう三百歳も過ぎてるんですよ」
「え……三百……?」
 どう見ても奈津ノ介は十六、七歳くらいだ。ちょっとおっとりした自分よりも一つ二つ年上といた意識を抱いていた。
「僕たち妖怪なんです。言ってなかったんですね、多少のことじゃ驚かないし死なない生き物です。あと長生き」
 と、奈津ノ介が言ったところで奥から怒声が聞こえてきた。おのれ、この、とか、ちょこまかと、と何かと戦っているような。
「……あの人何してるんだろう……僕見てきますね」
 すっと立ち上がって奈津ノ介はどうしました、と声をかけながら歩む。そんな姿を遙貴と一緒に静は見送った。
 ふと、遙貴と視線が会う。表情は笑っているけれども瞳は笑っていない。
「子離れも親離れも、どちらも出来てないんだ、実際」
「遙貴さんは、それが嫌なんですか?」
「そうじゃないが……むしろ心地良いくらいだ」
「ならそれでいいんじゃないですか……ところで一つ気になるんですが」
「ん?」
 静はちょっと身を乗り出して遙貴に問うて良いかと聞く。彼はいいぞ、と言って笑った。
「妖怪って何の妖怪なんですか? からかってないですよね?」
 真面目に真顔。問われて遙貴はぷっと吹き出した。
「それは自分で聞けばいい。ほら帰ってきた」
 足音がして、確かに奈津ノ介の姿が見える。彼は何の話ですか、と笑って答えた。そして静が先ほどの問いをすると狐ですよと答えた。
「耳と尻尾もありますよ。遙兄さんは烏天狗です」
「証拠が見たいといえば羽根でも出すがあとで掃除するのが大変でな、勘弁してほしい。ところで、藍ノ介は何を騒いでいたのか」
「ああ、人類の敵、黒いアレと戦ってましたよ……本当に馬鹿ですよね……」
「うわぁ……楽しい方ですね、藍ノ介さん」
 楽しすぎて困ります、と奈津ノ介は言い笑う。
「あんなのでも父親ですからね……」
「あんなので悪かったな」
「聞こえてましたか」
 いつの間にか奈津ノ介の後ろでふん、と鼻を鳴らし不機嫌を訴えながら藍ノ介が戻ってきている。手にはちゃんとポット等等を持って仕事は果たしてきたらしい。それをとん、と奈津ノ介の傍において元の位置に座りなおす。
「やっぱり、奈津ノ介さんのほうが保護者みたいですね。ここで一番偉いのはきっとあなたなんでしょう?」
「そうです、僕が一番偉いんです、一番大変ですけど」
 茶を淹れながら奈津ノ介は言って藍ノ介と遙貴を見やる。二人とも何も言わないからそれはどうやら当たっているらしい。
 そして奈津ノ介が淹れた茶をどうぞ、と差し出され口にする。
「藍ノ介さんが淹れたのより、おいしいです」
「奈津は茶を淹れるのも一番なんだ」
 藍ノ介の言葉にそうですね、と静は相槌を打つ。
 ここはきっと奈津ノ介が中心にないと駄目なんだろうな、と心の中で苦笑しながら静は茶をこくりと飲んだ。
 そして三人見渡す。ふと親子みたいだなと思い笑みがこぼれた。
「お、何を笑っておるのだ?」
「お母さんとお父さんと息子みたいだなぁ、と思って」
「うん、わしと奈津は親子だからな、遙貴がツレというのは気に食わんが……」
「違いますよ、お母さんが奈津ノ介さんで、お父さんが遙貴さんで……」
 その言葉に待て、と藍ノ介は言う。想像していた通りの行動だ。
「僕はどっちかと言うとお父さんがいいなぁ。ね、遙兄さん」
「……それは口説いているのか奈津」
「はい」
 にこにこ笑顔の奈津ノ介と、渋々笑顔の遙貴と、不貞腐れた藍ノ介と。
 微妙なバランス、絶妙なバランス。
 静はくくっと喉の奥で笑う。この人たちはおかしい、噛みあっていないようでそうでなくて。
 大人で子供な二人を相手に奈津ノ介さん、あなたは楽しそうだね、と静は言う。
 一瞬きょとん、と彼はしたがすぐに笑顔だ。
 そしてはい、と笑って答えた。




 大人で子供、苦労するね。
 けど―――
 けどあなたは、あなたたちは楽しそう。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】

【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 菊坂・静さま

 はじめまして、ライターの志摩です。ご指名(?)ありがとうございました!
 藍ノ介と遙貴がもめて奈津が止めるたりエトセトラ、ということで。とても楽しかったです。ひそりと志摩が書きたいと思っていた感じでしたのでにやにやうへうへしながら(あやしい)書き進めておりました。
 静さまらしさがでておれば良いな、と思っております。そしてちょっとでも楽しんでいただければ幸いです…!
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!