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■惚れ薬 再び■

志摩
【2449】【中藤・美猫】【小学生・半妖】
「バレンタイン前なので惚れ薬・改を売り物にしようかと思うんですが、どうにもしっかり完成してるとは思えないんですよね……」
「奈津、物好きだな……あれだけ騒ぎを起こして」
「あれは、まぁ半分僕の責任としてあとは自業自得です」
 奈津ノ介はちゃぶ台の上に透明な小瓶を幾つかおいて、うーむ、と考える。
「もうわしは飲まんぞ」
「わかってますよ。その前に飲まれたら困ります、大変なんで。自分で飲んでもだめだしな……」
 思案する奈津ノ介をちら、と藍ノ介はみて溜息をつく。どうしてこんなに変なものを作ることに執着するのか不思議だ。しかも結構それにこだわる性質なのも困りものだ。
「客で実験したら良いだろう」
「えええ……それはご迷惑かかるし……あ、でも……うーん。そうだな、それもありかもしれない」
「おい、冗談で言ったのに真に受けるな、愚息」
 呆れる藍ノ介に奈津ノ介は半眼で笑う。
「大丈夫ですよ、今回は解毒薬も用意してるって状況ですから」
「……わしはどうなっても知らんぞ」



■ライターより
惚れ薬が帰ってきました、改になって。
募集受注人数は未定。バレンタインまで放置です。同じ日にいただいたPCさま同士は絡んでいただこうと思います(!)人数が奇数になった場合やライターの気分でNPCを追いかけることもあります。
惚れ薬 再び


「ええと……ここ、かな?」
 ぽてぽてと歩を進めて辿り着いた先。中藤・美猫は目指していた場所をその店の看板で確認し一呼吸置いた。
 ここには自分の祖母の知己がいるらしいと聞いて興味がわいてやってきたのだ。
 控え目にからりと引き戸を開ける。ちょっと中を覗いてドキドキしながら足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。あれ……」
 奥から出てきた青年の視線を受けて少し驚くがそれがすぐに穏やかなものであることに気がついて美猫は安心した。
「こんにちは……ここ、おばあちゃんのお知り合いがいるって聞いてきたのだけれど」
「あなたは半分妖怪、ですよね?」
 こくん、と頷いて見上げた先、藍色の瞳とぶつかる。優しげな青。彼は視線を美猫と合わせるようにしゃがみこんだ。
「僕は奈津ノ介、奈津と呼んでください。僕は……狐です」
「狐さん?」
「はい。あ、こちらにどうぞ。きっと親父殿か誰かの知り合いなんでしょう、顔広いから」
 手招きされて進む店の奥、少し段差になった先に和室。靴を脱いであがるとそこには先客が三人いて一瞬怯む。だけれどもすぐ雰囲気が和やかであることを感じ美猫はその緊張を解いた。
「客か?」
「あれ、お知り合いじゃないんですね……」
 とりあえずお話を聞きましょうか、と座るように勧められて美猫はちゃぶ台前に置かれた座布団に腰を下ろした。
 ふと、隣にいた者、といっても人間ではない猫耳手足の少年が美猫を興味津々とばかりに見つめた。そしてにっこりと笑いかける。
「俺は小判。キミは?」
「私は、中藤美猫といいます」
「よろしくね! 僕の隣は千パパ……千両パパで、お隣が藍ノ介さんて言うんだよ」
「千両さんと……藍ノ介さん……おばあちゃんから、お名前を聞いたことがあります」
 ちょっと控え目に二人を見ながら美猫は言う。大人相手というものは緊張をするようで、それを感じ取ってか隣の小判が言葉をかける。
「おばーさんの名前はなんて言うの? 言ったら千パパたちわかるかも」
「そうだな、知り合いのお孫さんかもしれないなぁ」
 美猫は祖母の名を告げる。その名をを聞いた途端、千両はびくりと反応する。ちょっとばかり顔が青い。藍ノ介はなるほど、と笑う。
「あの人の孫娘さんか。なるほどなるほど、昔世話になったな……特に千両が、なぁ」
「ん、そ、そうだな……ああ、たくさん世話になりましたとも……猫妖怪仲間だし」
 昔を懐かしむような感じで二人苦笑し、残された三人はちょっと置いてけぼりだ。だけれども美猫がどういった繋がりかはわかりそこは一つ、スッキリだ。と、大人組はそういえば、と昔話に花を咲かせ始める。
 それを知らない者は退屈で、ふと小判が思いついたように美猫に話を振った。
「ねー美猫さん……うーん……なんかしっくりこないなぁ……美猫ちゃん、かな? 美猫ちゃんも奈津さんのデータ取りに協力しない?」
「データ取り……?」
「うん、惚れ薬の!」
 ごそごそと自分の服から赤と青のカプセルを取り出して見せて、小判は笑う。
「あ、小判君、僕のとこからまた勝手に……」
「あはは、ごめんなさい奈津さん。でも悪いことには使ってないから!」
 まったくしょうがないですね、と苦笑する奈津ノ介の様子を美猫はちょっと見、そして視線をカプセルへと移した。
「えっと……」
 困ったような表情を浮かべ美猫は戸惑いを隠さず表す。なんとなく怖いと感じる。知らないものへの興味はあるものの一歩踏み出せない感じだ。
「嫌なら良いんです、無理しないでくださいね」
「えー大丈夫だよ、ほらほら!」
「えっ、あ……」
 強引に赤いカプセルを渡されて美猫は困る。でも目の前でキラキラと目を輝かせながら飲むのを待っている小判を見てしまい、なんとなく断れないような気がした。
 今、掌にある赤いカプセル。それを見詰めて、そして美猫を意を決しそれを飲み込んだ。
 飲み込んだと同時に、それが身体の中に染み入るような感覚が来る。
 心も身体も熱くなるような感覚。
 甘い甘い、一途な想いが心の中に生まれる。
「大丈夫? どう?」
「えっと……大丈夫で……小判様ー!!」
「うに゛ゃっ!?」
 ちょっと心配そうに覗き込んだ小判を見て、そして顔をちょっと赤らめる。
 そのまま勢いに任せて美猫は小判に抱きついた。きゅっと首に手を回してしっかり離れないように美猫はくっついた。
「え、ちょ、美猫ちゃん?」
「小判様、お慕いしております……毎日三食小判様にホットケーキを作ってあげたい、私と結婚してください……!」
「え、ええ!?」
「大好き、小判様を愛しています……!」
「……ものすごい効きっぷりですね……」
 冷静に観察する奈津ノ介を小判は困ったように見上げる。けれどもただ苦笑を返されるばかり。
 そして小判の隣では千両が湯飲みを取り落として硬直している。
「え、小判たん結婚するの? そんなパパに一言も断り無しに? え、え!?」
「口から茶が流れでとるぞ」
 自分の隣で起こっている現象に千両は拒絶反応を起こしているらしく、藍ノ介に言われて口の端をぬぐい、そして二人を再確認。
 現状美猫が小判に惚れて熱烈アタックを試みているのだが千両にとってはそうでないらしい。
「小判様、小判様ー!!」
「み、美猫ちゃん落ち着いて……ちょ、奈津さん助けてー」
「自分で撒いた種ですよ、小判君」
 絶対に離れません、と美猫は小判をちょっと潤んだ瞳で見上げる。小判はそんな瞳に見つめられてちょっとドキッとしたのか動けないままだ。
「小判様……!」
「美猫ちゃん……」
 とろとろと、良い匂いがするような、そんな雰囲気。眠気に近いようなそんな気になってくる。
「……美猫、かわいいなぁ……」
「何を言っている藍ノ介ェ! うちの小判たんが、小判たんが!!」
「いや、だってかわいいものはかわいい……む、何故だ、ドキドキするぞ」
 眉を寄せておかしい、という藍ノ介は自分の胸元を押さえながら、何故だか照れながら美猫を見詰める。ちょっと熱の篭った視線でだ。その様子を見て奈津ノ介はああ、と頷く。
「魅了、ですね。さすが半妖……さすがそれにかかる親父殿……」
「なっ……う、だがそうかもしれん……」
「奈津もっ! 冷静に観察してないでどうにかしてくれ!」
「解毒薬飲めばいいんでしょうけど、小判君が持ってますし、彼、そこまで思い浮かばないみたいだし……まぁ、本当にまずくなったら止めますよ」
 にこりと茶をすすりながら答えた奈津ノ介。千両はその対応に自分がどうかしなければと思う。
「ええい、いくら孫娘でも、よ、容赦はしない! 小判たんから離れてくれ!!」
「いやです千両御義父様! 私は小判様と結婚するのです!!」
「おと……俺は御義父様になった記憶などない!! 離れなさい、離れなさい二人とも!」
「やっ、千パパ余計なことしないでよ! 俺は美猫と結婚するんだ!」
「!!」
「あ、小判君も魅了されてしまいましたね」
 引き離しにかかる千両の腕をぱしっと小判が撥ね退ける。きっとその瞳は千両を睨んで腕はぎゅっと美猫を抱きしめる。
「え、小判たん? 今何言ったか、わかって、る?」
「俺は美猫と結婚するって言ったの!」
「小判様、美猫、嬉しい……!!」
 仲睦まじく、二人は笑いあう。そんな姿を見て千両はその目かぽろりと涙を流す。まだ親離れする歳じゃないのに、うっ、などと嗚咽を漏らしちゃぶ台に顔を伏せて泣き始めた。しかも大声で。
「微笑ましいな……幸せになれよ、小判、美猫……! くっ、小判にならば愛しの美猫も任せられるというものよ……」
「……親父殿……ハァ……完全に魅了されてますね……しょうがない」
 これ以上の大事を起こす前にと奈津ノ介はどこからか青い、解毒薬のカプセルを取り出す。美猫さん、とちょんちょんと肩を叩いて振り向かせると、言葉を紡ごうとした口に青いカプセルを放り込んだ。突然のことで驚いてこくん、と美猫はそれを飲み込み瞳をぱちくり。
「あ、れ……?」
 急速に冷えていく心と、この状況の理解が追いつかない。
 どうして抱きついているのかわからなくて、そして思い出す。
 惚れ薬を飲んで、小判に惚れて。
「!!」
 かぁっと顔が赤くなる、と同時にどん、と小判を突き放した。小判は何が起こったか理解できず、千両の背に身体を預けていた。
「は、恥ずかしいです……ごめんなさい、ごめんなさい小判様……じゃないよ、小判さん」
「えっと……あれ? 惚れ薬飲んだのは美猫ちゃんなのに、あれ?」
「魅了されてたんですよ」
 魅了、と小判は呟いてそして美猫を見る。そしてごめんなさいと謝り続ける彼女にちょっと微笑んだ。
「ん、いいよ、ごめんね。俺こそなんか無理矢理飲ませちゃったみたいで……」
「小判さん……」
 ぐすん、と目頭をこすり美猫は顔を上げる。にこっと、大丈夫だと小判は言う。美猫もちょっと安心したようで薄く笑った。
「ところで奈津さん、なんでもっと早く解毒薬出さなかったの?」
「え、ちょっと面白そうだったので……千両さんが」
「いい具合にウザイぞ。そろそろどうにかしてくれ小判よ」
 奈津ノ介と藍ノ介が苦笑しながら視線で促された先、ちゃぶ台に顔を伏せてべそべそと千両はまだ泣いている。その様子に苦笑いしか浮かべることが出来ない。
「千パパ……」
「千両さん……」
「何ですか……結婚報告ならもういいんだ……俺は一人でこれから生きていく……ぐすっ」
 美猫と小判が声をかけると諦めたような反応が返ってくる。
 二人は顔を見合わせて笑った。
「千パパ冗談だよ、俺まだ千パパの子だから!」
「そうです……お薬の所為だし……ね?」
「本当にか?」
 ぐすっと鼻を啜りながら千両は顔をあげ美猫と小判を交互に見る。そして本当だとわかると二人を抱きかかえて良かったと今度は喜びで泣き始めた。
「ちょ、千パパったらもうしょうがないなぁ……」
「小判さん小判さん」
 千両の背中を二人でぽんぽんと叩いて落ち着けと促したりどちらが保護者かわからない。美猫はぎゅっと抱きしめられて苦しいものの、千両の肩越しに小判に話しかけた。その表情はどこか楽しげで、嬉しそうだ。
「なぁに、美猫ちゃん」
「楽しいお父さんですね」
 にこりと笑まれて告げられた言葉に小判はそうだねと、笑った。
 もう少しこの状況を我慢してあげようかと言い合いながら。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【2449/中藤・美猫/女性/7歳/小学生・半妖】

【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 中藤・美猫さま

 ライターの志摩です。銀屋でもどうもありがとうございます!
 プレイングに小判と〜とありましたので小判ひっぱってまいりました!惚れつつ魅了しつつ、千両パパがそばで一人騒ぎつつ(…)と。盛沢山詰め込んだ気分満々です。楽しんでいただければ幸いです。にゃんこ妖同士という繋がりにひっそりとウフフしながらこちらも楽しく書かせていただきました。
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!