■惚れ薬 再び■
志摩 |
【5201】【九竜・啓】【高校生&陰陽師】 |
「バレンタイン前なので惚れ薬・改を売り物にしようかと思うんですが、どうにもしっかり完成してるとは思えないんですよね……」
「奈津、物好きだな……あれだけ騒ぎを起こして」
「あれは、まぁ半分僕の責任としてあとは自業自得です」
奈津ノ介はちゃぶ台の上に透明な小瓶を幾つかおいて、うーむ、と考える。
「もうわしは飲まんぞ」
「わかってますよ。その前に飲まれたら困ります、大変なんで。自分で飲んでもだめだしな……」
思案する奈津ノ介をちら、と藍ノ介はみて溜息をつく。どうしてこんなに変なものを作ることに執着するのか不思議だ。しかも結構それにこだわる性質なのも困りものだ。
「客で実験したら良いだろう」
「えええ……それはご迷惑かかるし……あ、でも……うーん。そうだな、それもありかもしれない」
「おい、冗談で言ったのに真に受けるな、愚息」
呆れる藍ノ介に奈津ノ介は半眼で笑う。
「大丈夫ですよ、今回は解毒薬も用意してるって状況ですから」
「……わしはどうなっても知らんぞ」
■ライターより
惚れ薬が帰ってきました、改になって。
募集受注人数は未定。バレンタインまで放置です。同じ日にいただいたPCさま同士は絡んでいただこうと思います(!)人数が奇数になった場合やライターの気分でNPCを追いかけることもあります。
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惚れ薬 再び
九竜・啓は現在お茶を飲んでまったりとしている最中だった。いつも通りほえほえの雰囲気であたりを和ませ、銀屋のいつも通りの和室。そこで奈津ノ介と二人、のんびりと至福の時間を過ごしていた。
「お茶、おいしいね……」
「そうですね」
銀屋にいるのは心地良くてどうしても入り浸ってしまう。それはここが古い雰囲気を纏っているからかもしれない。ここに集まる人たちのおかげかもしれない。
「あ、そうだ。よければあきらさん……お手伝いしてくれませんか? 惚れ薬のデータ取りなんですけど」
「惚れ薬……?」
はい、といつもの笑みで答え奈津ノ介はことりとカプセルを二つ取り出してちゃぶ台の上に転がした。
赤と青のものが一つずつ。
「んと……奈津君が言うなら……飲む……けどぉ、俺だと、あんま良いデータ取れないかも……それでも良いなら、飲むよぉっ!」
うん、と力強く頷いてあきらは奈津ノ介にえへへと笑いかける。
「いつもお世話になってるから、奈津君の、お手伝い……したいし」
「そうですか、ありがとうございます。赤いほうが薬で、青い方が解毒薬です」
わかった、と柔らかくあきらは笑い、そして赤いカプセルをひょい、と手にとってぱくりと口に入れた。ごくんと飲み下し、どうかな、と首をかしげる。
いつもと同じ筈なのに突然胸がドキドキと鼓動を打つ。
ほわほわと、心が躍るような感覚。
傍にいるだけで、こそばくて、そして知らずに笑顔になる。
「えへへ……あのね、俺、大好き……だからねぇ、ずっと、一緒にいてねぇ?」
ふにゃんと笑みが緩く、柔らかく、あきらは奈津ノ介に笑いかける。
そしてのろのろと畳の上を這い奈津ノ介との距離を縮める。
「奈津君、大好きなんだぁ」
「僕もあきらさんのこと好きですよ」
隣に座って嬉しそうに笑まれるとこちらも心が和む。奈津ノ介もその例外ではなくて知らず笑顔だ。
嬉しい、と満面の笑みであきらは奈津ノ介の腕にしがみつく。きゅ、と控え目にこもる力がなんだかとても幼く、そしていとおしい。
「何か手伝えることあったら、言ってね? 俺頑張る」
「んー別にないですかねぇ」
「本当に本当?」
ぐっと下から見上げられて、奈津ノ介は困ったなぁ、と笑う。
何か手伝えることを言ってやってもらわないといけないような雰囲気だ。
あきらはそれを待っている。
「じゃあ……ちょっとお店の片づけしましょうか」
「うん! 手伝う!」
立ち上がって靴を履き店内に降りると何からやるの、とあきらははしゃぐ。そのままこけてしまいそうな危うさでちょっと奈津ノ介は心配だ。
「それじゃ……この棚の本、移動させようかな」
奈津ノ介の隣の棚、そこには和綴じの本からあやしげな巻物、ほかにも洋書が乱雑そうで、でもそうでなく積み重なって置かれている。
「この棚から……ええと、その端の机の上に置いていきます」
奈津ノ介は店の隅の隅に置かれている机を指差して、あきらに言う。
うん、とあきらも頷いてやる気満々だ。
「よいしょ……っと……」
あきらは本を五冊、持つ。五冊と言っても薄っぺらいものはなく辞典くらいの厚さでなかなかの重さのはずだ。
「あ、無理しないでくださいね」
「大丈夫だよっ」
大丈夫といわれても、心配だ。思ったとおりちょっと足下がふらついている。距離はそんなにないと言ってもどうしてもハラハラと彼から目を離せない。
無事に机の上に本をおくと、あきらは奈津ノ介に向かってやったよ、というような嬉しそうな、やわらかな表情を見せた。そして小走りに走ってくると同時に前につんのめってこけそうになる。
「危なっ……」
とっさにそれを奈津ノ介が受け止めてほっと一息。
「こけなくて良かったですね」
「う……ごめんねぇ、迷惑、かけちゃって……」
「いいんですよ」
ちょっと泣きそうなあきらに優しく奈津ノ介は微笑んだ。
安心させるためにかちょっとずつ一緒に運びましょうと穏やかに言って軽めの本を渡す。そして自分も同じくらいの量を持つとゆっくり歩み出す。その後ろをとてとてとあきらはついていく。そんなことを何度か繰り返すと本もなくなる訳で、今まで本が入れられていた棚は空っぽ、ただ埃が舞っている。
「これ掃除する?」
「ですね、埃が舞ってちゃ他の物も仕舞えないし……雑巾とってきますね」
「うん、待ってる……」
奈津ノ介はあきらに背を向けて和室の方、そしてそのさらに奥へと消えていく。少しの間離れるだけだというのに寂しくてたまらない。
奈津ノ介の姿を見送って視線を棚に戻したあきらの目に、ふと映った物があった。
棚の一番上、そこに一冊の本。
「……奈津君、あれ忘れて、る……」
背を伸ばせば届くかな、とあきらはその本をじっと見た。まだ奈津ノ介が戻ってくる気配はないし、自分がやらなくちゃと思う。
「んと……よいしょ……」
んーと背を伸ばしてその指先に本が触れた。もう少し、と背伸びをしてはしっとそれを掴む。思わず表情が綻んだ。と、同時に気が緩んだのかそのままひっぱりだしていた本の感覚が指の先から消えた。
え、と思って見上げると本が頭の上から落ちてくるのが見えた。
とっさに目を瞑るのと、それが落ちてあたまに鈍い痛みが走るのは同時。
「あう……」
ちょうど頭のてっぺんに角が当たりじんじんとする。あきらはその痛さに思わずしゃがみこんで頭を抱えた。
「あきらさん……?」
「あうっ、ご、ごめんなさいっ」
「え? あ……本一冊残ってたんですね。頭、大丈夫ですか?」
地に落ちた本と、頭を抱えたあきらの様子を見て奈津ノ介は何があったかを理解した。一生懸命さはものすごく伝わっている。
「いいんですよ、本よりもあきらさんが大事です」
「そうなの?」
「はい」
一緒にしゃがみこんで笑顔で言う奈津ノ介に、嬉しいと、えへへと柔らかな表情であきらは抱きついた。その勢いに奈津ノ介は体勢を崩して後ろへと座り込む。
「奈津君、好きー」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいです」
えへへと嬉しそうに笑って抱きついているのを引き剥がすわけにも行かず奈津ノ介は困ったなぁと笑う。どうしようか、と思う。
「……何しとるんだ?」
と、後ろから不思議そうな声がかかり振り向くと藍ノ介がそこにいて、じっと二人を奇妙そうに見ていた。奈津ノ介は首だけ回してそちらを向き、あきらは奈津ノ介に抱きついたまま、彼の肩越しに藍ノ介を見た。
「藍ノ介さんこんにちは」
「うん……で、何しとるんだ」
「あきらさんに惚れられてます」
苦笑混じりに告げられた言葉に藍ノ介はなるほど、と笑って返した。寝起きなのかまだ眠そうにあくびをしながら二人を見る。
「とりあえず、そこに座ってないでこっちに上がれ」
「そうですね……あきらさん、掃除はいいから、和室に上がりましょうか」
「うん、奈津君がそう言うなら……上がるー」
ゆっくりと抱きついていた腕を放して先にあきらは立ち上がる。そしてはい、と奈津ノ介に手を差し出して掴まって、と言う。これは断れないな、と奈津ノ介は言ってその手をとるとゆっくりと立ち上がった。あきらに引っ張られながら立ち上がったというよりは自分で立ち上がったという感じだ。
「掃除一休みして、お茶のみましょうか」
「うん、飲むー」
ほにゃらと、笑みを浮かべられてむずがゆく、こそばゆい。きっと自分に惚れても、惚れていなくても向けられる笑みは同じなんだろうな、と奈津ノ介は内心苦笑していた。この笑みにどれだけ自分が癒されているか。
先にパタパタと足音をたてて和室に上がったあきらは藍ノ介の隣に座って早く、と手招いている。奈津ノ介はその様子を見ながらそろそろ解毒薬飲んでもらわないとな、と思っていた。いつまでもこのままではいけないから。
「すみません、あきらさん」
和室に上がる寸前、そう小さく呟いて奈津ノ介は彼の隣に座った。そしてちゃぶ台の上に置きっぱなしだった解毒薬、青いカプセルを手に取るとあきらの口へと放り込んだ。ぽい、とそれを知らずにか飲み込んであきらはきょとん、とした表情だ。
今まで心の中にふつふつとあった甘い想いがどんどんと収束していく、そんな感覚。
「あ……奈津君、お……俺、データ取れなかったよね……?」
「そんなことないですよ」
「んっと、逆に、迷惑かけちゃったかも……ごめんねぇ……?」
心配そうな、ちょっと落ち込み気味に俯くあきらに、奈津ノ介はふわりと笑んで言葉を紡ぐ。
「僕も楽しかったし、本の移動も出来たし、いっぱい助かりましたよ、あきらさん」
「ほんと……?」
「はい」
上目遣い、まだ心配そうなあきらに満面の笑みで返し奈津ノ介は続ける。
「データもちゃんと、取れてますから大丈夫ですよ」
「そっかぁ……それならよかったなぁ……」
二人で顔を見合わせあって笑う。その様子を何が何だかさっぱり、だけれども二人が仲が良いのは良くわかるな、と藍ノ介は微笑ましく見守っていた。
「奈津、茶」
「……なんですかその言い方」
「俺が、手伝う!」
茶葉の入った缶の蓋を手に取り、開けようとんーっと本体と蓋を引っ張る。
その様子を心配そうに見守る二人に大丈夫、とあきらは言う。
だけれどもなんとなく、この先に何が起こるか安易に想像できてしまう二人はいつでもフォローできるよう緊張していた。
あきら自身はそれに気がつくことはもちろんない。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5201/九竜・啓/男性/17歳/高校生&陰陽師】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
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■ ライター通信 ■
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九竜・啓さま
ライターの志摩です。今回もどうもありがとうございました!
運命の阿弥陀にて出会ったのは奈津でした…!あきらさまっぽさを追及するのに夢中で途中まで藍ノ介の存在を忘れていたなんて内緒です(…)奈津といちゃいちゃ(死語です)どうだったでしょうか?あきらさまと奈津だからこそ、のお話になったと思いこんでおります。
ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!
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