■神の剣 最終章 1 覚醒■
滝照直樹 |
【1703】【御柳・紅麗】【死神】 |
織田義明 18歳 学生
剣術を学んでいる。流派は天空剣。
趣味は昼寝に下手の横好きでギター。
あと、外国産のRPG集めにイロモノジュース試飲。
見た目は普通の学生。
実際は退魔剣士。そして状況には装填抑止となる。
いつもは義明で居る事が出来るがある一定条件下では、影斬になる。
義明と影斬は似ていて異なる。
雰囲気もさることながら口調も行動も。
お互い知識経験の共有はあるが、決定的に違う事がある、
抑止実行権利の有無だ。神格自体が魂である義明自身には無い。
魂の原子核の影斬に権利がある。
「俺は、影斬を使いこなせるのか?」
『それは魂自身の私には分からない。君自身だ』
「俺は魂か? それとも精神なのか? もしかして三滝と同じような?!」
『魂の核に呑まれる事が怖い?』
悩み続ける義明。
力を持つ事に幸不幸を決めつける事はでいない。何が幸か不幸かは分からないのが普通だ。
それを、隠しているわけにも行かないが……
■――■
何かが浮いている。
ネオン街のまぶしさもその遠くの闇の暗さも、其れには感じられない。
何もないのだから
何も無いというのは語弊があるが、神秘使用者、会得者、破壊者、絶対者でも其れは観測できない。
其れは観測できない様に神秘的質量が皆無になってしまった。
しかし、中には膨大な知識を持つ。
意識はない様だ。風か何かに漂うもの。
それは、「『なにか』ある」ことは分かっても「その『なにか』をどうするか」という知恵はない。誰かの頭脳にはいってからでないと……。
ビルの屋上に何かある
人間だ。自殺をしようとしているのだろう。
しかし、其れは何も思わない。認識はしてもなにも感じないのだ。
しかし、それは人間が飛び降りたとたんに……その中に吸い込まれてしまった。
後日、自殺未遂の人間は……さえ渡った頭に歓喜していた。
「奇蹟だ」
と、目の前の医者はいった。
そのご、自殺しようとした彼(ヒョッとすると彼女)は何かを得ようと動き始めた。
■――■
「呑まれるか呑まれないか、か」
精神科医・加登脇美雪がいう。
「俺の意識が朦朧としているんです……」
「心労かもしれませんね。元々多重人格者でもない。魂が元々2つあるという事ではなさそうですし……。本当にあなたの家系は神秘の出ではないの?」
彼女は義明に言った。
「普通の農家だったよ……そりゃ、長谷家とは親しいけど、今じゃ……」
溜息をつく。
魂に別の意志があると言う事は珍しくはないし、状況によっては作れる。
が、それは、義明が元から多重人格者である可能性をもたらしているか、今までの義明が全く「飾り」だったことになる。
多重人格者なら治療すればよい。加登脇の分野だ。
ただ、核自体の影斬が本来なら……、魂自体を扱える様に肉体が完成して目覚めたなら……。
「俺は、影斬の力を放棄したい。俺が『偽物』というのは怖い……。器だったなんて……思いたくない……」
義明は弱気になっていく。
発作のように神気が乱れていた。
そう、全てが義明ではなくなることが彼にとって苦痛なのだ。
友人、恋人、幼なじみ、師匠。
器を呼び起こすだけの自分だけとは思いたくないのだろうか?
それとも、別の何かが……。
「もう少し落ち着いて、ね? 私も手伝うから」
加登脇が笑う。
■――■
「信じられないこんな裏の世界があるなんて……」
彼は歩き出す。
無念で命を放棄しようとした彼は、新たな力に酔いしれかけている。
しかし、比較的冷静だった。復讐は終わったのだ。あとは、今に至る自分の究明である。
「まずは……神秘使いを捜して訊こう。この知識は何か……」
新しい世界に足を踏み入れた彼は何を求めるのだろう?
後日、ある集団が奇妙な死に方をしており、それは各神秘関係者の目に止まっていた。其れは何故か……。
あの魔術師と同じ魔力残滓が残っていたからだ……。
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神の剣 最終章 1 覚醒
織田義明 18歳 学生
剣術を学んでいる。流派は天空剣。
趣味は昼寝に下手の横好きでギター。
あと、外国産のRPG集めにイロモノジュース試飲。
見た目は普通の学生。
実際は退魔剣士。そして状況には装填抑止となる。
いつもは義明で居る事が出来るがある一定条件下では、影斬になる。
義明と影斬は似ていて異なる。
雰囲気もさることながら口調も行動も。
お互い知識経験の共有はあるが、決定的に違う事がある、
抑止実行権利の有無だ。神格自体が魂である義明自身には無い。
魂の原子核の影斬に権利がある。
「俺は、影斬を使いこなせるのか?」
『それは魂自身の私には分からない。君自身だ』
「俺は魂か? それとも精神なのか? もしかして三滝と同じような?!」
『魂の核に呑まれる事が怖い?』
悩み続ける義明。
力を持つ事に幸不幸を決めつける事はでいない。何が幸か不幸かは分からないのが普通だ。
それを、隠しているわけにも行かないが……
■――■
何かが浮いている。
ネオン街のまぶしさもその遠くの闇の暗さも、其れには感じられない。
何もないのだから
何も無いというのは語弊があるが、神秘使用者、会得者、破壊者、絶対者でも其れは観測できない。
其れは観測できない様に神秘的質量が皆無になってしまった。
しかし、中には膨大な知識を持つ。
意識はない様だ。風か何かに漂うもの。
それは、「『なにか』ある」ことは分かっても「その『なにか』をどうするか」という知恵はない。誰かの頭脳にはいってからでないと……。
ビルの屋上に何かある
人間だ。自殺をしようとしているのだろう。
しかし、其れは何も思わない。認識はしてもなにも感じないのだ。
しかし、それは人間が飛び降りたとたんに……その中に吸い込まれてしまった。
後日、自殺未遂の人間は……さえ渡った頭に歓喜していた。
「奇蹟だ」
と、目の前の医者はいった。
そのご、自殺しようとした彼(ヒョッとすると彼女)は何かを得ようと動き始めた。
■――■
「呑まれるか呑まれないか、か」
精神科医・加登脇美雪がいう。
「俺の意識が朦朧としているんです……」
「心労かもしれませんね。元々多重人格者でもない。魂が元々2つあるという事ではなさそうですし……。本当にあなたの家系は神秘の出ではないの?」
彼女は義明に言った。
「普通の農家だったよ……そりゃ、長谷家とは親しいけど、今じゃ……」
溜息をつく。
魂に別の意志があると言う事は珍しくはないし、状況によっては作れる。
が、それは、義明が元から多重人格者である可能性をもたらしているか、今までの義明が全く「飾り」だったことになる。
多重人格者なら治療すればよい。加登脇の分野だ。
ただ、核自体の影斬が本来なら……、魂自体を扱える様に肉体が完成して目覚めたなら……。
「俺は、影斬の力を放棄したい。俺が『偽物』というのは怖い……。器だったなんて思いたくない……」
義明は弱気になっていく。
発作のように神気が乱れていた。
そう、全てが義明ではなくなることが彼にとって苦痛なのだ。
友人、恋人、幼なじみ、師匠。
器を呼び起こすだけの自分だけとは思いたくないのだろうか?
それとも、別の何かが……。
「もう少し落ち着いて、ね? 私も手伝うから」
加登脇が笑った。
■――■
「信じられないこんな裏の世界があるなんて……」
彼は歩き出す。
無念で命を放棄しようとした彼は、新たな力に酔いしれかけている。
しかし、比較的冷静だった。復讐は終わったのだ。あとは、今に至る自分の究明である。
「まずは……神秘使いを捜して訊こう。この知識は何か……」
新しい世界に足を踏み入れた彼は何を求めるのだろう?
後日、ある集団が奇妙な死に方をしており、それは各神秘関係者の目に止まっていた。其れは何故か……。
あの魔術師と同じ魔力残滓が残っていたからだ……。
《繰り返される悪夢》
――わたくしはどこに?
――ふわふわした感覚で景色を見ている。
天薙撫子はうなされていた。夢の中でも。
空を飛んでいるわけだが、それが自分であって自分ではないという感覚が怖かった。
「はあ……、はあ……うう。 !!」
いきなり落下する感覚に目が覚めた。
起きると躰も寝間着も汗びっしょりであった。
「また、同じ夢……」
汗をぬぐい、洗面所で顔を洗った。
後天的に、神格に覚醒したわけだが、その要因は大きいだろう。
「様々な影響でこうなっているのでしょうか?」
不安を隠しきれない撫子。
それでも、他の人に心配をかけまいと、いつものように元気で優しい撫子でいる。苦しい顔になる場合があるが、それをみることができたのは、おそらく静香と、剣の師匠であるエルハンド・ダークライツだろう。
天薙の老人と長谷平八郎、そして剣客がお茶会をしている。
「うちの撫子は少し元気がない」
「そのようだのう……無理をしているしか思えない」
「……義明との神格共鳴だろうな。ここに連絡すれば、何とかなるだろう」
エルハンドが、翁にある地図と女性の写真を渡す。
「井ヶ田総合病院……あの“癒しの館”と言われているところか……ありがたし」
深々と礼をした。
撫子は夜、また別の夢を見た。
走る。
走る。
走る。
真っ暗な空間を走る。
その先には、愛する人が立っている。
その場所に走る。
しかし、距離は縮まらない。
逆に、距離が開く一方なのだ。
彼が、どこかに消えたときに、とんでもない恐怖と寂しさに襲われ……。
「きゃああ! いやああ!」
泣きながら起きた。
また汗びっしょりだ。
「これで、3回目……。大丈夫……大丈夫だから、撫子……」
しかし、それも限界がある。
「撫子?」
義明が、ぼうっとしている撫子の顔をのぞく。驚く撫子は、
「え? な、なんですか?」
真っ赤にほおを染めた。
「最近元気ないね? どうしたの?」
「え? 大丈夫ですよ♪」
にっこりほほえむ撫子。
しかし彼女は彼の属性を忘れていた。嘘を見破れること。影斬故に手に入れた力だ。義明は少し考えたようだが、何事もなかったように、
「……そうか。余り無茶するな」
と、撫子の頭をなでた。
「それを言うなら、義明君の方が無茶ばかりしています」
ぷう、とふくれる撫子。
それに笑う義明だった。
隠し事はしたくないが、撫子は彼には心配をかけたくないのだ。
撫子は自宅に戻った後、祖父に呼ばれる。
「撫子、おまえ何か隠し事をしていないか?」
「おじいさま……」
「いくら元気でいようとも、儂にはわかるぞ」
と、一通の封筒を渡した。
「井ヶ田総合病院……?」
「そこに敏腕の医師がいる。診てもらえ」
「は、はい」
そうして、撫子は井ヶ田総合病院に向かうのであった。
《復活》
次元の門がひらく。
そこに一人に少年が世界にやってきた。
「ここが、俺の“前”がいた世界か」
御柳紅麗。前にとある事件で倒れた。その復活にしばらくかかったようである。
場所は、長谷神社近くの空き地。
ちょうどそのとき、長谷茜が買い物袋をいっぱい持って家に向かっていたところだった。
「あれ? 紅麗君戻ってきてたんだ? 身体大丈夫?」
すぐに気がついて、挨拶する。
「?」
首をかしげる紅麗。
「どうしたの? ぼうっとして?」
「あの、初めまして……」
「……!?」
その言葉、茜は買い物袋を落としてしまった。中に入っていた玉子が割れる。
「どういうこと? 私だよ、茜だよ? 覚えてないの?」
茜は紅麗の襟首をつかんでぶんぶん前後に振る。
「え? あ…… ちょ ちょっと待った! ま、前にあっていたのか? お、落ち着いて!」
紅麗は、目を回しても茜を落ち着かせる。
「? どうした? 空間があいた気配がしたから……来てみたけど……!」
と、義明が走ってきた。
「よしちゃん! 紅麗君が! 紅麗君が!」
「紅麗がどうしたって? あ……」
目の前に一度肉体が滅びたライバルがいる。
義明は固まってしまった。
「く、く、紅麗か?」
「よう、戻ってきたぜ。義明」
どうやら、義明のことは覚えているらしい。
「印象的に残っていることは、一応覚えているのだな」
義明は、頷いて買い物袋を持っていた。
「それも朧気なんだけどな。助けてもらった瞬間などは特に」
紅麗が言う。
「そうか……まあ、いずれ思い出すか、また埋めていけば良いんだ」
悲しそうな表情で義明が言った。
「どうしたんだ? おまえらしくないぞ?」
紅麗は首をかしげる。
茜はしょんぼりしていた。
「よしちゃんのことだけ覚えているってどういうこと?」
「おいおい、茜。紅麗は一度人間的には死んでいるんだ。無茶言っちゃいけない」
義明は苦笑した。
「ごめん」
「ごめん」
紅麗と茜がハモって謝った。
「ま、いつもたむろっていた連中については会えば思い出すかもね」
ふっと笑う義明だった。
いきなり、
「ああ! 玉子割れちゃってるから買い直さなきゃ!」
茜が大声をあげる。
紅麗と義明は驚いた。
真剣な話と友人の再会に水を差された感じはするが、二人は笑い。
「生前、君がどんなことがあったか教えるついでに、遊びに行くか?」
義明が提案する。
「お、お願いする」
照れたように、
「玉子……」
「何?」
「……弁償……うそうそ。お帰り。紅麗君。先に荷物おいてくるね〜」
小走りに帰っていく茜。
「お帰り、紅麗」
義明は紅麗に握手を求めた。
「ああ、ただいま」
笑って義明の手を握手する紅麗だった。
そのあと、天薙撫子や御影蓮也にも連絡を入れて、カラオケなど行こうかという話になった。
《加登脇》
井ヶ田総合病院。
天薙撫子は、紹介状を手に受付にいる。
「少々お待ちください」
受付の女性が確認をとるため、パソコンのキーボードを打っている。
「は、西病棟になります。 角を右に曲がると神経・心療内科です。」
受付はそう教えてくれた。
撫子はお礼を言ってから、その通りに進むと、懐かしい気配を感じる。気配と言うより残滓だ。
「? この残滓は……」
今は思い出せない。
待合いのいすに座ってしばらく待っていると、
「天薙さん、どうぞ」
看護士が呼ぶ。
「はい」
診察室にはいると、
「初めまして。加登脇美雪です」
にっこり笑う女医がいる。
眼鏡に結構ラフな格好の上に白衣を着ている女性だが、清潔感と和やかな雰囲気が印象的だ。
「……あ、初めまして、天薙撫子と申します」
「着物似合いますね」
「え? あ、ありがとうございます」
加登脇の言葉に、真っ赤になる撫子。
彼女の声を聞いてから撫子は、しばらく今の自分の状態を話した。
「おかしな夢を見るんです。自分が自分でなくなる夢とか……」
と。
加登脇は、しっかり聞いて、にっこり笑った。
「大丈夫、急激な能力開花に、心がまだ追いついていないと思うの」
優しい雰囲気で話す。
「そうなのですか?」
「同じ症例の人はたくさんいるわ。今も数人いるから。力は惹かれあうの。」
「そうなのですか……。というと……ひょっとすると……」
何か不安が起きる。
「織田義明君も……同じ症状なのでしょうか?」
訊いた。
「さすがにこまったわね……」
加登脇は苦笑していた。
嘘はつきたくないがいえないものだが、撫子はわかってしまった。
「確かにかかっているわ」
何ればれるだろうと、加登脇は簡単に話す。
「そ、そんな……」
撫子の表情は暗くなった。
「大丈夫だからね? 気を落とさずに」
あとは、いつもはどうしているのかと世間話をする。
「……なるほど、織田くんと言う人とおつきあいしているのね……幸せそうね」
「え、は、はい……そうです……」
くすくす、笑う加登脇に真っ赤になってしどろもどろになる撫子だが、
加登脇がとても真剣な顔になった。
「能力共鳴、かな……なるほど……」
「共鳴……ですか……」
と、今後どうすべきか、お互い考えていきましょうと、診察は終わった。
精神安定剤と睡眠導入剤をもらい、外に出たときだった。
「あ……メールが」
撫子にメールが届いていた。義明からである。
「紅麗様が戻ってこられたのですね」
と、にっこり笑ったのであった。
《異変》
織田義明は御柳紅麗の復帰祝いで、御影蓮也と天薙撫子を集めて、楽しくカラオケに行くことになった。撫子も蓮也も紅麗の状況に驚いたが、心から復帰を喜んだ。
さすがに、紅麗の
「はじめまして……」
の言葉はショックだったろうが。
過去にこんなことがあったなどを、蓮也と茜や義明が教えていたのだ。
少し変わっている雰囲気はあるが、笑顔はしっかり彼のままだ。それが何よりの喜びなのだ。
カラオケボックスで、わいわい曲を選んで、唄いまくる。
「次何?」
「洋楽ばっかだな、義明」
「J-POPわかんね」
「わたくしは恥ずかしいです」
と、様々な悩みを忘れて遊ぶ5人。
そして終わった後のことだが……
「飲み過ぎたのですか?」
「ああ、なんとか。ごめんね」
撫子がふらふらになっている義明を支える。
撫子はトラなので対したことはなかったが、どうも義明は酔ってしまったらしい。
「おいおい、だらしないな〜」
「何言ってんだ。紅麗。おまえはコーラだけじゃないか」
蓮也が笑って言う。
「む、一応未成年だから。守ってたんだよ!」
紅麗が言い返す。
そのままてくてくと義明のアパートまで向かうのだが……(途中で義明を支えるのは撫子から紅麗に代わっている)。
義明から神気が発散される!
「うわ!」
電撃のようなしびれが来た。
思わず紅麗が義明を離してしまった!
苦しみもがく義明。
「ううう……ああああ!」
『何を悩んでいる?』
「ま、またおまえか!?」
義明は何かに対して叫んでいる!
「義明! どうした!?」
「義明君!」
「義明!」
「よしちゃん!」
4人で何とか義明を呼んで……、
「あ、俺は……どう……?」
義明の顔はかなり青ざめていた。
「疲れているのです……。ゆっくりしましょう」
「……ああ、ご、ごめん」
と、幸い近くに義明のアパートがあったので、そこに全員向かっていった。
「……俺はいま、“影斬”と戦っている」
「影斬?!」
紅麗と蓮也は驚いた。
「影斬とおまえは同じじゃないのか?」
「いや、あいつは俺であって俺ではない……」
義明は首を振る。
「義明君」
撫子は心配する。
そして、義明は自分が自分でなくなる不安になっていることを話した。話して行くにつれ、いつもの義明のように元気ではなくなっている。
「よしちゃん、無理に言っていいの?」
「何れ言うつもりだった。どうなるかわからないから……」
「……む」
蓮也は考え込む。
「お茶用意するね……」
茜と撫子は台所に向かう。
少し間があいてから、紅麗が刀を抜いた!
「紅麗!」
「!?」
切っ先は義明の喉元。
紅麗は何か怒っている。
「さて……死ぬ前の俺のライバルって、こんなに情けないヤツだったのか?」
「やめて!?」
茜が叫ぶ。
紅麗はすぐに刀を納め、胸座をつかみ、
「自信を持て、勇気を出せ……! 今まで人でありながら神の力を使っていたんだろ!! 今更弱気になってどうする! “織田義明”って言う自分を!」
と、彼は檄を飛ばした。
「まって! 待ってください! 紅麗様! 今の義明君には酷です!」
撫子は真剣な目で言う。
「今は、今は、彼を責めないで……お願い。お願い」
撫子は泣いて懇願する。
「……まあ、あんたが言うんだったら……。義明、俺を失望させるなよ」
紅麗はバツが悪くなったのか、そのまま帰っていった。
「まて、紅麗!」
「まって! 紅麗君!」
蓮也と茜が後を追った。
「茜、いつ頃気がついていた?」
蓮也が訊く。
「……たぶん、吸血神の時だと思う。あれから少しおかしくなっているみたい……」
名も無き吸血神。それを一度封印してから何かが変わったのだと、茜は考えている。
「力は弱いとしても、微妙に時空関係を弄ったためか? 次元系世界樹に関わったために」
「かもしれないね。でも紅麗くん、あれは乱暴だよ」
茜が紅麗を責める。
「うるさい。あんな弱気の義明なんか見たくない! いくら命の恩人でも!」
それが、紅麗の気持ちだった。
常に、ひょうひょうとしているが、自分をからかっていたとしてもライバルとして見てくれていた義明。彼の感情が爆発したのだ。記憶がほとんど抜け落ちているとしても……。
彼にとって、織田義明は目標なのである。
「でも剣を向けるのはだめ。後で謝りなさいね」
茜がふくれて紅麗をしかる。
「そうだぞ」
それに同意する蓮也。
「ああ、わかった……」
二人に言われ、渋々頷く紅麗だった。
撫子は、義明が不安になって縮こまっている姿に、
「わたくしがいます。大丈夫ですから、わたくしがずっとそばにいますから、義明くん……」
と、愛おしい人を抱きしめてあげる。
「な……撫子……。俺は、俺は……」
弱々しい神気を放ちながら、義明は泣き続けた。
《それから数日後》
義明のことがわかったのは良いが、それから彼は弱気になるそぶりは見せなかった。
しかし、内面は未だ戦い続けているだろうが、剣に学業に没頭している。もちろん通院も忘れていない。そのそばにはいつも撫子がついていた。
「レポート済みましたか?」
「ああ、何とかね」
お互いほほえむ。
と、一見平常に戻ったようだ。
蓮也と紅麗は、こっそり二人を見ているわけだが。
「仲が良いなぁ」
「おまえの方はどうなんだよ。数ヶ月放置は良くないぞ」
「いや、それは……その……なんていうか。おまえの方はどうなんだよ!?」
と、蓮也が紅麗をからかうと紅麗がやり返す。
「俺の方は大丈夫だ♪」
いったい何が大丈夫なのかどうなのかはさておき、
「のぞき見はよろしくない! うん、そうだ! 俺たちで解決できる仕事もあるんだし!」
「あ、逃げやがったな!」
と、二人は遠くにハリセンを持っている巫女さんに向かっていった。たどりついたときに思いっきりたたかれたのであるが(巫女さんに何かスイッチが入ったのだろう)。
「三滝の……魔力残滓?」
蓮也と紅麗が驚く。
「指紋に似ている魔力の残滓だから。三滝が完全に復活したか、その遺産を使っている誰かがいるの」
茜が、あごに手を当て、考えている。
「あれは“前の俺”が狩ったはず!」
「被害者は、高校生。成績も上の上で人当たりの良いグループだったようよ。噂では、かなり知的な怖いグループだったらしいけど」
「神秘関係には全く縁のない連中か?」
蓮也が訊く。
「うん。警察関係で訊いてみた結果だけどね」
「この話は義明と撫子には言わない方が良いな」
「ああ、俺たちで……何とかしてみるか」
3人は頷いた。
それから道場にて。蓮也は義明にこういった。
「織田師範代、手合わせ願いたい」
と。
「……良いだろう」
義明も、練習用の刀を取った。
お互い能力用の刀と小太刀を持って、構える。
しんと静まりかえる道場内。
心配してみる天薙撫子。
「はじめ!」
撫子が号令をかける。
にじり寄る。間合いまで。
お互いどうでるかがほとんどわかる。わかるとしても、それに対応できるかが問題だ。義明は通常でも人間以上の力を持っている。それが基本能力になっているのだ。
義明が踏み込む。懐の深さは義明の方が深い。すぐに動いたのは義明。蓮也は小回りのきく小太刀(かなりの使い手でないとそうも行かないが)で、義明の剣を受け流し、急所をつこうと隙をうかがう。義明は、また間合いを取る。どんどん攻めなどが早くなっていく。蓮也も攻めに行った。一刀はおとりで受け払い、二等目が斬る・突くのだ。
結果は、引き分けである。
お互いは一礼し、
「上手くなったね」
「ありがとう」
と、汗をかきながら、言う。
「あのさ、上手くはいえないけど」
蓮也が言う。
「お前の悩みや苦しみは俺にはわからないし、お前が乗り越えるしかないんだろうな。でも俺達が義明と出会って色々やってきた日々は絶対偽物なんかじゃない。もちろんこれからだって。だから世界に胸を張ってお前でいればいい」
「しかし……」
「なに、呑まれたとしても俺たちが引き上げてやるさ。それに周りにも頼れよ。な。それぐらい皆できるんだから」
蓮也は笑っていった。
「ありがとう……蓮也」
と、義明は目頭が熱くなる。
ほとんど一人だった。
理解してくれる人がいるのか不安だった。
親に見捨てられた要因である神格。異常な力。
最初の理解者はエルハンドと茜、平八郎しかいなかったのだ……。
それを受け止めてくれる人がいることが、彼には何よりうれしかった。
“力”をもってそれが不幸せではない。
そう思えるのも皆のおかげなのだろう。
と、義明は心の中で思った。
『それでも、私はいる。どうするつもりか?』
「まだ答えは見つからない。しかし、影斬。なぜ意識を持つか?」
『それはさすがにわからないね。私は元々抑止権利を持つだけだったはず。君は何か忘れてはないか?』
「何? 権利? どういうことだ?」
その影斬の言葉に、義明はとまどった。
影斬はそれ以降、余り話しかけなくなった。
三滝の継承者。かの現象化を持つ物は、義明の気配を知る。
「見つけた」
その者は、軽い足取りで笑いながら義明の元に向かっていく。
――さて、どういう風に話そうかな?
2 再会 に続く
■ 登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊十席】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】
■ ライター通信
こんにちは、ライターの滝照直樹です。
『神の剣 最終章 1 覚醒』に参加して頂きありがとうございます。
弱気になっている義明を支えてくれたり檄を飛ばしたりといろいろありがとうございます。
義明幸せ者だなぁと思いながら書かせて頂きました。
2話はかなり急展開かもと!
義明はどうなるのか! あなた達はどう接していくべきか! 楽しみでございます。
では、また次回にお会いしましょう。
滝照直樹拝
20060107
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