■惚れ薬 再び■
志摩 |
【1522】【門屋・将太郎】【臨床心理士】 |
「バレンタイン前なので惚れ薬・改を売り物にしようかと思うんですが、どうにもしっかり完成してるとは思えないんですよね……」
「奈津、物好きだな……あれだけ騒ぎを起こして」
「あれは、まぁ半分僕の責任としてあとは自業自得です」
奈津ノ介はちゃぶ台の上に透明な小瓶を幾つかおいて、うーむ、と考える。
「もうわしは飲まんぞ」
「わかってますよ。その前に飲まれたら困ります、大変なんで。自分で飲んでもだめだしな……」
思案する奈津ノ介をちら、と藍ノ介はみて溜息をつく。どうしてこんなに変なものを作ることに執着するのか不思議だ。しかも結構それにこだわる性質なのも困りものだ。
「客で実験したら良いだろう」
「えええ……それはご迷惑かかるし……あ、でも……うーん。そうだな、それもありかもしれない」
「おい、冗談で言ったのに真に受けるな、愚息」
呆れる藍ノ介に奈津ノ介は半眼で笑う。
「大丈夫ですよ、今回は解毒薬も用意してるって状況ですから」
「……わしはどうなっても知らんぞ」
■ライターより
惚れ薬が帰ってきました、改になって。
募集受注人数は未定。バレンタインまで放置です。同じ日にいただいたPCさま同士は絡んでいただこうと思います(!)人数が奇数になった場合やライターの気分でNPCを追いかけることもあります。
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惚れ薬 再び
とある穏やかな昼下がりの午後。門屋・将太郎はふらふらと街を歩いていた。暇つぶしがてらの散歩の途中、ふと目に入ったのは一件の店だった。看板には銀屋、とある。どうやら雑貨屋らしいのだが、外からちらっと見る限り、なんだか怪しいものなども置いていそうだった。興味をそそられてその入口をからりと空ける。少しばかり薄暗いような店内。
一歩足を踏みいれる。と、同時に悪寒に近いものを瞬間感じた。
悪いことが起こりそうな予感、だったのかもしれない。
「あ、いらっしゃいませ」
と、ふわりとやわらかな声色が響き奥から店の人間がでて来るのが見える。青い瞳と綺麗な銀色の髪の青年。年の頃は十六、七といったところか。
「何かお探しですか?」
「いんや、そんな物ないんだが……暇つぶしってとこだ」
営業スマイルよろしくの満面の笑みに、将太郎も笑い返して答えた。
「そうですか。じゃあ暇つぶしに僕のお遊びに付き合いません?」
「お遊び?」
「ええ、惚れ薬作ってみたんですけど……」
その言葉に将太郎はハッ、と笑う。
「そんなの、効果あるわけないだろう」
「そう思いますか?」
少々気に障ったらしい青年は穏やかに笑みを称えつつ、どこかプレッシャーをかけるような雰囲気を出す。先ほど感じた悪寒とも、ちょっと似ている。
「俺は信じないぞ、そんなもの」
「何事も体験するのが一番です。飲んで信じてもらいましょうか」
「そんな物飲むか」
ごそ、青年がどこからか薬、赤いカプセルを取り出す。それが惚れ薬なんだろうとすぐにわかる。飲まないぞ、と心に強く、将太郎は決意を固める。
「飲んでください」
「嫌だね」
「飲め」
命令口調。今までと同じ声色なのに有無を言わせぬ強さ。もう一度拒否の言葉、飲まない、と言おうとして開けたその口に青年はぽい、と赤いカプセルを投げ入れた。突然で驚き、反射的にそれを飲み下してしまう。
うっと言葉はつまり、何をすると文句を言おうと青年を睨んだ。
睨んだはずだったのだが。
にっこりと自分に向けられている笑顔が、眩しい。
なんだか自分でも理解できないのだが突然、いきなり、この青年が恋しくてたまらなくなった。
心の中に甘い感情。見ているだけで、そばにいるだけで嬉しくて、そして一緒にいたいという望みがある。
必要以上に感じるこのトキメキ。それは恋以外に思い当たらない。
将太郎はがしっと目の前の青年の肩を掴んだ。青年は少し驚いたようだが、先ほどと変わらない様子だ。少しばかりその肩を掴んで手は震える。
「俺は門屋将太郎だ、おまえの名は!?」
「奈津ノ介です。奈津でいいですよ」
奈津ノ介。その名の響きだけで鼓動が早まる。
そしてまっすぐと正面から見詰めて、想いは高まるばかりだ。
好きで好きで堪らない、抑えられない気持ちがあふれ出す。
「ああ、なんてことだ……俺はお前に惚れちまった……」
「でしょうね」
惚れ薬を飲んで、目の前にいるの僕だったんですから、と奈津ノ介は呟く。それはどうやら聞こえていなかったらしく将太郎はさらに言葉を紡ぐ。
好きだという言葉で、熱烈アピール。
「好きだ、好きで堪らない。お前のためなら、俺は死ねる!」
「死なれるのはちょっとばかり心が痛むのでやめてくださいね」
「お前が言うなら……」
「ありがとうございます。えっと、お茶でも飲んでいきます?」
ほわん、と少し瞳を細めた柔らかな笑みを送られてどきりとする。
将太郎は照れつつおう、と言いこっちだと言う奈津ノ介の後ろをついていく。
このまま抱き上げてどこか遠くへ愛の逃避行をしたいという気持ちを抑えつつ。
店から少し段差になった和室。そこへあがりことん、と湯飲みを出して茶を淹れる奈津ノ介の姿。どうぞ、と笑顔とともに差し出されその、彼が触れたものを受け取るのだけでも嬉しい。
恋をすると何も見えなくなるというが確かに惚れた相手以外、見えなくなるものらしい。その一挙一動を追うのだけで幸せだ。
「どうかしました?」
「お前のこと好きだなと、見惚れていた」
「そう、ですか」
ストレートに告げられる言葉に苦笑いを浮かべて奈津ノ介は答える。自分が薬を飲ませた所為だとは言え、なんだかペースを崩されているようで。
「なぁ、奈津」
「はい?」
一度瞳を伏せて、そして瞳を開ける。まっすぐ正面から見詰め、言葉を紡ぐ。それだけでも、惚れた相手が目の前にいると気合が入る。
「俺はお前のためなら何でもできる」
「はぁ、すごいですね」
「いや、そんな暢気に相槌打たれてもな……そうじゃないそうじゃない。今から俺と愛の逃避行をしよう! 後悔はさせないぜ!」
がしっと奈津ノ介の湯飲みを持ったままの手を自分の手で覆う。この体温の熱さが伝わってしまいそうでちょっとばかり怖い。
「さあ、さあ早く!!」
「早くって言われても、僕はこのお店があるし……」
「そんなことは関係ない! 店は閉めればいい!」
「それに逃避行ってどこに行くんですか……」
「行き先? そんなのは決めていない」
将太郎はきゅっと握る手に力を込める。声にも熱が、こもる。
「お前となら極寒の地だろうが、ジャングルだろうがどこでも過ごせる! さぁ行くぞ!!」
将太郎は、この告白、誘いに奈津ノ介が是の言葉をくれるものと信じている。
だがしかしそうはいかないもので。
「…………ごめんなさい」
しばし考えるような間をおいて、奈津ノ介はにっこりと笑った。そして紡ぐ言葉はお断りの言葉。その言葉に将太郎は握っていた手を下ろし、そのままがくっと項垂れた。
「俺の、俺の愛が受け入れられないというのか……!!」
「僕、好きな人いますし。それに薬の所為ですよ? そろそろ正気にもどりましょうかね……」
「! お前の好きなやつって俺じゃないのか!?」
「ええ」
叫びとともに顔をあげて、大きく開いた口に青いカプセルをぽいっと。始終変わらない穏やかな笑みを浮かべて奈津ノ介は手際よく放り込んだ。
将太郎はそれをごくっと、飲み下す。
「…………」
「僕と愛の逃避行したいとまだ思ってますか?」
「思ってねぇ……」
自分の今までの言動を、将太郎は頭の中で繰り返す。
お前のためなら死ねる。確かに言ったな。
お前のためなら何でもできる。これも言った。
愛の逃避行をしよう。お前となら極寒の地だろうが、ジャングルだろうがどこでも過ごせる。ばっちり言った。
「げげ……すごいこと言ってるな、うわ、うお、惚れ薬の所為とはいえずいぶん大胆な行動をしたもんだ……」
「こちらはなかなか面白かったですよ」
飲ませた張本人が、にこり笑って茶を啜る。その暢気さ穏やかさが非常に悔しい。
惚れ薬などという怪しげなものを作るこの奈津ノ介も、惚れ薬も。
どちらも。
信用できるものか。
すくっと、無言で立ち上がり、将太郎は靴をはいた。
その様子に奈津ノ介は視線を送る。
「? どうしたんですか?」
「……惚れ薬なんか……」
「え?」
「惚れ薬なんか信用できねぇもんだ!」
靴を履いて一呼吸。
そして将太郎は大声で叫びながら店の出口へと走り引き戸をがしゃんと乱暴に開けて走り去っていく。
その速さはまさに一瞬の雷光のごとく、脱兎のごとく。
目からはキラキラと光る雫をこぼし、それは緩やかに軌跡を描く。。
そして残された奈津ノ介は少しの間固まっていたがぷっと吐息を漏らして笑い出す。
「面白い人だったなぁ……からかうのにはもってこいの人かもしれない」
そんな呟きが将太郎に聞こえることはもちろん無く。
将太郎の心に奈津ノ介と惚れ薬は一つ傷を作ったのだった。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1522/門屋・将太郎/男性/28歳/臨床心理士】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
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■ ライター通信 ■
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門屋・将太郎さま
ライターの志摩です。はじめまして、どうもありがとうございました!
プレイングにぷふっと笑いを漏らしつつ、楽しく書かせていただきました。惚れ薬のテンションとその後のテンション落ちっぷりがうまくでて、なおかつ将太郎さまらしさがでていれば良いなと思っております。
ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!
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