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■ワンダフル・ライフ〜特別じゃない一日■

瀬戸太一
【4984】【クラウレス・フィアート】【「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
 お日様は機嫌が良いし、風向きは上々。

こんな日は、何か良いことが起きそうな気がするの。


ねえ、あなたもそう思わない?


ワンダフル・ライフ〜或る日出会いは突然に








      カラン、カラン…。

「しつれいするでち! …だれもいないでちか?ちかたないでちね、”ふほうとうき”するちかないようでち」
「…だいじょーぶでち、なんだかんだいって、ここのしとたちはみんなあまあまなのでち。
きっとかわいがってもらえるでちよ」
「……そんなめでみられてもこまるでち! わたちのかみのけは、せいぎょふのうなのでち!
あーまずいでちとんでしまいそーなのでち。じゃあ、あとはよろしくなのでち!」


      ―…バタン!









「……あら?」
 私はぱたぱたとサンダルを鳴らして、カウンターをくぐって店内に入った。
何か聞き覚えのある声がしたような気がしたんだけど―…。
 私はきょろきょろあたりを伺いながら、自分の店の中をめぐる。
棚や机、暖炉の周りにも異変はなし。もしかして泥棒さんかしら、とも思ったけれど、
特に取られたものもないし、元々金目のものが置いてあるわけじゃないから、そのあたりの心配はない。
じゃあ一体なんだったのかしら、と私が首をかしげながら二階に戻ろうとすると、
突然何か大きなモノに躓いてこけそうになった。
「っ! あーびっくりした。何かしら、これ」
 私はどくんどくんと高鳴る胸を押さえつつ、いつの間にか床に置かれていたそれを見下ろす。
”それ”は一見すると、どこにでもあるようなダンボール箱だった。
箱の蓋は微かに開いているけれど、中は真っ暗で何があるかはわからない。
それになんだかとても怪しい。
「……黒いダンボールなんて、此処に置いたかしら?」
 私はますます首をかしげ、眉を八の字にした。
…ダンボール箱をこんな店のど真ん中に置いた覚えはないし、
そもそもこんな真っ黒なダンボール箱なんて見たこともない。
 ―…そう、何故かこのダンボール箱は、側面から蓋、そしてかすかに見える内部に至るまで全てが染められたような漆黒。
何だろう、とっても怪しいわ。
「…リースかリックかしら…」
 私は今この店の中にはいない居候と使い魔その1を思い出して呟いた。
大抵の場合、こんなあからさまに怪しいものを持ち込むといったらあの二人なのだ。
どちらもこんな怪しいものは大好きだし。
でも持ち込むとしたら自分の部屋よ、何でこんな店のど真ん中に置いてあるわけ?
うーん、訳が分からないわ。
 私ははぁ、とため息をつき、そのダンボール箱の前にしゃがみこんだ。
もしかして爆発物なんか入ってないわよねえ。
さっきの声、泥棒さんじゃなくてテロリストさんだったらどうしよう?
「……!」
 そう思って再度まじまじと眺めていると、私はそのダンボール箱の側面に、
何やら白いチョークで文字が書かれていることに気がついた。
「…『ひろわないでください』? …やーねえ、もうそんなこと書いてあると、余計に拾いたくなるじゃないの」
 私は一人で自分の気持ちをごまかすように、オホホと笑って見せた。
…まずいわ、一旦声に出してしまうと、余計にその気持ちが高まってくる。
 私ははやる気持ちを抑えつつ、もう一度ダンボール箱を見た。
「……中、何が入ってるのかしら…」
 ああ、蓋をこじ開けて見てみたい。うずうず。
私は内心そんなことを考えながら、挙動不審になって一人手をもみもみと摩る。
…誰も見てないしー…というか、一応店主として、得体の知れないものをこのままにしておくのも……ねえ?
 そう思って、ゆっくりとダンボール箱に手を伸ばす私。
だけど次の瞬間、びくっと震えて尻餅をついてしまった。
 だって、私が手を伸ばしたと同時に、ダンボール箱の中から、白くて小さな腕がにゅっと二本生えたんだもの!
「……!!」
 私はぱくぱくと口を金魚のように動かしながら、その様子を見守っていた。
真っ黒なダンボール箱から白い少女の手が突き出ている様は、まるでホラーだ。
ああ、いつから”ワールズエンド”はホラー映画になったのかしら!
 私が呆然としている間に、その二本の腕は行動を開始する。
まず片手に持った小さな黒板消しで、『ひろわないでください』と箱の側面に書かれた文字をさっさと消していく。
消し終わった次には、もう片方の手に握った白いチョークで、先ほどの文字の代わりとばかりに器用に書き直していく。
「………」
 ……ああ良かった、ホラーじゃなくって。
だって片手に黒板消し、片手に白いチョークを持ったオバケなんて聞いたこともないし、それにあんまり怖くないもの。
 私はそうホッと胸を撫で下ろし、改めて書き直された文字を読んでみる。
「…『なかにはだれもいないのです』…?」
 ……………。
ちょ、ちょっとまってよ! なかっ…いるわよね? いなかったらそれはホラーじゃないの!
 私はバッとその場に立ち上がり、うろうろしはじめた。
ああ、どうしよう。とてもとても中身を確かめてみたいし、
それに何だかとてもダンボールを拾って帰りたい気分だし(元々私の家に置いてあるんだけど)、
でもでもほんとに中に変なのがいたら? 私一人じゃ対処しきれないわ!
「…かあさん、どうしたのー? 勉強、続きやっちゃうよ?」
「リネア!」
 そのとき、二階で私が勉強を見ていたリネアが、ペンを片手にカーテンの陰から顔を出した。
私は慌ててリネアを追い返そうとする。
「だっ、だめよ! たった今からこの店の中はデンジャラス・ゾーンになったの!」
「…どうしたの、何かあったの? あっ、それ何?」
 私が慌てて遮ったにも関わらず、リネアはパッと視線を下に戻し、件のダンボール箱を発見してしまう。
オーマイガッド!
「な、なんでもないの。これはね、田舎のおじさんから送ってきたリンゴで…!」
「…母さんにリンゴ農家のおじさんなんていたっけ?」
「じゃあおばさんが送ってきたミカンでもいいわ! とりあえずね、あれは危ないの。リネアは大人しく自分の部屋で―…」
「でもあれ、なんかぴょこって出てるよ」
 リネアはとことこ、と私の横に来て、黒いダンボール箱を指で示した。
私はその言葉に、じっと改めて箱のほうに視線を戻してみる。
 …確かにリネアが言うとおり、”何か”が出ていた。
ぴょこっと、まるでアンテナのような一房の黒い髪の毛。…髪の毛!?
「ああっ、やっぱりホラーだわ! ってリネア、何してるの!」
 私は頭を抱えてそう叫んだが、その一瞬後に自分の娘がしていることを見てショックを受けた。
「えー? だってこれ、なんか引っ張りやすそうなんだもん」
 リネアは私の反応を不思議そうに見ながら、箱の隙間から突き出たアンテナ毛を、くいくいっと軽く引っ張っている。
な…なんて怖いもの知らずな子なの! 自分の娘とは思えないわ。
「まあ確かに、引っ張りやすそうではあるけど…ってちょっとまって! 中から変なものでも出てきたらどうするの!」
「あ、でた」
「リネアあああああっ!!?」
 私はがばっとリネアに抱きつき、箱から庇うように彼女を抱きしめた。
そしてキッと黒いダンボール箱を見つめ返す。
箱はリネアがアンテナ毛を引っ張った衝動からか、蓋を横にして倒れていた。
そしてその蓋は、今は完全に開いている。
 その開いたダンボール箱の傍らには、漆黒のビロードのような生地で作られたドレスを纏った、
リネアよりも小さな少女がうずくまっていた。
少女の髪は綺麗なウェーブを描いていて、何房も床に伸びて広がっている。
まるで人形のような可愛らしい少女の姿に、私とリネアは二人で顔を見合わせた。
「……母さん、変なもの…?」
「………えー、ええっと…」
 私はもごもご、と口の中で呟きながら、抱きしめていたリネアを離した。
するとリネアはパッと私から離れ、床を這うようにして少女のところにいく。
そして私譲りのにっこり笑顔を浮かべ、少女に手を差し伸べた。
「こんにちは! いらっしゃいませ、ここはワールズエンドっていうお店だよ」
 少女は目をぱちくりと瞬きしたあと、パッとダンボールの影に隠れた。
リネアは苦笑を浮かべながら、ちょいちょい、と手招きしている。
 そんな二人を見ながら、私はぽん、と手を叩いて頷いた。
うん、変なものじゃない。きっとお客様なんだわ。うん、きっとそうなのよ!











「…伊吹夜闇ちゃん?」
 あれから結局、内気そうな少女はダンボールにもぞもぞと入り込み、
再度出てくる気配を見せなかったので、私とリネアは床にちょこん、と正座をして少女を対面することにした。
少女は辛うじて箱の上部から顔を覗かせていたので、まだ会話は成り立つ。
 私が先ほど聞きだした少女の名前を繰り返すと、少女、夜闇はこくこく、と小さく頷いて返す。
「ねえ、夜闇ちゃんってお客様?」
 隣に座るリネアが、私の服の裾をくいくい、と引いて尋ねてくる。
「さあ、どうかしら―…もしかしたら捨て少女かも」
 何せダンボール箱が住まいだもんねえ。
そう冗談のつもりで私が言うと、夜闇はガーン、と少なからずショックを受けたようだった。
慌てて先ほど出したものと思われる黒板消しと白いチョークを両手に構え、
側面に書いていた『なかにはだれもいません』の文字を書き換えていく。
「…『すてられたんじゃないです』…?」
「ほらぁ、母さんが変なこというから」
「あー…夜闇ちゃん、あのね、冗談なの。ごめんね?」
 私は取り繕うような笑顔を浮かべ、ぱたぱたと手を振る。
だが夜闇は再度黒板消しで字を消して、またもや何か文字を綴る。
「……『いちじおあずかりです』…?」
「………どこに…」
 ええーと、一時お預かりってことは、夜闇ちゃんとこのダンボール箱をどこかに預かってもらうってことよね。
それで彼女がいるのは私の店の中ってことは、つまり―…。
 私はまた、ぽん、と手を叩いた。
「うちの店でお預かりってことよ」
「だめじゃん!」
 私が出した結論は、リネアによって即突っ込みを入れられてしまった。
うーん、なかなか成長したものね、この子も。親にツッコめるようになったとは…。
 そんな私の感慨深い呟きとは裏腹に、リネアは慌て始めた。
「だめだよっ、こんな可愛い子預かったら、母さん警察に連れてかれるよ!」
「ええっ?」
「だって最近誘拐って流行ってるんだよ。こんな可愛い子がうちにいたら、母さんがさらっちゃったと思われるよ!
母さん、美少女誘拐魔っていわれる魔女でいいの!?」
「う、うーん…それはさすがに戴けない枕詞ね…」
 私はそう唸って腕を組む。
でも別に私が連れてきたわけじゃないし、どちらかというと勝手に入り込んでたんだから、誘拐にはならないわよねえ。
むしろ任意誘拐? うーん、そんな罪あるのかしら。
「あ、夜闇ちゃんがまた何か書いてる」
 リネアの声に、私ははっと顔を上げる。
すると夜闇が慌てながらチョークで文字を書き直しているところだった。
「えー…『ゆうかいは10年以下のちょうえきです。だめ、ぜったい』……ち、ちがうのよっ!
これは任意であって決して誘拐ってわけではー!」
「母さん、自首しよ。少しは罪が軽くなるよ…ってそうじゃなくって!
夜闇ちゃんは結局何しにここに来たの? それが問題でしょ!」
「あ、そ、そうね。負うた子に教えられ…とはこの事ね…。
というわけで夜闇ちゃん、今日はどうしたの?」
 私はリネアのノリツッコミでやっとのことで我に返り、とりあえずの笑顔を浮かべて夜闇に向かい直った。
夜闇はこちらに視線が集まったのを知ると、パッと顔をダンボール箱の中に埋めてしまう。
そしておずおず、と上目がちな目を微かに覗かせ、こちらを見つめた。
「うーん…人なれしてない子猫みたいね」
「夜闇ちゃん、かわいい! こんな子、一人欲しいなあ…」
 リネアがうずうずしているのが隣にいても分かる。
どうやら思わず拾いたくなる例の魔力は、リネアに対しても有効なようだ。
「ふふっ、それこそ犯罪になっちゃうわよ。ねえ夜闇ちゃん、何かこの店に御用事?」
 私はそう首をかしげて尋ねてみた。
すると夜闇が返事をする代わりに、ダンボール箱の中からまた何か飛び出してきて、彼女の頭にぽふん、と飛び乗る。
「わあ、かわいー! 夜闇ちゃんのお人形だあ」
「あらほんと。動くのねえ、何か特別な魔法でもかかってるのかしら」
 夜闇そっくりの小さな人形は、彼女の頭の上に載りながら、小さな小さな旗をひらひらと振っている。
よーくその旗を見てみると、『がんばれよやみ』と書いてあるのがわかった。
私はその旗を見て、またぽん、と手を叩く。
「リネア、リネア」
「どしたの、母さん?」
 がんばれよやみ人形を面白そうに眺めていたリネアに、私はこそこそと囁くように言う。
「ほら、人形に魔法をかけてあげたでしょ、この前。あれ、持ってきてあげたら?」
「あ、そうか」
 リネアも私と同じように、手をぽん、と叩いた。
それから立ち上がり、ぱたぱたと足音を鳴らしてカウンターのほうに急いだ。
そのまま二階へあがっていく後姿を見ながら、私は背中に視線を感じ、夜闇のほうに振り返る。
「ちょっとまっててね、いいもの持ってきてあげる」
 やはり夜闇の顔は半分、目の部分しか見えなかったけど、それでも不思議そうな表情をしたのが分かった。










「じゃーん。夜闇ちゃん、ほらほら。わんわんだよー」
 戻ってきたリネアがもってきたのは、いずれも自分のお気に入りのぬいぐるみばかり。
今年の正月に飾りつけとして作った動く犬のぬいぐるみを夜闇に渡すと、
夜闇は大きな目を輝かせながらそれを受け取った。
そしてダンボール箱の淵から両手を出して、動く犬のぬいぐるみを遊ばせながら、小さく呟く。
「かわいい…。お人形、だいすき…なのです」
「ほんと? よかった!」
 リネアがえへへ、と笑うと、夜闇もつられて微笑んだ。
その笑顔を見て、私はほっと胸を撫で下ろす。
 気を良くしたリネアは、更に喜んでもらおうと思ってか、持ってきたものからとっておきのものを選んだ。
そして満面の笑みで、それを夜闇に突き出す。
「ほらっ、これもかわいいよ! りっくちゃんだよー」
「……!!!」
 黒コウモリのぬいぐるみは、夜闇に向かって、「ぎしゃー!」と叫び声をあげた。
夜闇はきっかり3秒間、目を見開いて硬直したあと、ぴゅっとダンボールの中に身を隠してしまった。
私は慌ててぬいぐるみをリネアから取り上げ、ダンボール箱から見えないところにささっと隠す。
「リネア、夜闇ちゃん驚いちゃったでしょ! これはまだ慣れてなくて、騒がしいんだから」
「ええー。だって夜闇ちゃんもまっくろだし、りっくちゃんと気が合うと思ったんだけどなあ」
「なら本物のリックが帰ってきてからにしなさい。ほら、ぷるぷる震えちゃってるじゃないの」
 私は呆れてため息をつきながら、ダンボール箱のほうを指差す。
すると箱の隙間からはやはりぴょこっとアンテナ毛が突き出ていたが、
それはぷるぷると震えているのだった。
 …しかし、どういう構図になってるのかしら、この毛は…。
まるで犬の尻尾のほうな反応を見せるアンテナ毛を前に、少しばかり悩んでしまう私。
「あ、ごめんねごめんねっ。驚かすつもりじゃなかったんだよ。
ほら、まだまだかわいいのあるんだよ」
 リネアは慌ててダンボール箱に話しかけ、またまた秘蔵のぬいぐるみを差し出す。
夜闇はまた少し蓋を開き、淵からぱちくりさせている目を覗かせた。
「ね? ね? かわいいでしょ? 真っ黒で夜闇ちゃんみたいだよ!」
「……かわいい」
 夜闇はそう呟くと、両手を少しだけ出して、リネアからそのぬいぐるみを受け取る。
そしてふにふに、とそれを押したり伸ばしたりして遊んだあと、にへら、と笑った。
「……やわらかいです」
「ね。枕にもいいんだよ!」
 リネアと夜闇はそのぬいぐるみを挟みながら、和気藹々とした空気を漂わせている。
だけどそのぬいぐるみに見覚えがなかった私は、ちょいちょい、とリネアの裾を引いてこそっと話しかけた。
「…ねえ、あのぬいぐるみ、どうしたの?」
 リネアは私の問いに、ああ、と頷いて答える。
「この前、リース姉さんに作ってもらったんだよ。暇だったんだって」
「ふーん…珍しいこともあるもんね。それで何のぬいぐるみなの?」
 私がそう尋ねると、リネアはきょとん、とした顔をした。
まるで、見て分からない?とでもいいたげに。
「えーっとね。虫歯菌、だって」
『………!!!』
 どうやら私の硬直は、そのまま夜闇にも伝わってしまったようで。
夜闇は握って遊んでいたそれをパッと放り、またぴゅっとダンボール箱の中に隠れてしまった。
 またもやぷるぷると震えているアンテナ毛を眺めながら、リネアが「あーあ」と呟いて私を見る。
「夜闇ちゃん、また驚かせちゃったよ。母さんがへんなこと言うから」
「わっ…私のせいなの!!?」










 そうして暫くぬいぐるみと戯れる夜闇とリネアを見つめていると。
唐突にドアが開き、何やら小さな黒いものが飛び込んできた。
「っ!?」
 目を見開いている私たちの前で、それはぐるぐると転がったあと、カウンターにぶつかってどすん、と止まる。
そしてぐでん、と横に伸びたと思ったのも一瞬のことで、すぐさま起き上がり、何事もなかったかのようにぱたぱた、と服の埃を払った。
 私はそんな明らかにおかしい登場の仕方をした彼に見覚えがあったので、指差して震えながら叫ぶ。
「くっ、クラウレスさん!?」
「るーりぃたんに、それからりねあたん。いたでちか、よかったでちゅ。
ちかち、これはそらをとべてべんりなのはいいでちが…うまくちゃくりくができまちぇん。
ちょこはかいりょうのよちあり、でちね。やれやれでち」
 ごろごろ転がってきてカウンターにぶつかって止まった塊、クラウレスは、ふぅ、と息を吐いて自分の髪をふさふぁー、とかき上げて見せた。
その億劫そうな仕草は無駄にかっこいい。
「え、えーと…あの………どういうこと?」
 私は夜闇のアンテナではないけれど、ぷるぷる震える指先を彼に突きつけながら、引きつり笑いを浮かべた。
傍らのリネアも呆然としてクラウレスを見上げていて、夜闇はというと物音におどろいてか、やはりアンテナをぷるぷるさせている。
 クラウレスは何を今更、という顔をして言った。
「ちょこのはわたちのやみでち。わたちがひこうくんれんちてるあいだ、ちょっとあじゅかってもらってたでちよ」
「ひ…飛行訓練?」
「そうでち。ぱーてぃのときにもらったほういじちゃくののろいがそれだったでち。
かみのけがぐるぐるまわこぷたーだったので、わたちはしんのうりょくをてにいれたのでち」
「は、はあ…」
 この辺りでもう私は話の流れについていけなかったので、もう相槌を打つしかなかった。
「そう、ちぇっかくなので、ここをばちょとうろくちたいのでちが。ぎんやたんはいまちゅでちか?」
「ああ、銀埜はいまお散歩中なの。すぐ帰ってくると思うわ…」
「なら、ちょっとおちゃちてまたせてもらうでち。よっこいしょ、なのでち」
 クラウレスはそういいながら、暖炉の前のテーブルに腰を下ろす。
「ああ、うん、お茶ね…ちょっとまってね、今淹れるから…」
 何が何だか分からないまま、私はぐらぐらする頭を抱えながらぼんやりと立ち上がった。
そしてそのままふらふらと台所に向かおうとする私を、クラウレスの声が引きとめた。
「ああ、るーりぃたん。よやみもここがきにいったようなので、こんごともよろちくなのでち」
「…………」
 私はその言葉に、ぴたりと足を止める。
そしてくるっと振り返り、どすどすと足音を鳴らしてクラウレスの目の前に仁王立ちになった。
「あのね…クラウレスさん」
「なんでちか?」
 全く動じず、きょとん、とした顔でこちらを見上げるクラウレス。
私はにっこり笑いながら、彼に顔を突きつけて、ゆっくりと言った。
「うちはね。…託児所じゃないのよ!?」
「……だいじょーぶでち」
 クラウレスは私の笑みを受けてか、にっこりと彼らしくない微笑を浮かべて返してくる。
「にんいでちから、ゆうかいにはならないでちよ」
「ああっ! もしやどこかで見てたわね!?」
「まちゃか、まじょじゃあるまいち、でち」
 クラウレスはにこにこと笑いながら、そう言った。
私は思わずがっくりと肩を落としながら、こう思った。
 結局何が何だか分からなかったけど…きっと、クラウレスさんの見につけた新能力は、そのまわこぷたーとかだけじゃなくって。
”笑顔でごまかす”という技も入っているに違いない…と。

 そりゃ…美少女は大好きだけどね!? さすがに美少女誘拐魔女って肩書きは勘弁して欲しい私なのでした。










                          End.



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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5655|伊吹・夜闇|女性|467歳|闇の子】
【4984|クラウレス・フィアート|男性|102歳|「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】


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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼ ライター通信
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 いつもお世話になっております、今回も任せて下さってありがとうございました!
そして毎度毎度の遅延、本当に申し訳ございません…!

 今回は初めての件の闇さんのお目見え、ということで
何が何だかさっぱり、なノベルになってしまいましたが…!
それでも夜闇ちゃんの可愛さで幾分救われていたらいいなあ、とか。
というか仕草や性格が非常に可愛らしくて、
作中ではありませんが、私的にもそのまま連れ去ってしまいそうになりました。(笑)
またお二人の普段のやり取りなどが判明したらいいなあ、とか思いつつ。

 それでは、またお会いできることを祈って。